世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

暗雲①

2018-06-06 04:12:47 | 風紋


ヤルスベに米を渡して後、しばらくは平穏な日々が過ぎた。

米ほどうまいものはない。食えば生きる苦しみをすべて忘れるほどうまいのだ。涙を流しながら食う者もいる。だから米を渡せば、ヤルスベ族はカシワナ族への怒りをしばし忘れてくれる。

だが、人間というものは痛いものなのだ。カルバハのように、うまいことに味をしめればまたやることがある。

今までよりもたくさんの米を食ってしまえば、その味を覚えて、また食いたくなるだろう。アシメックはそのことを考えていた。

季節は夏を過ぎようとしていた。夏の土器作りも終わり、また秋が来る。イタカにはコクリの株があちこちで芽生えていた。

アシメックは澄んだ青空を見ながら、その日、オロソ沼に向かった。稲の実り具合を見ようと思ったのだ。今年のヤルスベとの交渉では、おそらく例年よりも多い米を要求されるだろう。今年はどれくらい米がとれるものか、それが気になったのだ。

沼の岸につくと、稲はもう丈高く伸びていた。赤米の稲は人間よりも背が高い。それが広い沼にびっしりと生え群がっている。もう穂ができていた。実りはまだだが、今年もそれなりの収穫はありそうだ。




この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イメージ・ギャラリー㉑ | トップ | 暗雲② »
最新の画像もっと見る

風紋」カテゴリの最新記事