映画から自己実現を!

映画を通して 人間性の回復、嫌いな自分からの大脱走、自己実現まで。 命をかけて筆をとります。

②『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-21 08:26:37 | 日記

 

 

 

 

16.引きこもりな老画家

 

リストにあげた3人にはおらず、意気消沈して自室に戻ろうとするアメリに話しかけてきたのはガラスの手の老画家でした。

 


レイモン:
「プルドトーじゃない。プルトドーだよ」

「ひどい顔だ。シナモン入りの熱いワインを飲ましてあげるよ、おいで。」


 

ヴァン・ショー・・・
ヴァンは(VIN=ワイン)ショーは(CHAUD=ホット)という意味合いを持つ、HOTサングリアの”ヴァンショー”。つまりホットワインのこと。柑橘系の果物やスパイス
を入れて煮詰めたもの。

 


アメリ:「ここに来て5年だけど初めて顔を見たわ」

レイモン:
「わしは絶対に外に出んし、会う人間は自分で選びたいからね」

「ろくな人間がいない」


 

人との付き合い方は人それぞれですが、幼い頃、若い頃人間関係で苦労をした人は傷つきやすかったり、そもそも人は悪人だと信じて生きています。

人の性格や行動が病気かどうかというのは、「日常生活に著しく影響が出ているかどうか」です。

生活への支障と心の平静の兼ね合いだと思います。

心の安寧を選ぶか、好奇心や刺激を好むかの生き方や気質によって色々とあっていいと思います。

その人の個性として尊重したり、受け入れることが気分や感情に振り回されないで生きる良い方法だと思います。

 


レイモン:
「さあ、入って」

「わしは ”ガラス男” と呼ばれてる」

「本名はレイモン・デュファイエルだ」

アメリ:「アメリよ、仕事は...」

レイモン:
「ドゥ・ムーランだろ。知ってるよ」

「今日は無駄足だったな。プルドトー捜索は失敗した」

「”ド”じゃない、”と”なんだ。トトの ”ト”」

アメリ:「ありがとう」


 

アメリは好きな人だと少しはにかんだ笑顔になり、とてもわかり易いです。

女性は特に表情に好き嫌いが出るように思います。

子供に愛情を伝えるためのオキシトシンというホルモンが関係しているようです。

 

 

 

 

 

17.ルノワールの少女

 

 


アメリ:「素敵な絵ね」

レイモン:「ルノワールの ”舟遊びの昼食” だ」


 

レイモンは部屋の仕切りのカーテンを開けました。

するとたくさんの ”舟遊びの昼食” が置かれてありました」

 


レイモン:
「年に1枚ずつ描いてる。20年前からね」

「難しいのは視線だ。ときどき皆で見つめ合ってる。わしの目を盗んでね」

アメリ:「幸せそうな顔です」

レイモン:
「ご馳走だからね。野ウサギの編み笠茸風味だ」

「子供たちにはジャムつきゴーフル」


 

ゴーフル
ゴーフルは、専用の型で作る凹凸模様の平たい菓子。英語でワッフル 、フランス語でゴーフル と呼ばれる。「浮き出し模様を付ける」という意味の “gaufrer” から、「ゴーフル」と呼ばれるようになった。日本では、薄焼き煎餅にクリームを挟んだ焼き菓子が「ゴーフル」「ゴーフレット」等の名前で販売されている。

 


レイモン:
「どこへ仕舞ったかな、あの紙切れは...」

「それは隣を映すためのビデオカメラだ。義妹からのプレゼントさ」

「隣の看板を映しておけば掛け時計がいらないだろ」

「20年描き続けていてもまだ描ききれない人物がいる」

「この水を飲む娘だ」

「絵の中心にいるのによそにいるみたいだ」

アメリ:「彼女は人と違うのよ」

レイモン:「どこが違う?」


 

レイモンは座っていたイスから立ち上がってアメリの意見を熱心に聞きます。

 


アメリ:「さあ...」

レイモン:「子供の頃、友達と遊んだことがなかったのかな。おそらく1度も」


 

レイモンは絵の中の少女をアメリの気持ちや境遇と同じように類推します。

驚くくらいアメリの心情を言い当てますね。

 


レイモン:「これをあげるよ。ドミニク・プルトドー。ムフタール街27番地。この男だよ」


 

 

 

 

 

18.プルトドー

 

 


ナレーション:
「毎週火曜の朝、プルトドーは市場でチキンを買いオーブンで丸焼きにする」

「まずはもも肉、胸肉を切り分け、湯気の出ている骨の間に指を入れ腰骨の肉を取って食べる」

「ところが今日はそうできなかった。なぜなら公衆電話が彼を呼び止めたから」


 

初老のプルトドーは恐る恐る電話を取りますが、すぐに電話は切れます。

公衆電話の電話帳置きのところにアメリは宝箱をそっと置いていました。

プルトドーはいぶかしげに箱の外観を見ます。

そして宝箱のフタを開けた瞬間、自分の幼き頃の写真を目にしたプルトドーは目に涙を浮かべました。

 


ナレーション:
「一瞬のうちに記憶が蘇った」

「59年のツール・ド・フランス。叔母さんのシュミーズ。特にあの人生最悪の日。級友からビー玉を勝ち取った日を...」


 

過去のプルトドー。

整列に遅れたプルトドーは先生に耳をつままれて怒られます。

大事なビー玉がポケットの穴からすり抜けてあたりに散乱しました。

プルトドーにとっての屈辱の記憶です。

誰にも悲しい記憶がありますね。

わたしもみんなの前でおしりのズボンが思いっきり破けたことがあります。

プルトドーは感激の気持ちを携えてバーに向かいカウンターに腰掛けます。

 


プルトドー:
「コニャックをくれ」

「奇跡が起こった。天使が奇跡を起こしてくれた」

「公衆電話が俺を呼んだんだ」

バーテンダー:「電子レンジがお呼びだ」


 

店員がプルトドーを冷やかします。

 


プルトドー:
「コニャックをもう一杯くれ」

「人生って不思議だな。昔は時間が永遠にあったのに気がつけば50歳」

「思い出がこんな小さな古ぼけた箱の中に...」


 

プルトドーは隣に座っているアメリに話しかけます。

 


プルトドー:
「娘さん、子供はいるかい?」

「俺にはあんたくらいの娘がいるんだ」

「もう何年も会ってない」

「孫が産まれたそうだ。男の子で名前はリュカ」

「会いに行ってやろう。自分が ”宝箱” に入る前に」

「そうでしょ?」


 

プルトドーは宝箱を開けて子供の頃にタイムスリップしたことで「時」のはかなさを感じたのかもしれません。

たぶん今、彼は幸せではないのでしょう。

ひとり孤独を背負っているのかもしれません。

自分の人生を高いところ、異次元のところから俯瞰した時、むなしさが込み上げてきたのかもしれません。

昔の希望に満ちた楽しかった日々と今の暮らしを比べたのかもしれません。

無くしてしまったもの、置いてきてしまったもの、捨ててしまったものを思い出したのでしょう。

そして何かしなくてはいけないと思ったのでしょう。

外界とのふれあい

 


ナレーション:
「アメリは突然、世界と調和がとれたと感じた」

「すべてが完璧」

「柔らかな日の光、空気の香り、街のざわめき」

「人生とは何とシンプルで優しいことだろう」

「突然、愛の衝動が体に満ち溢れた」


 

アメリは生まれて初めて世界と関わりをもったのだと思います。

通じ合う感覚を得たのだと思います。

アメリは盲目の老人が通りを渡るのを寄り添って歩いてあげます。

 


アメリ:
「道案内をするわ。車道を降りてさあ、出発よ」

「ご主人の制服を着た楽隊員の未亡人」

「ほら舗道よ。気をつけて」

「看板の馬には耳がないわ」

「花屋のご主人の笑い声、笑うと目にシワができるのよ」

「お菓子屋の店先に飴細工があるわ」

「この匂いわかる?果物屋さんがメロンの試食をおこなってるわ」

「美味しそうなアイスクリーム。惣菜屋さんの前よ」

「ハム79フラン、ベーコン45フラン、チーズはアルデーシュ産が12フラン90」

「赤ちゃんが犬を見てる。犬がチキンを見てる」

「新聞売り場に着いたわ。地下鉄の駅よ。ここでお別れ。さよなら」


 

アメリは楽しそうに階段を駆け上がり、盲目の老人はキラキラと光りました。

アメリはプルトドーの役に立てたことで多幸感が心に生まれたのですね。

そしてその幸せをもっと分けてあげたいと感じました。

アドラーの言う『共同体感覚』です。

アメリが言うようにプルトドーとの精神的つながりが世界との調和として感じることができた。

人は何かを与えることで幸せを得ることができる動物です。

それは人とのつながりを持てたからです。

その時、私たちの体には「オキシトシン」というホルモンが生成されます。

これが「つながりの幸せ」をもたらす幸せの物質です。

気づくことだけで幸せを認識することができます。

幸せはあなたのすぐ近くにあるのです。

そう、あの幸せの青い鳥です。

そして自分のグラスに幸せのワインを満たすと、おせっかいにも人に分けてあげたくなります。

人の親切とは何も打算からだけではありません。

こういう性質が人の中には本能的にあるのです。

協力して厳しい生活を生き抜くための、人間の社会的な本能でしょう。

ギブ&テイクや返報性の法則などもこういった本能が習慣化や儀式化したものだと言えます。

そうしてギバー(与える人)はますます幸せ感を得るんですね。

もちろんそれが相手に良いか悪いかは別問題ですよ。

これまたアドラーの言う『課題の分離』です。

受け取った相手がどう感じるかはその人の領域です。

人の心や本能、愛着、欲求を論じる時に、善悪や倫理観はひとまず置いておくことです。

まずは自分のグラスを最初に満たすのが健康的なのです。

 

 

 

 

19.空想癖と葬式

 

 

その夜、陽気に夕食の用意をするアメリはレイモンの部屋が目に映ります。

独り寂しく夕食を食べているレイモンにアメリは心を痛めます。

それはまた自分にも跳ね返って来るのでした。

自分もまた外出を何十年もしていない老画家と同じように孤独なのだとアメリは悟ります。

 


アメリ:
「他人と関係を結ぶことができない」

「子どもの頃から孤独だった」


 

そこからアメリはダークな自己否定的な気持ちに変わってしまいます。

その気分がイメージ化されて、映像に映し出されます。

暗い色調で女性が黒猫を抱いてこちらを恨めしそうに見ている絵。

TVに映る仮想のアメリの国葬。

 


ナレーション:
「きらめく7月の太陽が傾き、浜辺ではまだ避暑客が無邪気に水と戯れる頃、またパリでは熱気の残る夜空に花火が輝き歓声があがる頃、アメリ・プーランまたは売れ残りの女王、縁遠いマドンナが静かに息を絶えたのです」

「パリの街に悲しみが広がり、数万の無名の庶民が無言で葬列に加わり哀悼の意を表しつつ、残された者の無限の悲しみに耐えていました」

「彼女の不思議な運命。不運な人生。しかし彼女は細やかな感受性の持ち主でした」

「まるでドン・キホーテのように人類の苦難という風車に立ち向かったのです」

「負けの決まった闘いが早すぎる死を招きました」

「アメリ・プーランは23歳の若さでその短い人生を世界の困窮の中で閉じたのです」

「死してなお、彼女の心を苦しめるのは父親が息を詰まらせて死に瀕したとき、ただ手をこまねいて死に至らしめたことです」


 

自己嫌悪な人、抑うつ症状の人はよく自分の葬式を思い描いたり、夢に見たりします。

叶えられない願望。

空想の中でも人々に愛され悲しまれることを切に願っているのです。

父親に対しての思いやりのなさでさえ、自分に責任を感じて責めてしまいます。

自分を嫌いになりすぎて、「解離性障害」のように自分を自己から切り離してしまいたい気持ちでいっぱいです。

そうした人はついには依存症、自傷、摂食障害、果ては自死企図にまで追い込まれます。

夜、アメリは父親の家の庭にある七人の小人の1体を持ち出し、地下鉄で夜を過ごします。

父親の愛を小人から奪い取りたかったのか、または父親の自閉症を治してあげたかったのか。

 

 

 

 

 

20.ニノという青年

 

駅構内で再びアメリは以前会った青年、ニノ・カンカンポワと出くわします。

まだ面識はありません。

ニノは一人の男をアメリのそばを通り過ぎて追いかけて行きました。

途中でアメリはニノのカバンを拾います。

中にはアルバムが入っていました。

 


ナレーション:「証明写真のアルバム、丸めたり破ったりした失敗写真をきれいに復元し分類してあった。家族のアルバムのように」

 

 

 

 

 

 

21.恋愛談義

 

 

アメリの仕事場のカフェです。

ジーナが一人の男の客の注文を取りました。

それを見たジョゼフはジーナに言います。

 


ジョゼフ:「あの客とは交渉前か、それとも後?」

ジーナ:「先天的なバカね」

ジョゼフはまた録音機に記録します。

ジョゼフ:「交渉前だ」


 

カウンターの常連客の老人がジーナを慰めます。

 


老人:
「機嫌を直しなさい。今にいい男に出会える」

「女の幸せは男に抱かれて眠ることだ」

店主シュザンヌ:「でも男っていびきをかくでしょ。私、音に敏感なのよ」

老人:「わしは手術で喉を直した」

店主シュザンヌ:「あら、ロマンチストなのね」

老人:「大恋愛の経験がないらしいな」


 

老紳士がカフェで恋愛を語る。なんて素敵なんでしょう!

