日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

ファジーと言えば、

2016年11月26日 08時38分47秒 | 日々雑感
 ”ファジー”の研究で日本人がノーベル医学・生理学賞を受賞したと聞かされたとき、”えー”と思った。昔技術者であった筆者は、ファジーと聞くとファジー制御しか頭に思い浮かず、ファジー制御が医学・生理学の分野に応用されたと早合点したからである。しかし、受賞したファジーは、Phagyであり、制御のファジーはFuzzyであった。日本語ではいづれもファジーであるが、正式の発音は当然異なる。

 ノーベル医学・生理学賞の受賞者に選ばれた東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏が解明した「オートファジー(自食作用)」(AutoPhagy)とは、 私たちが生命活動を維持する上で欠かせない細胞のたんぱく質のリサイクルに関する仕組みであるとのことだ。制御のファジーとは全く関係ない。

 すなわち、私たちの体は30兆個以上の細胞から作られているが、その細胞ひとつひとつに必要不可欠なのが蛋白質であり、細胞内で不要になった蛋白質を分解し、必要な蛋白質に作り替える、いわば、リサイクルの仕組みが自食作用なのだそうだ。

 成人は1日に約60~80gの蛋白質を食事から摂取し、それを消化してアミノ酸に変換して再吸収し蛋白質として細胞内に蓄積する。ところが、体の中では1日に160~200gもの蛋白質が合成されているそうで、半分以上がリサイクルされた蛋白質なのだそうだ。すなわち、私たちの体の半分はリサイクル品なのだ。

 分解された蛋白質は新しく蛋白質を造るための材料になる。私たちが一定期間食事をとらなくても生きていけるのは、この自食作用があるからだそうだ。蛸が自分の足を食べてひもじさを凌ぐと言われるが、人間は無意識の内に同じことをやっているのかも知れない。何とも不思議な生命活動である。

 私達の肉体は一見安定した存在に見えるが、実は約2ヶ月で体のほとんどの部品は入れ替わっていくのだそうだ。これが分子生物学者の福岡伸一氏が言う ”動的平衡” のことだろう。福岡氏は、身体を構成する蛋白質は、たった三日間の内に食物由来のアミノ酸の約半数によって置き換えられる、と説明している。置き換わる時間の違いはあるが、兎も角、分子レベルでは急激に我々の体の成分は置き換えられているのだろう。

 自分の手の甲の皺を見ながら、皺の形は毎日ほとんど変わらないが、皺の中身の一部は3、4日前に食べた豚肉に置き換わっていると思うと、何とも不思議な気持ちになる。老化現象の表れでもある皺を構成する物質が自食作用で置き換わっていくのであれば、ついでに皺も昔のように滑らかに変わってもらいたいと思うが、大隅氏等の研究が発展すれば可能になるかも知れない。

 さて、日本語でファジーと言えば、Fuzzyも有名である。ファジー理論やファジー制御の言葉で使用される。人間が何かするとき、それまでの経験などから次にとるべき行動を判断する。ディジタルな場合にはそれぞれ0か1かしか無くきちんと決めるが、実際にはこの程度であればこの程度にしようと「いい加減さ」も含めて動作を決める。対象を制御の数式で表すのではなく、人間の持つこうした経験、知識のルールを集めて行う制御がファジー制御である。仙台市の地下鉄の車両運転制御システムはその代表的な応用例らしいが、発車、停止が滑らかであり、乗り心地が快適なようである。このようにファジー制御は色々な面に適用されているに違いない。

 PhagyもFuzzyも日本語ではファジーであり、横文字の同音異議語となる。どちらも専門用語で、内容は門外漢には馴染みがないが、生活の中に浸透している技術であったり、自身の肉体の中で常に働いている現象なのだ。2016.11.26(犬賀 大好-289)

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