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さくらの丘

福祉に強い FP(ファイナンシャルプランナー)がつづるノートです。

シニアの金融資産の実態

2022年09月17日 | ライフプラン

シニアの金融資産の実態

 

 誰もが老後のお金の心配をしている。人生三大資金と言う言葉があり、「住宅資金」「教育資金」「老後資金」と言われている。住宅と教育に関しては、ある程度想像が付きやすい項目であるが、人生100年時代とも言われる様に、長い人生の期間に必要となることが想定される老後資金の必要額は正直よく分かっていないのではないだろうか。だからこそ見えない老後資金のへの不安が大きくなっている。実際、各年代の不安に思う割合は、50歳代が最も高くなっており、一方60歳以上のシニアの不安割合はそれほど高くないのが実情である。

 「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]令和2年調査」(金融広報中央委員会、2021年1月)をベースに、シニア世代の金融資産の実態に迫ってみよう。なお、対象は二人以上世帯であり、単身者(お一人様)は今回除外しているので、ご注意いただきたい。

 

 金融資産額が増加した2020年

 2020年の金融資産は、全年代で大きく増加しており、シニア世代も例外ではない。これは、コロナ禍の始まりと、消費の抑制、そして特別定額給付金によるものである。シニア世代の年金受給者は、コロナ禍による年金支給額は減少することなく、一方給付金もあった。これに対して、支出は外出抑制もあり、外食費やレジャー費用、交際費が結果として抑えられ、収支的にも黒字になる世帯が多かった。

 実際の金融資産増加額(2019→2020年、金融資産保有世帯)は、60歳代では平均2203→3014万円、中央値1200→1400万円となっている。70歳代でも平均1978→2720万円、中央値1100→1500万円である。中央値の増加額よりも平均の増加額が大きいと言うことは、金融資産を沢山持っている世帯の増加額が大きいことを現しており、実際3000万円以上の保有世帯が大きく増加した。シニア世帯においても資産格差は歴然としており、現有資産のある人ほど保有資産が増加していることを現している。

 

 偏りのある金融資産保有額

 上記の数値は、金融資産を保有している世帯の結果であり、金融資産を保有していない世帯を含む結果では、また違った結果となる。全体的には、金融資産を保有していない世帯の割合が大きいことから、保有額の平均と中央値が大きく下がることになる。

 具体的な金額は、60歳代では平均2427万円・中央値810万円となり、70歳代でも平均2209万円・中央値1000万円である。これを保有している資産を比率を見ると下記の通りとなる(無回答除く)。

  金融資産無 1000万円未満  1000〜2000万円未満 2000万円以上

60歳代 19%     32%       14%        32%

70歳代 18%     29%       16%        32%

 これを見ると、60歳代では、最も割合が高いのは、2000万円以上保持している世帯と、1000万円以下を保有している世帯となる。1000万円以下保有と保有していない世帯を合わせると、51%になり過半数を占める。この傾向は70歳代でも概ね同じである。

 

 シニア格差の実態

 つまりシニア世帯は、金融資産を持っている世帯と、持っていない世帯にくっきり分かれているのである。特に、3000万円以上保有している世帯が22%程度もあり、持つものと持たない世帯の差は歴然だ。

 人生100年時代とも言われ、資産2000万円問題も取り沙汰され、ある意味老後を迎えるに当たっての目標金額のようにも言われてきた。その意味では、現在のシニア世帯では3世帯に1つの世帯は、これを既に達成していることになる。団塊の世代は現在70歳代に突入しており、人数的なボリュームが大きい世代の一定割合が「ある程度余裕ある」経済状態になっている。この世代では、「老後への不安」が全体として低いのは、こうしたことも影響していると考えられる。

 一方、資産2000万円でみると全く遠い存在の人たちが半数程度存在する。60歳代の金融資産中央値は810万であり、70歳代で1000万円となっているが、実際には金融資産1000万円以下の割合は、500〜1000万円未満よりも、500万円未満が多い。つまり持たない人は、本当に金融資産を持っていない世帯が多いのが実態である。こうした世帯では、実際「老後への不安」が存在する。福祉・医療共に低所得者向けの施策も様々に存在するので、直ちに生活に行き詰まる可能性は低いが、不安と常に向き合って行かざるを得ない世帯が多くあることも理解しておかなくてはならない。

