ひこにゃん×ひこにゃん ブログ 彦根にひとつだけの花

ひこにゃん それは古城に住まう心清きみんなのねこ

いちファンの綴るレポート&おとぎばなしのブログです☆

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インターミッション XXV

2010-09-21 19:01:36 | 彦根ノムコウ
復活を祝って、”【妄想】ひこにゃん”に捧げます。












「しょれ!」


1600年の彦根寺より再び表御殿の自室に戻って来た
現在のお家元とタイガーしゃん。


「おかえりなしゃい、キッカリ5分でしゅ!・・・・・・お家元、首尾は?」


グッ!




「そりは重畳でしゅ」


彦根寺には小一時間ほど滞在していましたが、現在へ戻った時間は旅立ってから僅か5分後でした。
時刻は16時を回ったばかりです。



「あい、こりで心残りは全て清算でしゅ。
 お家元、未来からの援軍どもでしゅ」


「・・・・・・・・・・」


まだ真剣な表情を崩さずに無言でいる未来のお家元に
現在のお家元は何かを感じました。


「・・・・・・・どうかしたんでしゅか?」


「・・・ひこにゃんが今回来たのは”タイム・スリッパ”の伝授と”切り株”を
 届けに行ってもらうのが本当の目的ではありましぇん。
 実はもっと大事な用があるんでしゅ!」


現在のお家元とタイガーしゃんは息を呑みました。










C/W     ~切り株の謳・後編~
(カップリング・ウィズ)
     &
Your Song 儂の謳はそなたの謳
序章 ~密命・おおたににゃんぶを護れ!~






















2010年9月某日
彦根城 表御殿










「ちょっと失礼しましゅね」


未来のお家元は現在のお家元に断わって本棚から一冊の本を取り出しました。


「そりは・・・・・」




お家元が以前読破した解説本・”ぬこでもわかる関ヶ原の戦い”でした。


「お家元はこの本の記述をほぼ覚えていると思いましゅけど
 ”おおたににゃんぶ”の最期の記述を読んでもらってもいいでしゅか?」


「にゃんぶの最期でしゅか?
 確か小早川隊の攻撃に抗った後に自決したんでしゅよね・・・」


お家元はほぼ暗記していましたが、指示の通りに
その記述のページをパラパラとめくりました。


「ありました、こりでしゅね。
 ・・・・・”大谷刑部はもはやこれまでと判断すると
 業病で崩れた顔を敵に曝さぬように頼むと、自ら腹を切った。
 家臣の湯浅五助は介錯して首を落とすと、近くの土中に密かに埋めようとしたが
 藤堂隊の手の者に見つかり、大谷刑部の首を奪われてしまった。”
 
 えっ・・・・・・!?

 ”大谷刑部の首は戦の後、京の三条河原に曝され、その首を見た多くの人々は
  様々な思いを抱いたという。”


 ・・・・・・しょんな・・・にゃんぶの首はちゃんと埋められて、見つからなかったはずでしゅ!
 ひこにゃんが関ヶ原に行く前にはこんな記述はなかったはじゅ・・・・・・・・・・・・」


「・・・しょう、お家元が”行く前”にはなかったんでしゅ」


「ましゃか・・・・・・・ひこにゃんのせい?」


「おしょらく・・・・・・」


「でも、でも・・・・・ひこにゃんが関ヶ原に行った時にはにゃんぶと会ってはいましぇんよ?」


「確かにひと目たりともにゃんぶとは会ってましぇん。
 こりはひこにゃんの推測でしゅが、歴史は直接関わっていない所にも影響が出てしまうようでしゅ。
 本来関ヶ原にいてはいけないひこにゃんが存在してしまった事で
 巡り巡ってにゃんぶに影響が出てしまったんじゃないでしゅかね・・・・・
 俗にいう”バタフライ効果”でしゅ・・・」


お家元が最も畏れていた”タイム・パラドックス”が起きてしまいました。


「どうしたら・・・・・・・」


「変わってしまった歴史は元に戻さなければいけましぇん!
 お家元、にゃんぶの名誉を護るため、再び関ヶ原へ向かって下しゃい!」




未来のお家元は言葉を濁さずに告げました。
けれどこればっかりは現在のお家元はすぐには返事が出来ませんでした。
当然です、今回つきまとう危険はお家元の命にさえ関わる、過去に例をみないものだからです・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひこにゃんに出来るでしょうか・・・・・・・

 !!・・・・・お家元がここに来たって事は、にゃんぶの元から戻ったという事でしゅよね?
 結果は?結果はどうだったんでしゅか?」


「・・・・・それはお家元にはお話出来ましぇん。
 イジワルで言ってるんじゃありましぇんよ、成功か失敗のどちらでも
 お家元のためにならないからでしゅ!