さすが、フランスですね。

 


店主シュザンヌ:「あるから足を悪くしたのよ」

ジーナ:「サーカスの事故かと思ったわ」

店主シュザンヌ:
「ええ、そうよ。相手は空中ブランコ乗り」

「空中ブランコは直前に手を離すけど、私も演技の直前に別れ話をしたの」

「私は動転して馬も動転し、運悪く私の上に馬が...」

老人:「ともあれ、一目惚れはあるよ」

店主シュザンヌ:
「でもこの商売を30年もやるとわかるのよ」

「一目惚れにもレシピがあるのよ」

「材料は顔見知りの二人。互いの好意を絡めてよく混ぜる。一丁あがり」

 

 

 

 

 

22.恋のキューピット

 

 

アメリはその言葉を聞いて、ジョゼフとジョルジェットを結びつけることを思いつきます。

 


ジョゼフ:「すまんが、お代わりを頼む」


 

アメリはコーヒーのお代わりを持っていった際、ジョゼフにささやきます。

 


アメリ:「誰かさんが心を痛めてるわよ」

ジョゼフ:「ジーナなら大丈夫さ」

アメリ:「ジーナじゃないわ。ジョルジェットよ」

ジョゼフ:「彼女が俺のことを?」

アメリ:
「自分に気づいて欲しいのにあなたはジーナばかり。可哀想に」

「あなたの関心を惹こうと必死なのに、その目は節穴ね」


 

閉店後、アメリはジョルジェットにも話します。

 


ジョルジェット:「ジーナの今の彼氏、あの録音機の変人よりきっとマシな男ね」

アメリ:「ジョゼフなら変人じゃないわ。悩みが深いのよ」

ジョルジェット:「でも2ヶ月も前に別れたのにまだ毎日通ってくるのよ」

アメリ:「その理由をあなたが知らないはずないわ」

ジョルジェット:「理由?」

アメリ:「いつもこの席よね」

ジョルジェット:「ええ」

アメリ:
「座って。座ってみて」

「何が見える?」

ジョルジェット:「煙草売り場よ」

アメリ:「何が足りないかわかる?」

ジョルジェット:「何も」

アメリ:「よく見て」

ジョルジェット:「何も見えないわ」

アメリ:「よく考えといて。おやすみ」


 

アメリはあなたの姿よと言いたかったのですね。

 

 

 

 

 

23.アメリの悲観

 

 

アメリはプルトドーの件以来レイモンと仲良くなり、彼の部屋を訪れます。

アメリとレイモンはニノの残したアルバムを眺め、思いをめぐらしました。

 


アメリ:「ここにもいるわ」

レイモン:「確かに変だな」

アメリ:「ここにも」

レイモン:「同じ男だ。リヨン駅だね」

アメリ:「ここにも。オーステルリッツ駅ね」

レイモン:「顔もまったく同じだ。無表情だ」

アメリ:「全部で12枚よ。数えたの。定期的にあちこちで写真を撮ってすぐに捨てるなんて」

レイモン:「ちゃんと撮れた写真を捨てている」

アメリ:「何かの儀式かな?」

レイモン:「何かに取り憑かれているな。例えば老いることの恐怖とか」

アメリ:「死だわ」

レイモン:「死?」

アメリ:「死んで忘れ去られること。それで自分の顔をこの世に送ったのよ。あの世からのFAXなのよ」

レイモン:「死んだ人間が忘れられたくない...。絵の中の彼らは勝利者だ。彼らは大昔に死んだが絶対に忘れ去られることはない」


 

レイモンの絵の人物に対する意見は面白いですね。

家族の写真や遺影を絵で飾るのも温もりがあっていいアイデアかもしれませんね。

 


アメリ:「あの絵の水を飲む娘だけど、誰かのことを想ってるんじゃない?」

レイモン:「絵の中の誰か?」

アメリ:「いいえ。街のどこかで出会った人で同じ匂いを持った人を想っている」

レイモン:「つまり、今そこにいない人間との関係を想像する方がよくて、今いる人間との関係はどうでもいいということかな?」

アメリ:「逆に他人の人生を軌道修正してるのかもしれない」


 

レイモンの鋭い指摘ですね。

でもアメリは ”同じ匂いを持った人” との関わりが増えています。

世界とつながりはじめているのですね。

レイモンはアメリが自分のことを言っていると見抜き、さり気なくアドバイスを贈ります。

 


レイモン:「だが彼女、自分の人生の軌道修正はやってるのかな?」

アメリ:「少なくとも ”ドワーフ” でなくて人間を相手にしているわ」


 

映画や絵画、あらゆる芸術作品は自分を写す鏡だと思います。

自動証明写真機に写る男の気持ちを類推するアメリは次第に自分をその男に『投影』『外化』します。

 


投影・・・
心理学における投影とは、自己のとある衝動や資質を認めたくないとき、自分自身を守るためそれを認める代わりに、他の人間にその悪い面を押し付けてしまうような心の働きをいう。

 

外化・・・

外化とは自分の中にある問題を外にある他人や状況の問題だと認識することで心を守ろうとすること。


 

世界とつながりたいけれど、つながる勇気を持てないアメリはこのまま自分の存在を知られずに死んでいくことを恐れています。

アメリはニノのことを想うことや近しい人を幸福にすることに世界とのつながりを感じはじめています。

ここでこの作品の主題曲が悲しみの曲調で流れてきます。

人のこれまでの生きてきた姿を転写する証明写真にアメリは自身の過去をたどり、未来を思案します。

世界の地に根を張って生きるということ、それは『自我』『アイデンティティ』『実存』を持つということです。

愛を貰いたくて、褒められたくて、そんな存在を求めて自分を否定しながら生きてきたのではないか。

衝突や傷つくことを恐れて世界を『回避』しながら生きてきたのではないか。

今まで自分を守ってきた方法ではもうこれ以上前に進めないと気づいたのではないか。

どうすればその世界と繋がることができる勇気を手にいれることができるのか。

これから自分は何をすればいいのか。

アメリはニノのアルバムを自分の末路のように恐れながらまどろみました。

TVの映像に世界とのつながりを表すような映像が流れます。

ツール・ド・フランスの先頭が三角形の頂点となす美しい自転車の群れ。

小魚の群れのように光り輝いています。

そこに一頭の馬が颯爽と走り駆けていきます。

馬独特の飛び跳ねるような走りに純真な希望を感じます。

 

 

 

 

 

24.不快

 

 

食料品店主のコリニョンがまたリュシアンをいじめています。

 


コリニョン:
「とっておきの話がある」

「リュシアンの奴、警察のネズミ捕りに引っかかった。そうだな?」


 

コリニョンはリュシアンの後頭部を小突きました。

 


客の夫人:「でもコリニョンさん、彼の責任ではないわ...」

コリニョン:
「確かに奴の責任じゃないよ、マダム。ダイアナ妃のせいなんだ」

「運転席に何があったと思います?」

「女性下着のカタログでモデルの顔がダイアナ妃になってた」


 

コリニョンはアメリに注文を尋ねますが、アメリはリュシアンをいじめるコリニョンへの嫌悪感でいっぱいです。

アメリはコリニョンを睨みつけて、その場を立ち去ります。

 


アメリ:「結構よ」

 

 

 

 

 

25.イポリトの人生観

 

 

通りの売店の馴染の店員がジョルジェットに声をかけます。

 


売店の店員:「今朝はすごく顔色がいいわ。愛のない女は太陽のない花。すぐに枯れるわ」


 

愛は生きるために必要な養分なんですね!

女性の活き活きした表情を思い浮かべると、思わず納得ですね。

カフェで常連の売れない小説家イポリトがしゃべっています。

 


アメリ:「それであなたの書いたお話って恋愛小説なの?」

売れない小説家:「いや、日記を書く男の話だ。起こったことじゃなく起こりそうな災難を書くんだ。それで憂鬱になり何もできない」

ジーナ:「つまり何もしない人ね」


 

考えるだけで行動できない人というのはこういった人のことです。

頭の中だけでグルグルと思考が廻っているのですね。

行動すること。それは新世界へのスイッチです。

行動だけがその状況から自分を抜け出させてくれるのです。

人は臆病でどうしてもブレーキをかけてしまう。

危険予知は身を守る方法なのですが、悩むだけで今のままが幸せに繋がらないことが多くあります。

アメリの策略は功を奏し、ジョゼフとジョルジェットは流し目でお互いを少しずつ意識し始めます。

 

 

 

 

 

26.復讐

 

 

コリニョンのリュシアンに対するいじめを許せないアメリはコリニョンの家に侵入して、手ひどいいじわるを仕掛けます。

・部屋履きのスリッパにボンドをつけて床に貼り付ける

・靴紐を切って短くする

・歯磨き粉と足用クリームを入れ替える

・ドアノブの表と裏を入れ替える

・コニャックに薬品を混ぜる

・目覚まし時計の時間を遅らせる

そんなアメリの行動を自室の窓からレイモンはじっと見ています。

父親との食事の場面ですが、相変わらず自分のことにしか関心がない父親です。

アメリは友人のCAに父親のドワーフを預けて、海外から小人の写真を父に送ってもらうといういたずらをずっと続けていました。

 


アメリ:「庭のドワーフはどこ?物置に仕舞ったの?」

父親:「モスクワさ、ご覧。何も書いてない」


 

アメリにモスクワで撮られた小人の写真を見せます。

 


アメリ:「旅がしたくなったのかも」

父親:「わからん。訳がわからん」

 

 

 

 

 

27.ニノからの行動

 

 

ニノは駅の掲示板になくしたカバンを見つけるための掲示を張り出していました。

アメリはその掲示を読みます。

 


ナレーション:
「普通の娘ならすぐ電話するだろう。テラスで待ち合わせて相手をよく吟味する」

「まさに現実との対決。アメリはそれが苦手だった」


 

部屋の絵画にエリザベスカラーをした犬と白い鳥が描かれています。

空想の中でこれらがおしゃべりをします。

 


絵の中の鳥:「アメリは恋をしてるのかな?」

 

 

 

 

 

28.リュシアン

 

 

アメリのいたずらが成功して、コリニョンは不可思議な出来事に遭遇したショックで仕事を休んでしまいます。

リュシアンは一人で悠々と仕事をします。

 


客の女性:「ご主人は?」

リュシアン:「カリフラワーの中。そこで寝てるんです」


 

ジョゼフとジョルジェットはいっしょにスクラッチをして仲を深めていきます。

リュシアンはレイモンのところに配達にやってきました。

 


リュシアン:「こんにちは、レイモンさん」

レイモン:「リュシアンか」

リュシアン:「注文の品です」

レイモン:「何だ、アーティチョークは嫌いだ」

リュシアン:
「違いますよ、よく見て下さい」

「葉を取って見て下さい。ジャラーン!」


 

葉を取るとキャビアの瓶詰めがありました!

 


アーティチョーク・・・
アーティチョークは、キク科チョウセンアザミ属の多年草。和名はチョウセンアザミ。形態的には大型アザミである。若いつぼみを食用とするヨーロッパの春野菜。地中海沿岸原産。


 

リュシアンはとても嬉しそうです。

ツナの缶詰に似せたフォアグラの缶詰

そしてサラダ油に似せたワイン。

 


レイモン:「お前は魔法使いだよ」

リュシアン:「ムッシュのおごりです」

レイモン:「何?ムッシュ・コリニョン?」


 

ムッシュ・・・
ムッシュ(フランス語)は、中世フランス語において閣下を意味する語で、現在は(爵位など高い位を持たない)全ての男性への敬称として使われる。 ムッシューと表記されることもある。

 


レイモン:「その言い方はダメだぞ」

リュシアン:「すいません、ついうっかりと」

レイモン:
「練習してみろ!さあ!練習しろ」

「まず、わしが先に言う」

「コリニョンはマヌケ」


 

リュシアンは恐る恐るレイモンのあとを繰り返します。

 


リュシアン:「コリニョンはマヌケ」

レイモン:「次はお前だけだ。コリニョンは?」

リュシアン:「コリニョンはアホ」


 

リュシアンは少し楽しくなって笑顔になります。

 


レイモン:「言えたじゃないか。次は何だ?」

リュシアン:「コリニョンはトンマ」

レイモン:
「トンマか、よく出来た」

「コリニョンは?」

リュシアン:「コリニョンはアホ、コリニョンはトンマ、コリニョンはアホ...」


 

リュシアンは興奮しすぎて悪口が止まらなくなり、レイモンは必死に止めます。

 


レイモン:「リュシアン、もう十分だ。今日はこの辺にしよう」


 

レイモンは気が弱く言い返せないリュシアンに勇気を与えます。

言い返す(ファイトバック)というのは現状を変えるためにはとても大事なことですね。

雇われであり、頭も少し弱いのを気にしてか、勇気の出ないリュシアン。

身近で辛く生きていることを黙って見ていられない、良い人たちばかりですね。

世界とつながるとは、自分の身近なことに関わることから始まると思います。

 

 

 

 

 

 

29.集められた幸せシーン

 

 


リュシアン:「そうだ、忘れてた。この小包がドアにありました」


 

レイモンが小包を開けると一本のビデオテープが入っていました。

そこにはTVから録画したたくさんの映像シーンが写っていました。

先程のツール・ド・フランスのシーン。

自転車が三角形にきれいに連なり、小魚の群れのように形が変化します。

世界との一体感を伝えているのでしょうか。

次はサーカス。

男が後転し続ける間、犬がずっと男の背中にちょこんと乗っています。

これも人と動物との繋がり、そして陽気さを忘れてはいけないと伝えているのですね。

次はゴスペルの集団の手拍子に合わせて、黒人の女性が陽気にエレキギターを弾いています。

黒人たちだけというのが、彼女たちが背負ってきているものを想像させます。

それでも賛美歌を歌う彼女たちの強さ。

人の尊厳に胸を打たれます。

どれも楽しく、見ていて胸が爽やかになるような、それでいて温かみのある映像です。

アメリからの贈り物ですね。

これがアメリの世界との関わり方です。

身近な好きな人達を喜ばせてあげたいという優しい気持ちが出た行動です。

寂しく暮らしている人たちに小さな温かなプレゼントを贈り続けます。

世の中には目を凝らせば、楽しい出来事がたくさん拾えます。

何気ない『気づきの幸せ』

人との寄り添いに気づくだけで得られる幸せがたくさんあります。

「視点を変えてみたら楽しいこといっぱいあるよ」というメッセージですね。

 

 

 

 

 

30.恋の炎

カフェの場面です。

ジョゼフとジョルジェットは急接近します。

 


ジョゼフ:
「ちょっと、失礼するよ」

「胸元に何かついてる」


 

ジョゼフはジョルジェットの胸元に手を伸ばします。

ジョルジェットは緊張しながらもジョゼフの腕が触りやすいように身体を寄せました。

 


ジョゼフ:「すごくきれいだ。顔が赤くなってて。野の花みたいだ」

ジョルジェット:「これ、アレルギーなの」


 

ジョゼフは化粧室に入りました。

それを見ていたアメリはふとひらめき画策します。

アメリはジョルジェットにわざと当たってコーヒーを彼女の服の上にこぼします。

 


ジョルジェット:
「ひどいわ。やってくれたわね」

「もう!百発百中ね。最低!」


 

ジョルジェットは大袈裟に皆に聞こえるように叫び、化粧室に行く口実を作りました。

ジョゼフとジョルジェットは密室の中で二人きり。

二人は激しく抱き合い求めあいました。

店中のカップが振動するほど。

アメリは思わずエスプレッソマシンの空気抜きをして ”騒音” をごまかします。

アメリによってついに二人は結ばれます。

愛を繋ぐ行為がアメリがめざす世界との関わりです。

アメリはレイモンを訪ねます。

 


レイモン:「この前話した水を飲む娘のことだが、出会った青年に娘は再会できたのか?」

アメリ:「いいえ、二人の世界が違ってて」

レイモン:
「チャンスとは自転車レースだ。待ち時間は長く、たちまち終わる」

「チャンスがきたら思い切って飛び込まないと」


 

人生の時間は少ないことを教えてくれる素敵なセリフですね。

この短さを歯医者にいる患者に例えてる人もいます。

あれだけ痛みについて心配したのに、終わるのはあっという間だと。

 

 

~PART③ へ続く~

 


①『アメリ』〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

2024-07-20 07:02:33 | 日記

『アメリ』

〜無気力、無感動から抜け出したい人へ。一人あそびから外界へ!