 

 さいごに

 それでは、実際に必要な「老後資金」はいくらなのであろうか。2000万円あれば足りるのか。または全く不足なのか。

 当然個人差が大きいので、一律に示すことは難しい。インターネット上の情報で、現役時代の生活レベルを維持しようとすると、10〜20年程度で資産が枯渇するという指摘を目にすることも多い。その指摘は確かに正しいが、実際には現役時代のままの生活を送っているシニアは実は少ない。家計調査でも、収入(年金や就労による収入)の枠内で、生活のやりくりをしている世帯が大半である。もちろん介護・医療で思わぬ支出が必要になることもある。有料老人ホームに入居することなど特別費用を要するものを考えなければ、十分かどうか議論はあるものの、一定の社会的セイフティネットの仕組みもあり、過度の不安は実際上も抱いていない世帯が多いのも事実である。つまり2000万円の蓄えは、実際上不要の場合も多くあるのである。

 なお、この調査結果は金融資産に限定しているので、自宅などの固定資産は含まれない。シニア世代の大半が自宅(それも一軒家)を保有している事実があり、実際の資産を考える上では、固定資産を含めて考える必要がある。

 

 


あなたは何歳から年金を受け取りたいですか?

2022年09月02日 | ライフプラン

あなたは何歳から年金を受け取りたいですか?

 

 2022年4月より、公的年金の繰下げ受給を選べる年齢の上限が従来の70歳から75歳まで引き上げられた。繰り下げは、1か月単位で繰り下げることが可能で、月当たり0.7%増額になる。一方繰り上げ受給も従来から可能であり、最短60歳から年金を受け取ることが可能になっている。この繰り上げの場合の減額率は、2022年4月より、月当たり0.4%となった(1962年4月2日以前生まれの人は、0. 5%なので注意が必要)。仮に60歳から受給すると、元々65歳から受給する年金額が24%減少することになる。

 

 MUFG資産形成研究所が実施した調査では、65歳から受給したいとする人が43%あまりと最も多く、次いで66歳以降への繰り下げの意向が約28%となっている。この間厚生労働省を始めとして、繰り下げ受給できることが繰り返しアピールされており、4人に1人以上が繰り下げ意思を持つようになっている。一方、60~64歳での繰り上げ受給についても約11%がその意思を持っているようだ。

 これを年代別に見ていくとさらに違いが生じる。繰り上げ受給の意向は、20歳代が最も多く、年齢が上がるほど減少し、60歳代が最も少なくなっている。60歳代では、65歳からの受給開始意向が最も多く、全体の6割以上である。一方、繰り下げ意向は4人に一人であり、他年代と比べて決して高いわけではない。年金受給が間近になるほど現実的な考え方になり、繰り上げ意向が減少し、わからないという回答も減少していく。20歳代からすると年金受給まで相当な期間もあり、将来的な年金不安も大きく、なるべく早く受給したいとの考えに傾くのであろう。

 

実際の繰り上げ、繰り下げ状況はどうだろう

 老齢厚生年金の場合、2020年時点で繰り上げ受給している人の割合は0.5%に留まるが、国民年金だけの場合は、28.2%に上る。これは国民年金の場合、自営や非正規、もしくは無職で受給している人が多く、早期に年金受給して生活安定を図る方策として繰り上げ受給を望む人が多いことを現している。

 一方繰り下げ受給は、老齢厚生年金の場合1%とこれまた少ない水準に留まっている。65歳までの雇用延長している人の多くが仕事を辞めるパターンが主流の中では、繰り下げする余裕がどれだけあるのかが鍵になる。国民年金だけの場合も1.7%と割合としては少ない。こちらも繰り下げる余裕の有無が最大の鍵である。

 