 ・・・・・・仮に成功したと分かったら、お家元は結果に安心して
 どこかで油断してしまうかもしれましぇん。
 また失敗しゅると分かっていたら、とても頑張る気にはなれましぇんよね。
 
 お家元には力の限りと知恵を尽くして頑張って欲しいんでしゅ!!」








「そういうことでしゅか・・・・・」


横で聞いていたタイガーしゃんは未来のお家元の言葉を、その言葉通りに聞いて納得しました。
けれど現在のお家元は、その言葉から未来のお家元が伝えたい裏の意味を理解しました。


「(ちゅまり、持てる力の全てを傾け、知恵の限りを尽くして
  全身全霊頑張らなければ成功は覚束ないという事なんでしゅね)」


お家元達は無言で見つめ合いました。
それは一瞬のようでもあり、長い時間のようでもありました。


「・・・・・正直自信はありましぇんけど、行きましゅ!自分で蒔いた種でしゅからね」


「そりでこそお家元でしゅ!」


お家元は再び関ヶ原へ向かう決意をしました。
これは笹尾山から戦いを見た経験のあるお家元にとっては、極めて勇気のいった決断でした。
あの日の激戦地の真っ只中に、自ら身を投じる決心は並大抵の勇気ではなかったからです!


「まじゅはどこに向かえばいいんでしゅか?お家元」


「目標年月日は慶長5年(西暦1600年)7月1日、小谷山麓、北国街道へ。
 今でいったら北陸本線の河毛駅と高月駅の間くらいでしゅね。
 目標時刻は正午でいいはずでしゅ。

 この日の約10日前に敦賀城を発したにゃんぶは、みつにゃんの嫡男の重家しゃんとの
 合流地点と決めた待ち合わせ場所の垂井を目指して、一千余の兵を従えて進軍中でしゅ。
 その進軍中のにゃんぶに接触して下しゃい」


「”関ヶ原の戦い”の二ヶ月以上も前に・・・!?
 しかも進軍中のにゃんぶにでしゅか!?・・・・・・そりはまた・・・・・・」


今回のミッションは”関ヶ原の戦い”の当日に解決しなければいけない訳ですから
その日まで向こうにいなければいけない事になります。
また行軍中の軍勢に近付くのは容易ではありませんから、お家元がしり込みするのも当然でした。


「垂井に着く前ににゃんぶに接触した事が、後に大きな意味を持つ事になりましゅから
 向こうに着いたら出来るだけ早くコンタクトを取って下しゃい」


「全て意味があるんでしゅね、了解でしゅ!」


「・・・・・無理難題ばかりでお家元には苦労を掛けてしまいましゅが・・・・」




「何言ってるんでしゅか(笑)
 お家元が通った道をひこにゃんが通らないで済ます訳にはいきましぇんよ!」


この目の前にいる未来のお家元は、既に2度目の”関ヶ原の戦い”からの旅を
終えている訳ですから、他力本願で頼んでいる訳ではありません。
誰よりも苦労を理解した上で頼んでいます。


「頼もしいでしゅ、流石はお家元でしゅ!」


「”ぬこの一念、岩をも通す”でしゅ!」




「ひこにゃんも旅立つ前に、未来のお家元に同じ事を言ったでしゅ(笑)」


「デジャヴでしゅね!」


「うふふふふふふ」


お家元達は笑い合いました。

タイガーしゃんは仕えている主達の頼もしさに身が震えました。


「お家元、今回はかなり長期の旅になりましゅから思い付くものがあったら
 持っていった方がいいでしゅよ。
 ひこにゃんからのアドバイスとして”爪楊枝”はあった方がいいと思いましゅ」


「分かったでしゅ」


現在のお家元は部屋から簡単に持ち物を見繕うと旅立つ気持ちを固めました。


「タイガーしゃん、今回も長く厳しい旅になりそうでしゅが付いて来てくれましゅか?」


「もちろんです!
 たとえこの世の果てに至ろうとも付き従います!」


現在のお家元は頼もしい言葉に、涼やかに笑って返しました。


「お家元、全てが終わったら1時間後の18時に戻って来て下しゃい」


「あい!」


実はこの1時間後にも意味がありました。




「では、いきましゅ!」



「ご武運を!!」



カッ!