 

 

 

 

 

00.最初に

心が急停止する。

何もしたくない。何も感じられない。これまで楽しんできたことが楽しくない。

あなたはこれまで頑張ってきました。

よく耐えて来ました。

頑張れば成功して未来は楽になる。

一目置かれ、みんな認めてくれる。

私さえ我慢すれば、組織は上手くいく。

私さえ我慢すれば、お母さん、お父さんは楽しく過ごせて私を愛してくれる。

誰かを忘れていませんでしょうか?

それはあなたの中の子どもです。

あなたの源泉です。

心です。

身体は無理が利かないけれど、精神は成長するし我慢して鍛えるものだ、壊れることは私に限ってないはずと思っていませんか。

それはまったく違います。

身体が病めば心も病みます。

心が病めば身体も病みます。

必死に生きてきたのに生きる意欲をなくす。

そんな状態から解放するのは、心を自由に泳がせてあげることだと思います。

この作品『アメリ』では自由な映像言語、自由なナレーション、自由な空想がたくさん散りばめられています。

アメリといっしょに遊んでいって下さい。

そうすれば、あなたは希望が湧いて来ると思います。

『楽しいムーミン一家 お隣さんは教育ママ』

https://www.youtube.com/watch?v=ONIqq8ZGAw4

こちらも合わせて見てみて下さい。

遊ぶことの大切さをムーミンたちが教えてくれています。

それではエレガントで自由なフランス映画をいっしょに楽しんでいきましょう。

 

~《主な登場人物》~

 

アメリ・・・
主人公。23歳の若い娘。両親ともに神経質。母は幼い頃に死去。空想癖があり人見知り。

ニノ・・・
青年。人付き合いが苦手。収集癖がある。

アメリの父・・・
元軍医。引きこもり。他人に興味がない。

レイモン・・・
老画家。手の骨がもろく、不自由。ルノワールの絵の模写を日課とする。

リュシアン・・・
食料品店の店員。優しい純粋な青年。店長のコリニョンにいじめを受けている。

コリニョン・・・
食料品店の店長。

ジョゼフ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の客。ジーナと別れるもストーカー行為をしている。録音記録癖。

ジョルジェット・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の売店員。神経質な女性。

ジーナ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』のウエイトレスの女性。

シュザンヌ・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の店主。初老の女性。

イポリト・・・
カフェ『ドゥ・ムーラン』の客。売れない小説家。

ウォレス・・・
アメリのアパートに住む管理人の女性。夫を飛行機事故で亡くしている。

 

 

 

 

 


01.アメリの生い立ち

 

 

 


ナレーション:
「1973年9月3日18時28分32秒、毎分1万4670回で羽ばたく1匹の羽虫がモンマルトルの路上に留まった」

「その時、丘の上のレストランでは一陣の風が吹いて魔法のようにグラスを踊らせた」

「同じ時、トリュデーヌ街28番地の5階で親友の葬儀から帰ったコレール氏が、住所録の名前を消した」

「また同じ時、x染色体を持った精子がラファエル・ブーラン氏の体から泳ぎだし、プーラン夫人の卵子に到達した」

「9ヶ月後、アメリ・プーランが誕生した」


 

主人公のアメリは現在20歳代の女の子。

この世に生を受けたアメリ。

すべての偶然の出来事は重なり、天文学的な確率でアメリという気質を備えた女の子が出来上がります。

この世に来る人、あの世に去る人。

新たな生がまた始まり、今まで同じもののない人生という絵を描きます。

 

 

 

 

02.アメリの父と母

 

 


ナレーション:「アメリの父は元軍医で、今はアンギャンの治療院に勤務」


 

”薄いくちびるは冷淡さの印” とポップ広告のように表示されています。

 


ナレーション:

「プーラン氏の嫌いなこと。連れション、そしてサンダルを軽蔑の目で見られること。濡れた水着が体に張りつくこと」

「好きなこと。壁紙を大きく剥がすこと、靴を並べ磨きあげること、道具箱を空け中を掃除し元通り仕舞うこと」


 

嫌いなことと好きなことのコーピングですね。


人それぞれ感覚が好き、嫌いを感じて人を性格を作ります。

 


ナレーション:「アメリの母、アマンディーヌは元教師で昔から情緒不安定だった」


 

 ”目の痙攣は神経質の印” とまるで落書きのように軽やかに書かれています。

 


ナレーション:
「嫌いなこと。長風呂で手にシワが寄ること。嫌いな人間に近づき触られること。頬にシーツの痕(あと)がつくこと」

「好きなもの。フィギュア・スケートの衣装。床をピカピカに磨くこと。バッグを空け中を掃除し元通り仕舞うこと」

「アメリは6歳。父に抱きしめられたいと思っていたが、その機会はなく月に1度の検診の日に、父に触られて動転し心臓が早鐘のように打った」

「それ以来、父は娘を心臓病だと信じ込んだ」


 

神経症的な出来事や幼少期、父母の性格を面白く軽妙に教えてくれていますが、少し考えてみるととても深刻なことばかりです。

両親に愛されることを願っていたアメリは、気に入られようといつも緊張していたことがうかがえます。

この作品では生い立ちを詳しく説明していません。

ただ神経質な雰囲気で表現することのみです。

作品全体が、快い出来事なのか不快な出来事なのかという視点で描かれているところが面白いですね。

ヨーロッパ映画のとても感覚的で、楽に観れる作品です。

 


ナレーション:「こうしてアメリは学校へ行かず、母からの教育を受けた」


 

母が最初に国語の教科書を音読し、アメリがそれに続きます。

 


母:「めんどりは...しばしば...修道院で...卵を...産む...」

幼いアメリ:「めんどりは...しばしば...」

母:「大変結構!(笑顔で)」

幼いアメリ:「しゅどう...(言葉につまる)」

母:「ダメ!(怒って)」


 

アメリの緊張と母親の不安定な喜怒な性格が分かります。

深刻な幼少期を軽妙に伝えています。

あまり悲惨さを強調していないので、気付かない方もおられると思います。

両親に気に入られるように、怒らないようにしようというアメリの性格のベースとなって行きます。

 

 

 

 

 

03.空想を好む少女

 

 


ナレーション:
「他の子どもとの接触もなく、神経質な母と冷淡な父に挟まれ、アメリは空想の世界に逃避した」


 

アメリの心象風景です。

 


ナレーション:
「レコードはクレープのように作り、意識不明の隣人は自分の意志で目覚めることもできる」

意識不明の隣人:「一生、目を覚ましてることだってできるのよ」


 

要は感情を出すことを止めて、抑圧することで生き抜いてきたということです。

感情を表出出来ないアメリは心のバランスを保つために、心の中だけの空想の世界で育つんですね。

自己治癒的な感じですが、よく考えるととても悲しい解決方法ですね。

 


ナレーション:

「親友は金魚の ”クジラ(名前)”」

「だがクジラは冷たい家庭に絶望し、身投げ」

「クジラの自殺未遂で母のストレスが悪化。その結果...」

母:「もううんざりよ!」


 

母は我慢できず橋の上から金魚を放流します。

アメリは悲しげに "クジラ" の様子を見つめます。

そこに雨が降ってきて、"クジラ"  のいる川に雨の波紋がきれいに散りばめられます。

 


ナレーション:「アメリを慰めようと母は中古カメラを買い与えた」


 

アメリがうさぎやくまの形をした雲を撮影していると、車の衝突事故がおこります。

 


ナレーション:

「隣人はカメラが事故を招いたと信じ込ませた」

「山ほど写真を撮ったアメリは恐怖に襲われた」

「恐る恐るテレビをつけ、大火事の責任を感じた。脱線事故にも飛行機事故にも。」


 

アメリはとても感受性の強い子でそれがまた自己否定と結びつき、世の中の事故を自分のせいにしてしまいます。

 


ナレーション:「数日後、真実を知ったアメリは隣人への復讐を誓った」


 

アメリは隣人のテレビアンテナを抜き差しして、サッカー中継のチャンスシーンを観せないようにしました。

 

 

 

 

 

04.母の死

 

 


ナレーション:
「そして悲劇が...息子が欲しい母はノートルダムで毎年お祈りをして、3分後天から答えが落ちてきた」

「残念ながら赤ん坊ではなく、失恋して身投げしたカナダ人旅行客だった」


 

アメリの母親は運悪く身投げに巻き込まれ死んでしまいます。

 


ナレーション:「アマンディーヌ・プーラン即死」


 

アメリは哀しみを感情に出すことはありませんでした。

くまのぬいぐるみをぶらんこに乗せて揺らすシーンが悲しさを感じさせます。

 


ナレーション:
「母の死後、アメリは父と二人きりになった」

「父は以前に増して自分の殻に閉じこもり、庭にミニチュアの霊廟(れいびょう)を作って妻の遺灰を納めるのだった」

「日が、月が、年が流れていった」

「何も変化のない毎日、アメリは家を出て自立する日を夢見た」

「5年後モンマルトルのカフェ ”ドゥ・ムーラン” へ」

 

 

 

 


05.カフェ、ドゥ・ムーラン

 

 

アメリは大人に成長し、カフェの店員として働きます。

 


ナレーション:
「1997年8月29日、48時間後にアメリの運命が激変するのだが今の彼女には知る由もない」

「カフェの仲間や常連客に囲まれた平穏な日々。女主人のシュザンヌ。足は悪いがグラスは割らない。サーカスは曲馬乗りだった」

「好きなもの、負けて泣くスポーツ選手。嫌いなもの、子どもの前で恥をかく親」

「売店のジョルジェットは病気魔で頭痛がしない日は坐骨神経が痛む」

「嫌いなもの、祝福の祈り」

「アメリの同僚のジーナ。祖母は治療師だ。好きなもの、指を鳴らすこと」


 

常連客に売れない小説家のイポリトがいます。

 


ナレーション:「好きなもの、牛に突かれる闘牛士」


 

その他の常連客では、目つきが悪い男ジョゼフがいて、彼はジーナに振られたばかり。

彼女に恋人がいるかを知るため常に見張っています。

 

 

 

 

06.好きなもの、嫌いなもの

 

 


ナレーション:
「唯一彼が好きなのは梱包材のプチプチを潰すこと」

「スチュワーデスのフィロメーヌ。フライト中はアメリに猫を預ける」

「好きなもの、猫の水入れを床に置く音。猫のロドリーグが好きなのはお伽話を聞くこと」


 

ここまでで皆さんはお分かりかと思いますが、人物紹介時に好きなものと嫌いなものを教えてくれています。

ストレス源としての嫌いなもの、ストレスを解消するための好きなものですね。

これをコーピングレパートリーと呼びます。

特に好きなものの方を皆さんはいくつ言えますか?

多ければ多いほどいいですね。

それらがあなたの興味があるものであり、あなたのなかにいる子どもの遊び心であるからです。

子どもの心を大切にすることです。

人がどんなひとかというのは、地位や職業や経歴ではなく、その人がどんなふうに日々を感じながら生きているかということです。

物語は続きます。

 


ナレーション:「アメリは週末には北駅から列車に乗り実家の父を訪ねます」

アメリ:「人生を楽しめば?」


 

父親は食い気味に言います。

 


父親:「どうやって?」

アメリ:「旅行は?この村を出てみたら?」

父親:「若い頃はお前のママとよく旅行をしたが、その後は...お前の心臓のせいで...」

アメリ:「わかってるわ」

父親:「今はもう...今はもう...」


 

娘のせいだと言うところがどこか思いやりにかける冷たい気質なんですね。

この作品は登場人物たちがどうすれば前向きに生きることができるかの解決法を教えてくれてます。

家庭環境や育った環境、その人の気質、病歴などを持ったその人が、どのようにすれば変化が起き、前向きに生きられるか。

『前向き』。無気力、無感動から抜け出したい。

決してとびっきりの明るさでなくていいと思います。

その人が背負ってきた哀しみもあるのですから。

 


ナレーション:「金曜の夜、たまに映画に行く」

アメリ:「映画を見ている人の顔を見るのが好きなの」


 

皆、顔がにやけています。

 


アメリ:「誰も気づかない些細な事柄を発見することも好き」


 

キスシーンの窓辺にハエが歩いているレアな映画映像。

 


アメリ:「嫌いなのは昔のアメリカ映画で脇見運転するところ」

ナレーション:
「恋人はいない。1、2度試したが結果は期待外れだった」

「とはいえ彼女には彼女なりの楽しみがあった」

「豆袋に手を入れること」

「クレーム・ブリュレのお焦げを潰すこと」

「サンマルタン運河で水切りすること」


 

このようにコーピングレパートリーがたくさん並びます。

『ベルリン・天使の詩』にもたくさん出てきました。

感覚的なもの、子供心というのはとても大事なものですね。

大人になろうが消えることは決してありません。

人は永遠に子供ってことですね。

 

 

 

 

 

07.アメリのアパート

 