繰り下げのデメリットもちゃんと考えて

 繰り下げ受給はメリットばかりではない。デメリットになりうることもあるので、よく考えて選択したい。具体的には、老齢厚生年金を繰り下げ受給すると、繰り下げ期間中は加給年金が受給できなくなる。加給年金はいわば年金の「家族手当」のようなもので、厚生年金の被保険者が65歳到達時点で、生計を維持している65歳未満の配偶者、18歳到達年度の末日までの子(または1級・2級の障害がある20歳未満の子)がいる場合に支給される制度である(他にも条件があるので、具体的には専門家に相談すること)。また、繰り下げ期間中に亡くなってしまうと繰り下げは適用されず、65歳からの年金支給分での支給になる。

  さらに、当然支給期間が短くなるので、長生きすれば確かに月々の受給額が増えるが、早く亡くなってしまうとメリットにはなりにくい。相対的には、女性の寿命の方が長いので、繰り下げ効果が得られる可能性が高いとは言える。

 

自分のライフプランに合わせて適切な選択を

 年金の繰り下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げることもできる。また、繰り下げの手続きはいたって簡単で、65歳になる時に年金の請求手続きをしなければ良い。自動的に繰り下げ待機になり、65歳以降年金受給するために請求手続きをする時に、繰り下げ受給を選択すれば、その時までに増額された年金を受給できる(未支給分をまとめて受給もできるが増額にはならない、一部特例あり)。

 急いで決める必要は無いので、繰り下げしても生活維持できる状態であることを前提にしつつ、年金受給タイミングまでに心づもりをしておこう。

 

※ MUFG資産形成研究所 「金融リテラシー1万人調査」

     20~60歳代の企業勤務者8,500名のWeb調査

  厚生労働省 令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況、2021年12月


シニアお一人様の家計実態

2022年08月26日 | ライフプラン

シニアお一人様の家計実態

 

 生涯未婚率が徐々に上昇してきている。これにより年齢の高い層でのお一人様が一貫して増加しつつある。今後、65歳以上のお一人様も増えていくことが想像される。こうした人たちの家計実態はどのようなものであろうか。家計調査の2021年実績から迫っていくことにする。

前提条件として

 前提条件としていくつかパターンを想定する必要がある。家計調査で65歳以上区分の平均年齢は76.7歳となっており、多くの人が職業に付いていない。また、持ち家率が平均で75%を越えており、女性の方が有意に持ち家率の高いことが実態である。この違いは、住居費に大きな違いとして現れる。おひとり様で民間住居を賃貸している人の住居費は5万円程度であるが、持ち家(それも多くは一軒家)の人のそれは、1.2万円程度で大きな違いとして現れる。つまり、おひとり様は、元からお一人様の人と、死別・離別等でお一人様になった人の2パターンの存在を示しており、この家計調査結果では後者のパターンが大勢を示していると考えられる。

 また、統計上は男女別の人数以外の数値が出ていないので確認できないが、死別した女性のお一人様の場合、住民税非課税になっている割合が高く(遺族年金は非課税)、直接税の平均が年間7.2万円余りと低めに出ていることも考慮すべきである。また、住民税非課税であると介護保険料も半額以下に抑えられ、後期高齢者医療保険料も減額されるので、年間社会保険料も抑えられる。このため平均年間約7.4万円は低く抑えられている金額である。この年代の女性は専業主婦や非正規労働者として就業していた人が多く、年金受給額が少ないことによる影響である。

今後正規労働者として就業していた男性・女性が65歳を迎える段階での年金受給額と非消費支出とは異なるので、注意が必要だ。

家計の収支は

 さて、65歳以上の単身無職世帯の実収入は、13.5万円(年間162万円)となり、既に勤めによる収入はなく、年金収入がほとんどである(一部自営業で収入を得ている人もいる)。また仕送りを受け取っている人も存在する。

 これに対して、非消費支出(税金・社会保険料)は、月1.2万円(年間14.7万円)は低く抑えられている。ちなみに夫婦のみの無職世帯は年間36.8万円であり高くなっている。

 これにより、可処分所得は12.3万円となる。一方、消費支出は13.2万円であり、収支は9400円(年間11.2万円)の赤字である。大幅赤字ではないので、ある程度の金融資産があれば、計画的に取り取り崩していくことで問題なく生活を送れるという判断もあり得る。

 