お家元とタイガーしゃんは再び”関ヶ原の戦い”に向かうため、1600年へと旅立ちました。





             つづく








次回予告 )


佐吉少年に出会った時よりも、遥かに発展した湖北の町ぶり

夏の日差しの中、北国街道を進軍する大谷刑部の軍勢

新たな旅の幕が開きます。





Your Song 儂の謳はそなたの謳
第一章 ~仁将・大谷刑部との出会い~





























おまけ )



プチ”白いイナズマ”

2010年9月20日  彦根城 表御殿





「あっ!新しいスレが立ってましゅ。
 タイガーしゃんのプロフィも加わってましゅよ!」


「ほ、本当だ!(驚)」





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インターミッション XXIV

2010-09-16 23:20:47 | 彦根ノムコウ
”【妄想】ひこにゃん”に捧げます。









トントン!


「お家元、失礼しますね」


「あい、何でしゅか?秋子しゃん」


「晩御飯のリクエストがあったらお聞きしようと思って」


「秋子しゃんにお任せしましゅ!
 ただ出来るならオカズを1~2品増やして上げて下しゃい。
 きっとお腹を空かせて戻ってくるはずでしゅから!」


「ふふふ、分かりました」


本来なら自分の事なのに、ひと事のようにリクエストしたお家元、
意味ありげに含み笑いで引き受けた秋子さん。


「そりと3日後にお礼に行かないといけない方がいるんで
 たねやのバームクーヘンを用意して貰いたいんでしゅが・・・・・」


「では3日後の朝に焼き立てを買って参ります」


「あっ!そりから~・・・・・」


「お風呂も沸かしておきましょうね」


「!・・・すみましぇんね!」


パタン


「・・・話した事ないのに、秋子しゃんは全てご存知みたいでしゅね(苦笑)」




未来のお家元は感心しました。
お留守番しながら完璧な手配を済ました未来のお家元といい、
才覚揃いの彦根のご家中です。
















Your Song 儂の謳はそなたの謳

C/W     ~切り株の謳・中編~

(カップリング・ウィズ)



















慶長5年(西暦1600年) 9月14日
彦根山 彦根寺













「しょれ!」


表御殿から一瞬のうちに山間の林の中に現れたお家元とタイガーしゃん。


「どーでしょ・・・目標通りの場所と時間に着いてましゅかね?」


二人は林が開けている方を慎重に覗き見てみました。


ガサガサッ


「あ、ありはっ!!」


「お家元!あのお方は・・・!」




「朝成しゃんでしゅ!生きてましゅ!!
 あぁ・・・懐かしいでしゅ・・・・・」


それは彦根寺の境内でお家元とタイガーしゃんが初めて石田朝成と会っているところで、
二人はまだ存命中の朝成の姿に言いようの無い感動を感じました。


「やりやり、ひこにゃんたら緊張して口上がカミカミじゃないでしゅか(苦笑)」


「私なんか挙動不審なんですけど(苦笑)」


410年前(半年前)の懐かしいやり取りを二人が感慨深く眺めていると
やがて朝成の一団に、かつてのお家元とタイガーしゃんは佐和山城へと連れられて行きました。
山門の手前では申し訳なさそうに住職が合掌しながら一団を見送り続けています。


「ぬこ殿、済まぬ・・・・・・・」







住職の後ろから声が掛かりました。


「ひこにゃん達の事は気にしないで下しゃい、おしょさん!
 朝成しゃんや正継しゃんは暖かく歓迎してくりますから、気に病む事はありましぇんよ」


「・・・・・・だと善いのだが・・・・・・」










「どわわわああぁぁーーーーっ!!!???」


「さっきひこにゃん達が約束していたお礼に伺いました、おしょさん!」


「い、今そなたらは連れられて行ったはず・・・????」


住職が慌てて山門を出て参道を覗き込むと、遥か下にまだ一団が見えていました。


「一体どういう・・・・・」


「訳をお話ししましゅから、上がらせていただいてもいいでしゅかね?」


お家元は鈴を叩いて爆笑したい衝動を必死に抑えていました。
ぬこの悪い未来と現在のお家元でした(笑)







