日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

最後のランチ(8)

2013-12-17 23:33:18 | B級グルメ
赤坂で愛用したランチについて綴った結果、改めて気付いたことがあります。都合七軒紹介したにもかかわらず、寿司を除けば和食が一つもないということです。

私自身、朝は必ず米食、夜は居酒屋一辺倒という食生活からも分かるように、明らかに和食を好む人間です。それが昼に限って滅多に和食をとらないとは、意外に思われる向きもあるでしょう。しかしこれには理由があります。
というのも、昼の和食で本当によい店というのが、ありそうでなかなかないのです。よい店は本当によい反面、予算も千円台後半といったそれなりのものが多く、日参できるような代物ではありません。これに対し、手頃なものはごくありふれた居酒屋のランチで、これまた食指が延びません。たとえば銀座の「三州屋」のごとく、古い大衆酒場兼大衆食堂があってくれれば最高なのですが、残念ながら赤坂ではそのような店に出会うことはできませんでした。そんな中、日参できる数少ない例外の一つだったのが「魚六」です。

この店の特徴を一言でいうなら、ズバリ「実質本位」ということになるでしょう。まず、職場から「津つ井」へ向かう生活道路に面した立地は、赤坂の繁華街からも、溜池のオフィス街からも中途半端に外れています。古びた雑居ビルの一階にある、バーかスナックの居抜きと思しきくたびれた店内も、和食の店としては明らかに違和感があります。要は、家賃や内装に金をかける代わりに、少しでも安く提供しようとする姿勢が現れているということです。
A4にマジック書きされた日替わりの品書きは、産地を明記した刺身が七、八種、それに煮魚と焼魚がそれぞれ一、二種、あとは魚嫌いのため生姜焼も用意されるという組み立てです。特に刺身は、少し前なら鰹に秋刀魚、これからの時期なら鮃に鰤など旬の品々に加えて、関東人には聞き慣れないような珍しいものが揃います。いずれもつまを使わず皿にべったりと、その代わり大衆酒場も顔負けというほど気前よく盛るのが、実質本位のこの店ならではです。
物珍しさにつられて珍品を選びがちになる中、結局自分が行き着いたのは鰹と鰆でした。酒呑みの感覚からすると、〆鯖となめろうはご飯のおかずというより酒の肴です。白身魚もおかずとしては淡泊で、鮪などの高級魚はそもそも品書きに登場しません。その点、タタキのように皮目をあぶった鰹と鰆が、ご飯のおかずとしては最適だという結論に達したわけです。魚の旬、品種、産地、調理法、味、食感の違いについて詳しくなったのは、長年の居酒屋通いもさることながら、この店の功績によるところも少なくありません。

この魚に小鉢二つとご飯、あら汁、お新香が含まれ千円。ご飯はおかわりでき、50円で生卵をつければ卵かけご飯もできるため、ご飯を思い切りかき込みたい向きには好適です。新しい職場から自転車を飛ばしてまで行きたい店かといえば、正直そこまでの思い入れはありません。しかし、新天地でめぼしい和食に出会えなければ、時折ここへ戻ってくるのもよさそうです。

魚六
東京都港区赤坂2-18-19 赤坂シャレーII 1階
03-3587-2519
1130AM-1400PM(LO)/1700PM-2400PM
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