アメリのアパートの窓から老画家の部屋を覗くことができるんですね。

アメリには覗き趣味があるんです。

人との温かなつながりを本心では感じています。

 


ナレーション:
「彼はガラス男、先天性の病気で骨がガラスのように脆い」

「家具は全部布張りだ」

「手を握っても骨が砕けるので20年も外出していない」

「成人してもアメリは空想の世界に逃避していた」

「眼下に広がる街に向かってバカな質問をしてみる」

ナレーション:
「そして1997年8月30日の夜、ある事件がアメリの運命をひっくり返した」

TVニュースキャスター:
「ダイアナ元妃がパリで交通事故のため死去、同乗していた友人アルファイド氏も死亡。運転していたホテルの使用人も死亡。ダイアナ妃のボディガードは重体です」

「ダイアナ妃とアルファード氏は昨夜パリに到着。氏の父が所有するホテルを出て...」

 

 

 

 

 

08.タイムカプセル

 

ニュースを聴いたアメリは驚きのあまり、持っていた化粧品のフタを床に落とします。

フタが転げて行った先の一片のタイルが割れて取れてしまいます。

タイルを外してみるとそこには空洞があり、何かが入っていました。

チョコレートの金属の箱のようなものが出てきます。

その瞬間オルゴール調の優しい曲が奏でられます。

 


ナレーション:
「ツタンカーメン王の墓を発見したような感動だった」

「彼女が発見したのは40年ほど前、少年が大切に隠した宝箱だった」


 

その箱の中には誰かの幼い頃、若い頃の写真、マッチ、自転車、カーレーサーのミニチュアなどが入っていました。

その人の思い出の品々です。

 


ナレーション:
「8月31日朝4時、アメリの心にすばらしい考えが浮かんだ」

「持ち主の少年を探し出し、宝箱を返してやるのだ」

「彼が喜んでくれたら自分の世界から飛び出そう。ダメならそれまで...」


 

少し他力なところがありますが若い女性の可愛らしい勇気に、これまでの生きづらさが悲しくも愛らしく思えてきます。

「鬼滅の刃」でカナヲが銅貨のオモテウラで運命を決めるシーンみたいですね。

 

 

 

 

09.未亡人ウォレス

 

アメリはアパートの古くからの住人に40年前の住人のことを訊きます。

 


ウォレス:「5階のお嬢さん、珍しいわね」

アメリ:「40年前、私の部屋に住んでた少年をご存知ですか?」

ウォレス:「男の子ねえ...ポルト酒はいかが?さあ入って。ドアを閉めて」


 

ポルト酒・・・
ポルトガル北部ポルト港から出荷される特産の酒精強化ワイン。日本の酒税法上では甘味果実酒に分類される。ポルト・ワインともいう。 ポートワインは、まだ糖分が残っている発酵途中にアルコール度数77度のブランデーを加えて酵母の働きを止めるのが特徴である。

 


ウォレス:
「男の子ねえ、男の子は沢山いたから。小さい頃は可愛いけど大きくなると憎たらしくて」

「雪玉だのガムだの...」

アメリ:「ここにはいつから住んでいるのですか?」

ウォレス:「1964年よ。私の噂、聞いていない?」

アメリ:「いいえ」

ウォレス:「そう...変ね。座ってね」

「夫が保険会社で働いている頃、誰もが秘書と浮気してるってよく言ってたわ」

「パティニョルの高級ホテル、連れ込みじゃなく秘書ってすぐ股を広げるけど、お金がかかるって」

「夫は会社の金を横領、初めは少し次には一度に5千万。愛人と南米へ駆け落ち」

「さあ、お酒を飲んで」

「1970年1月20日、男が訪ねてきて『ご主人が死んだ。南米で交通事故を起こして』と言ったわ」

「私の人生が止まったわ。”黒ライオン” も悲しくて死んだ。その犬よ」


 

なんと飼い犬が死んだあと、剥製にしていました。

 


ウォレス:「ほら、まだ主人を愛してるのよ」


 

残酷で奇異な行為ですがどことなく可笑しさが伝わるシーンですね。

作品全体がそういった悲しさを可笑しさと優しさで包まれています。

 


ウォレス:「手紙があるの。(アメリが立ち上がろうとすると)いいの、座ってて。まだいいでしょ」


 

ウォレスは誰かに聞いて貰いたかったのですね。

 


ウォレス:「兵役のときの手紙よ。『愛するマド』マドって私のことよ。」

 

手紙の文面:「

眠れない、食欲もない。

人生をパリに残したまま今を生きている。

2週間後の金曜まで帰れない。

駅のホームで待っててくれ、僕のイタチちゃん。あの青いドレスを着て。

君は透けすぎると言っていたね。君にキスを送ります

 

ウォレス:「こんな手紙を貰ったことがある?」

アメリ:「いいえ、まだ恋人は...」

ウォレス:
「私、マドレーヌ・ウォラスよ」

「『マドレーヌのように泣く』んですって。そう言うでしょ?」

「ウォラスって泉もあるし、私って泣いて暮らす運命なのよ」


 

駆け落ちした夫から手紙を貰ったことで夫の気持ちを知り、まだずっと夫を愛しているのですね。

ウォレス:「そうそう、お尋ねのことは食料品店のコリニョンがここに長く住んでるわ」

 

 


10.店長と店員

アメリは雨の中、傘をさしてコリニョンの食料品店に行きます。

 


コリニョン:「やあ、アメリちゃん。イチジクにクルミ3個かい?」

アメリ:「40年前に私の部屋に住んでいた人の名前を知らない?」

コリニョン:「そりゃ難しい質問だ。俺は2歳だぜ。そのバカの精神年齢と同じだ」


 

コリニョンは隣の従業員のリュシアンに冷たく当たります。

 


ナレーション:
「彼はリュシアン。頭はよくないが優しい青年だ。特に野菜の持つ手つき、宝石でも扱うような繊細さは仕事への愛の現れである」

コリニョン:
「なんだその手つき。巣から落ちたヒナでも拾うつもりか」

「ブドウなんか運ばせようとしたら来週までかかる。早くしろ、のろまめ!」

「奥さんがお待ちだ」


 

そんな優しいリュシアンをアメリは気に入ります。

目を合わせて「頑張ってね」と言うように笑顔を授けます。

 


コリニョン:「お袋に会いに行け。ゾウみたいに記憶力がいいんだ。母親ゾウだ」


 

一方、アメリはコリニョンが大嫌いなようです。

睨みつけるように言います。

 


アメリ:「ありがとう...」

 

 

 

 

11.探偵アメリ

アメリはコリニョンの実家を訪ねました。

 


コリニョンの父:「名はプルドトーだ」

アメリ:「えっ?」

コリニョンの父:「探している男の名前だ。だが確かじゃない。わしはもう耄碌(もうろく)しとる」

コリニョンの母:「すっかり耄碌(もうろく)してるわ。見てよ、このローリエの葉」


 

その時コリニョンの母はテーブルのティーセットをグチャグチャに倒してしまいました。

老夫婦はケンカしそうな勢いです。

 


コリニョンの母:
「昔、この人は地下鉄の車掌だったの...」

「3ヶ月前から夜中に起き出してローリエの葉に穴を空けるのよ」


 

登場人物の神経症的な思わぬ行為がとても面白く表現されていて、慈しみが感じられます。

 


コリニョンの父:
「本当はリラの葉がいいが仕方ない」

「人それぞれに心を癒やす方法がある」

アメリ:「私は水切り遊び」


 

アメリは小声で言いました。

 


コリニョンの母:「お得意は記録してあるのよ。全部ね」

コリニョンの父:「何だ。何をだ?」

コリニョンの母:「息子が50歳になっても私が帳簿をつけてやれるわ」

コリニョンの父:「高校生の息子にまだ歯を磨いてやってたろ。過保護だ」

コリニョンの母:
「カミユ、カミュは...2階の右。B階段はプロサール、わかった!これよ」

「プルドトー、5階の右。パ=ド=カレの出身だったわ」

コリニョンの父:「そう、プルドトーだ。それだよ」


 

宝箱の持ち主の名前が分かりました。

 

 

 

 

 

12.ニノとの出逢い

 

 

アメリが地下鉄を歩いているとホームでシャンソンのレコードを聴いているずっと正面を向いたままの盲目の老人がいました。

 


レコードの歌:

♫ あなたがいなければ、生きていけない。

♫ きっと知らずにいたでしょう。この夢のような幸せを。

♫ あなたの腕に抱かれると心が喜びで満ちあふれる。

♫ とても生きてはいけないわ。もしもあなたがいなければ


 

アメリはそっと老人のそばに硬貨を置きます。

 

その先の証明写真撮影機の前で何かを探している青年を見つけます。

 


ナレーション:

「この青年の名はニノ・カンカンポワ」

「アメリとは逆に子供のニノは友達に囲まれていた」


 

彼が子どもの時にいじめられていたシーンが出てきます。

 


ナレーション:「二人は9km隔てた所で、一方は兄を他方は妹を夢見て生きていた」


 

二人は一瞬目を合わせ、アメリは去って行きます。

それぞれの2階から鏡を太陽に反射させて遊ぶ子供の頃の二人のシーンは、感覚的なものが非常に近く ”運命の二人” を感じさせます。

 

 

 

 

 

13.引きこもりな父

 

アメリの父親は白雪姫の七人の小人の陶器に色を塗ったり、きれいに掃除していました。

 


アメリ:「新しいお友達?」

アメリの父:
「いや、前から家にいた。お前のママが嫌がるんで物置に仕舞ってた」

「今から仲直りさせよう」

「できた、いいだろう?」


 

アメリの父は小人を庭に据え付けて飾りました。

 


アメリ:
「ねえ、パパ。子供の頃の宝物が見つかったらどんな気がする?」

「嬉しい?悲しい?懐かしい?」

アメリの父:「ドワーフは子供の頃の宝じゃないぞ。これは退役記念の贈り物だ」

アメリ:「違うの。子供の頃、宝のように大切に隠した物のことよ」

アメリの父:「秋になる前にニスを塗らねばならないな」


 

父親はアメリの話を聞きません。

心が病んでいる人は自分のことにこだわり過ぎたり、精一杯なところがあります。

諦めて話を変えるアメリ。

 


アメリ:「お茶をいれるわ。パパも飲む?」


 

仕事場のカフェの紹介です。

 

 

 

 

14.神経症な面々

 

同僚ジーナがお客の首の関節を鳴らしてほぐしてあげています。

グリーンのカーディガンがとても美しいです。

 


ジーナ:「息を吸ってじっとして」


 

少し神経質で怒りっぽいジョルジェットです。

 


ジョルジェット:「ちゃんとドアを閉めて!すきま風が入るでしょ」

ジーナ:「凍死はしないわ」

ジョルジェット:
「私はアレルギーなの。咳がひどくて昨夜は肋膜(ろくまく)が剥離(はくり)する寸前よ」

ジーナ:「肋膜剥離?」


 

自分は病気を持っているのではないかと思ってしまう病気不安症です。

身近な人の死別によって、自分もその病気になるのではないかと恐れることがあります。

一人の男性客がジーナを監視しています。

録音機を持ってジーナの行動を記録しています。

 


客ジョゼフ:「12時15分、高笑い、動機は男を誘うため」

ジーナ:「あいつ、頭にくるわ」

店主シュザンヌ:「本当にしつこい男ね。他の店に行ってよ!」

ジョルジェット:「シュザンヌさん、グラタンってクリーム入りよね?」

店主シュザンヌ:「それが?」

ジョルジェット:「私、クリームはダメなの。シュザンヌは馬肉がダメでしょ?」

店主シュザンヌ:「私の場合、胃ではなく思い出の問題ね。馬より人を食べるわ」

ジョルジェット:「私は人もダメだわ」


 

この神経質な雰囲気のオンパレードがコミカルでいいですね。

とてもフランス映画らしいなと思います。

そうした人間の弱さをも愛でているところが人間讃歌ですよね。

アメリはカフェの電話帳でプルドトーの住所を調べます。

 


アメリ:「マダム・シュザンヌ、今日早退してもいいですか?」

店主シュザンヌ:「あら、彼氏ができたの?名前は?」

アメリ:「ドミニク・プルドトーです」

 

 

 

 

 

15.調査

 

一人目に訪れた、プルドトーは若い青年で人違いでした。

 


アメリ:「プルドトーさん?」

青年:「そうさ、僕だよ。何の用?」

アメリ:「ええと...ご署名を。目的は...ダイアナ妃を聖女に」

青年:「いや結構」                  


 

幼くして両親が離婚した家庭環境で育った、内気な性格のダイアナ妃にアメリは特別なシンパシーがあるのかもしれませんね。        

二人目のプルドトーの訪問です。

 


アメリ:「欧州連合の国勢調査です」


 

探偵が板についてきています。

 


男:
「上がって、3階だ」

「こんちには、子猫ちゃん」

「アールグレイそれともジャスミン?どのお茶がいい」

アメリ:「お仕事中なので...」


 

男は写真とは面影もなく、女装をしていました。

3人目です。

 


女:「ここよ。何かご用?」

アメリ:「こんにちは、実はプルドトーさんに会いたくて来ました」

女:「お気の毒に、少し遅すぎましたわ」


 

棺が階段を降りて運ばれて来ました。

 

 

~PART②へ続く~

 

 

 


③『シザーハンズ』~人との距離感は難しい。「愛されたい、でも傷つきたくない」~

2024-05-04 09:59:26 | 日記

 

16.結末

 

エドワードはお城に逃げ込みました。

警官は拳銃の銃口を空に向けて6発撃ちました。

 


警官:「逃げてくれ」


 

罪のないエドワードの行く末を祈りながら。

街中の人たちが警官に聞きます。

 


街中の人:「彼は死んだ?」

警官:「もう終わった。皆帰ってくれ」

街中の人:
「どうなったの?あいつは?教えて!」

「あきれた、逮捕してないのよ」

「城へ行きましょう!」


 

キムは暗闇の中でうずくまっているエドワードを城の中で見つけます。

冷たく暗い尖った城の中、二人は澄み切った月明かりに照らされています。

 


エドワード:「ケビンの傷は大丈夫?」

キム:
「あの子は無事よ。驚いただけ」

「それよりあなたこそ死んだかと...」


 