住職の自室に通された二人は事情を簡単に説明しました。


「するとそなた達は後の世から舞い戻って来たという訳じゃな・・・?」


「その通りでしゅ」


「正直拙僧には得心し難いのだが・・・・・・・」


「信じられなくても構いましぇんよ(笑)
 今日はこりを届けに来ただけでしゅから」


「佐和山に訴えた拙僧が斯様な物を頂く資格は・・・・」


「しょんな事はありましぇん!
 お陰でひこにゃん達はたくさんのかけがえの無い出会いを果たせたんでしゅから。
 よくぞ通報してくりました(笑)」


「いや、お恥ずかしい・・・(苦笑)」


「だから遠慮なくいただいて下しゃい!」


そう言いながら、お家元は例の物を開け始めました。
住職はその中身が何なのか、ひどくそそられていました。


カパッ!


「???・・・・・・・・・・・・切り株?いや丸太か?」


住職は意外な物に面を食らったようです。


「ぷぷーーーっ、間違ってはいましぇんね!
 こりは南蛮から伝わった未来のお菓子で、たねやの”バームクーヘン”でしゅ。
 南蛮の言葉で”樹のお菓子(ケーキ)”という意味でしゅからね」


「これが食べ物・・・・・」


住職には何層にも焼かれた綺麗な仕上がりは年輪以外に見えず、
表面の砂糖は樹液が固まったようにしか見えませんでした(笑)

けれどお家元がパッケージを破った瞬間、住職を桃源郷かと錯覚させる
嗅いだことのない甘い香りが鼻をくすぐりました!


「これは・・・・・えも言われぬ匂いじゃのう・・・・・・・」


住職は恍惚とした表情で囁きました。
お家元は包丁を借り、半分を3つに切り分けました。
これはちゃっかり便乗した訳ではなく、毒見役を買って出たという事です(笑)


「うん、美味しいでしゅ♪」


「はい、最高です♪」


住職は二人が毒見などしなくても、匂いを嗅いだ時から食べる気満々でした!
おもむろに口に運ぶと・・・


「ふおおおおぉぉぉ~~~、あ、甘い!
 それになんという旨さじゃ!」


「気に入ってもらえて嬉しいでしゅ!」


「いや、これは旨い!このような高貴な味は口にした事もない!
 ・・・・さぞ高価な物なのでは・・・」


「お気になさらじゅに(笑)
 ひこにゃん達の心尽くしでしゅから」


「斯様な物を頂いては・・・・拙僧には過分に過ぎる、
 どうか今宵も当寺に逗留していかれては如何か?精一杯のおもてなしを致すゆえ!」


「いえ、ひこにゃん達はこりで失礼しましゅ。
 でもお言葉に甘えてひとつお願いしてもいいでしゅか?」


「当寺に出来る事なら何なりと!」


「さっき佐和山城へ向かったひこにゃん達があさっての夜明け頃に
 彦根山の麓に戻って来ましゅ。
 そりから丸2日間、その場から動かずに滞在し続けるんでしゅけど、
 何か口に出来る物を運んで上げてもらえましぇんかね?何でも結構でしゅ。
 ・・・・・それにたらふく食べたい心境では無くなっているはずでしゅから・・・」


「心得た!お任せあれ!!」


「忝いでしゅ!
 このバームクーヘンはあまり日持ちしましぇんから、早めに全部召し上がって下しゃいね。
 おしょさん、そりじゃあ!」




「こ、これ、ぬこ殿!大河殿!」


そういって二人を追って部屋の外に住職が出た時には、二人の気配は煙のように消えていました。
住職は狐、もといぬこと虎につままれたのかと思いましたが
部屋にはこの世の物とは思えない至高の切り株(笑)が確かに残っていました。





