世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

放蕩者の死⑩

2018-05-18 04:12:53 | 風紋


突然下腹がきりきりと痛み、便意を覚えた。オラブは立ち上がり、外に出ようとしたが、間に合わなかった。洞窟の中で水のような糞を漏らした。吐き気が出るほどいやなにおいが洞窟に満ちた。

今までこんな腹痛を覚えたことはない。腹が痛くなったことはあったが、じっとしているうちになんとかなった。だがこの腹痛はただ事ではない。あのネズミだ。死んだネズミを食ったからだ。だがそんなことに気付いてももう遅い。

オラブは洞窟の中で一晩中もだえ苦しんだ。何度も糞を漏らした。口の方から出てくるものもあった。

だれか、だれか助けてくれ。

オラブは消え入りそうな意識の中でそう思った。村にいる、知っている人間の顔が何人か思い浮かんだ。母親の顔も浮かんできた。だが、誰も助けてくれるはずがない。

アシメック……!

オラブは族長の名を呼んだ。あれなら助けてくれるような気がしたのだ。だがそのとき、耳元でまた女の声がした。

「彼はもう来ないわ」

オラブは思わず振り向いた。幻のように、そこに美しい女がいた。

オラブは驚いた。なぜだなどと思う気力もない。激しい体力の減退の中で、彼は無意識のうちに繰り返した。

なんでなんだ。なんでおまえはきれいなんだ。

すると女は、哀れみのこもった目で、オラブを見た。何もかも知っているという目だ。

「愛しているからよ」

女は言った。そして消えた。

翌朝、梢を透いた光が洞窟の入り口を照らす頃、オラブはもうこときれていた。





ジャンル:
小説
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