突然そこにジムが銃を撃ってきました。

上から落ちてきた瓦礫にエドワードは頭を打って倒れました。

ジムはエドワードを何度もエドワードを痛めつけます。

キムはエドワードのハサミをジムの喉に押し当て、決死の覚悟で言いました。

 


キム:「やめて!あんたを殺すわよ」


 

ジムはキムのハサミをどけ、キムを身体ごとふっとばしました。

それを見たエドワードは怒りにまかせて、ハサミでジムの身体を貫きました。

エドワードは自分のしたことを十分に理解していました。

キムを名残惜しく見つめて言います。

 

 

 

 

17.人生の最良の瞬間(とき)

 

 


エドワード:「さよなら」


 

キムはエドワードの唇に優しくキスをし、エドワードを抱きしめました。

その瞬間エドワードは静かに目を閉じ、永遠の幸せを感じます。

その表情には至福と感謝に満ちあふれていました。

この永遠の愛を持って、ずっと独りで生き抜く覚悟が現れていました。

「僕は今この瞬間、救われたよ」とでも言いたげな表情でした。

キムは近くにあったエドワードのハサミの手を街中の人に見せて宣言します。

 


街中の人:「あいつは?」

キム:
「死んだわ」

「屋根が落ちてきて2人とも死んだわ」

「見れば分かるわ。これよ!」

街中の人:「帰りましょう」


 

時が戻り、キムがお婆さんの現代のシーンになります。

 


キムお婆さん:「その夜を最後に2人は別れたの」

女の子:「なぜ分かるの」

キムお婆さん:「私がそこにいたからよ...」


 

キムは老眼鏡を外し女の子の目を真剣に見つめました。

 


女の子:「お城に訪ねて行けばいいのに...」

キムお婆さん:
「私はもうこんな年寄り...」

「彼には昔の私だけを覚えててほしいの」

女の子:「彼はまだ生きているの?」

キムお婆さん:
「さあ、それは分からないけど...きっと生きてるわ」

「なぜって彼が来る前はここには雪が降らなかったの」

「彼が去ってから、毎年雪が降るようになった」

「この雪はきっと彼が降らせているのよ」

「今も彼は見ているはずよ。踊ってる私の姿を...」


 

彼は氷の芸術家です。

愛する人達の氷の彫刻を冬の時期に彫っていました。

自分を思い出して欲しいという願いを込めて。

冬になると毎年、お城の上の方から雪の結晶がたくさん街に降り注いできました。

多くの柔らかな雪が人々の身体に触れます。

心にそっとタッチします。

優しい、優しいお話でした。

 

 

 

 

18.終わりに

 

世界中がクリスマスという家族や恋人と楽しいひとときを過ごす時、その陰で孤独に耐えている人が必ずいます。

クリスマスの光と陰。

すべての人々にハートフルな出来事が起こることを願っています。

これまでお読み下さりありがとうございました。

すべての人は孤独で繊細な幼児です。

決して独りではないことを心に留めていて欲しいと思います。

それでは、また次回の作品でお会いしましょう。

 

 

 

 


19.関連作品

 

『チャーリーとチョコレート工場」 ティム・バートン監督

『ホーム・アローン』 クリス・コロンバス監督

『ビッグ・フィッシュ』 ティム・バートン監督

『アリス・イン・ワンダーランド』 ティム・バートン監督

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』 ティム・バートン監督

 


②『シザーハンズ』~人との距離感は難しい。「愛されたい、でも傷つきたくない」~

2024-05-04 09:59:26 | 日記

 

 

09.恋心

 

いつものように庭木の刈り込みをしていると、一匹のプードル犬が傍らに座っていました。

目の前の髪の毛が視界を遮っていたので、エドワードは優しく切ってあげました。

すると、身体の方の毛も無性に切りたくなって、全身ヘアカットします。

前衛的なヘアカットに仕上がりました。

素敵にグルーミングされました。

そのデザインが評判を呼び、エドワードのもとにはたくさんのお客さんが押し寄せてきます。

ジョイスは自分の髪を切ってほしいとエドワードに哀願します。

エドワードが毛をカットしている時、切った髪はふわふわと綿のように浮き上がります。

どのような演出なのでしょうね。

どんなに奇異と見られる特徴でも、その人の長所や能力として認める寛大さがアメリカ映画にはありますね。

どんな人に対してもその存在の価値を見出してあげるという温かい心があります。

ペグもエドワードに髪を切って貰います。

そうやって人との交流も、少しずついろんなことを許し合って互いの距離を近づけていくのだと思います。

母の髪型を見て驚くキムでしたが、エドワードに対してまだよそよそしさがありました。

エドワードは街で近所の人と買い物をしている時、キムがボーイフレンドを連れて歩いているのを見ました。

いつしかエドワードの心の中にはキムへの恋心が芽生えていました。

エドワードが買い物から帰ってくると、家の鍵を無くしたキムが中に入れず困っていました。

エドワードはハサミの一番尖ったところを鍵穴に差し込み、鍵を開けることに成功します。

想った相手の役に立てたエドワードはとても嬉しくて光栄に思ったにちがいありません。

エドワードとペグはテレビ出演します。

会場からの質問が来ます。

 


質問者A:「町の生活で得たものはなんですか?」

エドワード:「いい友達です」


 

会場からは温かな拍手がエドワードに向けられます。

 


質問者B:「整形手術を受けようと思った事はありますか?いい先生がいるのよ」

エドワード:「ぜひ紹介して下さい」


 

エドワードはどの質問にも丁寧に優しく答えました。

 


質問者C:「あなたは整形したらフツーの人になってしまうわ」

エドワード:「知ってます」

質問者D:「特別な人でなくなり、もてはやされないわよ」

ペグ:「私にはいつも特別な友人です」


 

ペグとエドワードは顔を合わせて微笑みました。

お互いの愛情の交換ですね。

このように間接的であれ直接であれ、いつも相手に感謝と愛情を示すことの大切さを教えてくれます。

人の価値は能力があろうがなかろうが無関係だということです。

そばにいるだけでもとより大変な価値なのですね。

 


質問者E:「ヘアカットがお上手だけど美容院を開くおつもりは?」


 

エドワードは楽しそうにハサミをチョキチョキしながらハニカミました。

 


質問者F:「恋人はいますか?」


 

キムと恋人のジムはテレビでその様子を見ていました。

 


ジム:「君のことだろ?」


 

ジムはキムをからかって言います。

 


キム:「冗談はやめてよ」

司会者:「心を惹かれている女性がいますか?」


 

エドワードはカメラ目線で正面を見つめます。

そのエドワードの目をキムはブラウン管越しにじっと見つめてました。

数秒間の沈黙がエドワードとキムを包み込みます。

不意にエドワードのハサミがマイクのコードを切ってしまい、ショートしてエドワードは椅子から倒れ込みました。

ジムは思いっきり大笑いしました。

 


キム:「笑うなんてひどいわ」


 

キムの中のエドワードの存在が大きくなっていくのが分かります。

 

 

 

 

 

10.後ろめたい気持ち

 

ジョイスとエドワードは美容院の貸店舗を訪れます。

そしてジョイスは奥の部屋でエドワードを誘惑します。

パニックになってしまったエドワードはジョイスを置いて出てきてしまいました。

 


ジョイス:「戻りなさい!エドワード!」


 

ペグとエドワードは店を開業するために銀行に交渉に行きます。

しかしエドワードは社会保険番号を持っていないため、信用がなく融資を拒否されてしまいます。

 


銀行員:「社会保険番号もない。存在してないのと同然だ」


 

人は自分の存在を気薄に思う瞬間があると思います。

独り孤独なとき、大きなチャレンジに失敗したとき、失恋したときなど、いじめにあったとき、つらい病気になってしまったとき。

状況は人によって様々です。

今の空虚なエドワードをこういった皆さんの様々な状況に当てはめてみることができると思います。

そして必ず陥ってしまうことは「自己蔑視」です。

その気薄な存在を消してしまおうという、もう一人の自分が出てきてしまう。

長く切れ味の鋭いハサミで自分自身にその刃を向けてしまう。

皆さんも経験があると思いますが、その方がとても楽なのです。

どうせ私なんかと痛みの原因である自分を抹殺することがとても気持ちのいいものとなるのです。

『私なんかいない方がマシだよね』

何で気持ちよくなるのか?

それは身体が脳内になんらかの神経伝達物質を流し、脳が傷つくのを防いでくれているからだと思います。

身体にとって脳にとって、自分を傷つけることは危険な状況なのです。

『自己蔑視』は身体によくないのです。

心も身体の一部だということを知っていただきたいなと思います。

大事にして下さい。

愛情を受けて育てられた幸運な人、いつも自信があり「自己肯定感」などという言葉の意味すら分からないという人は恵まれた人です。

何十億円よりすばらしいものを親から受け取っているのです。

ですが世の中にはそういったものを受け取ることができずに今日まで懸命に生きてきた人たちがいます。

「いきづらさ」をどことなく感じながら、自分だけかもしれないとひた隠しにしながらそっと生きている人たち。

そういった方々によく我慢して今日まで頑張って生きてきたと言ってあげたい。

誰からでも愛情が欲しくて欲しくてたまらない。

でも一方では自分なんかが受け入れて貰えるのかという不安を抱えている。

相手の言葉や行動に神経を尖らせて、嫌われていないかの永続的な確認作業。

精神力を費やし疲れきってしまう。

受け入れて貰えていると感じれば、幼児のようにべったりと相手にくっついてしまう。

歯止めが効かない引力で気を許した相手に惹かれてしまう感情。

そしてそこに必ずくっついてしまう「嫉妬心」「胸の中の小さな地獄」。

荒れ狂うほどの不安感が襲いかかります。

人との距離感(距離間)を取るのに苦労している人たちがいるのです。

エドワードというハサミ人間は孤独な人の『心のカタチ』です。

ジョイスを置き去りにした辺りを境に、エドワードは人の怖さを知っていきます。

自分への態度が180度変わってしまいます。

自分への『拒否』だと捉えてしまうのです。

人との立ち位置が分からなくなってきます。

次第にエドワードは気持ちが傷つかない独りだけの『安全基地』に戻ろうとしていました。

 


ペグ:「心配しないで、お金は作れるわよ」


 

ペグはとても優しい友人です。

 

 

 

11.エドワードの沈黙の理由

 

キムの恋人ジムはエドワードを利用して、保険金目当てに自宅の車を盗むことをキムに話します。

そして夜中にジム、キム、エドワードは侵入します。

 


キム:「エドワード、あなたはここがジムの家だと知ってるの?」

エドワード:「盗まれたものを取り返しに行くんだよね」

ジム:「そうだ。盗まれた物を取り戻す」

エドワード:「親と話をしたらどう?」

ジム:「そいつの親も腹黒い奴でブツを返さない」


 

エドハードたちはジムの家に侵入し、鍵のかかった部屋の鍵の差し込みにハサミを差し込んでドアを開けます。

エドワードは一人、部屋の中に入りました。

 


ジム:「チクショウ!防犯ベルだ!」

キム:
「エドワードはどうするの!?」

「エドワードを助けて!」

「ジム、あなたの家なのよ。戻って説明をして!」

ジム:「バカ言うな!おやじに送検される」

キム:「息子を?」

ジム:「そういう親なんだよ!逃げろ!」

キム:「戻ってよ!」


 

その部屋は防犯システムで管理されていて、エドワードだけがその部屋に取り残されました。

防犯ベルが鳴り響き、エドハードは部屋に閉じ込められてパニック状態になりました。

キムはエドワードを助け出そうとしますが、キムはジムに無理やり抱えられます。

そしてジムたちはエドワードを置き去りにして、逃走してしまいます。

警官たちがエドワードを包囲しました。

 


警官:
「防犯ベルを止めるからおとなしく出て来い!」

「両手を高く、頭の上にあげろ!」

「手をあげろ!」


 

エドワードはゆっくりと警官の前に出てきました。

腕をあげた手には何十個ものハサミを携えており、そのハサミにはパトカーの赤いランプが近所中にその輝きを反射していました。

エドワードのハサミは「攻撃性」を意味します。

ですがそれは自分の身を守るためのハサミです。

何から身を守るのかと言う方がいるかもしれません。

それは自分以外のすべての恐怖の対象からです。

ネグレクト、過干渉、虐待、親から引き離された経験を持つ人は、あらゆるものを「外化」してしまい恐れないでいいものまで恐れてしまうのです。

野生の猫はこちらが近づくとすぐに逃げてしまったり、威嚇するのと同じです。

すべてのものが自分に攻撃してくると思いながら生きているのです。

子どもに自然と備わっている『防御本能』に対して母親が『無償の愛情』で包み込むことで、安心感を与えて社会との交流が可能になります。

アメリカの精神学者、ジョン・ボウルビィによって提唱されているものです。

その本能的な防御は、形容すれば心のコップの水が表面すれすれまで一杯になっている状態です。

神経過敏で感じやすく、警戒心にほとんどのエネルギーを費やして生きています。

 


警官:
「ナイフを持ってるぞ」

「武器を捨てろ!」

「その手の武器を捨てろ!」

「最後の警告だぞ!その手の武器を捨てろ!」

「捨てないと撃つぞ」

「撃ち殺されたくなきゃナイフを捨てろ!」

「なんてサイコ野郎なんだ」


 

接近を止めないエドワードを警官は正当防衛で撃とうとしました。

近所の優しい婦人が警官に駆け寄って言いました。

 


婦人:
「撃たないで!あれは手なのよ!」

「お願い撃たないで!」

警官:「手錠をしろ!」


 

世の中には色々な人がいます。

ジムのようにエドワードの弱さを嗅ぎつけ利用する者がこの社会にはたくさんいるということは事実です。

そういった弱き者の心の寂しさに目をつけ、何もかも搾り取っていく人種がいます。

ですが、孤独なお城からエドワードを誘い出したペグや温かく迎え入れた夫ビル、そして警官に必死に訴えかけた婦人。

わたしはいつも「愛ある人」と呼ぶことにしています。

こういった愛ある人が世の中にはたくさんいることを忘れないで欲しいです。

そういった人を見つけて、大切に交流してもらいたいです。

あなたの心になんとも言えない安心感をもたらせてくれます。

そして同時に「愛ある人」には依存できないなという威厳みないなものも持っています

そういった人との信頼感によって、やがて手のハサミは柔らかく温かい握手やハグができる指に変わってくると思うのです。

留置所に収監されたエドワードをペグとビルが迎えにきます。

 