お家元とタイガーしゃんは確かな達成感を得て、2010年に戻って行きました。
今夜の晩御飯は何だろう♪という想いで帰っていった二人でしたが
秋子さんの作る料理にありつけるのは、遥か先の事になるのを二人はまだ知りませんでした・・・・・。




                         後編へつづく
 


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インターミッション XXIII

2010-09-13 00:28:45 | 彦根ノムコウ
復活を願って、”【妄想】ひこにゃん”に捧げます。










1563年への2度目の”タイム・スリッパ”から戻って数日後、
或る日の午後、お家元が稽古に精を出しているのと同じ頃
タイガーしゃんは表御殿の庭に佇み、その風光を愛でていました。

「なんてのどかで落ち着いた時間だろう・・・・」

お家元の稽古が終わるまではタイガーしゃんだけの時間です。









Your Song 儂の謳はそなたの謳

C/W     ~切り株の謳・前編~

(カップリング・ウィズ)
















2010年9月某日 15時20分
彦根城 表御殿









大名庭園の奥行と風情を楽しんでいたタイガーしゃんでしたが
ある気配をお家元の部屋に感じた瞬間、緊張して振り返りました。


トコトコ・・・


「よいちょ」




お家元が部屋に戻って来ました。


「あれ?」


部屋に駆け寄りながらタイガーしゃんはうろたえました


「(いつの間に15時半を過ぎていたんだろう・・・)」


タイガーしゃんの体内時計では15時半までは、まだ余裕があったように感じていました。
焦っていたタイガーしゃんは博物館の入り口の方から上がり続けている
お弟子さん達の歓声が途切れていない事に気付いていませんでした。




「お家元、お稽古お疲れ様でした。」


言いながら部屋の中の時計の時刻を見たタイガーしゃんは少々驚きました。


「????・・・お家元、まだ15時半前ですけど、どうかされたんですか?」


明らかにいてはいけない時間にお家元が部屋にいます。


「お稽古の方は心配ありましぇん!
 でもタイガーしゃんには先に説明しておきましゅね」


「???」


お家元はタイガーしゃんにある事情を打ち明けました。











「ふ~今日も無事お稽古終了でしゅ♪」


「ひこにゃん、じゃあまたあさってね」


「あいあい、お疲れさんでしゅ」


一日の稽古を終えてスタッフさん達と別れ、表御殿に戻ったお家元が
自室の襖を開けました。


ガラッ!


「ただいま、タイガーしゃん!」




「あい!」



ビクッ!!




「そりゃあそーですよね・・・」




お家元が二人います!!


「だっだりでしゅか!?ひひひこにゃんにそっくりでしゅ!
 ?????・・・・・・・・!はは~~ん、
 ひひひこにゃんに上手く化けたつもりでしょーが、策士策に溺れるとはこの事でしゅ!
 ひこにゃんはそこまでメタボじゃあああありましぇんよ!」


「お家元違うんです!
 このお家元は未来から来たお家元でニセモノとかではないんです!」


「えっ?そうなんでしゅか?
 ・・・・・・ど、どーりでシュタイル抜群だと思いました=3」


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


「・・・・・と、ともかく、お稽古お疲れ様でしゅ、お家元。
 びっくりさせてしまって申し訳ないでしゅ!
 ひこにゃんは3日後の未来から来たひこにゃんでしゅ!
 今日はお家元の悩みを解消しゅるために伺ったんでしゅ」


「!・・・もしかして”タイム・スリッパ”の件でしゅか?」


「しょう!流石はお家元でしゅ!話が早くて助かりましゅ」







実は現在のお家元(今稽古から戻ったばかりのお家元)はある悩みを抱えていました。
それは”タイム・スリッパ”についてです。
ここ半年の間に1600年と1563年の過去へ突発的に飛ばされた事態を受けて
お家元にはある危惧が生じていました。
もしも”タイム・スリッパ”がお弟子さん達との稽古中に襲ってきたら?
というお家元には絶対避けたい深刻な悩みでした。

