月夜の記憶

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バジリスク~甲賀忍法帖~第1巻

2011-02-16 | 感想
甲賀と伊賀、千年の敵として憎しみ合う忍者二つの一族の物語。

山田風太郎原作の甲賀忍法帖と言う作品が、せがわまさきの筆により美麗なイラストでマンガになりました。


物語は徳川家康の御前、伊賀鍔隠れ衆の美少年忍者、夜叉丸と、甲賀卍谷衆の風待将監の術比べで幕を開けます。
長髪をたなびかせ、女性の黒髪をよりあわせた岩をも切り裂く強力な糸を武器に立ち回る夜叉丸。対するは粘りのある痰で相手の動きを封じる風待将監。
それぞれの頭領、伊賀のお幻と、甲賀弾正が見守る中、二人の人智を超えた戦いが繰り広げられます。

この美少年忍者、夜叉丸が一見物語の主人公かな、と思わせるこの物語。ところがこの戦いの中で美しい長髪が切り刻まれてしまいます。それでも夜叉丸が美少年なのは変わりませんけどね。

伊賀と甲賀、本来であれば不戦の約定を結んでおり、剣を合わせる事は禁じられていたのに、この両者が家康の前で戦っていたのには、実は深い理由がありました。それは、家康の世継ぎ問題の解決策として、伊賀と甲賀の忍者同士で殺し合いをさせるためだったのです。

そんな辛い運命が待ち受けるとも知らずに、その頃、甲賀の弦之介と伊賀の朧は甲賀と伊賀の国境で逢瀬を楽しんでました。甲賀と伊賀の跡を継ぐ二人は互いに想い合っており、祝言を間近に控えていたのです・・・。
この時すでに二人を待ち受ける運命を予感せずにはいられません。伊賀と甲賀、それぞれ10人ずつ名前を書き入れた巻物に、二人の名前が書き込まれていたからです。
ここに二人の名前がなければ・・・あるいは、どちらかの名前だけでも書いてなければ・・・、そんな事を思わずにはいられません。


そして伊賀の頭領、お幻と、甲賀の頭領、弾正。この二人もなんと若い頃互いに恋焦がれていた関係だった事が明らかになります。伊賀と甲賀の宿怨・・・二人はその運命を天意として受け入れていました。そして伊賀と甲賀の戦いは、この二人の頭領の相打ちで始まるのです・・・。
息絶えたお幻と弾正は、寄り添うように川を流れていきます。現世で結ばれる事のなかった二人が、死んで初めて一緒になる事が出来たのかも知れません・・・。若き日の思い合った二人の姿がそこにはありました。
この悲しい出来事を朧と弦之介はまだ知りません。二人は運命に勝つ事が出来るのでしょうか。



伊賀と甲賀の不戦の約定が解かれた事を先に知るのは伊賀の忍者達でした。伊賀の忍者達は、その内容を知るや、不適な笑みを浮かべます。長年の宿敵、心の中では常に甲賀を憎んでいたのです。
そんな事を心にも思っていない朧。伊賀には蛍火と言う朧と同年代くらいのくのいちがいますが、その表情から甲賀を憎んでいる事が見受けられます・・・。

伊賀の頭領の血を引く朧と、一忍者である蛍火、幼少の時から受けてきた教育や環境が違ったのかな。・・・朧は弦之介を想う気持ちが強く、伊賀と甲賀の宿怨を知りながらも、これからの伊賀と甲賀は手を取り合っていけると信じていた。そう考えた方が自然かも知れませんね。朧は争い事が嫌いな性格なようですし。
対して蛍火は、忍者としての教育、戦闘員としての教育を強く受けていたのかも知れません。伊賀のために命を惜しまない、その教えの的となったのはやはり甲賀への憎しみを持たせる事だったのかな。


甲賀と戦える事を知った伊賀の忍者達の中心になっているのは薬師寺天膳。巻物の内容から察するに頭領であるお幻の死も知りました。
その時そばにいた小四郎が流した汗は、お幻が死んだ事に対する物だったか、それとも朧の事を想っての事だったのかな。両方かな・・・。

