世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

春⑥

2017-12-10 04:13:14 | 風紋


ハイイロ鹿の群れの第一陣がイタカに下りてきたのは、それから三日後のことだった。狩人組は色めき立った。シュコックは早速狩人組を招集し、狩りに出かけた。サリクは、狩人組の最後尾に、ひとり目立って体の小さいトカムが、とぼとぼついてきているのを、後ろを見て確かめた。

心が先走るのを抑えられず、先陣を切って走っていったモカドが最初にイタカにつき、遠目を効かせて鹿の数を数えた。なんて嬉しい景色だ。晴れた春の空の下、たくさんの鹿が野に群れている。ハイイロ鹿は美しい。銀色がかった毛皮をまとい、大岩のように大きく、若草色の堂々とした角を持っている。雌は若干小さく、角はない。

「おお、三十頭はいるぞ。宝の山だ」
モカドが興奮を抑えながら言った。
「去年に生まれた子供がたくさんいるな。ねらい目だ。若いやつはまだ何にも知らない」
「キルアンは見えるか?」
だれかが聞くと、モカドがひとしきり群れを眺めて言った。
「いや、いないようだ。あいつは一際デカいから、一目でわかる。きっとまだ山にいるんだろう」

鹿は日を浴びながら、しきりにアマ草を食っていた。時々首をあげて、敵がいないかどうか周りを見回している奴がいるが、それもすぐに首を下げた。今は鹿も、アマ草が食べられるのがうれしいのだ。アマ草は、ハイイロ鹿の大好物だった。だから人間に狩られる危険性を知っていても、山からイタカに下りてくるのだ。

サリクたちは、身を低くして移動し、鹿の群れから少し離れた岩陰に隠れた。そして腰に下げた器をとり、それを開けて、中の毒を確かめた。器の中には黒々とした毒の塊があった。サリクはその毒に、何本かの矢の先をつけた。そして自分の指を傷つけないように注意しながら、矢を弓につがえつつ、鹿を狙ってかまえた。

シュコックが合図をした。何人かの狩人が、草むらに身を隠しつつ、前進した。狙っているのは、群れの淵っこで夢中で草を食べている若い雌だ。狩人たちは十分に矢が届く距離に近づくと、一斉に矢を放った。



ジャンル:
小説
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