まさにそんなタイミングで未来の自分がやって来てくれたのですから
予期せぬ頼もしい援軍を得た思いでした。







「お家元はどうして”タイム・スリッパ”が発生しゅるか薄々は気付いていましゅよね」


「・・・・・あい、この前のさきっちゃんとの別れる時の戻るタイミングがあまりにも
 良過ぎたんで、こりはひこにゃんのせいじゃないのかと・・・・・」


「あい、その通りでしゅ!
 ”タイム・スリッパ”はお家元の能力に間違いありましぇん!
 でも安心して下しゃい、
 今日ひこにゃんが来たのは、お家元に”タイム・スリッパ”のコツを覚えてもらって
 お稽古中に消えたりしないためなんでしゅから!」


「そりは助かりましゅ!
 流石はお家元でしゅ!頼りになりましゅ」


「いえいえ、お家元の聡明しゃにはひこにゃんも脱帽でしゅ!」


「いえいえ!」(笑)


「いえいえいえ!」(笑)


「・・・・・・・・・」






「そりじゃあ早速レクチャーに入りましゅけど、いいでしゅか?お家元」


「望むところでしゅ!」


「瞬間移動の出来るひこにゃん達には難しい事ではありましぇん。
 コツは瞬間移動と一緒でしゅけど、移動先のイメージをでしゅね・・・・・・・」


「ふむふむ・・・・・・」



未来のお家元によるレクチャーはそんなに時間の掛かるものではありませんでした。








「・・・とまぁこんな感じでしゅ、大丈夫でしゅか?お家元」


「おしょらく!
 でも実際にやってみないとわかりましぇんね」


「そりじゃあ実践してみましょ!お家元こりを」


「こりは?」


「こりは3日後に秋子しゃんに手配して貰ったたねやのバームクーヘンでしゅ。
 こりを実践がてら、ある方に届けに行って欲しいんでしゅ」


「ある方って?」


「彦根寺のおしょさんでしゅ!」


「!にゃるほど、分かったでしゅ」


現在のお家元は果たせないままになっている約束を忘れてなかったので
少ない言葉でも全て理解出来ました。


「目指す時間は”慶長5年(西暦1600年)9月14日 午前6時30分、場所は彦根寺の境内の外れでしゅ」


こくんこくんと現在のお家元は頷きました。


「タイガーしゃんも一緒に付いていってくれましぇんか?」


「わかりました!」


「帰還の時刻は今から5分後、この場所で。
 お家元が不在の間はひこにゃんがお留守番をしてましゅから」


「あい!」


「そりじゃあお家元、
 5分後に無事に戻ってくるのを祈ってましゅ、ご武運を!」


「あい、そりじゃあ!」


未来のお家元の目の前が一瞬光ると、現在のお家元とタイガーしゃんの二人の姿は消えていました。


「ま、問題ありましぇんよね、
 5分後には無事に戻って来てくれるはずでしゅから。

 ・・・・・・・・・・問題は戻ってからでしゅ」




未来のお家元は意味深な言葉を呟きました。







                         中編へつづく
             


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インターミッション XXII

2010-09-09 22:14:08 | 彦根ノムコウ
”石田佐吉編”後半パートです、”【妄想】ひこにゃん”に捧げます。







Boys, be ambitious! 飛翔の謳
後編  ~約束・そして少年は羽ばたく~















1563年 夏
近江国 坂田郡 石田郷






「さきっちゃんはおいくつなんでしゅか?」


「ワシは今年四つと相成りました」


内心の動揺を隠しながらお家元は佐吉少年と会話を重ねていました。


「(お家元、佐吉殿は4つにしてはかなり小柄なような・・・)」


「(タイガーしゃん、この時代の年齢の数え方は現代と違って”数え歳”というもので
  生まれた日から1つと数えて、翌年元日になったら一つずつ年を重ねていく数え方なんでしゅよ。
  だから12月31日に生まれちゃったら、次の日の元日には2歳になってしまう寸法でしゅ!
  ひこにゃん達の感覚でいったら、さきっちゃんは満3歳って事でしゅね。
  みつにゃんの生まれた年は1560年のはずでしゅから、今が1563年という事もこりで分ったでしゅ)」




