一期一会

日々是好日な身辺雑記

「物語 ビルマの歴史」

2016年06月06日 | 雑記



ミャンマー行きまで1週間となった。世界三大仏教遺跡バガンが見たくて
今回の旅行を決めたが、あまりミャンマー(ビルマ)について知らない。
漠然とミャンマーの事で頭にあるのは、子供の頃に見た映画(ビルマの竪琴)で、
中井貴一主演のではなく、その前のモノクロ映画の方だ。
原作の竹山道雄の「ビルマの竪琴」は児童書として出版されたらしいが読んでない。
あとはキューバ危機のあった頃の国連事務総長ウ・タントがビルマ人だった事と、
軍事政権により自宅軟禁されていたアウンサンスーチーの事くらいで、
それも深い事は知らない。

2012年3月にタイ旅行をした時に、国境を歩いて渡りミャンマーのタチレイに
入った事がある。その時はイミグレーションにパスポートを預け、
写真付きの入国許可書を首からぶら下げ、国境から5km以内という制限された
範囲内でしか行動出来ないという変則的なもので、それでは何も知る事が出来ず、
ミャンマーは特殊な国だという印象しかない。

そんな未知のミャンマー( ビルマ)を知るべく、旅情報本数冊読んだ後に
アウンサンスーチーの(ビルマからの手紙)を読み、
中公新書「物語 ビルマの歴史」を読んだ。
(ビルマからの手紙)は1995年から1年間毎日新聞に連載されたコラムで、
軍政の管理下で書かれたという事もあり、アウンサンスーチーの
凜とした人柄をうかがわせるものだったが、強い印象は残らなかった。
因みにビルマには姓にあたるものがなく、父親のアウンサン、祖母のスー、
母親のチーをそれぞれ取って、アウンサンスーチーという名前が構成されている。

そして先週読み終えた「物語 ビルマの歴史」は、新書にしては
460ページと厚く、内容的にも読み応えのあるものだった。
著者はビルマ近現代史が専攻の上智大学教授の根本 敬で、ビルマの歴史でも
第1章で王朝時代を扱っているが、第2章以降は英国植民地時代からの
ビルマの近現代史について書かれている。

そんな中で興味深かったのは、ビルマ国民の9割近くが信仰する上座仏教の事、
1962年にクーデターにより樹立されたネィウィンの軍事政権と、
そのビルマ式社会主義の実体、第9章で50ページを割いて書かれている
(軍事政権とアウンサンスーチー)だ。

(ビルマの竪琴)に関わる日本統治時代に関しては、第5章(日本軍の侵入と占領)で
書かれている。そのビルマ侵入の背景は分かったが、その日本占領期について
どう見るかについてはこの本では書かれていない。
ただ泰緬鉄道建設で、その過酷な労働で東南アジアの労務者が13万人亡くなり、
ビルマ戦線では19万人の日本兵士が戦死したという事実で、
半藤一利「昭和史」の最後(何とアホな戦争をしたものか)という結論になるのだろう。

映画「戦場にかける橋」の舞台になった泰緬鉄道のタイのカンチャナブリには
2度行った事があるが、そんな過酷な歴史を想像出来ないのどかな村だった。

第9章の(アウンサンスーチーの思想と行動)では、軍事政権に対し非暴力を手段として
闘い続けた彼女が、どのような思想に立って、いかなる行動を貫いたのかを、
その生い立ちから書いている。それをポイントだけ引用し紹介する。

