日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町 -宮わ-

2014-10-07 21:02:29 | 居酒屋
春先は花見の旅で、夏場は高校野球と災難で、その後は北国への長旅で、半年以上全く手をつけられなかったことがあります。平日晩の酒場探訪です。旅が主、日常生活が従という価値観は、過去一、二年の間にますます強固となった感があり、一杯引っかけてから帰るという習慣も、それに伴い次第に廃れつつあるのが現状ではあります。しかし、ひやおろしで百花繚乱となるこの時期なら話は別です。来週には抜歯で再び飲み食いどころでなくなると予想されるため、長旅が一段落したのを機に、久方ぶりに夜の街へ繰り出しました。
このような現状だけに、今更新規開拓などを考えているわけではありません。選ぶなら何度も足を運んだなじみの店、それも酒を呑むならここだといえる至高の店に限ります。それではどこが至高かと問われた場合、自分の答えは明確でした。正月以来無沙汰していた「宮わ」を今夜の河岸とします。

雑居ビルの階段を三階へと上がり、格子戸から中をのぞくと、カウンターには首尾よく空席が。テーブル席の先客四人組を横目にしつつ、一段上がったカウンターの中央に着席しました。
こちらの狙い通り、品書きにはひやおろしを中心に通好みのする地酒が勢揃いしています。ざっと眺めて一杯目から三杯目までの組み立てをおおよそ決め、最初は山形の惣邑を所望しました。四角い器に二点盛られるおなじみのお通しは、青大豆とシメジのおひたし、それに玉子豆腐という組み合わせです。自身全国一と思うポテトサラダをこれに続け、秋刀魚の塩焼を真打ちとします。

ここまでは期待通りの展開だったにもかかわらず、今回は残念な現実に直面する結果となりました。一つは、開店以来親方と店を差配していた女将が姿を消していたことです。聞けば長年膝の具合が悪く、だましだまし続けてはきたものの、とうとう立ち仕事には耐えられなくなったとのことでした。そして、より深刻だったのはそれに続く話です。というのも、親方自身から閉店を示唆するような発言があったからです。
諸々の事情は聞きました。立派な一枚板のカウンターも、開店以来変わらぬ漆塗りの酒器も、使い込まれて唯一無二の味わいを放ってきたというのに、ここで仕舞いにすることはなかろうと、僭越ながら意見もしました。しかし、話しぶりから察するに、今は店をたたむ方向へと傾きつつあり、誰かが背中を押すのを待っているかのようだったのも事実です。
一時はWeb上の口コミで評判になり、大分軌道に乗った時期もあったと記憶しています。しかし、その手のお客は定着しないものだと、当時から親方は語っていたものです。熱しやすく冷めやすい現代人の関心が他店に移ったのもさることながら、そのような風潮に疲れた様子が、発言の端々から感じられました。要は、真っ当な仕事をすることと、商売上手であることは違うということなのでしょう。職人気質の親方が、理想と現実の隔たりに苦悩してきた様子がありありとうかがわれるだけに、こちらとしても納得せざるを得ないのがやるせないところではあります。万一店をたたむなら、せめて一報入れてほしいと伝えるしかありませんでした。

とはいえ、閉店が決まったわけではありません。何かを契機に翻意してくれることもあるでしょう。この店は、開店当初から世話になってきた、なおかつ赤坂で最も長く通い続けた、自分にとって一方ならぬ思い入れのある店です。店が続く限りは足を運び続けたいと思っています。

馳草 宮わ
東京都港区赤坂5-1-38 赤坂東商ビル3F
03-3568-7380
平日 1800PM-2200PM(LO)
土曜 予約営業
日祝日定休

惣邑・賀茂金秀・奥播磨
お通し二品
カリカリベーコンとゆでたまごのポテトサラダ
秋刀魚塩焼
枝豆と帆立のクリームコロッケ
コメント