曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・はむ駅長(19)

2014年02月03日 | ハムスター小説
 
せまい小部屋で、3人が無言で立っていた。羽祐は姉を見つめ、その姉は大男を見つめ、大男は羽祐を見下ろしていた。
「じゃ、あ、ボクは車の中でさ、待ってるので、兄弟でお話してください、どうぞ」
沈黙に耐えかねて男がそそくさと去って行った。
 
残ったのは姉と弟で、ようやく姉の夕子が羽祐に視線を向けた。
「車?」
「そう。彼の車で来たのよ」
「彼?」
「え、うん、そう」
不貞腐れた感じで夕子が言った。
「せっかく来るなら、丸花鉄道を使ってくれればいいのに…」
羽祐は小さく言ったが、夕子はそれには答えなかった。
「まったく。姿くらましたと思ったら、こんな田舎の駅に住み着いて。いったいどういうつもりよ」
やはりそう話が行くか、と羽祐はため息をついた。姉と顔を合わせたときから想像できていたこととはいえ、やはり気が重いことだった。
「だいぶ探したんだけどね。もうバカなことやってないで帰ってきなさいよ」
「それはムリだよ。ここで働いてるんだし」
「働いてるって、社員なの?」
「え、い、いや、まだ社員じゃないんだけど…」
「じゃ、アルバイト?」
「うーん、まぁそんなもんだけど…」
駅に愛着を持ち、さまざまな業務を自主的にこなしている羽祐としてはアルバイトという言葉は違和感があった。しかし自分の立場を的確に表現する言葉が見当たらない。客観的に見れば、たしかにアルバイトという言葉がいちばん合っているのだ。
 
もうすぐ列車が到着する。それまでに、絶対帰らないときっぱり言って決着をつけたかった。知っている顔に見られるのもイヤだったし、いつものように業務を行いたかった。しかし羽祐に対し居丈高な姉に、なかなか言葉が出てくれなかった。
「父さんも母さんも心配してるんだから。家族の代表で来たのよ、わたし」
夕子は羽祐を睨みつけ、膠着状態となった。
そして遠くから、列車の音が聞こえてきた。