ペグ:
「エドワード」

「許して、私が悪かったのよ」

ビル:「一体なぜこんな事を?」

ペグ:「私がジムの家が裕福だとうらやんだからね」


 

何気ない会話ですが、ペグは自分に原因があったと心から思っているんですね。

これが相手に寄り添った態度なんだろうなと感じます。

相手を包み込むとはこういうことなんだと感じます。

相手の立場になって考える。

なかなか大変なことです。

 


ビル:「盗んでどうしようとしたんだ?」

ペグ:
「美容院の資金を作る気だったのよ」

「でもまさかこんなことをするなんて...」

「人の物を盗むのは悪い事なのよ」

ビル:「こういうやっかいな事になる」

ペグ:「きっとテレビ番組で思いついたのね」

ビル:「そうに違いない」

ペグ:「それとも誰かに言われたの?」


 

エドワードは口を固く閉ざし、真実を誰にも言いませんでした。

 


警官:「先生、それでこの男の精神状態はどうなんだ?」

精神科医:
「育った環境のせいで善悪の観念がないのだ」

「それを教える者がいなかったんだ」

「植木やヘアカットからも分かるとおり、彼は極めて想像力豊かな大物だ」

「だが現実に対する認識が欠如している」


 

『現実に対する認識』とは置き換えて言うならば、経験によって得られる『生きる知恵』だと思います。

世の中にはやって良いことと悪いことがあること。

いい人と悪い人がいること。

自己開示してもいい『重要な他者』と安易に心を開いてはいけない『その他の人』がいること。

相手にも自由な意思があり、尊重すること。

相手が自分の思いと違うことをすることと、愛されていない(拒否されている)というのは全く異なること。

 


警官:「社会に戻しても支障がないと思います?」

精神科医:「大丈夫だろう」

警官:「君の事が心配だよ。十分に注意して暮らせよ」


 

エドワードの評判は一転して街中の人からの悪口が多くなります。

 


青色の婦人:「あたしも防犯ベルの音でびっくりして...」

ジョイス:「やはりこういう事をする奴だったのよ」

緑色の婦人:「もしうちだったら...用心しなきゃ」

エズメラルダ:
「だから悪魔の使いだと言ったでしょ?」

「あたしの警告が正しかった事が分かった?」


 

釈放されて家に戻ったエドワードはキムと顔を合わせます。

 


キム:
「戻ったのね」

「ひどい目に遭った?」


 

キムはエドワードのそばに寄ってきて顔を覗き込みます。

 


キム:
「怖かった?」

「ジムに『戻って』と頼んだけど、聞いてくれなくて」

「黙っててくれたのね」

エドワード:「いいんだよ」


 

エドワードは優しくそして何処となく悲しげに言いました。

 


キム:「ジムの家だと知って驚いたでしょ?」

エドワード:「それは知ってたよ...」

キム:「本当に?なぜ承知したの?」

エドワード:「君が頼んだから...」


 

キムは驚きを隠せませんでした。

エドワードはただキムに好かれたかった。

それが犯罪に同意した理由でした。

エドワードもキムも互いに心を許し、心の距離を縮めはじめます。

 

 

 

 

12.胸の中の小さな地獄の炎

 

しかしそこにジムがやって来て、彼女は彼の元に駆け寄ります。

それを見たエドワードは荒れ狂うように、ハサミで家中のものを傷つけます。

嫉妬の心、胸の中の小さな地獄の炎が煮えたぎります。

夕食時、エドワードはビルに優しく諭されます。

 


ビル:
「カーテンやタオルはともかく、信頼はそう簡単には取り戻せない」

「善悪のけじめを教えよう」

「道で札束の詰まったカバンを見つけた時、君ならどうする?」

「A. 君が頂く」

「B. 友達や愛する者にプレゼントを買う」

「C. 貧乏な人にあげる」

「D. 警察に届ける」

キム:「パパ、やめて。可愛そうよ」

ケビン:「僕は頂く」

ペグ:「あなたは黙って!」

ビル:「エドワード、どうする?」

キム:「食事の後、ボウリングに行かない?」


 

キムは可哀想なエドワードを見て必死に話題を変えようとします。

 


ビル:「エドワード、答えてくれ」

エドワード:「愛する者にプレゼントを...」


 

ビルは残念そうに首を横に振ります。

キムは慈しんだ目でエドワードを眺めていました。

 


ペグ:「それが正解と思えるでしょうけど違うのよ」

ケビン:「バカだな。警察に届けるんだよ」

ビル:「ケビンが正解だ」

キム:「なぜプレゼントが悪いの?私だってそうしたいわ」

ビル:「やめろ、彼がいっそう混乱するよ。余計なことを言うな」

キム:「でもマジにそう思わない?」

ビル:「今は善悪のけじめの話だ」

ペグ:「あんたたちと暮らしてりゃ、善悪が混乱するのは当然だわ」


 

キムは花壇の花を優しく手入れするエドワードをじっと見つめていました。

キムを演じる女優のウィノナ・ライダーは、幼い頃両親がヒッピーだったことでコミューンと呼ばれる共同体で育ったそうです。

10代には「境界性パーソナリティ障害」を発症します。

その症状の中の一つに、『見捨てられることへの不安があり、孤独になるのが不安なので、相手に接近しようとする』という感情があります。

本作を演じる彼女の中にもそんなエドワードへの共感が演技に込められていたのは間違いないと思います。

このシーンのウィノナ・ライダー自身の気持ちもエドワードへの眼差しのなかに感じ取っていただけると思います。

ケビンが家に帰ってきました。

エドワードはじゃんけん遊びをして欲しくてケビンを誘います。

 


エドワード:「じゃんけんしようよ」

ケビン:「嫌だよ」

エドワード:「退屈かい?」

ケビン:「いつも僕が勝つんだもん」

ペグ:「エドワード、気にしないで」


 

何気ないシーンですが、エドワードは自分はやはり嫌われているんではないかと思ってしまうんですね。

ただ遊びたくないと言われただけなのですが、エドワードにとっては拒否されたと考えます。

こういった被害的な考えが人とコミュニケーションがうまく取れない人の中にあります。

「やっぱり僕なんかいないほうがいいんだ」という思考にどうしてもなってしまいます。

 

 

 

 

13.気持ちを伝えるということ

 

そうこうするうちにこの作品の世界ではクリスマスが訪れます。

この世界は雪は降らないらしく、各家庭ではクリスマスツリーの準備と同じくして白いコットンのじゅうたんを屋根に敷き詰めます。

綺麗な幻想的な世界です。

ある夜ペグとキムの母子は仲良くクリスマスツリーの飾り付けをしていました。

ふとキムが外を窓越しに見ると降るはずのない雪が降っていました。

この世界ではありえないことです。

キムは誘われるように外に飛び出します。

庭でエドワードが素敵な氷の天使の像を彫っていたのです。

その雪はハサミで氷を削った氷のスプラッシュでした。

エドワードの冷たい氷の中に閉じ込められた心には、天使の優しさや温もりがあることをキムに表現しているようでした。

上手く人への愛情を伝えられないエドワードは彼独自の方法で愛を表現したのですね。

キムはエドワードの愛をしっかりと感じ取ります。

何て不格好な愛の表現でしょうか。

でもこれがエドワードの気持ちの表現方法です。

自分の気持ちを外に伝えるための方法を、辛い気持ちを乗り越えて自分だけの愛の伝え方を編み出したのだと思います。

キムは両腕を上げて、エドワードの愛を余すことなくすべてを受け止めるように、その雪を全身で感じていました。

 

 

 

 

14.また独り...

 

そこに急にジムが現れて、エドワードのハサミがキムの手のひらを傷つけました。

ジムはエドワードを家から追い出そうとしました。

 


ジム:
「お前なんか消えろ!」

「お前なんか消えちまえ!」


 

エドワードはキムを傷つけた被責感と叱責されることの恐怖心に心を支配されてしまい、その場から逃げるように立ち去ります。

 


キム:「エドワードは?」

ジム:「あいつは危険だ」

キム:「何てことをしたの!」

ジム:「君を傷つけたんだぞ!」

キム:「ジム、あんたなんか大嫌いよ!これきりよ、行って!」

ジム:「本気か?あんな化け物がいいのか?」

キム:「もうたくさんよ!行って!」


 

荒れ狂うエドワードはペグに着せてもらったワイシャツを切り刻んで脱ぎました。

人を型どった植木の足をちょん切り、車のタイヤにハサミを突き刺し、エズメラルダの家の前の植木を悪魔の姿にしました。

あの優しい警官が通報を受けてペグの家に訪ねてきました。

 


警官:
「奥さん、例の手の男はいますか?」

「留守ですね、わかりました」


 

警官は捕まえなければならないと言うように残念そうにいいました。

キムとペグは自宅でエドワードの無事を祈って自宅でじっと待機していました。

 


キム:「今は何時なの?」

ペグ:「20時半よ」

キム:「心配だわ。無事かしら」

ペグ:
「心配ね。彼を連れてきたのが間違いだったのよ」

「彼がどうなるか、想像してあげられなかった...」

「わたしはよく考えもせずに...」

「それに私たちや近所の人との事もね..」

「やはりエドワードは戻るべきなのかもしれない...お城へ」

「あそこなら安全だし、町の平和も戻るわ」


 

ペグは今、気弱になっています。

エドワードは野生の動物ではありません。

人間社会で上手くやっていけないから山に還すこととは違うのです。

ペグがエドワードを連れてきたのはエドワードが初めて交わした言葉「行かないで...」でした。

この言葉がエドワードの本心であり、寂しさから助け出して欲しいという切望だったと思います。

そういったエドワードの言葉や表情に共感して、ペグは家に連れてくることを決断しました。

『行かないで』なんて悲痛な叫びでしょうか。

愛する人たちのそばにただ一緒にいたい気持ち。

些細な陰口に必要以上に怯え、軽い注意を拒否と感じ、嫌われていないかと相手を見張り続け、人の顔色を伺いながら暮らす。

拒否されたと思い心が折れ、自分の存在の軽さに耐えられなくなる。

それはあなたのせいではないのです。

『基本的信頼感』というものが足りないのです。

赤ちゃんは、おなかが空く、オムツが濡れる、かまってほしい、眠たいのに眠れないなどと感じると、すぐに泣き出します。

お母さんは、赤ちゃんのために、おっぱいを与え、オムツを換え、目を見つめ、声をか
け、抱っこし、子守唄を歌い、添い寝するなど心をこめて世話をします。

このような相互のやりとりをくりかえすなかで、赤ちゃんの心は安心感でいっぱいになります。

安心感でいっぱいになった3〜4ヶ月の赤ちゃんは、あやすとよく笑うようになります。

赤ちゃんは、「この世はとても快適な場所で、人は信頼できる存在である」と感じ始めるのです。

言いかえると「あやすと笑う」ということは、赤ちゃんの心に発達心理学でいう「基本的信頼感」が赤ちゃんの心に芽生えたということを意味します。

「基本的信頼感」を土台にして、赤ちゃんの心は成長していきます。

すべての幸・不幸の原因と言っても過言ではないこの「基本的信頼感」。

これはもう貰えなかったのだから仕方がありません。

やるべきことが2つだけあります。

 

1️⃣

 

愛情を貰えなかったことを受け入れて、自分はこういう人付き合いになってしまうことを受け止めて、自分の感情や行動を許してあげること。

人は自己受容することで「貰えて当たり前」という気持ちがなくなり、「自分は持っていない」という気持ちから「十分に持っていた」という感謝に変わっていきます。

自分の幼児的欲求や感情に歯止めがかかります。

好きな人のそばにいるだけで「ありがとう」と思えるようになります。

自分は幼児のままだったのかと嘆くかもしれません。

ですが、この世の中に老年になっても3歳の幼子のように周りに愛を求めて孤独な人がどれだけいることでしょう。

恥じることでは決してありません。

成長するための「近道」や「魔法の杖」などどこにもないのです。

それほどこの「基本的信頼感」は価値の高いものであり、何十億円より価値があるものなのです。


 
2️⃣

 

「基本的信頼感」をたっぷりもらって生きてきた人を友人やパートナーに持ち、安心感を分けてもらうこと。

ペグのように「愛ある人」からその力をいただくのです。

いつもその人と一緒にいることで「愛ある人」の性質が似てくるのです。

もちろん母親ではありませんから何でも要求が通るということはありません。

この違いはとても重要です。

もう一度言います。

『母親とは違います』

全体重をかけて相手にもたれかかってはいけません。

相手はしっかりとした距離感とはっきりとした境界線を持っています。

ですが、あなたのすることをいつも認めてくれ、尊重してくれ、存在することを心から喜んでくれます。

この世にはそういう人があなたが思うよりたくさんいるのです。

諦めないで下さい。

そうすればあなたの中にも次第にゆっくりと「安心感」が生まれて来るはずです。

少しずつ「生きづらさ」が取れてくると思います。

氷が少しづつ溶けていきます。

 

 

 

 

15.家族

 

エドワードは暗闇の住宅街でぽつんと一人寂しそうに考え込んでいました。

そのそばにモフモフとした大型犬がエドワードを慰めるかのように近寄ってきました。

エドワードはその犬の目の視界までかかった長い毛を、優しく切り落としてあげました。

見渡しがよくなった犬の表情を見て、エドワードは微笑みました。

エドワードの寂しさが少し柔らぎます。

エドワードの目には出るはずもない涙がキラリと光っていました。

パトカーが巡回してエドワードを捜しています。

エドワードはペグの家に戻ります。

エドワードの背中に傷ついたその手をそっと置いてくれた人がいました。

キムでした。

 


エドワード:「ケガは大丈夫かい?」

キム:「あなたのほうこそ大丈夫?」


 

エドワードは黙ってうなずきました。

 


エドワード:「家族の皆はどこ?」

キム:「あなたを捜しに...」


 

家出した時に捜しに来てくれる家族。

家族はエドワードがどんな気持ちで独りでいるのか、心細くはないか、そのような気持ちを想像しながら必死に探し続けてくれています。

そうしたペグやビルに感謝ですね。

 


キム:「エドワード、抱きしめて」


 

エドワードは長く鋭い腕の中に輪っかを作り、キムを抱きしめようとします。

ですがエドワードはためらった顔でキムに言います。

 


