「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

荒れ狂ふ旋律雪の青みけり 谷口加代 「滝」4月号<滝集>

2012-04-25 05:07:36 | 日記
青森を思った。荒れ狂う日本海・津軽三味線の旋律・深く
積もる雪の青さ。しかし、陰鬱な感じはない。「雪の青み」
に陽光を感じ、わずかな春の兆しが見える気がした。そんな
自分の感覚を納得するために調べた中に、「雪はすべての色
を反射する性質があり、このため雪は白く見えるが雪はわず
かながら青い光を透過させる特性を持っており、積もった雪
の中が青く見えるのは、このわずかに雪の中を通過した青い
光によるも」というのがあり安堵した。後になって「青む」
に「下萌」を感じたのかもしれないと思った。(H)

音譜読む指さき春の立ちにけり 平川みどり 「滝」4月号<滝集>

2012-04-24 05:17:46 | 日記
 楽譜ではなく「音譜」としたところに、指の動きが見えて
くる。音譜をなぞって、大まかに曲を把握した指は、架空の
鍵盤を奏でる指に変わっていく、音譜は音に変換されて頭の
中にメロディーとなって聞こえてくる。心理的な春を感じる
要因として曲があり、春は名のみの体感に、この指さきから
の「春の立ちにけり」はとても心地いい。(H)

戸をこつと叩き初蝶来たりけり 渡辺登美子 「滝」4月号<滝集>

2012-04-23 06:00:10 | 日記
 まるで初蝶がノックをして作者のもとを訪れたようだ。「こ
つ」という固い音は、「弱々しい」という蝶への先入観があ
ったら決して得られない。この初蝶を「待ちかねた人」。例
えばお孫さんと置き換えて読むことも出来る気がするが、余
計な想像はしないことにした。戸を開けると春光と一緒に初
蝶が入り込む。『ねえねえ、良いお天気よ。野原にでも行っ
てみない?』とまとわる蝶としばらく遊んだ作者を思ってみ
たい。(H)

静けさにある慟哭や涅槃絵図 相馬カツオ 「滝」4月号<滝集>

2012-04-22 06:16:46 | 日記
 思わず頷き、涅槃図が目の前に広がってきた。涅槃図は、
沙羅双樹のもとに横臥したお釈迦様のまわりを、たくさん
の弟子や、鬼神、鳥獣虫魚などが、その死を悼み悲しみに
暮れている様子を描いた絵である。「静けさにある慟哭」
と言葉にされて、音などするはずのないのに、悲しみのあ
まり上げる声を誰もが聞いているのだと気付く。隙間のな
いほどに描かれた生き物の慟哭は、黙って見ているしかな
いほどに壮絶であることも言い得る句であるとも思った。(H)

蛇穴を出づリハビリの魔方陣 及川原作 「滝」4月号<滝集>

2012-04-21 05:16:22 | 日記
 なんと意外で面白い句だろう。冬眠していた蛇がぼおっと
した頭を覚醒させ、社会復帰でもするような仰々しさが楽し
い。魔方陣は、その計算式を見ると?マークが頭を占めるが、
簡単に言えば、正方形の縦・横・斜めの升目の数字を足すと、
どれも合計が同じ数字になるものを言い。リハビリに使うと
言うのだから、その升目の何か所かが抜けていて答えを書く
ゲームのような物を想像した。作者には、一月号に
「銀杏散る体温計の電子音 及川原作」
があり、私の中で、蛇と、長い安静が終わった作者がすっと
入れ替わった。(H)