思想家ハラミッタの面白ブログ

主客合一の音楽体験をもとに世界を語ってます。

●知のパラダイム変換のとき(EJ第368号)

2009-07-31 13:46:24 | Weblog
●知のパラダイム変換のとき(EJ第368号)
 なぜ複雑系の話をしているのかについてお話ししておく必要があると思います。それ
は、ひとことでいうと、複雑系のものの考え方が現在の世界、すなわち自然現象、生命
現象、社会現象について、一番よく説明できるような気がするからです。
 このことは逆にいうと、今までの科学や学問、常識的なものの考え方では、説明でき
ない現象が最近あまりにも多くなってきているからです。つまり、「知」というか「思
考」というか、ものの考え方のパラダイム変換がいま必要になってきているのです。そ
ういうわけで、もう少し複雑系にお付き合い願います。
 イリヤ・プリゴジンは、彼の散逸構造理論の中で、自己組織化が起こる条件というも
のを3つ上げています。
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       1.外部との開放性が確保されていること。
       2.非平衡な状態(非線形性)にあること。
       3.ポジティブフィードバックが存在する。
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 第1の「外部との開放性が確保されていること」というのは、そのシステムの内部と
外部の間でエネルギーと物質の出入りがあるということを意味しています。システム内
で生成されたものを外部に放出できる存在であるということです。
 これは、生物そのものをあらわしているといえます。生物は食っちゃ出しを繰り返し
て生きているからです。そういう意味では生物は、開かれたシステムであるということ
ができます。
 第2の「非平衡な状態(非線形性)にあること」というのは、平衡状態ではないとい
う意味です。本来「平衡状態」というのは熱力学で使うことばですが、生物で平衡状態
というとそれは死んでいることを意味します。外に開かれていなければならないシステ
ムが閉じたシステムになってしまっているからです。「平衡状態ではない」とは、非線
形性であることを意味しています。
 第3の「ポジティブフィードバックが存在する」とは、ある化学反応が起こると、そ
れがますます加速されることをいうのですが、このことばは、例の収穫逓増(increasing return) の概念と同義語と考えてよいと思います。ポジティブ・フィードバック(positive feedback) は工学用語であるのに対して、収穫逓増は経済用語であるだけの話です。
 イリヤ・プリゴジンは、これらの自己組織化の条件に関連してもうひとつ重要なこと
を述べているのです。化学反応の内容なので、少し難しいですが、がまんして、読んで
いただきたいと思います。
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      『平衡状態において、分子は隣の分子だけを見ているが、非平
      衡状態においては、分子は系全体を見ている。そして、非平衡
      状態において、これらの分子が「コヒーレンス」を起こしたと
      き、自己組織化が生ずる』。
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 ここで注目するべきは、「コヒーレンス(coherence)」 なのです。プリゴジンは、
非平衡な状態における分子の動きを観察しているのですが、分子を「個」とし、系を
「システム全体」と考えると、上記のフレーズの意味は、次のように解読することがで
きます。
 システム全体に関する情報が、システム内部のすべての個に伝達され、共有化される
ことによって、個と個の間にコヒーレンスが生じやすい状態が生まれるといっているの
です。こういう状態になると、自己組織化が行われることになります。
 さて、「コヒーレンス」は、一般的に「干渉性」と訳されるのですが、田坂広志氏は
「コヒーレンス」をあえて「共鳴」と呼んでいます。つまり、情報共有が起こると個と
個が共鳴することにより、ポジティブ・フィードバックのプロセスが加速され、自己組
織化が生じやすくなるということになります。
 この考え方は、昨日お話しした「ミクロのゆらぎがマクロの大勢を支配する」という
ことばにも結びつきます。組織の構成員が「組織全体」の情報を共有して持つと、組織
を構成する個人の相互間に「共鳴」現象が生じ、組織が自己組織化して「進化」すると
いうことになります。こういう状態では個のゆらぎがマクロの大勢を支配するのです。
田坂氏は、「組織の総合力ということばがあるがそうではなく、それは組織の共鳴力なのである」と述べておられますが、何となく理解できるような気がします。
 現在、企業組織にはコンピュータが大量に導入され、情報共有が可能なインフラがで
きています。もし、情報共有がうまくいくと、自己組織化が起こり、企業自体が進化す
るのです。しかし、インフラはできたが、肝心の情報共有の方はさっぱりという企業が
ほとんどなのです。「どうして情報共有は進まないのか」という問題については改めて
取り上げますが、それは従来の企業文化が邪魔しているからです。
 日本の企業では、企業の進化という点においては、ソニーがそれに該当するのではな
いかと思います。それは先日テレビ朝日で放映された「サンデープロジェクト特別版」
を見てそう考えたのです。ソニーの社内での情報共有化の状態がどうであるかは知りま
せんが、最近のソニーは外から見ていると、明らかに自己組織化が起こり、企業が進化
しているように見えるからです。この点については、EJの読者の1人であるソニーの
向井氏にコメントをお願いしたいところです。向井氏によると、ソニーの出井社長は、
複雑系に強い関心をお持ちとのことです。
 現代の企業経営者に求められていることは、情報の共有と共鳴を利用した市場戦略を
展開することです。この情報の共有は企業内だけでなく、市場に向けても行われる必要
があります。
 消費者に対してどのような情報を公開し、どのレベルの情報を提供すべきかを真剣に
考える必要があるのです。逆にいうと、どのような情報を消費者と共有できれば、消費
者の共感と共鳴を形成できるかという一点にかかっていると思うのです。それには、マ
スメディアの戦略を経営者は重視するべきです。     ・・・[複雑系の話/02]

時間: 04:47 | コメント (0) | 複雑系の話