蔵元探訪
~ソトコト4月号より~
神戸市灘区から西宮市にかけて、灘五郷と呼ばれる日本最大の酒造地帯があります。
西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷がそれで、酒造りに関わる多くの施設が点在しています。酒造りに欠かせないのが酒米と美味しい水です。酒米は六甲山の北側、三田でとれる山田錦があり、水は六甲山の花崗岩を通して素晴らしい宮水が湧き出ています。
私の母校灘高校は講道館柔道で有名な嘉納治五郎と菊正宗、白鶴の両嘉納家、櫻正宗の山邑家によって創設されました。
六甲颪(おろし)の吹きつける2月の厳しい寒さの中、菊正宗の嘉宝蔵に日本酒の寒造りの見学に伺いました。
工場に入ると、巨大なタンクがずらりと並び壮観な光景に驚かされます。品質が変化しないように内側をガラス繊維で固めてある鉄製のタンクで、1トン以上の日本酒が入っています。2階には麹を作る部屋があり、目に見えない微生物の働きが活発になるよう、熱すぎず、寒すぎずの温度に管理されています。
この麹を使って酛(もと)(酒母)造りをするのですが、昔ながらの半切り桶に櫂を使って杜氏さんが酛摺りをしていました。杜氏の小島さんに伺うと、重労働ですが、ここで丁寧に手をかけることがひ弱ではない強い酒母を作り、出来上がりに差ができるのだそうです。明治時代に作られた半切り桶やこの嘉宝蔵に住み着いている微生物の力で、しっかりとした日本酒が造られていきます。
機械化、合理化が進んでいますが、味と香りの決め手となる部分は職人の力がなくてはできません。小島さんのお話では、約30人の杜氏さん達は11月頃に丹波から灘の嘉宝蔵に集まって3月頃まで共同生活を続け、連日手間暇を惜しまず酒造りに力を合わせるのだそうです。
食事とお酒はその土地の風土とともに発達したものでありますから、味と香りを伝え続けて多くの方に楽しんでもらいたいと思います。
自然環境の保護があちこちで叫ばれていますが、灘の酒造りにとって六甲山系の水は命です。阪神・淡路大震災の直後は、上水道がストップしたため、宮水を市民の皆様に開放して、「ありがたい。助かった。」と喜んで頂きました。より良い関係で自然と共存できる地域として、宮水と灘の酒を守って行きたいと強く思いました。
(写真)麹室で麹を造る。麹が米のデンプンを濾過していく
(写真)菊正宗の嘉納社長、小島杜氏と醪(もろみ)の発酵具合をチェック