森田宏幸のブログ

Morita Hiroyukiの自己宣伝のためのblog アニメーション作画・演出・研究 「ぼくらの」監督

父の話(その1)

2006年12月22日 01時43分52秒 | 監督日記
http://bokurano.jp/

「ぼくらの」に出てくる少年少女たちは、みんな自分の親との関係に悩んでいるようです。そんな原作者の鬼頭莫宏さんの意図はともかく、監督する私にも、彼らと似たような思いがあります。そういうのがないように思われがちですが、あるのです。ただ、たいがいは人に話せないようなことばかりですが。敢えて今日は、先日までこだわっていた「枠組み」というキーワードにからめた話に絞って、私の父の話を書きます。個人的な思いが先行しますが、たまにはこんなのも書きたくなりました。

 私の父は銀行員でした。地元の福岡銀行の銀行マンというわけです。実はこの父の職業ゆえに、私はずっと父へ疑念を抱きつづけることになったという話です。
 謎は小学生の時に芽生えました。それは、当時当たり前にテレビで見ていた「ドラえもん」や「オバケのQ太郎」に出てくる「パパ」と呼ばれる主人公たちの父親が、毎朝「会社に行って来る」と言って出かけることに気が付いた時です。のび太やショウちゃんの父親たちは「会社に行って来る」と言って出かけましたが、私の父は「銀行に行って来る」と言って毎朝出かけていました。格好もスーツ姿で、出ていく時間帯もだいたい同じなのに、「会社」と「銀行」という行き先の呼び名だけが違う。幼い私にはそれが不思議で、すぐに父に尋ねました。
「ねえ、会社と銀行ってどうちがうと?」(博多弁。以下も同じ)
 すると父は、
「うーん、そやなぁ、どこがちがうとやろなぁ。ま、同じっち言やぁ同じやけどなぁ」(うーんそうだな、どこがちがうんだろうな。同じと言えば同じなんだがな)
 と、曖昧に答えました。これでは分かりません。答えは曖昧ですが、ひとつだけはっきりしたことは、その後も父は銀行を会社とは決して言わなかったことです。
 小学校も上学年になると、職業にはいろいろあること、「会社」に出かけるサラリーマンはその一部に過ぎないことが分かってきました。テレビに出てくる「パパ」が、たまたま会社通いのサラリーマンだっただけで、私の父もたまたま銀行員なので「銀行に行って来る」と出かけるだけの話です。会社員と同じように、スーツを着ていくことは偶然の共通点だし、雇用形態がだいたい同じなので、同じといえば同じ、ということなわけです。
 しかし、その後新たな疑問が沸きました。世の中の仕事のほとんどは、いわゆる商売というもので、何か作った商品や労働力を売り、対価を受け取ることで、利益を得ていると、理解できます。しかし、銀行と言うところは、貯金を預かるだけで、何も売りません。むしろ、預金者に利子を払ったりして、損をしているように見えます。父はいったいどうやって利益を得ているのでしょうか?
「うんにゃ、その預かった金ば他の人に貸して、利子ばもろうとったい」
(いや、その預かったお金を他の人に貸して、利子をもらっているんだよ)
 なるほど。でも、そんな数%の利子ごときで、儲けになるのでしょうか?
「そら、貸す額がちがうけん」(それは貸す額が違うからな)
 数十万や数百万のお金を貸すんじゃないんだ、企業や町ぐるみの大きな事業に数千万、数億、数十億のお金を貸すから、その数%の利子でも、結構な利益になるのだというわけです。この説明は分かる話でした。
 貸す額が違うんだ、と言うとき、父が、ちょっと誇らしげにしていたのが、妙に心に残りましたが。。

 以上のような、私の父への質問は、すべて同じひとつの質問です。それは、
「お父さんの仕事って何?」
です。その質問の枠組みが、私の成長に伴って、大きくなって行くのです。幼い私は、仕事を呼び名や、格好でしか認識できませんでした。しかしそれが、何をやるか、社会とどのような関係を結ぶかを考えるようになるのです。そしてその都度質問するのですが、たとえそれに答えてもらっても、さらに大きな枠組みで、疑問が生まれる。それが、私にとっての父の仕事というものでした。私の父の仕事に対する謎は、まだまだ続きました。

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5 コメント

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森田宏幸様 (丸太たぼ吉)
2006-12-25 22:59:30
はじめまして、私は森田さんの後輩に当たります、福岡大学に在学中の丸太たぼ吉と申す者です。在学中に書いた小説『ラブ・エージェント』が文芸社という出版社の選考に選ばれ、2006年6月に全国出版をさせていただけることになりました。私についての詳細はぜひ↓をご覧下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%B8%E5%A4%AA%E3%81%9F%E3%81%BC%E5%90%89
突然の書き込みで大変あつかましいこととは存じますし、森田さんが多忙な毎日を送られていることも存じております。
しかし、上記のプロフィールに書いておりますとおり、現在この小説『ラブ・エージェント』はおすぎさんにも紹介され、大変注目をいただいております。
私が出演させていただいておりますテレビ番組でも、ドラマ化のお話が上がるほどです。

私はこの作品をアニメにしたいという強い希望がございます。作品名こそ、純愛物という感じがしますが、どちらかというとハートウォーミングなスタジオジブリの『耳をすませば』のような小説です。

もし、ご興味を示してくださるようであれば、ぜひ、お話だけでもさせていただけないでしょうか?

メールをお待ちしております↓
tabokichi61@yahoo.co.jp

お忙しい毎日ではあると思いますが、お体に気をつけて、お仕事がんばってください。
返信する
まさか?! (もりた)
2006-12-26 21:18:51
まさかと思う内容ですが、
コメントありがとうございます。

丸太さんの作品は、まだ読んだことがありませんので、
これから関心を持ってみようかと思います。
返信する
Unknown (丸太たぼ吉)
2006-12-27 20:47:51
お返事ありがとうございます。
もしよろしければ、本と私の資料を郵送いたします。
メール、いただけないでしょうか?

個人住所が都合悪ければ、会社の住所でもかまいません。

tabokichi61@yahoo.co.jp

ご迷惑でなければ、よろしくお願い申し上げます。
返信する
分かりました (もりた)
2006-12-27 23:54:02
分かりました。
メール差し上げます。
返信する
ささやかながら (hinataisi)
2007-07-09 23:43:55
はじめまして。
私も丸太さんと同じく福大の同窓になります。
大学時代には漫研に在籍していましたが、当時の後輩(森田様の後輩です。)から薦められて、森田様の作品を拝見した記憶があります。「猫の恩返し」の監督をされた時に、私の先輩(お知り合いかも知れませんが。)が大喜びしていたとも聞いています。「ぼくらの」の監督も重責かと思いますが、これからもご活躍されるようご期待申し上げます。がんばってください。
返信する

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