もく窓

~良い映画と究極の手抜き料理を探して~  

マッチポイント

2007年04月26日 | 映画 TV・DVD
 ランク:銀  監督/脚本ウディ・アレン  2005年
”テニスのコードボール。ネットに当たったボールが、向こう側とこちら側のどちらに落ちるか。
勝敗は運命が決め、人生はコントロールできない ”

おー、最後の最後にこう来ましたか。うーん、おもしろかったです。
途中ありきたりな展開と見せておいて、最後まで観るとマッチポイントという題名や映画の始まりのコードボールの講釈が活きてきて、見事な構成に唸ってしまいました。
マッチポイント、いったい誰と誰の試合だったのでしょうか、どちらが勝者になったのでしょうか。
アイルランド出身の腕一本のテニス選手クリスが、英国の上流階級の娘クロエと出会います。場所はコヴェントガーデンのロイヤルオペラハウスのボックス席、演目はヴェルディの「椿姫」、クロエの眼は舞台ではなく後ろにいるクリスへ向けられます。この時、舞台ではアルフレードがヴィオレッタに恋心を歌っています。他にもヴェルディの「トロヴァトーレ」「リゴレット」「オテロ」、ビゼーの「真珠採り」、ロッシーニの「ウィリアム・テル」から名曲の数々が場面に応じて使われています。エンリコ・カルーソの歌声です。ホセ・クーラやリチートラなど最近のものしか聴いたことがなかったので古いレコード盤の持つ魅力を知りました。エンリコ・カルーソはナポリの貧しい労働者出身で美声一つで世界を制した方だそうです。この映画の主役クリスに通じるものがありますネ。
指輪が欄干に当たり跳ね返ったのに気付かないクリス、不運かと思わせておいて最後のどんでん返しの強運。マッチポイントを制したように見えるクリスですが笑顔はありません。
映画の始まりにも終わりにもドニゼッティ「愛の妙薬」の"人知れぬ涙"が使われていました。"人知れぬ涙"をこの映画の鍵と捉えて人知れぬ涙を流したのは誰かと考えると、夫の浮気に気付かぬはずはないと思うのでクロエではないかと思います。赤ちゃんも授かったクロエがマッチポイントを取ったんじゃないでしょうか。
マッチポイントの結果はどうであれ、運が人生を支配するとしたら、どういう環境に産まれ落ちるか、まずこれが人生最大の決め手でしょう。人生はコントロールできない。はぁー、我が身を振り返ってしまいました。

この映画、さすが強迫性障害を持つアレン監督と思わせるくらいに細かいところまで神経が行き届いていていろいろな面から楽しめました。
何と言っても金持ちのキャビアネタ、タイタニックでも出てきてましたね。ワインのほうは下戸なので分かりませんが、キャビアブリニ、夢に見そうです^^。いつもイクラ食パンで代用している私にはクリスが上流層に惹かれるのが痛いほど分かるってもんです^^。トムさんのセーター、カシミアと思いきやビクーニャなんですネ。
日本ネタ、、、なんだかちょっとバカにされてるようで、感じ悪かったです。
日本といえば殺されたお婆さんの部屋に古伊万里の模造品がありましたね。ちょっと高価な感じがするし陶磁器なので割れる怖さがあり、あの場面の緊張感を盛り上げるのに良い小品でした。
クリスが読んでいたドストエフスキーの「罪と罰」、クリスはケンブリッジの文学手引書を引用しクロエの父親にドストエフスキーの講釈を垂れて株を上げますが、実は「罪と罰」を自分の完全犯罪のヒントに使うような男です。犯行直後に多少動揺したり悪い夢を見たりしますが、どう見ても自首するとは思われません。ただちょっと気になったのが、新居にあった大きな男の顔の画。暗い画で新居の明るくスッキリとした雰囲気にそぐわないこと甚だしいです。いったい誰が描いた何という画でしょうか。アレン監督が拘って選んだ一枚でしょうから、何か意味がありそうで気になりました。
刑事役で出てきたジェームス・ネスビット、とぼけた感じは「ウェイクアップ!ネッド」の豚飼いのフィン役の時と同じで、出てきただけで嬉しくなっちゃいました。

(追記) マッチポイント、この1点で勝敗が決まるわけではないのですネ。デュースに持ち込む、これを忘れていました。映画を観たあと、誰が勝者になったのだろうかばかりを考えて何だかモヤモヤしてたのですが、ゴウ先生の映画評を読んで分かりスッキリしました~。人生はマッチポイントの取り合い、デュースへ持ち込み合いの応酬で続いていくんですね。アレン監督、さすがです♪

