稲の群れを見ていると、アシメックは神に祈りたくなる。神は何でこんないいものを下さるのか。カシワナの村のオロソ沼に、なんでこんないいものがあるのか。アシメックはしばらく稲の群れを見渡しながら、澄んだ感動に浸っていた。涙さえにじんだ。
そしてしばらく岸に添って歩いていると、岸辺の大きな岩の上で、釣りをしているネオに出会った。傍らに茅袋を置き、その中にはもう何匹かの魚が入っているらしく、びくびくと震えている。
ネオは一心に、沼に刺した釣り糸の先を見ていた。アシメックがいることにすら気付かない。アシメックはふとほほえみ、ネオに近づいて行った。
「よう、釣れるか」
声をかけられて、ネオはびっくりして振り向いた。見ると後ろにすごく大きな男がいる。それが族長アシメックであることに気付くのに、しばらくかかった。ネオのような子供は、めったに族長に近寄ることはできないのだ。
「う、うん、まあまあ」
震える声で答えた。アシメックはフウロ鳥の羽を一本髪に差し、ビーズの首飾りを三つかけていた。頬の赤い文様がすごく恐ろしく見える。だが目はとても暖かかった。ネオに笑いかけている。
サリクと全然違う、とネオは思った。