 消費支出の主な項目は、次の通り。

  食費   3.6万円  外食含む。夫婦二人では、6.5万円
             人数が減っても半分にはならない

  住居費  1.3万円  持ち家の割合が高いため

  水光熱費 1.2万円  夫婦二人では、1.9万円 
             人数が減っても半分にはならない

  交通通信 1.2万円  ガソリン代やバス電車代、そして電話・携帯代金

  保険医療 0.8万円  通院(1割負担が大半)と介護(一般的なサービス)
             ならこの程度

  交際費  1.5万円  

  諸雑費  1.3万円

 現在の自身の支出額と照らして見てみると、特別高かったり、低かったりしないのではないだろうか。年齢なりに質素でありつつも堅実な生活を送っていることがうかがわれる。

住宅と介護の費用

 住居費は、先に述べたように持ち家でない場合やマンション住まいの場合は、これより多い金額を考える必要がある。

 一般的に不安要素として挙げられる介護費用は、介護認定の度合いにもよるが、一般的な在宅・施設介護サービスを受ける範囲であれば、それほど多額の費用は必要としない。介護保険の上限までサービス提供受けたとしても、介護度5で月額3.6万円(1割負担)を越えるサービス利用するケースはまれだ。要介護4~5で特別養護老人ホームに入所すると、全部で月額12~15万円程度必要になるが、その分食費が不要になるなど実際的に必要になる金額は変わってくる。また一般的な入所期間は概ね2年程度であるので、必要な金額もある程度計算できる。仮に4~5年になっても、打つ手は様々にあるので、あまり心配してもしょうがない。

おわりに

 お一人様の場合、不安要素も多いと思われるが、こうした実例をもとに、自分なりのシミュレーションを立てておくと、無駄な心配をしなくて済むであろう。世の中、不安を煽るような言説もあり、冷静に考えることが大切だ。特に不安に乗じてサービス(民間の「介護保険」など)の契約をするのは、冷静に考え、専門家に相談したりして判断していくようにしよう。

 

<参考資料>

家計調査年報(家計収支編)2021年(令和3年)、総務省、2022年8月

 

 

 

 


定年後の働き方と生活

2022年07月10日 | ライフプラン

定年後の働き方と生活

 

 定年後の働き方を皆さん、どう考えていますか?

 定年後の就業に関して、国の政策は高年齢者雇用安定法に基づき実施されている。高年齢者雇用安定法は、2012年改正によって、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保を義務とした。さらに2021年4月からの改正により、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの就業機会の確保を事業主の努力義務とした。これにより次のいずれかの措置が求められることになった。ただし、対象は、当該労働者を60歳まで雇用していた事業主となるので、少し注意が必要だ。今のところ③を採用する事業者が多いようで、①②を採用する企業は少ないと見られる。

① 70歳までの定年引き上げ

② 定年制の廃止

③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 

 これらの施策により、現在は、多くの企業において、定年自体は60歳としながらも、継続雇用制度を設けて、65歳までの雇用を確保しつつ、さらに70歳まで働ける様にしていく制度が整えられつつある段階であろう。一旦60歳定年を契機にして退職して、再就職すると70歳までの雇用は一義的には確保されなくなるので、再雇用を目指す人は増えることになる。そして今後も多くの人は60歳を区切りとして、再雇用による雇用の継続をする選択をしていくことになると考えられる。

 現在公的年金の支給は、ほぼ65歳からとなり(特別支給の老齢厚生年金支給対象者を除く)、60歳以降も生活を維持するために、仕事を続け、収入を得なければならない事情も働く側にある。また65歳になって公的年金を受給することになっても、生活水準を維持して、老後の安定的な生活を考えると、70歳まで働くことを選択せざるを得ないと考える人も多くなっていくことが想像される。

 こうなると60歳で一旦定年した後も、70歳まで働き続けることを自分の中でしっかり考えていくことが必要になってくる。定年後の10年間の働き方は、どのように考えたら良いのだろうか。

 このことは、働く人だけの問題ではなく、雇用者側もしっかり考えて、これからの超少子高齢化社会の中での仕組みを作っていく必要がある。

 

雇用の選択肢

 リクルートワークス研究所の調査(2019年時点)によると、55歳までの就業スタイルは、正規職員(56%)が最も多く、次いでパート・アルバイト、そして契約・派遣職員となっている。

