世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

放蕩者の死⑥

2018-05-14 04:14:01 | 風紋


しかしそれからしばらくして後、アシメックが山狩りを決行した日は、さすがに困った。村の男たちが繰り返し自分の名を呼ぶ声が、ここからも聞こえたのだ。

境界の岩を超えて来たらどうしよう。ここはそれほどあそこから遠くないのだ。馬鹿な奴が、禁を破る気にならないとは限らない。ほんとはこんなこと、誰にでも簡単にできることなのだ。

洞窟の奥で身を小さくしながら、オラブは声も立てず、ネズミのように震えていた。カシワナカのことなんて馬鹿にしていたけど、思わず、見つからないようにと祈りそうになった。見つかればおしまいだ。捕まって、嫌なことをされる。みんなに馬鹿にされる。それだけはいやだ。

しかし結局、だれも境界の岩を越えてこなかった。村のみんなの声が聞こえなくなったとき、オラブはほっとした。やっぱり馬鹿なやつらだ。あんなことなんでもないのに、クソまじめに決まりを守っているのだ。

山に夕闇がかかり、洞窟の中が寒くなってくると、オラブは自分の体を抱いた。いまだに湿っている腰布が煩わしかったが、脱ぐ気も起こらない。村のみんなはもう帰ったろうが、不安はぬぐえなかった。誰かがまだ残っているような気がした。

こんなくらし、いつまで続くのか。オラブはいつもは考えないようにしていることを、考えた。いつでも人目を忍んでいるんだ。友達なんて誰もいない。生きてる人間はみな、おれのことが嫌いなのだ。

オラブはアシメックのことを思い出した。彼だけはいつも、何とかしてやるから帰って来いと言ってくれる。



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小説
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