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBさせていただきました (kiyokamomo)
2007-04-28 16:35:45
始めまして!
私も、監督の「最後はこおくるか的結末」に思わずうなりました!
前半は、よくある内容でしたけど、後半はなかなか面白かったです~指輪が川に落ちずに地面に落ちてしまったなんて!冒頭のテニスボールとダブらせてるんですね~見事だな~って思いました。
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>kiyokamomoさんへ (もく)
2007-04-29 00:01:37
ご訪問ありがとうございます。
アレン監督のこの映画、ホントに見事でしたね。
映画の冒頭で、男は人生の深淵を覗き、つぶやく。
「I'd rather be lucky than good ...」
"優秀であるより、むしろ幸運でありたい”
英語は苦手なので下手な訳でゴメンナサイ。
映画の最後でクロエの赤ちゃんにも同じことを言ってましたネ。
確かに人生は運不運が大きく作用するなあとつくづく考えさせられた映画でした。

kiyokamomoさんのブログ、お花の写真がとてもきれいで素敵です。花見山、まさに桃源郷ですネ♪
TBさせて頂きました。


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こんばんは。 (ジョー)
2007-04-29 22:59:20
コメントありがとうございます。
何歳になってもウディ・アレンはウディ・アレンていう感じで、我々を裏切らない監督ですね。たいしたもんです。
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>ジョーさんへ (もく)
2007-04-30 22:22:30
ウディ・アレンの作品を最後まで観たのはこれが初めてでした。これからいろいろ観てみようと思ってます。多作な方なのでどれから観ようか迷ってしまいます。
ウディ版ロード・オブ・ザリングに続く次回作ウディ版ハリポタ!?も楽しみです♪
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早速お邪魔しちゃいました♪ (fizz♪)
2007-05-03 00:46:11
その上TBもさせて頂きました。
もくさんは作品の細部にまでご覧になってて、素晴らしいですね!
それにオペラに詳しいですね。
私など、『耳に残るは君の歌声』に使われていた曲だけど何だっけ…ってな調子ですもの(恥)

>クロエがマッチポイントを取ったんじゃないでしょうか
なるほど~ クリスがあのまま自身を殺して生き抜けば、クロエはすべてに恵まれた幸福な妻ですものね。
実に皮肉ですね。
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>fizz♪さんへ (もく)
2007-05-03 09:12:03
ご訪問感謝です♪
オペラは好きですが詳しくないんですよ~。
私がわかった曲は「愛の妙薬」の"人知れぬ涙"と「真珠採り」の"耳に残るは君の歌声"だけで、あとは相方に教わりました
ところでスカーレット・ヨハンソン、立ち昇る色香は羨ましいほどでした (^^。また、理性でなく感情で行動する性格や後半のアルコール中毒のような視線など演技にも圧倒されました。強く惹きつけるけどすぐに飽きて捨てられてしまう悲し~女性を見事に演じてたと思います。あれだけ理性的なクリスが短絡的に殺人へ走ったのは、ノラの脅迫を止めるためだけではなくノラに対する失望がクリスを犯罪へ駆りたてたんでしょうな。などとあれこれ思い出してまだ楽しんでます♪♪
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遅ればせながら、コメントです。 (アスカパパ)
2007-09-21 11:19:00
先日はコメントありがとうございました。
遅ればせながら、もくさんのレビューを拝読しました。
ほんとうに、オペラの場面が多くあって、断片ながらオペラ・ムードを楽しめましたね。
ところで、可哀想なお婆さんの部屋にあった陶磁器のことなど、もくさんらしい鋭い観察には、相変わらず感嘆させられる私です。
なお、
ウディ・アレンの腕そのものは認めますが。私の性分には合わなかったこの映画でした。
が、この翌日に観た『太陽』で、すっきりした気分に戻れた私でした。
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>アスカパパさんへ (もく)
2007-09-22 00:18:10
確かに、"人間の弱い"部分や嫌な部分を見せられたうえに人生は運で決まるというんだから、見終えたあと何だかモヤモヤして後味の悪い思いをしました。ブログに書いて少し気持ちを切り替えられましたが、消化するのに手間取りました~。

アスカパパさんは翌日に「太陽」をご覧になってラッキーでしたネ♪
純粋培養ゆえの無邪気さと明晰さを持った孤独な天皇をイッセー尾形は見事に演じていて、何か上手く言えませんが不思議な映画でした。運命を静かに受け入れて自分の果たすべきことを誠実に果たす姿が印象に残っています。もう一度観て見たい映画です。

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