日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

春まだ浅い信濃路へ 2013

2013-02-23 17:12:45 | 居酒屋
五時の開店とともに「魚仙」の染め抜き暖簾をくぐりました。昨年末に訪ねて以来、二ヶ月という短い間隔での再訪に至ったのは、いうまでもなくこの店が新潟の呑み屋の中でもとりわけ秀逸だったからです。それでは何がよいのかと考えるに、それは肩肘張らずにくつろげる店構えと、過不足なく一通りのものが揃い、なおかつ良心価格の品書きにあるのではないかと思います。
駅近くの踏切のそばにある雑居ビル1階の店構えは、「割烹」という割に敷居の高さを感じさせず、その上に「大衆」とつければちょうどよさそうです。店内もしかりで、L字の角を切り取った、十五人は掛けられるニス塗りの長いカウンター席を中心にして、小上がりと別室の座敷を置いた造りには、割烹の看板から連想されるほどの高級感はありません。だからといって安っぽいわけでもなく、簡素にして清潔にして質実剛健と表現するのがちょうどよいのでしょう。
相撲の番付を模して横綱から幕内までに格付けされた新潟の地酒は、ざっと数えて四、五十種といったところでしょうか。質より量の新潟清酒だけに、飛び抜けた名品はありません。しかし、天文館の呑み屋で焼酎を選ぶがごとく、錚々たる有名どころを外し、都会では聞き慣れない地酒をあえて選ぶという向きには、この品書きがおあつらえ向きといえるでしょう。どれをとっても淡麗辛口の味わいが新潟ならではです。
そして何より秀逸なのが肴の品書きです。A4を一枚使った日替わりの品書きは、お造り、煮魚、一品、珍味、焼き物、揚げ物、旬の物、ご飯物に分けられて偏りがありません。しかもそれぞれの品数は少なからず多からず。これが少なすぎると選択肢に困り、多すぎてもどれを選ぶか悩むところ、ざっと眺めて組み立てを考えるには、この店の過不足ない品書きが理想的です。鰤に白子にあん肝など冬の味覚が並ぶ中、ふきのとうの天ぷらだけが異彩を放っており、春まだ遠い越後平野の季節感が表れています。
こうして一通りの品書きを眺めて思案の末、まず注文したお造りの盛り合わせは、舟形の器に九点盛られるという豪勢なもので、これが1500円ならお値打ち品といえるでしょう。これに定番の油揚げ、本日おすすめのおこぜ唐揚げ、そして油揚げと並ぶ当店名物でもある鰤のなめろうをいただきます。
全国屈指の酒どころとして知られる新潟ですが、秋田の例があるように、そんな土地に限って気のきいた呑み屋は意外にも少ないものです。新潟市街を過去に何度か訪ねても、ここと同格あるいはそれ以上の呑み屋にはいまだ遭遇していないのが現実です。新潟清酒と地の肴を存分に味わい尽くすなら、この店の暖簾をくぐるのが一番ではないかと思います。わずか二ヶ月という短い間隔での再訪ながら、やはりいい店は何度訪ねてもいい店なのだと実感させられました。

魚仙
長岡市殿町1-3-4
0258-34-6126
1700PM-2300PM(日曜定休)

鮎正宗・白雪・清泉
お通し(蓮炒め)
お造り九点
特選油揚げ
真おこぜ唐揚
なめろう

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