1、生い立ち

・1945年6月19日、ビルマ独立運動の指導者アウンサン将軍と看護士キンチーの
間にヤンゴン(ラングーン)に生まれる。
・2歳になった時に父親が32歳の若さで暗殺され、この世を去る。
・1960年、ビルマ赤十字のトップを務めていた母キンチーがインド大使に
任命され、一緒にインドに移る。
・インドでは修道会学校からカレッジに進学し、当時のインド首相ネルーと
その家族との親睦を深め、インドに来る前から関心を抱いていたガンジーの
思想に傾倒し、その著書を多数読み、影響を受ける。
・1964年、オックスフォード大学に留学し、哲学、政治学、経済学を学び、
卒業すると1969年アメリカに渡り、ニューヨーク大学の大学院に進み、
国際関係論を専攻した。
・1972年、オックスフォード大学時代に親交のあったイギリス人男性
マイケル・アリスと結婚する。
・結婚に際し、ビルマ独立闘争の指導者の娘が旧宗主国であるイギリス人と
一緒になる事を悩み、(将来、国民が私を必要とした時には、私が彼らの為に
本分を尽くすのを手助けしてほしい)旨、手紙に書いたという。


2、専業主婦として

・結婚して男の子二人の子育てにある程度の余裕が出てくると、
オックスフォード大学での勉強を再開し、さらにロンドン大学の
東洋アフリカ研究院の博士課程に進学する。
・その勉学の過程で父アウンサンの事を調べるうちに、日本との関係を
深く知りたいと思うようになり、オックスフォード大学で日本語の勉強をし、
三島由紀夫の小説を原書で読めるまでになる。
・そして40歳の時、国際交流機基金の招きで、京都大学の研究員として迎えられ、
二人の息子を連れて約10ヶ月間滞在する。

3、祖国の民主化運動を率いる

・日本からオックスフォードに戻って1年半たった時に、母の危篤でビルマに戻り
当時民主化運動に立ち上がった学生たちに、独立の父アウンサン将軍の
娘が帰国している事が広がり、その活動家との交流で民主化運動を率いる事になる。
・そして1989年〜1995年、2000年〜2002年、2003年〜2010年と
長期にわたり自宅軟禁されている。
・その間、11日間のハンガーストライキを行い、(学生への拷問はしない)旨の
約束を当局から取り付ける。
・夫と息子達の訪問は特別に2回許されたが、軟禁2年目以降は認められなくなり、
彼らとの手紙のやり取りは容認されたものの、軍政による軟禁という不当な措置に
対する抗議のしるしとして、アウンサンスーチーの方からその権利を放棄する。

4、ノーベル平和賞の受賞

・1991年、彼女の非暴力による民主化運動が評価され、ノーベル平和賞を受賞する。
授賞式には代理で夫と息子が出席し、会場の喝采を浴びた。

5、解放、そして再軟禁

・1999年初頭、夫マイケル・アリスが前立腺ガンで余命いくばくもなく、
最後の面会を求めてビルマ入国ビザを申請するが、軍政は二人が会いたいなら、
妻がビルマを出てイギリスに行くべきだと、彼のビザ申請を却下する。
この時アウンサンスーチーは、夫の最期を看取る為に一時的に出国したら、
軍政は2度と帰国を認めないだろうと、民主化運動の指導者のとしての使命を
優先させ、夫との再会を諦める。
夫マイケル・アリスはその年の3月に死去している。

以上が「物語 ビルマの歴史」からの抜粋だが、これ以外にも彼女の思想の
   特徴として、その思想と行動が(恐怖からの自由)という基本哲学にあるとし、
7ページにわたって説明している。

この本は2014年に出版された良書だ。

そして(ビルマの歴史)と一緒に図書館から借りていたのが(ミャンマー 国家と民族)で、
この本は定価20,000円の、700ページという分厚い本で、
外務省や大学でミャンマー研究に携わっている42人の研究者が、
「メコン地域研究会」で発表されたレポートで構成されている。

4月20日に発行されたホカホカの新刊本なので、私が最初の借り手かもしれない。

第1部から第7部まであり、60のレポートとそれに付属資料がついている事から
この厚さになっていて、上座仏教、からゆきさん、ビルマの竪琴、
故会田雄次教授のミャンマー観、とその内容も多岐にわたっている。
第3部(大東亜戦争におけるビルマ)ではインパール作戦についても書かれている。

