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東京五輪:今度はエンブレム

2015-07-30 18:20:15 | 東京五輪2020
(最終更新:7月30日 21:40)

新国立競技場は計画白紙になったものの、至る経緯について責任者は誰も責任を取らず、結局、スポーツ・青少年局の久保公人局長を事実上“クビ”にした形での手打ちとはこれいかに。民主党の細野政調会長が言った「トカゲのしっぽ切りだ」とはまさに、言い得て妙である。
下村文科相は「新競技場を確実に間に合わせるのが責任」だと開き直るが、これで国民は納得するのだろうか。

改めて計画見直しとなった新国立競技場も、簡素化により、総工費を1000億円台半ばまで圧縮すると言うが、文字通り1500億円なら、それでも当初の1300億円を上回る。蓋を開ければそれで済むのかどうかも実に怪しい。結局、「もう間に合いません」の“高額強行実施”もあり得るのではないのか。


で、一度外されたザハ・ハディド氏が改めて協力を申し出たとされるが、昨日、「建設費が高騰したのはデザインのせいではない」という声明を発表した。
声明に書かれていることは額面通りに受け取ればそれなりにもっともなことである。だがこの期に及んで、それに対してすらも私は猜疑心が拭えない。果たしてザハ氏においての本音はいかがなものなのだろうか。勘繰りかもしれないが、何か双方の思惑が隠れているような気がしないでもないのだ。

「新国立、開閉屋根を断念…工費1千億円台半ばに」(読売新聞 7月29日)
「【新国立競技場】「建設費が高騰したのはデザインのせいではない」ザハ・ハディド氏が声明」(ハフィントンポスト 7月29日)


さて、またここに来て、今度は「東京五輪エンブレム」デザインの盗作疑惑が持ち上がり、騒ぎになっている。


東京五輪エンブレム〈左〉・リエージュ劇場のロゴ〈右〉


「東京五輪エンブレム盗用?ベルギー在住デザイナー「弁護士と協議」」(スポニチ 7月29日 21:20)
>2020年の東京五輪エンブレムについて、ベルギー東部リエージュ在住のデザイナー、オリビエ・ドビさん(52)は29日までに、自身がデザインしたリエージュ劇場のロゴと「驚くほど似ている」とフェイスブックに投稿した。

「東京五輪エンブレム ベルギー劇場ロゴに酷似 ネット上で話題」(スポニチ 7月29日 20:33)
>今月24日に発表された2020年東京五輪のエンブレムが、ベルギー・リエージュ劇場のロゴに似ていると、インターネット上で話題になっている。劇場のロゴをデザインしたデザイン会社「Studio Debie」が27日、フェイスブックで東京五輪のエンブレムと劇場のロゴを並べて「2つのロゴの間の著しい類似点があります」などとしている。
>インターネット上には「ソックリ」「素敵と言えるエンブレムに変更を求めたい」などの声をはじめ、新国立競技場に続く問題に「ここでもケチがついてしまったか」「東京五輪開催そのものを白紙に戻しては」などの声が上がっている。


「エンブレム酷似“騒動”組織委「懸念ない」「国際商標は確認済み」」(スポニチ 7月29日 22:10)
>2020年の東京五輪エンブレムが、ベルギーのリエージュ劇場のロゴと酷似しているとインターネット上で話題になった“騒動”で29日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の高谷正哲戦略広報課長は「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表している。特に本件に関して懸念はしていない」とコメントした。

「エンブレム酷似騒動の佐野研二郎氏 事務所の公式HPが閲覧制限」(スポニチ 7月30日 00:10)
>ベルギー・リエージュ劇場のロゴに酷似していると、インターネット上で話題になっている2020年東京五輪の公式エンブレムをデザインしたアートディレクターの佐野研二郎氏(42)のデザイン事務所「MR DESIGN」の公式ホームページが29日、閲覧できない状態となった。「アクセスが集中しており、一時的に閲覧制限をおこなっております」としている。
>また、佐野氏のツイッターも非公開となり、フェイスブックのアカウントが削除されていることも判明。ネット上では佐野氏の姿勢を厳しく批判する声も上がっている。


「東京五輪エンブレム、劇場ロゴ盗作!?佐野氏「お答えできない」」(スポニチ 7月30日 05:30)
>ベルギー東部リエージュ在住のデザイナー、オリビエ・ドビさん(52) ―中略― は同日、共同通信の取材に「盗用されたのか、着想を与えたのかは判断できない」とした。今週になって劇場から「対策を講じるべきだ」と連絡があり、弁護士と協議を始めたという。週内をめどに対応を決めたいとしている。
>東京五輪のエンブレムはアートディレクター・佐野研二郎氏(42)の作品。
>佐野氏の事務所はスポニチ本紙の取材に「その件についてお答えすることはできません。詳しいことは東京五輪組織委員会に聞いてほしい」と話した。
>東京五輪・パラリンピック組織委員会の高谷正哲戦略広報課長は「国際的な商標登録の手続きを経てエンブレムを発表している。
>ベルギーのテレビも「盗作か」などと報道。公共放送RTBF(電子版)は「偶然か、用心深いコピーか」と疑問を投げ掛けた。