 55歳以降正規職員の割合が大きく減少し始め、60歳時点では正規職員(38%)が一番多いものの、パート・アルバイト、契約・派遣職員の構成比が上昇し、嘱託職員の割合も増えてくる。これが65歳になると、最も多いのはパート・アルバイトとなり、正規職員(20%)は大幅減少し、契約・派遣職員とほぼ同じ水準になってしまう。ちなみに70歳では正規職員は10%である。単純に正規職員を良いものとする訳ではないが、いずれにしても非正規労働者の割合が年齢上昇と共にどんどん進んでいくことになる。

 これまでのところ、65歳までは定年まで勤めていた雇用者での継続雇用(ただし非正規労働者となる場合が多い)となり、仕事の内容含め全く新しい業務に従事する可能性は相対的に低いと思われる。むしろ今までと同じ仕事をしていて、給料だけが下がった、という人も存在する。それでも少なくとも5年間は雇用が維持される可能性が高く、非正規であっても雇用が維持されるケースが多い。

 今後70歳までの雇用維持が社会的課題となっていくが、年金受給額との関係で、働きたいという意欲は強くなっていくと考えられる。既に65歳まで仕事を続ける人が主流になりつつある中、今後は70歳まで働きたいと考える人が増えていくのは間違いない。

 

65歳以上の働き場所と働き方

 一般的に言って70歳代前半までの高齢者は元気な人が多く、とても活発でもある。アクティブシニアという言葉があり、概ね65〜75歳程度の人たちを指している。介護が必要になるのは、多くの人が75歳以上であり、女性の場合はさらに80歳以降の話である。

 そういう意味で、65歳以上であっても働くことについての身体的問題は、全体としては小さいと見られる(もちろん個人差はある)。問題は、65歳以上の仕事内容と働き方である。

 

 60歳定年を迎え、再雇用となった人の多くは、1年単位の契約職員となっている場合が多い。この人が65歳となると多くの場合は、それまでの契約と異なる雇用形態になることが増えていくことが見込まれる。これは同じ契約で6年になると、事実上期限の定めのない雇用契約となってしまうことが背景にある。まだ70歳までの継続雇用の仕組みを整備していない事業者も多いが、70歳までの雇用契約は、それまでよりも賃金水準が下がっていくことも増えると考えられる。年金受給との関係では、年金受給と合わせて月額47万円以下であれば、年金受給が減額されることはない。

 それまでの仕事を離れて、自分で仕事を探す場合はやや難易度が高くなる。それは従事できる職種が限定されていると言うことである。残念ながら、一般的な事務職の募集は少なく、特定のスキルがないと、清掃・警備・福祉・運輸・建設・サービスなど一定の職種に限定されがちになってくる。これらの職種は、総じて労働集約型の業務で収入レベルも高くない傾向にある。今後65歳以上で働く人が増えていく中で、従事できる仕事の幅を広げて、様々なジャンルで活躍できる様にしていくことが社会的にも求められている。

 

 もう一つは働き方の問題である。元気とは言え65歳を過ぎると、若い頃の様な働き方はだんだん出来なくなってくる。要は、無理が効かなくなってくるのである。フルタイムで週40時間働き続けることはできるものの、少し体を休めながら仕事をしたいと考える人は、事実多い。それまで仕事人間だった人も、趣味に時間を割くなど、精神的にゆとりの得られる仕事の仕方を望んでいる人は統計上でも多くなっている。

 これも働き方改革で、自分のライフプランに合わせて、自由に働き方を選択できる様になっていくことが望ましい。

 

 


働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 (下)

2022年06月17日 | ライフプラン

「働かないおじさん、働かないおばさん」を生んでしまう寂しい社会 <下>

 

それではなぜ「働かないおじさん」「働かないおばさん」が生まれてしまうのであろうか?