その中で蛍火は駿府で戦っていた夜叉丸の身を案じます。夜叉丸と蛍火もまた、想い合う二人だったんですね。
愛する人を想う気持ちに伊賀も甲賀もないはずなのに、長年の宿怨がその思いを打ち消してしまう・・・。


甲賀ではまだ風待将監以外には不戦の約定が解かれた事を知る人はいません。逆に伊賀では、朧だけがその事を知りません。
伊賀の忍者達は、甲賀者達をどのように殺していくか、特に手強いであろう弦之介をどう殺すかと言う事に知恵を絞ります。朧が愛する弦之介を、朧の味方である伊賀の忍者達は殺そうと考えている、朧はそれを知らない・・・。過酷な運命にどうか勝って欲しい、二人に幸せになって欲しいと思ってしまいます。


朧と弦之介の二人が知らないところで、早くも戦いは始まっていました。
地虫十兵衛と天膳の戦いは十兵衛の隠し技により天膳が敗れます。
そして甲賀の巻物を持つ将監は蝶を使った蛍火の忍術などにより伊賀の手に落ちます。駿府から帰還する将監に、蛍火は夜叉丸の安否を思い問い詰めますが・・・口を割らない将監に容赦なくとどめを刺します。蛍火は忍者として戦わなくてはならない運命を受け入れているんですね。
「とどめを・・・いれておきました」そう話す蛍火は、年頃の女の子ではなく、戦う忍者の表情でした。


これで人別帖に残された人数は、伊賀甲賀とも8人・・・いえ、そうではありませんでした。
十兵衛に敗れたはずの天膳が生きており、十兵衛に逆襲します。天膳は一体どのような忍術を使ったのでしょう、ここではまだ明らかにされません。
これで人別帖に残された人数は伊賀が9人、甲賀が7人となります。そして甲賀側の巻物は燃やされて、人別帖は一冊となるのです。



何も知らない甲賀の弦之介と丈助は伊賀の里に招かれます。朧は心から二人を歓迎しますが、他の忍者達の怨嗟がうずまくその酒宴。
弦之介はその感情を知ってか知らずか、伊賀と甲賀が手を取り合って生きていく事を朧と語り合います。
弦之介ならきっと周囲の殺気に気付いていたでしょうね。でも不戦の約定が解かれた事を知らない弦之介は、長年の宿怨がその殺気の正体だと思ったに違いありません。朧と自分が結ばれる事で伊賀と甲賀の争いが消える事を本当に願って言葉にしたのでしょう。


酒宴の後、丈助は朱絹と術を争う事となります。甲賀で一番色っぽい忍者がこの朱絹でしょうか。丈助は朱絹の艶やかな身体を狙い、朱絹は丈助を殺すつもりで・・・。
その戦いのさなか、朧は闇に潜む陣五郎に気付きます。

陣五郎は弦之介を暗殺しようとしていたのです。朧はその事に感付き、陣五郎を睨み付けます。朧の瞳が持つ力、それは忍術を封じる魔の瞳だったのです。
その時の朧の言葉
「たとえ可愛い伊賀者であっても弦之介様に害意を持つならば・・・このわたしが捨ておかぬ」

これは朧が、自分の里である伊賀よりも弦之介の事が大切であると言う思いが明らかになった瞬間でもありました。
朧と弦之介、二人が力を合わせれば、伊賀と甲賀の争いは本当に避けられるかも知れない、そんな期待も抱かせてくれる言葉でした・・・。
でももう殺し合いの螺旋はすでに・・・。

朱絹と丈助の戦いは朧に見つかり引き分けに終わりますが、丈助はそのあとすぐ陣五郎の手によって命を落とします・・・。


場所は変わって甲賀卍谷。弾正、弦之介の事を気にかける甲賀の忍者達、室賀豹馬、霞刑部、如月左衛門、そして弦之介を密かに想う陽炎の4人・・・。

豹馬と左衛門は端正な顔立ちをしており、思慮深い印象があります。外見の良い人物たちは物語の中でも長く登場するのでは、と思わされますね。
伊賀の忍者達の中では、若い夜叉丸、小四郎がそのような印象を受けます。天膳は初登場の時からラスボスのような雰囲気を感じさせます。


人別帖に残された名前は伊賀に9人、甲賀に6人。


第2巻に続きます・・・。

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