エドワード:「できない...」


 

愛する人を傷つけたくないエドワードはこれ以上距離を縮めることを諦めます。

キムは自らハサミの腕を持ち上げてエドワードの胸の中に入りました。

キムはエドワードの心の葛藤を判っていました。

エドワードはキムを抱きしめ、愛する人の温もりを感じることがやっと出来ました。

辛く長い心の葛藤を乗り越えて。

ここでエドワードは昔のシーンを回想します。

おじいさんがクリスマスプレゼントの箱を開けると、人間の腕が二本入っていました。

 


おじいさん:「エドワード、クリスマスには少し早いがお前にプレゼントをあげるよ」


 

その手を興味深く見つめるエドワードをおじいさんは嬉しそうに眺めていました。

エドワードはその手にキスをします。

エドワードには至福の瞬間(とき)でした。

その直後、おじいさんは病で倒れそのまま死んでしまいます。

エドワードは自分が好意を持つと大切な人を失ってしまう気がしていたのかもしれません。

不運がまたもエドワードに訪れます。

酔っ払ったジムの仲間が運転する車にケビンが跳ねられそうになります。

それを見たエドワードは間一髪ケビンを救い出しますが、その時ケビンをハサミで傷つけてしまいます。

街中の人が集まって騒ぎ出し、キムはエドワードに苦悩の中で言いました。

 


キム:「逃げて」


 

エドワードはもう戻れないことを受け入れ、その場から立ち去りました。

パトカーの後ろを責め立てるように街中の人がエドワードを追いかけました。

 


ペグ:
「ケビンは大丈夫です。かすり傷よ」

「彼は行ってしまったわ。放っといてやって」

 

 

 

 

~PART3 へ続く~

 


①『シザーハンズ』~人との距離感は難しい。「愛されたい、でも傷つきたくない」~

2024-05-04 09:15:04 | 日記

 

『シザーハンズ』

~人との距離感は難しい。「愛されたい、でも傷つきたくない」~

 

 

 

01.はじめに

 

こんにちは。皆様いかがお過ごしでしょうか。

今回の作品は有名なあのジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』です。

ハサミ男ですね。いわゆる怪物もの。

『フランケンシュタイン』や『美女と野獣』。

外見はとても恐ろしいけど、内面はとてもナイーブで優しいいい人たちです。

秘められた心の内の純真さに心打たれますよね。

本作品の主人公エドワードはハサミ人間。

孤独で愛されたいという気持ちを持ち続けて何年も独りで生きてきました。

孤独という魔物は皆さまの内にもあるはずです。

わたしもその一人だからです。

いつも申しているのですが、人の孤独感の深さというのは幼少期の育ち方で決まってしまいます。

愛情不足を感じて育ってしまうと、心の内にいつも『愛情飢餓感』を携えながら、孤独な一生を終える人がいます。

幼児のままで...

その人は決して悪くありません。

子どもは皆天使です。

どんなことがあっても世界から守られるべき存在なんです。

そして成長して大人になっても大切な人間として尊重されるべき存在です。

愛情が不足して育ってしまうとどうなってしまうのか。

人の感情はまず「恐れ」から作られます。

外敵から身を守らなければならないからです。

「恐れ」を持って周りを警戒して、安心する保護者の元で安らぎを得ます。

それが母親です。

遠くに冒険しても母親の方をちらちら気にして、居なくならないか見ています。

母親はあらゆるわがままを許してくれる存在です。

泣きわめいても、すねても、おっぱいを噛んでも、何をしても許してくれる人。

そこに「存在そのものを肯定してくれる」という『基本的信頼感』が生まれます。

その信頼感はその後、他の人に対しても広がっていきます。

何をしても許してくれる信頼感はやがて、その安心感からくる節度をもって他の人に接することができるようになります。

母親とは異なり何でも許してくれる訳ではないけど、恐れなくていい人達なんだなと認識していくのです。

ここに良好な人間関係ができあがり、幼稚園、小学校、中学校、高校とたくさんの人との距離のとり方を経験して、適切な距離感を取ることができます。

人との関係性は大まかに分けて3つのグループに分けることができます。

 

1.『重要な他者』...家族、恋人、親友など。

2.『まあまあ親しい人』...友人、親戚など。

3.『職場、学校、社会上の役割をするときの人間関係』...同僚、上司、知人、隣人など。

 

これらのタイプの人と自分との『境界線』をはっきりと引くことができるようになります。

とくに3のタイプの人たちには「自己開示」する必要はそれほどないですし、愛されようとする必要もありません。

理想を言えば切りが無いですが、自分を守るためには付き合い方はとても重要です。

今「生きづらいな」と思われている方はこれらを意識して、ムダな心の消耗をしないように心がけましょう。

これからエドワードの心の内に入って行きます。

エドワードの「生きづらさ」「距離の取りづらさ」を感じて欲しいです。

どのようにして解決していくのかも見どころです。

それでは観て行きましょう。

 

 

 

02.温かな家族

 

物語は架空の町が舞台となっています。

『チャーリーとチョコレート工場』のような現実と幻想が混ざったような世界です。

 


キムお婆さん:「暖かくしてね。外は寒いよ」

小さな女の子:
「雪はなぜ降るの?」

「雪はどこからやってくるの?」

キムお婆さん:「それはね、長いお話なんだよ」

小さな女の子:「話して」

キムお婆さん:「今夜はもう遅いから眠って」

小さな女の子:「まだ眠くないの。お願いだから話して」

キムお婆さん:
「わかった。じゃあ、話しましょう」

「では...やはりハサミの事から始めなきゃね」

女の子:「ハサミ?」

キムお婆さん:
「ハサミといっても種類はいろいろあるんだよ」

「ずっと昔、ハサミが手だった人もいたんだよ」

女の子:「そんな人がいたの?」

キムお婆さん:「そう、いたの」

女の子:「手がハサミ?」

キムお婆さん:
「そう、ハサミが手だったんだよ」

「あの山の上にお城があるのは知ってるね?」

女の子:「あのユーレイ屋敷?」

キムお婆さん:
「何年も何年も昔...あそこに発明家が住んでいて、いろいろな物を発明していたの」

「ついに人間も作ったのよ」

「何もかも人間そっくり」

「心臓から脳まで人間と同じ」

「ある部分を除いてね」

「その発明家は大変な年寄りで、その人間を完成する前に死んでしまったの」

「その男はとり残されてしまった...」

「未完成のまま、ずっと独りぼっちだったの」

女の子:「名前はあったの?」

キムお婆さん:
「もちろんあったわ」

「その名はエドワードと言ったわ」


 

そして物語はキムお婆さんの若い頃の過去に遡ります。

 

 

 

03.「愛ある人」ペグ

 

そこはとても不思議なところで、現実の世界のようだけど、どこか少し御伽の国のような世界です。

家は一軒一軒パステルカラーの外壁、屋根。

住人たちはそれぞれの単色の服を着ていました。

一人の中年女性が家々を訪問して回ります。

その中年女性のペグは化粧品メーカーの販売員でした。

庭の石畳を直線的にくねくねと可愛らしく歩きます。

 


ペグ:「エイボン化粧品です!」


 

ペグはいかにもわざとらしい営業スマイルではなく、自然な優しさの籠もった笑顔で呼びかけます。

 


黄色い服の女性:「また来たの?」

ペグ:「お宅は数ヶ月ぶりよ」

黄色い服の女性:「ソフト・カラーの新製品をご紹介に...」

ペグ:「シャドウ、ほほ紅、口紅。お顔の変化を引き立てる化粧品です」

黄色い服の女性:「こんな私にお顔の変化?」

ペグ:「昔から愛用されてるおなじみの品も鏡台の上に欠かせない化粧品ですわ」


 

女性はうんざりした表情で言いました。

 


黄色い服の女性:「ペグ、うちへ来てもムダよ」

ペグ:「ええ、わかってるわ」

黄色い服の女性:「さよなら、ペグ」

ペグ:「じゃあね、ヘレン」


 

次のお宅はいつも欲求不満な女性の家です。

いつも男性を誘惑しています。

今日は機械の修理工の男性が皿洗い機を直しに来ていました。

 


修理工:「わざわざ僕を呼ばなくても直せるのに...」

ジョイス:「あたしが?そんなのムリよ」

修理工:
「ゴミが詰まってただけです」

「このバルブをゆるめて外す」

ジョイス:
「皿洗い機の修理人って孤独でしょ?」

「家庭の主婦も孤独な人種なのよ」

修理工:「これをムリせずそっとはめ込んでやって、後はこれをねじ込めばOKです」


 

ジョイスは修理工に顔を近づけて、食い入るように説明を聞きます。

そこにインターフォンが鳴り、ペグが訪問してきました。

 


ジョイス:「イヤだ、誰かしら」

 

 

ジョイスが窓に近づき目をそらすと、修理工はジョイスに言い寄られて嫌だなという表情をします。

 


ジョイス:
「ちょっと失礼、すぐ戻るから待ってて」

「芸術家の仕事を見逃したくないの」

ペグ:「エイボン化粧品です♫」


 

ペグは笑顔でジョイスと顔を合わせます。

ジョイスは不機嫌そうに言います。

 


ジョイス:
「見えないの?うちの前に車があるでしょ?」

「”お客が来てる”ってことよ」


 

ジョイスは大きなドアを冷たく閉めました。

とても変わった女性がいます。

家の中には水晶やロウソク、悪魔祓いの道具が置いてあり、パイプオルガンの低音で演奏しています。

ペグは彼女の家の前を通りますが、首を振って訪問しませんでした。

訪問販売が成功せず残念がるペグに、近所の子どもがいたずらを言います。

 


近所の子ども:「ピンポーン!エイボンでーす!」


 

黄色のパステルカラーで覆われた大きな車の中でため息をつくペグ。

ふとサイドミラーを覗くと山の上にそびえ立つ、淋しげなお城が見えました。

ペグは思いついて車をお城に走らせます。

 

 

 

04.ハサミ人間

 

茨で囲まれた門を通って入口まで行きます。

葉が一枚もない木が奇妙に伸び、ゴシック様式の刺々しい形をしたお城がそびえ建っています。

恐る恐る進むペグは中庭に出てきました。

するとどうでしょう、ユニークに刈り込みがなされたファンタジーの植物たちがペグを出迎えました。

あの恐ろしかったお城の外観とは違い、庭にはカラフルな花々、丁寧に刈られた芝生、ダイナミックで表情豊かな植え込みがありました。

 


ペグ:「すばらしいわ!」


 

ペグは生気のない木製のドアを、顔より大きな鋳鉄のドアノッカーを持ち上げてノックします。

ノックに応答はなく鍵はかかっておらず、ペグは誘われるかのように屋敷の中に恐る恐る入ります。

 


ペグ:「こんにちは!エイボンです!」


 

古びた屋敷に入るとペグは怖さを打ち消すようにいつもより明るい声で訪問を知らせました。

そこには今は動いていない巨大な歯車や実験道具、ロボット、コンベアなどが放置されたーていました。

 


ペグ:

「何てすごい所!」

「こんにちは、エイボン化粧品の宣伝に参りました!」


 

1階には人の気配はありませんでした。

ペグは古代生物の背骨のような長い階段を登っていきます。

 


ペグ:
「勝手に申し訳ありません、どなたかいます?」

「広いお宅ですわね」

「エアロビで鍛えててよかったわ」


 

ペグは最上階の部屋までやってきました。

そこには雑誌や新聞の切り抜きが大切に貼り付けてありました。

『目を持たずに生まれた少年、手で読む』と書かれた記事と写真や聖母マリアが幼いキリストを抱いている切り抜き。

ペグは部屋の隅っこに誰かいるのを見つけます。

 


ペグ:
「こんにちは、誰かいるの?」

「なぜ隠れているの?」

「怖がらないで、ペグ・ボックスよ」

「エイボン化粧品のセールスに来ました」


 

その人影を見てみると多数のナイフを持っているのがかすかに分かりました。

 


ペグ:「お取り込み中でしたのね、すぐ失礼しますわ」

人の影:「行かないで...」


 

その影はか弱い声で助けを乞うように言いました。

一人の青年が暗闇から出てきました。

その青年は両手が長いハサミに改造されていました。

 


ペグ:「一体どうしたの?」


 

その青年は助けを懇願するように両手をペグの顔の前に指し出して言います。

 


エドワード:「この手は未完成なんだ」

ペグ:
「それ以上近づかないで!」

「それが手なの?手なのね」

「どうしたの?ご両親は?」

「お母さんは?お父さんは?」

エドワード:「眠ってそのまま...」


 

ペグはエドワードの境遇に同情を寄せます。

 


ペグ:
「独りぼっちでここに住んでいるの?」

「その顔はどうしたの?」


 

その青年は自分の手のハサミで傷つけたのでしょう、顔がアザだらけでした。

この顔のキズは比喩ですね。

エドワードはおじいさんが死んだ後、独り寂しく生きてきました。

愛情不足の人を想像して見るといいと思います。

幼く両親を失った人、過干渉、放置の親、虐待、暴言を受けてきた子ども。

彼ら彼女らは飢えた愛情を求めながら、自分で自分の心を傷つけて生きてきた。

こんなに苦しいのなら生まれてこなければよかった。

何でいつも独りなのだろう。

淋しい...