この問題には、ひとつは雇用者側の問題であり、もう一つは働く側の問題の双方がある。

雇用者に求められること

 現在の状況では、人生100年時代と言われる環境下で、人は70歳を越えて働き続ける体を持ち合わせる様になってきている。また、急速な少子高齢化が進行する中で、若い世代だけを取り入れて組織の新陳代謝を図ることが困難になってきている。そのためにDXによる仕事改革を進めるとして、それだけで解決し得ない部分も相当残ることが想定される。団塊ジュニア以下の非正規労働者群を戦力化することも検討しうるが、経験を積むまでには一定の時間と労力を要する。

 こうした状況下では、中高年のキャリアプランニングをしっかり考えて、雇用者が中高年を戦力としていくことが必要な課題になってきている。また、これまでの経験を生かしながら、起業などを通して社会に送り出していくことも大切だ。

 そのためにも、雇用者側の役職定年や定年後再雇用となった人の担当する業務に関して、これからどのような役割を果たしてほしいのかという業務指示なりコミュニケーションを、十分に図っていくことが重要だ。「役割」とは、単純に従事する仕事内容に留まらず、職場や組織の中で果たすことが期待されている役割である。こうしたことについて,事前に丁寧に面談などを通して丁寧に話し合って、お互いに納得できるようになることが望ましい。

 当然雇用者側は、事前にきちんと準備して相手の希望も踏まえて進める必要があり、簡単な話ではないが、これができている、いないで大きな違いが生じてしまう。また再雇用する人向け仕事をきちんと整理し、同時に再雇用者でもチャレンジできる仕事を準備することも始められている。これらをおろそかにすると、モチベーションの低下を容易に招いてしまう。

 賃金水準の問題もある。同一労働同一賃金の原則は、定年後再雇用にも適用されるので、例えば定年前の60%の基本給を下回るのは違法とする判例も出されており、雇用者側の現行規定をよく確認する必要がある。また、定年前と実質ほとんど変わらない業務に就いているにも関わらず、給与支給水準が大きく減少する場合も合理的な理由が出来る様にしなければならない。これらについて、きちんと説明ができないと、この点でも容易にモチベーションの低下を招いてしまうことになる。

 なにも、好きで「ボーっとする」、「無駄話」しているわけではない、という声もあるのではないだろうか。雇用者側がモチベーションを維持して働き続けられる環境整備をおこなっていく必要は大きくある。

 

もうひとつの問題は、働く側の問題である。

 先の調査によると、「今後働くために重要だと思うこと」について、60歳代前半の男性は、「順応性がある」「パソコンなどの操作」「コミュニケーション能力がある」「判断力がある」「柔軟性がある」が上位にきている。女性は、「理解力がある」「体力がある」「コミュニケーション能力がある」の順となっており、男性とはちょっと異なっている。

 さて、実際はどうであろうか。重要だと思いながらも、それを実践できていないことはないだろうか。そうしたいことと実際に出来ていることには、往々にして乖離が生じるものである。例えば、タイ年前まで部下を持ち、もっぱらマネジメント業務に就いていた場合、立場と仕事内容が大きく変わってしまう、再雇用では年下の上司の下で仕事に就き、業務指示を受けつつ、他のスタッフと連携を取り、自らコミュニケーションを図りつつ、環境に順応し、柔軟に対応して仕事を進めることが求められる。これに対応できているだろうか。

 また60歳定年前から、定年後の自分のキャリアプランについて考えていたであろうか。現在は、人生100年時代を睨んで、70歳代から100歳近くまでの人生のあり方を考えなくてはならないようになってきている。自分は何歳まで仕事を続けるのか、その後の人生のあり方をどのようにしていけば良いのかを考えて、実践していくことが必要になる。自分のやりたいことは何だったのか、これから実現したいことは何なのか、定年前から考えて、必要に応じて準備を開始していくことが大切だ。必要であれば資格取得して、第2の人生を歩むこともあるし、ボランティアとして社会貢献していくことも選択肢のひとつだ。

 特に女性は、既に自らが90歳になった時に、半数がまだ生存している時代に入っている。この年代だと、例え夫いても生存している可能性は、4人に1人またはそれ以下になっている。多くは、お一人様になっている可能性が高い。このことを念頭に、自分の仕事や人との関係づくりを考えていく必要がある。

 

 「働かないおじさん」「働かないおばさん」ではなく、「仕事もするし、人生輝く人たち」となれるようにしていきたいものだ。