世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

オラブ⑧

2017-12-03 04:13:01 | 風紋


アロンダ、と彼はもう一度言った。あの女を、もう一度見てみたい。そんな気持ちになったのは初めてだった。村の女たちは、彼をトカゲのように嫌っていた。彼もまた、村の女たちを、ネズミのようなぶすだと日ごろからののしっていた。しかしアロンダはちがう。あれはなんだ。なんであんなに美しいのか。オラブの頭の中で、あの時に見たアロンダの美しい横顔がよみがえった。オラブはうめいた。

だがあれはヤルスベの女だ。ケセンを渡らねば見ることはできない。彼はそう思って一度ケセンを泳いでみた。そしてそのよく見える目で向こう岸を探った。

川岸で洗濯をしていたヤルスベの女たちの一群を見たが、その中にアロンダの姿はなかった。

ヤルスベ側に上陸しようかとも思ったが、そのときに村の漁師に見つかったので、彼はあわてて逃げた。

だが、もう一度会ってみたい。会って、あの美しさをよく見てみたい。オラブはそう思っていた。

日が暮れてきた。オラブは寒さに身を縮めた。また夜がやってくる。寂しい夜が。彼は、自分がすすり泣くのをとめることができなかった。

眠ればいい。眠ればなにもかもを忘れられるのだ。そうして彼はうとうととし始めた。夢の中で、かすかに、ほほ笑んだアロンダの顔を見たような気がした。



ジャンル:
小説
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