「テロ等準備罪処罰法」「刑法の110年ぶりの大改正」
~セルポート「永田町より一筆啓上」掲載記事より~
「テロ等準備罪処罰法」「刑法の110年ぶりの大改正」
6月15日の参議院本会議で、テロ等準備罪処罰法案が賛成多数で可決されて成立し、6月21日に「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律(平成29年法律第67号)」が公布され、7月11日に施行されました。このテロ等準備罪処罰法が成立したことにより、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(TOC条約)を締結することが可能となり、TOC条約は8月10日に我が国について発効し、188番目の締約国となりました。
これまで、国連加盟国のうちTOC条約を締結していない国は、我が国の他にはソマリア、南スーダン等の10カ国だけであり、その他の187の国・地域は締結していたため、我が国は国際社会のなかで肩身が狭い思いをしていました。
今後は、他の締約国と、テロ等の組織犯罪に関する情報交換、犯人の引渡し等を行うことが可能となり、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の強化へ、一歩踏み出すことができました。
国会での審議では、「テロ等準備罪処罰法が成立すると監視社会になる」、「警察の恣意的な捜査が増加する」等の批判がなされましたが、今回の改正は、どのような行為を犯罪とし、それに対してどのような刑罰を科すのかを規定する刑事実体法の改正であって、犯罪についてどのような捜査を行うかという刑事訴訟法等の手続法を改正するものではありませんので、そのような批判はあたりません。
もちろん、テロ等準備罪処罰法の成立のみでテロ対策が万全のものになるわけではありません。国際連携の入り口に立つことがやっと可能になっただけですので、今後共、政府としてはテロ対策の強化に努めて参ります。
第193回通常国会の実質閉会日である6月16日の参議院本会議で、刑法改正法案が全会一致で可決されて成立し、6月23日に「刑法の一部を改正する法律(平成29年法律第72号)」が公布され、7月13日に施行されました。
今回の刑法改正は、性犯罪について事案の実態に即した厳正な対処を可能とするとともに、これまで親告罪とされてきた強姦罪(改正後の強制性交等罪)を非親告罪化するもので、性犯罪の罰則に関して、明治40(1907)年に刑法が制定されて以来110年ぶりの大きな改正となりました。
明治維新後、我が国は富国強兵と法治国家の構築を目指しました。明治22(1889)年に大日本帝國憲法が発布され、明治27(1894)~明治28(1895)年に日清戦争があり、明治29(1896)年に民法が公布され、明治37(1904)~明治38(1905)に日露戦争があった後の、明治40(1907)年に制定された刑法は、当時の我が国の時代背景を反映したものであり、性犯罪にあうことは恥ずかしいことであって、被害者等の意思に反してその被害が明らかにされるときには、かえって被害者等の名誉が害されるおそれがあるという考え方から親告罪とされたものと思料されます。今回、勇気ある多くの性犯罪被害者の方々のお声を受けて、刑法の改正がなされたものです。
前回(6月11日号)記述しました民法の債権部分の改正は121年ぶりの抜本的改正であり、今回の刑法の性犯罪部分の改正は110年ぶりの大改正となりました。100年以上改正がなされなかったという状況を変えていく必要があります。今後は、民法、商法、刑法等の基本的法律についても、時代環境の変化に応じた改正がなされるよう、法務省で精力的に検討を進めて参ります。