ホテル・ルワンダ

2004年（製作）　2006年日本公開　イギリス・イタリア・南アフリカ
2006年1月28日　川崎チネチッタ　ヒューマンドラマ　戦争
監督　テリー・ジョージ
出演　ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ホアキン・フェニックス（グラディエイター、戦争のはじめかた、炎のメモリアル、ヴィレッジ）、ニック・ノルティ、ジャン・レノ

1994年、ルワンダの首都キガリ。多数派のフツ族と少数派のツチ族の対立は平和協定で一段落したように見えていた。ベルギー系四つ星ホテル「ミル・コリン」の支配人ポール（ドン・チードル）は、家族思いである。ある日彼が帰宅すると妻子だけでなく隣人たちが部屋に身を潜めていた。フツ族大統領が暗殺され、それをツチ族の仕業としたフツ族の民兵がツチ族の市民を虐殺し始めていたのである。ポール自身はフツ族だが妻はツチ族だったため、隣人たちと共にホテルに避難する事にした。しかし虐殺は収まるどころか激化するばかり。他人事として自国民を避難させるだけで仲裁する気のない欧米諸国、無策な国連の対応で、救いの手は差し伸べられない。家族の事しか考えていなかったポールだったが、しだいに気持ちが変わってくる。持ち前の機転を働かせて1200人もの難民をホテルに匿うのだが・・・。

外国資本のホテルであり国連軍もいるので、民兵もうかつに手が出せないというだけで、敷地の外は大虐殺の嵐であった。有能なホテルの支配人として豊かな生活を手にしていたポールだったが、いざとなると欧米諸国が自分たちを簡単に見捨てるのだと知る。このショック。豊かな生活は欧米人のマネごとだったのではないか？友人だと思っていた彼らは、「君たちはゴミだ。ブラックなんだ。ニガーでさえない。アフリカ人なのだ。」(オリバー大佐（ニック・ノルティ）のセリフ）と、見下していたのか？
欧米諸国にとってルワンダは価値がなかったのである。ルワンダの惨劇を見ても、世界は「恐ろしい」と言いながらディナーを続けるだろうともカメラマン（ホアキン・フェニックス）のセリフがあった。これが大方の見方だろう。私も当時ニュースでこのことを知りながらも、戸惑うだけで無関心だった。あまりの残虐さに記憶は生々しいが、だからと言って何も行動しなかった。文字通りディナーを続けていたのである。
もともと平和共存していたツチとフツ。ベルギーの植民地政策で、ツチが優遇され、支配階級となる。ツチとフツの間には作戦通り不平等感、憎悪が生まれ、植民地支配が終わってもこの感情は残る。これが隣人と殺しあう内戦の原因となるのである。
ルワンダのシンドラーと言われた実在の人物ポールをモデルに、この恐ろしい大量虐殺の最中に行われた奇跡の物語が描かれた。ドン・チードルの優れた演技もさることながら、事実をできるだけ忠実に描こうとした製作者サイドの思いが伝わってくる。必ずしもポールは最初から立派な救世主ではなかった。しかし、愛する家族を救おうとしたときに、隣人たちは見捨てる事になる葛藤が生じる。そして更に、どこからか救いの手が差し伸べられることを期待したが、自衛しかないと悟ったとき、彼はまたひとつ変わって行く。その過程を無理なく描いた。彼は多額の賄賂を積んだり、ビールを振舞って時間稼ぎをする。ビールが足りなくなると危ない相手から手に入れる。時には相手を脅して渡り合う。考え付くすべての手を尽くすのである。
アカデミー賞外国映画部門で評価されていたにも関わらず、日本での公開にとても時間がかかった。署名運動などのおかげで今日の公開に至った。これがスピルバーグが監督し、デンゼル・ワシントンが主演していたらもっと早い公開になっていただろうに・・・。ドン・チードルだってハリウッドのメジャー作品に出ているし、ホアキン・フェニックスが共演していても、だ。クレジットは出ていないが、ジャン・レノがホテルの本社の人として出演してる。彼、この映画に出たかったんだろうなあ～。欧米の俳優さんは自分の考えをしっかり持っていて、それを表明する人がかなり多い。好感がもてる。日本ではただ、俳優や歌手などは「お客様は神様です」的な考えで政治的立場を明らかにすると人気に差し支えると考えていのではないかな。情けない。