そして、更にデザイン盗用の疑惑は、その色彩にまで及んだ。


「東京五輪エンブレム 同じ配色のデザインも」(NHK 7月30日 12時11分)
>新たに、スペインのデザイナー事務所が東日本大震災の復興支援のために作ったデザインと配色が同じであることが分かりました。
>これは、寄付を募る目的で作られたスマートフォンの壁紙用にスペインのデザイン事務所がデザインしたもので、使われている色は、黒と赤、白、金色の4色で、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムと同じ配色となっています。
>酷似するデザインに加え、配色が同じものも存在していることについて、組織委員会は「デザイン内定後、IOCと連絡を取りながら、長い時間をかけて世界各国の商標をクリアしている」として問題はないとの認識を示しています。


問題は無い??
いや、大ありである。

私の仕事上(制作関係)の経験から言わせていただく。

これだけ巷に溢れるロゴデザイン。増して、全世界ということになるとその数は膨大である。従って、どうしても似たものの存在は免れない。
逆に言えば、人間の発想力と言うのは高が知れていて、デザインを起こす作業において、イメージ作りの段階では様々なものを参考に考える。あるものを見て、それが直接的かどうかは別にして、強い印象を受けたものであれば、それをモチーフとして自然にデザインに反映されることはむしろ多いし、当然だとも言える。

だがプロとして、また、オリジナルを追究するという上で、更にそれを練り直し、精査して仕上げて行くことは必須で、「発想」の段階より、その作業の方が遥かに労力を伴う。
一方、実務的な部分では商標の問題もあるので、当然、必ずついての調査は行なう。それは独自に調べることはもとより、然るべき機関に依頼して行なうこともある。
どのようなプロジェクトにおいても通常はそうしたことを経た上で、初めてクライアントに対してプレゼンテーションを行なうのだ。
それでも、他と比較して「似ている」とされることの回避は難しい。要は、客観的に何を以って「似ている」とするかにも拠るが、この点がとかく意匠登録、商標登録における係争の争点となりやすい。

ただし、「似ている」というのと「酷似している」というのとでは雲泥の違いがある。
さてこの「東京五輪エンブレム」の場合、私の私見としても、明らかに「酷似」に類するものだとして異論の余地はないと思う。

例えば、「酷似」という中でも、その造形上、バランスが異なるとか、輪郭が異なるとか、あるいはディテールにおいて角にアール(丸み)があるとかないとかということはあるが、こと、この「東京五輪エンブレム」に関してはそれをも酌量の余地が無いように思える。言わば文字通りに「そっくり」だ。そして、色にしてもまた然りである。

百歩譲って、佐野研二郎氏の頭の中のイメージに、強烈に“残像”としてあったものが、いつしかオリジナルな発想だと錯覚したということもあるかもしれない。
だが、言い換えれば、おそらくどこかの時点でオリビエ・ドビ氏のデザインを最低一度は目にしていたはずで、スペインのデザイナー事務所の作品にしてもまた同様だろう。それを“生(なま)”のまま表現してしまったことに佐野研二郎氏の大きな落ち度があったと言える。いや、“確信的”にかなり露骨かもしれない。
一方、審査、採用する側の調査が甘く、不充分だったということも大いに言えることである。決して看過できることではない。



佐野研二郎氏。ぬか喜びも束の間か。


こうしたことは常に問題が問題を生む。今に始まったことではないが、こうなると、ひとえに国の姿勢のあり方そのものに繋がってくる。今にして如何に「なぁなぁ」で杜撰な姿勢であるかということも、これら一連の出来事で見事に露呈された形だ。
親方日の丸とはまさに、これが国民不在で進められるプロジェクトのあり様なのか。
責任の所在すらはっきりとはせず、ただ私利私欲、利権に群がる亡者ども。ほとほと呆れる。

とにかくこういうことは一旦ケチがついたら留まるところを知らない。政府は真摯に受け止めて深く反省すると共に、然るべく措置を早急に取ることだ。もういい加減逃れられないし、国民はもう逃さないだろう。

どうだろう、いっそのこと「東京オリンピック」自体を白紙に戻し、辞退したらいかがなものだろうか。その方が余程潔い。これ以上国民の金をドブに捨てずに済むだろう。引き返すなら今の内だと思うがどうだろう。
まぁもっとも、政府の連中は「喉もと過ぎれば・・・」程度にしか考えてはいないのだろうけれど。如何せん、誰も責任を取らなくて済むのだから。




《追記/7月30日 21:40》

Netで関連話題の記事を探っていると、佐野研二郎氏に対して批判的なもの、好意的に解釈しようとするもの、様々だ。

これは佐野研二郎氏の2008年までの一連のグラフィック作品。



感想から言うと、今回の「五輪エンブレム」と、佐野研二郎氏の一連の作品とでは、いわゆる“デザインテイスト”が異なるような気がしないでもない。
果たして、「五輪エンブレム」は佐野研二郎氏の渾身の作だったのだろうか。
だが、それは、わからない。

一方、疑惑が浮上して以来の佐野研二郎氏の対応に、些か疑問を感じずにはいられない。
HPにアクセスできないこと。ツイッターも非公開、フェイスブックのアカウントも削除されていること。
佐野氏自身に非がないのであれば、まずは釈明の声明なりを出しても良いのではないだろうか。
だんまりを決めているだけでは解決にはならないし、却ってあらぬ詮索をされるだけだと思うのだが。


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