「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

梅一輪鍵穴を来る光かな 石母田星人 「滝」5月号<瀬音集>

2013-05-18 06:24:14 | 日記
 梅一輪という暖かさと、帰りを待つ家族を思わせる鍵穴か
ら漏れる光の温かさ。心の中にそんな、言ってみれば当たり
前のことがじんわりと、しんみりと広がる早春の夜。梅によ
って知らされる春は、胸苦しさと一緒にある。掲句に、大震
災に遭い、助かった命が抱える生涯消えない記憶を無理に仕
舞い込んで、平常を取り戻そうと歩を進める今を感じるのは
過度な深読みになるのだろうか。ミウラ折りの地図を広げる
ように、惨事が目の前に広がって私は苦しくこの句を読んだ。
作者の句集「濫觴」に
「白梅の空は産湯の匂かな 石母田星人」
がある。初々しい季節の誕生に託して、命が詠まれた句を思
い出したからかもしれない。(H)