友人のYちゃんは、会社を定年退職したら、
近所の高齢者が立ち寄れる喫茶店をやりたい、
そして、地区の民生委員もしたいと言っていました。
喫茶店の経営は資金がなく断念、民生委員はまだ欠員が出ていないそうです。
それでも、人とふれあえることがしたいと思っていました。
去年、63歳で45年の勤めを辞めて、ネイルスクールに通い始めました。
「初めはハンドマッサージをしようと思ってたんです。
でも、それだけで来てくれる人っていないでしょ。
だからネイルをプラスしたらどうかなって思ったんです」
「あぁ、それならシニア女性の爪をきれいにするのっていいんじゃないの」
「はい、それも考えています」
きょうYちゃんは、先輩のOさんの奥さんのネイルの施術をしてきました。
わたしもOさんや奥さんに会いたかったので、一緒に出かけました。
Oさんとのお付き合いは43年、奥さんともお会いしていました。
とてもオシャレな奥さんで、わたしは洋服やバックをよくいただきました。
奥さんのお母さんはロシアと日本のハーフ、
クォーターの奥さんも堀の深い美しい方でした。
でも今は84歳、パーキンソン病で寝たきり生活です。
ベットに横たわる奥さんは、全身が小刻みに震えていました。
わたしたちの言葉に軽くうなずいて返事をします。
以前にお会いした時のような普通の会話はできません。
それでも、知り合いがネイルスクールに通っていることを知って、
自分の爪もきれいにしたいと思ったのでしょう。
Yちゃんはひとつひとつの作業をゆっくりと、
そして、ていねいに説明しながら施術をしていました。
わたしは隣の部屋でOさんと話をしていると、
「はい、終わりました」
しばらく時間があいて、
「お支払いはおいくらかしら?」
「やだー、わたしがしたくて来たんですから」
わたしは奥さんがしゃべったことがうれしくて、Oさんに伝えました。
耳の遠いOさんには聞こえていなかったようでした。
奥さんの部屋から戻ってきたYちゃんが言いました。
「腕を伸ばして爪を見ていましたよ」
Oさんが言うには、日によって幻覚や幻聴が現れるという奥さん。
でも、きょうは淡いピンクの指先を見つめていた、
昔のままオシャレの好きな奥さんでした。
高齢者の女性がメイクやネイル、ヘアセットなどの外的なことがきっかけに、
心も一緒にオシャレに、そして明るくなることは多いと思います。
いろいろなことを少し節約して、
オシャレのために時間とお金を使うのも、たまにはいいでしょうね。
近い将来Yちゃんが高齢女性の手や爪を、
そして心も美しくしてくれること期待しています。
ちょっとサーモンピンク、きょうのネイルカラーに似ています。