これは全て目次の事で、60のレポートはどこからでも、関心のあるものから
読み始められるので、先ずは付属資料のアウンサンスーチー著(恐怖からの自由)を、
  昨日から読み始めた。そう、(ビルマの歴史)で彼女の基本哲学として触れられていた
(恐怖からの自由)の全文が載っていたのだ。

 (人を堕落させるのは権力ではなく、恐怖である。権力を失う恐怖が権力を振るう
  人々を堕落させ、権力の鞭への恐怖が権力に従わされている人々を堕落させる)
 で始まるこの文は、1990年に欧州議会の(思想の自由に関するサハロフ賞)を
 受賞した事を記念して、夫マイケル・アリスが公表しロンドンタイムスや
 ニューヨークタイムスに載った有名な文らしい。

(大多数の国民が同意しない命令・権力すべてに対して、義務として反抗しなければ
ならない)と、軍政に対する非暴力不服従を国民に訴えたという。

この文の中でも
(物質的な諸条件の改善を目的として単に政府の施策や制度を変える事を
目指す革命では、真の成功は殆ど期待出来ない。精神の革命がなければ、
古い秩序の悪を生み出した勢力が依然として影響力を持ち、
改革と再生の過程に絶え間なく脅威を与えるだろう。自由、民衆主義及び
人権を求めるだけでは、十分とは言えない)と、権利と義務の原則を説いている。

彼女の民主化運動を通して、その信念の強さは実証済みだが、
この文の中で出てくる概念も欧米的な発想に満ちている。
それは彼女の生い立ちや教育からきているのだろう。
実質的なミャンマー新政権のTopになり、軍との関係、多民族国家の運営と、
舵取りが難しい問題もあるが、成功してほしいものである。

彼女の誕生日の6月19日はミャンマーにいるので、その報じられ方を見てみよう。

そんな「 ミャンマー 国家と民族」を読み始めたところで、図書館にインターネット予約
していた下の2冊が近くのファミリー マートに届いた。




我が町には図書館が9ヶ所にある為、全館の蔵書をインターネットで検索・予約出来て、
その本を近くのコンビニで引き取れるシステムになっている。
著者名だけで予約したので、ページ数や内容も知らなかった。
メールで配送案内を受け取った時は、読めないだろうから返そうと思っていたが、
手元に来た本はどちらも1時間くらいで読めそうな内容だった。

(小林 節)で検索しリストされた本は、「安倍壊憲を撃つ」という題で、
昨年、衆議院憲法審査会で集団自衛権行使を違憲と表明した氏の本を、
憲法解釈等の本と思ったが評論家 佐高信氏との対談本だった。
その中身は未だ読んでないので分らない。

氏は先月、安保法廃止を掲げて政治団体「国民怒りの声」を設立し、
参院選比例代表に出馬を表明した。
まだその主張を聴いてないので何とも言えないが、自民党が争点としていない、
憲法改正の議論が選挙討論の場で活発に行われるだろう。


それにしても全党が消費増税延期や廃止を唱えるのは、国の財政規律や
社会保障の持続性を考えない無責任なポピュリズムとしか思えない。

この2冊を先に読み、明日から「 ミャンマー 国民と民族」を読み始めよう。
梅雨入りしたので、日課のジョギングも出来ない日もあるだろうから、
1週間で読めるだろう。

そして旅行に持参する文庫本として、「アーロン収容所」と「アーロン収容所再訪」を、
今日Amazonで中古本を注文した。

「アーロン収容所」は京都大学教授 故会田 雄次氏がビルマでの捕虜収容所体験
を基に書かれたもので、氏はテレビ出演する学者の先駆けで、
 テレビでよく見たが、保守派の論客という事から今まで読まずにいた。
 そんな事でこの本が合うかどうか分からないが、

ミャンマー旅行の、この機会に持参して読む事にした

これに新書サイズの詰碁の本で、機中や長時間のバス移動も間が持てるだろう。
6月のミャンマーは日中温度が40度近くなるらしいので、そんな時はホテルで
本でも読むしかない。