早々に切り上げて夜の部に注力するつもりが、夕景を眺めたり酒屋に寄ったり、さらには宿で一風呂浴びたりする間にそれなりの時間となってきました。結果的にはいつもと同様、清水と静岡で一軒ずつ立ち寄るのが現実的でしょう。名酒場がひしめく清水の街ですが、一軒限り、それも約一年ぶりの再訪となれば選択肢は自ずと絞られてきます。毎度おなじみ「新生丸」の暖簾をくぐりました。
日頃から常連客で混み合うこの店ですが、閉店まで一時間半という状況もあり、今日はお客が徐々に引け出しています。自分と入れ替わりで小上がりのお客が去り、残ったのはカウンターの二組五名と小上がりの二名のみです。L字のカウンター席の短い側に腰を下ろして、珍しく余裕綽々の着席と相成りました。
大抵の酒場では、まず酒を頼み、お通しをつつきながら品書きをざっと眺めて、おおよその組み立てを考えるのが常です。ところがこの店ではその必要がありません。品数がとにかく多くて絞りきれず、結局おまかせで盛り合わせてもらうしかないからです。今回もそのようにして刺身を所望すると、差し出されたのは五点盛りです。普段は七点、八点ある豪勢な盛り合わせが、今日に限って五点とは、数の上ではやや淋しいようにも思われます。しかしこれには理由がありました。
というのは、五点のうちの一点が、本鮪の大トロなどという代物なのです。それも味見程度に一口だけというのではなく、この店らしく惜し気もなしに盛られています。同じものを寿司屋で頼むといくらするのでしょうか。日頃は全く手を出さない高級食材だけに、大トロの良し悪しを分かっているわけではありません。しかし、この店が出すからには、おそらく大トロの中でも相当な上物なのでしょう。これが大トロの味かとしみじみ感謝しつついただきました。
この大トロに限らず、ネタはどれをとっても最高です。先週訪ねた「紋や」にしてもここにしても、ただ上物を揃えるだけではなく、それぞれに彩りと季節感が織り込まれていて、一手間加えるべきものにはしかるべき手が加えられており、なおかつその一仕事が完璧にこなされています。たとえば平目は軽く昆布〆にされており、〆鯖の塩加減酢加減も肴としては絶妙です。
そのような仕事ぶりの極致ともいえるのは、何といってもカワハギでしょう。一尾をそのまま使うため、盛り合わせとは別注文になるとはいえ、冬場に来たならこれを選ばない手はありません。冷蔵ケースに最後の一尾があるのを確かめて注文すると、やってきたのはなめろうの味噌の代わりに肝を使って叩いたもので、この店を初めて訪ねたときに若主人から勧められたのと同じものでした。しかし、去年訪ねたときは叩かずに肝和えで出てきたと記憶しています。恐らく、ネタの状態に応じて叩き、肝和え、お造りといった具合に調理を変えているのでしょう。いずれにしても、肴としてこれ以上のものはありません。アラは女将が甘めに煮付けてくれ、一粒で二度も三度もおいしい逸品です。最後は酒が足りなくなり、四合目に突入するかというところ、あえて自制し席を立ちます。
★新生丸
静岡市清水区巴町10-29
054-352-3851
1600PM-2200PM
日祝日定休
英君二合・正雪
お通し二品(ながらみ・いんげん和え物)
刺し盛り五点
カワハギ
日頃から常連客で混み合うこの店ですが、閉店まで一時間半という状況もあり、今日はお客が徐々に引け出しています。自分と入れ替わりで小上がりのお客が去り、残ったのはカウンターの二組五名と小上がりの二名のみです。L字のカウンター席の短い側に腰を下ろして、珍しく余裕綽々の着席と相成りました。
大抵の酒場では、まず酒を頼み、お通しをつつきながら品書きをざっと眺めて、おおよその組み立てを考えるのが常です。ところがこの店ではその必要がありません。品数がとにかく多くて絞りきれず、結局おまかせで盛り合わせてもらうしかないからです。今回もそのようにして刺身を所望すると、差し出されたのは五点盛りです。普段は七点、八点ある豪勢な盛り合わせが、今日に限って五点とは、数の上ではやや淋しいようにも思われます。しかしこれには理由がありました。
というのは、五点のうちの一点が、本鮪の大トロなどという代物なのです。それも味見程度に一口だけというのではなく、この店らしく惜し気もなしに盛られています。同じものを寿司屋で頼むといくらするのでしょうか。日頃は全く手を出さない高級食材だけに、大トロの良し悪しを分かっているわけではありません。しかし、この店が出すからには、おそらく大トロの中でも相当な上物なのでしょう。これが大トロの味かとしみじみ感謝しつついただきました。
この大トロに限らず、ネタはどれをとっても最高です。先週訪ねた「紋や」にしてもここにしても、ただ上物を揃えるだけではなく、それぞれに彩りと季節感が織り込まれていて、一手間加えるべきものにはしかるべき手が加えられており、なおかつその一仕事が完璧にこなされています。たとえば平目は軽く昆布〆にされており、〆鯖の塩加減酢加減も肴としては絶妙です。
そのような仕事ぶりの極致ともいえるのは、何といってもカワハギでしょう。一尾をそのまま使うため、盛り合わせとは別注文になるとはいえ、冬場に来たならこれを選ばない手はありません。冷蔵ケースに最後の一尾があるのを確かめて注文すると、やってきたのはなめろうの味噌の代わりに肝を使って叩いたもので、この店を初めて訪ねたときに若主人から勧められたのと同じものでした。しかし、去年訪ねたときは叩かずに肝和えで出てきたと記憶しています。恐らく、ネタの状態に応じて叩き、肝和え、お造りといった具合に調理を変えているのでしょう。いずれにしても、肴としてこれ以上のものはありません。アラは女将が甘めに煮付けてくれ、一粒で二度も三度もおいしい逸品です。最後は酒が足りなくなり、四合目に突入するかというところ、あえて自制し席を立ちます。
★新生丸
静岡市清水区巴町10-29
054-352-3851
1600PM-2200PM
日祝日定休
英君二合・正雪
お通し二品(ながらみ・いんげん和え物)
刺し盛り五点
カワハギ