世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

タモロ沼⑤

2018-07-10 04:12:37 | 風紋


春の鹿狩りが終わりに近づき、歌垣がせまってくるころ、とうとう、前からの約束通り、稲植えを決行する日が来た。

アシメックは楽師たちを岸に座らせた。丸太をたたきながら、楽師は新しく作った稲植えの歌を歌う。

新しい沼に
稲を植えろ
若苗を分けて
稲を植えろ
米が増える
米はうれしい

沼の岸には、稲植えに参加する村人が集まっていた。男も女もいる。みなおもしろそうに目を輝かせていた。手には、ヤテクに教えられて、沼からとってきた稲の若苗を持っている。若苗をとるにも方法があった。同じ株から三分の一の苗を分けてとるのだ。そうすれば稲の元気が保てる、とヤテクは言った。ヤテクはずっと稲を見ているから、そういうことがわかるのだ。

「ようし、みんな、沼に入れ!」

楽師の横に立っていたアシメックが右手を高々とあげ、合図した。するとみなが一斉に沼に入っていった。新しい沼は浅い。人が足をつけても、ふくらはぎが濡れる程度だ。底もまだ硬いから歩きやすかった。

「教えたとおりにやれ! 隣と一歩分間を開けて植えるんだ! 根を十分に底に差せ!」

アシメックは声高く言った。それを聞きながら、村人たちは一心に稲を植えた。みな初めての仕事だから、最初はなかなかうまくいかない。苗の根を土に差しても、すぐに倒れてしまう。だが、何度もやり直していくうちに、だんだんとコツがわかってきた。見る間に沼は、新しい苗で埋まっていく。

アシメックは沼で働く皆を見渡した。胸に熱いものがこみあげて来る。これは風が起こす風紋だ。みなおれの気持ちに従って動いてくれる。それは美しい。これをきっと、神は空から見ているだろう。ミコルの風紋占いのように、この見事な風紋を見ているだろう。

もちろん仕事は一日では終わらなかった。日が傾き、みなが疲れを見せるころ、アシメックは仕事を終わらせた。
「よしいいぞ、今日はこれまででいい。続きは明日やろう!」

おお、という言葉がみんなの中から起こった。麗しい声だ。疲れていても、みな喜んでいる。いいことをしているからだ。みんなでいいことをしているからだ。



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小説
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