日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

早春の出雲を行く - 留味庵

2017-03-19 20:23:37 | 居酒屋
投宿して一風呂浴び、小休止したいのはやまやまながら、下手に休むとそのまま眠りに落ちてしまいそうな気がしました。とるもののとりあえず飛び出し、目当ての店の暖簾をくぐります。
三連休の恩恵に与り、今年も山陰に二泊できることになりました。そのうちの一泊を米子にしたのは、前回あえなく振られた山陰の聖地「桔梗屋」に再挑戦したかったから、ではなく、そのとき世話になった「留味庵」を再訪したかったからに他なりません。呑み屋の選択肢が限られる日曜の晩、頼みの綱だった「桔梗屋」にあえなく振られ、代わりの店の心当たりもなく途方に暮れていたところ、藁にもすがる思いで飛び込んだ店が思いもかけない名酒場で、奇跡の大逆転を果たすという経験をしました。一期一会とも思われた出会いを再現できる機会が訪れたとき、それをむざむざ見過ごすことはできなかった次第です。

呑み屋街といえるほどの一帯はなく、呑み屋が所々に散らばるのが米子の駅前です。他に飲食店の明かりのもない路地裏に、この店の明かりが灯っています。店構えは古びている、というよりくたびれており、店内の雰囲気も外観から想像される通りで、お世辞にも小ぎれいな店とはいえません。直截にいうなら、「酒場放浪記」にでも出てきそうな名もなき市井の酒場の趣です。とはいえ境港直送から直送される鮮魚の豊富さは他店を寄せ付けず、価格設定はきわめて良心的で、店主による軽妙洒脱な客あしらいも、よく気のつく女将の働きぶりも好ましく、居酒屋の鑑といってもよい名店です。教祖の推奨店に予約をして行くよりも、この店を是非とも再訪したいという考えがありました。

前回は八時台の後半に入り、あわや品切れ閉店という状況でした。それだけに、遅くとも八時過ぎには入るべきと見ており、急いで宿を飛び出したのもそのためです。こうして暖簾をくぐると、玄関の近くに一つだけ空席があり、満席で振られるという事態だけは避けられそうです。一安心していると、店主からは魚が大分切れているという前回と同様の第一声が。入るなり品がないと言い出すのは「桃若」の店主を彷彿とさせます。しかし、そのようにいう店に限って、意外なほどに十分な品が残っているものです。全て承知の上で、カウンターの一番奥の空席に案内されました。
三時間ほど腹ごなしをした後とはいえ、万全な腹具合ではありません。鮮魚に対する絶対の自信は店主の発言の端々から窺われるところであり、万全でない腹具合でいただくのは失礼のような気がしました。しかし、薄利多売の価格設定である以上、軽く飲み食いするだけというのもまた失礼のような気がしました。その結果、まずは手堅く刺身の盛り合わせを注文し、あとは腹具合に応じて一品ずつ選んでいくという方針をとりました。直径20cmはあろうかという大皿に、平政、鯖、鰆、生タコとコブダイが、一品につき四切れ以上盛られて1200円はお値打ち品です。あとは箸休めにも好適な隠岐もずく、店主おすすめのハタハタ唐揚げをいただき、塩辛、あら汁で締めくくるという顛末です。
こちらが入った時点で空席が離れ離れに二つあるだけだったことからすると、少し前にまではおそらく満席だったのでしょう。この充実ぶりと価格設定を考えれば宜なるかなではあります。とはいえこれ以上遅い時間に入ればますます品が切れていき、最悪品切れで見切り閉店という可能性もあったわけです。「やまいち」にしてもここにしても、入れるかどうかが紙一重の状況で、どうにか滑り込めた幸運に感謝しています。

留味庵
米子市茶町52
0859-32-0021
1800PM-2130PM(LO)
日曜定休

真壽鏡二合
千代むすび
突き出し(肉じゃが)
お造り五品
隠岐もずく
ハタハタ唐揚
イカの塩辛
あら汁

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