自分の存在を自己否定して生きてきたのだと思います。

そうすると皆さんの中でもエドワードのような「生きづらさ」を自分に照らし合わせて共感していけると思うのです。

その共感が映画を自分の糧にして観るための入場チケットだと思っています。

ペグはエドワードの身体を興味深く触ります。

エドワードはペグに触れられるのを恐れてビクつきました。

 


ペグ:
「大丈夫よ、怖がらないで」

「まず新発売のアストリンゼントを使って。バイ菌も予防できるのよ」


《アストリンゼント》

「収れん化粧水」や、「アストリンゼントローション」とも呼ばれる化粧水の一種です。 肌をひきしめ、キメを整える効果があります。 通常の保湿化粧水よりもさっぱりとした使用感なので、過剰な皮脂の分泌や、毛穴にお悩みの方におすすめのアイテムです。 マスクの蒸れにより分泌された、皮脂によるメイク崩れを防ぐことができます。


 

ペグは脱脂綿につけた化粧水を傷にそっとトントントンと置いていきました。

 


ペグ:「名前は?」

エドワード:「エドワード」

ペグ:「エドワード?」


 

ペグは「愛ある人」といった感じの優しい人柄の女性です。

ペグは決断してエドワードに言います。

 


ペグ:「私の家へいらっしゃい」


 

ペグの車の助手席にエドワードを乗せて家に帰ります。

 

 

 

05.恐れながら近づく

 

色々な景色を見ることができて、エドワードは上機嫌です。

 


ペグ:「外を見ててね。初めて見る景色でしょ?」


 

エドワードは興奮して窓ガラスに顔をぶつけました。

 


ペグ:「大丈夫?」


 

ここは小さな町のようです。

近所のご婦人たちはペグが車に男を乗せているのを見て、噂話に花を咲かせます。

婦人たちは電話で連絡を取り合い、さも大事件のように人の話を話題にしている所が滑稽で皮肉が籠もっていますね。

やがてペグたちは自宅に着き、ペグはエドワードを自宅に招き入れます。

エドワードは家の中の『家庭』の持つ温かな雰囲気につつまれて、何ともいい知れない微笑みをしました。

ペグは家族の写真をエドワードに見せて紹介します。

 


ペグ:
「彼は私の主人のビルよ」

「ボウリングのチャンピオンよ、分かる?」

「こっちは釣りに行った時よ」

「ケビンはむくれ顔、1日中何も釣れなかったの」

「これはうちの娘よ。名前はキム」

「高校2年のパーティーね」

「今は高3、早いものね」

「キャンプに行ってて数日したら戻ってくるわ。きれいな娘でしょ」


 

エドワードはキムの写真を見て、とても気に入ったようです。

優しい眼差しと微笑みが写真からこぼれていました。

 


ペグ:
「うちの中を案内するわ。あとはゆっくりくつろいでね」

「あっちは台所。何でも食べて飲んでいいのよ」

「それはブドウの置物よ。寝室はこっち。タオルと着る物を持ってくるわ」

「ここに何かビルのお古があったはずよ」


 

ペグはクローゼットから服を取り出しました。

 


ペグ:「あなたのサイズよ。そこのキムの部屋で着替えて」


 

エドワードはキムの部屋に行き、鏡を覗き込みます。

そこに自分の顔が映し出されています。

エドワードは恐れながらウォーターベッドに手を触れます。

そのプクプクとした感触、タプタプ響く音を不思議そうに感じています。

そして知らずにハサミでウォーターベッドを刺してしまうのですね。

絶対にやってはいけないやつです。

ウォーターベッドの水が勢いよくエドワードの顔にかかりました。

慌てて傍らのぬいぐるみで蓋をします。

対処の仕方が面白いですね。

ペグがエドワードの様子を見に行くと、まるでザリガニが狭いところでもがくようにワイシャツを着るのに奮闘しているエドワードを見つけます。

 


ペグ:「ごめんなさいね、手伝うわ」

エドワード:「ありがとう」

ペグ:
「顔を切ったのね。血をふいてあげるわ」

「痛い?」

エドワード:「いいや」


 

エドワードは優しくか細い声でささやきました。

 


ペグ:「その服とても似合うわ」


 

クローゼットを開けて姿見の鏡でエドワードにその姿を見せてあげます。

 


ペグ:
「素敵でしょ」

「友達に医者がいるの。話してみるわ」

エドワード:「本当に?」

ペグ:
「顔の傷は私が直してあげるわ」

「エイボンの『上級用マニュアル』を読むわ」


 

夜になり、家族で団らんの食事をします。

息子のケビンと夫のビルもいっしょです。

エドワードにとって皆で食事するのは初めての経験です。

エドワードはお皿のおかずをハサミで上手く取れずに困っています。

 


ペグ:
「ケビン、そんなに見つめないで。失礼よ」

「自分だって見られたらイヤでしょ?」

「かわいそうよ。見ないで!」

ビル:「こういう食事は初めてか?エド」

ペグ:「『エドワード』と呼んであげて」

ビル:
「あの城に独りで住んでいたのか?」

「確かに眺めはいいだろうな、エド」

ペグ:「エドワードよ」

ビル:「海も見えるだろ?」

エドワード:「時々...」

ペグ:
「ビル、塩とコショーを取って」

「ケビン、見ちゃだめよ」

ケビン:
「こいつ、イカすよ」

「あの手で首に空手チョップをかましたら・・・」

ペグ:「エドワード、パンにバターを付ける?」


 

エドワードは上手にバターを切って、手のハサミをバターナイフのようにパンに塗りました。

 


ケビン:「学校でみせびらかしていい?」

ペグ:「ケビン、いい加減にして!」


 

このビルとケビンの会話がとても自然体でいいなと思いました。

エドワードに対してちっとも構えるところがないですよね。

ペグのようにエドワードの心情を推し量る人もいれば、ビルやケビンのように人は人、自分は自分と考えてさっぱりしている人もいるということですね。

エドワードはキムの部屋で寝るようになります。

慣れないウォーターベッドに戸惑っているようです。

次の日の朝、ペグはエドワードに傷を隠すための上級の化粧をしてあげます。

 


ペグ:
「まず、しみ隠しのクリームを塗りましょう」

「丹念に満遍なく塗り込むの」

「傷を隠すのよ」

「肌がとても白いのね」

「これはラベンダー色のカバークリーム」

「あなたの肌によく合うわ、ほらね」

「ずっとよくなったわ」

「そうだわ。傷あとをカバーして表面を平らにするの」


 

ペグはエドワードの化粧の出来をしばらく見て言います。

 


ペグ:「このクリームだめね!」


 

化粧品販売員が思わず自社の商品をダメ出しするところが面白いですね。

 

 

 

06.芸術家エドワード

 

昼間にケビンとビルは庭でベースボールのラジオを夢中になって聴いていました。

近所のご婦人たちのように奇異な目をして興味本位で人の境界線をズカズカと越えてくるようなことがないんです。

とても大切な対比だと思います。

エドワードはビルに倣って植木の刈り込みをします。

二人がラジオに興奮している間に、エドワードは恐竜の形に植木を刈り込んでしまいました。

二人はその植木の出来栄えにとても驚きます。

気を良くしたエドワードは家族をモチーフにした刈り込みを創り上げました。

 


ビル:「素晴らしいな、エド。それはうちの家族か?」

ペグ:「まあ、私たちだわ。私たちよ!」


 

エドワードは今まで家族の夢をたくさん描いてきたのですね。

淋しい思いを雑誌の切り抜きや聖母とキリストの絵などを見て、自分を癒やしてきたのだと思います。

ペグたちの笑顔が何より嬉しいんですね。

エドワードはこの家族といることが段々と心地よくなってきます。

そこにエドワードの幸せに不吉を呼び込むかのように、紫色の服を着た女がやってきます。

 


エズメラルダ:
「そいつは紅蓮の炎の燃える地獄からの使いよ」

「恐ろしい悪魔の化身」

「神の小羊を迷わせる気?」

エドワード:「違うよ...」


 

エドワードは戸惑い、か細い声で言い返します。

 


エズメラルダ:「そばへ来ないで」


 

そう言うとエズメラルダは去って行きました。

 


ビル:「イヤな女だ、消えろよ」

ペグ:「彼女を気にしないでね」

ビル:「あの女は頭がイカれてるのさ」


 

 

 

07.知らない人たち

 

エドワードに興味津々なご婦人たちはペグの家に押しかけてきて、ペグに無理やりエドワードのお披露目会を開かせます。

 


エズメラルダ:

「悪魔の誘惑に乗らないで!」

「まだ遅くない。あいつを早く追い出すのよ」

「自然に背く悪霊よ」


 

エドワードは食事の支度を手伝います。

楽しくキャベツをチョップするエドワードは誤って自分の顔を切ってしまいます。

 


ペグ:
「また切ったのね。そんなに緊張しないで」

「エズメラルダは来ないし、他は皆いい人ばかりよ」

「心配しないで。自然のままにしていればいいのよ」

「緊張せず、自然のままに」


 

ペグが自動缶切り器に乗せられたぐるぐる回る缶詰を見つめていると、エドワードはおじいさんとの過去を思い出します。

素敵な回顧のシーンです。

お城の機械はクッキーを作るためのピタゴラスイッチのような装置でした。

缶詰からクッキーの素が出てきてボウルに注ぎ込まれます。

そこに一個の卵がロボットのか細い手によって割られ、ボウルに入った生地は鋼鉄の人形の泡立て器の手でかき回されます。

また後列の鋼鉄の人形が足で生地をこねて、そのまた後ろの人形が足で型を切り取ります。

後ろに待ち構えているアコーディオン型のオーブンがこんがりとクッキーを焼き上げます。

工場のコンベアのような無味乾燥したものではなく、おしゃれでユーモアのある生産機械でした。

おじいさんは満足げに、出来上がったハート型のクッキーを手に取り、傍にいたロボットの左胸に近づけました。

おじいさんは心を持ったロボットが欲しかったのですね。

なんという雄弁な映像言語なのでしょうね。

言葉のない映像だけの数分間でこれだけのユーモア、驚き、ハートフルな感情を詰め込むことができます。

『いやあ、映画ってほんとにいいものですね』という水野晴郎さんの名文句が言いたくなります。

おじいさんもまた人との接し方が下手だけど、温かい心の交流が欲しかったのですね。

そして愛の結晶エドワードが作られます。

エドワードのお披露目会が開かれ、子どもたちにじゃんけんに誘われたり、医者の紹介を約束してくれたり、たくさんのいい人に囲まれてエドワードは上機嫌です。

 


ペグ:
「エドワード、大丈夫?」

「おなかは空いていない?何か食べたい?」


 

ご婦人たちがエドワードを見ながら噂します。

 


ジョイス:

「信じられないわ。とても謎めいてる」

「冷たい手か温かい手か」

「あのハサミでチョキンとやられたらどう感じるかしら?」

近所の男:
「エディ、金曜の夜にトランプをやりに来ないか?」

「だがカードは切るなよ(笑)」


 

男は一人満足げにジョークを飛ばしました。

エドワードがジョークの意味を解せずに少し苦笑いをするところが可愛らしいです。

エドワードは長いハサミに野菜や肉などを突き刺し、串代わりにしてバーベキューをします。

ブラジルのシュラスコ料理みたいです。(笑)

そこに身体が不自由な老人がエドワードに同情して話しかけます。

 


老人:
「俺も身体が不自由だがどうって事はない」

「戦争で弾丸が当たって、このとおり義足をつけとる」

「人に身がい者とは呼ばせるなよ」


 

ご婦人たちはそれぞれの家で作ってきた料理をエドワードに食べてもらおうと一斉に寄ってきます。

エドワードは大人気でした。

エドワードはおじいさんとの楽しい過去を思い出します。

 


おじいさん:
「女主人が客にお茶を出そうとしてるよ」

「エチケット上いろいろな問題があるんだ」

「立ってカップを受け取るべきか、指で砂糖をつまんでもいいか?」

「お茶のおかわりは許されるか」

「ナプキンは全部広げてもよいのか、半分に折って使うべきか」

「エチケットはむずかしいんだよ」

「だが正しいエチケットに従えば、人前で余計な恥をかく事をまぬがれるよ」

「お前は退屈しているんだな、エチケットよりも詩を読もうか」


 

おじいさんは我が息子のようにエドワードをとても可愛がりました。

 


おじいさん:
「髪の薄い年寄りが薄い絹で服を作った」

「ある人が言った『そんなに薄いと破れるよ』」

「彼は答えた『薄いと手入れが簡単だ』」

「可笑しければ笑っていいんだよ、エドワード」

「笑ってみて」

 

 

 

 

08.ペグの娘キム

 

夜中になり、ペグの娘のキムがキャンプから帰ってきました。

キムは鼻歌を歌いながらエドワードが眠っている自分の部屋に入ってきました。

エドワードはベッドの上でハサミをそっと折りたたみ、キムをじっと見つめていました。

キムが鏡で自分の顔を覗いていると後ろに人がいるのを発見しました。

キムは大声で叫びます。

その声にエドワードも大慌て。

ウォーターベッドに無数の穴を勢いよく開けてしまい、パニックになりました。

ペグはキムに事情を説明して、ビルはエドワードに新しいベッドを用意しました。

 


ビル:
「城にいたから君は知らないんだよ」

「最近の年頃の娘ってヤツは皆イカれてる」

「これを飲むといい。レモネードさ」


 

ビルはホームバーでエドワードにレモネードと偽ったお酒を飲ませました。

 


ビル:
「分からん」

「女は年頃になるとホルモンの関係で身体がふくれて、頭がイカれる」

エドワード:「ホルモン?」

ビル:
「そうだよ」

「そう深刻に考えるな」


 

お酒が入っているとは知らないエドワードはストローで勢いよく飲み、呼吸が止まりかけます。

 


ビル:「うまいか?」


 

ビルは何もなかったかのようにエドワードに質問しました。

一方ペグはキムの心を落ち着かせていました。

 


ペグ:「今夜はとりあえずここで寝るのよ」

キム:「なぜ彼はうちに来たの?」

ペグ:「独りぼっちでかわいそうだったのよ」

キム:「でもなぜ?」

ペグ:「キム、彼を見てかわいそうとは思わないの?」

キム:「それは思うわよ」

ペグ:「じゃあ下に行って握手ぐらいしてあげたら...」

キム:「あの手でどうやって?」

ペグ:「挨拶をしてあげて。あなたは彼を驚かせたのよ」

キム:「それはこっちだわ」


 

キムは母に連れられて恐る恐るエドワードのもとにやって来ます。

 


ペグ:
「エドワード、正式に紹介するわ」

「うちの娘のキムよ」

「キム、新しい家族のエドワードよ」


 

キムは母に肩を抱かれながらエドワードを興味深く見ていました。

ビルにお酒を飲まされたエドワードはグロッキーなゾンビのような顔をして、その場に卒倒してしまいました。

初対面が強烈だったキムはそれ以来エドワードのことをあまり良く思っていませんでした。

エドワードが刈った街中の庭木の刈り込みを気味悪がりました。

食事の時、エドワードがキムのために切ってあげた肉をキムのお皿に乗せてあげるのですが誤って服の上に落としてしまいます。

エドワードはハサミを畳んですまなさそうな顔をしました。

 

 

 

 

 

 

~PART2 へ続く~