当たり障りのない会話もお家元にとっては貴重な情報源でした。



「しゅるとひこにゃんは、さきっちゃんより一つだけ歳が上になりましゅ」


「左様で!」


とはいえ、あまり佐吉少年の記憶に残るような時間を過ごすのは危険なので
お家元はこの場を離れようと腰を浮かせました。


「そりじゃあ、ひこにゃん達はそろそろ・・・・」


「えっ!?・・・・・・・」


「先を急ぐので発たなければいけましぇん」


「・・・・・・・・・・・」


この言葉がお家元の口から出た瞬間、佐吉少年は残念そうというよりは
今にも泣き出しそうな表情をしました。
それはこの場を去ろうとしたお家元の足を止めるには充分でした。
その表情は今しがた会ったばかりの者達との別れを惜しむには
不自然なほど哀しみを含んでいました。


お家元はその不安げな表情から最初に浮かんだ疑問を口にしました。


「さきっちゃんはもしかして帰る道がわからなくなってしまったんでしゅか?」


佐吉少年は激しく首を振りました。


「ん~~そりじゃあ何か怒られるような事をして、おうちに帰りづらいとかでしゅか?」


この質問には佐吉少年は首を振りませんでした。


「正継しゃ・・・・・・いえ、藤右衛門しゃんは素直に謝りば許してくれると思いましゅけどね」


”正継”という名は三成公の出世に伴って名乗った名です。


「!・・・ひこにゃん殿は父上をご存知なのですか?」


「満更知らない仲ではありましぇん(もっとも37年後の事でしゅけど・・・)」


佐吉少年はその言葉に頼もしさを感じたらしく、本音を漏らしました。


「ワシは父上に顔向け出来ない事をしてしまいました・・・」


お家元はこの言葉を聞いた瞬間、この場を去ろうとしていた事を一瞬で捨て去りました。
何が大事かを見極める洞察力、お家元らしさが発揮された瞬間でした。


「穏やかではありましぇんね・・・・訳を教えて下しゃい、さきっちゃん」


佐吉少年は大きく頷いて訳を話し始めました。




「ワシは今年になってから、この山むこうの大原村(現・三東町)の観音寺に手習いに入ったんです」


「あいあい」


「(お家元、お寺に手習いって何ですか?)」


「(この時代には学校みたいな教育機関はないんでしゅ。
  それでもある程度の身分のお家の子供達なら、懇意の檀那寺に預けられて
  教育を受けてたようなんでしゅ。
  実は現代ではみつにゃんが学んでいたお寺がどこか謎なんでしゅが
  観音寺は石田家の檀那寺でしゅし、距離も手頃な場所にあるので
  最も有力な候補と云われているんでしゅが、ましゃか本人から真実が聞けるとは
 思いましぇんでした)


「(・・・なるほど!)」







「お寺の中ではワシが一番歳下で、みんなワシより体も大きくて強いんです・・・・」


「あいあい」


「ワシは何をやっても誰にも敵いません。
 かけっこや相撲はおろか、弓に至っては弦を引く事も出来ません・・・」


「でもみんなさきっちゃんより年上で身体も大きい子達ばかりなんでしゅよね?
 さきっちゃんのすぐ上の子はいくつなんでしゅか?」


「7つです」


お家元は唸りました、佐吉少年だけがズバ抜けて歳が離れているからです。
そもそもこの歳から寺に入っていること事態、お家元には奇異な感じがしました。
佐吉少年と同年で将来の朋友・直江兼続も才覚を見込まれて越後・雲洞庵に幼少から入りますが
それでも5つからとの通説ですから、佐吉少年は余程優秀だったのでしょう。


きっとこの少年は毎日見上げるような身体の大きい子達に混じって必死についていこうと
健気に頑張っているのでしょう。


「お寺では今聞いた弓矢(ここでは武士の嗜みを指す武芸全般の意)の教えが主流なんでしゅか?」


「いえ、それらは余った時間に興じるだけで日の多くを占めるのは
 色々な書物を使っての読み書きになります。
 実はワシは読み書きや物覚えは得意で、何年も先に習っている人と並ぶくらいには
 なってると思います!」


「そりはスゴイでしゅね!」


「・・・・でも目上のみんなはそれが面白くないみたいで
 一番歳下のワシが褒められたり、自分より先に進まれるのが許せないみたいです・・・・・」


お家元とタイガーしゃんの表情が曇りました。
佐吉少年はここまでの話しの中よどみなく理由を述べてきましたが
これはとても4つ(3歳)の子供には似つかわしくない利発さです。
体力では歯牙にもかけない歳の離れた幼子に、学問で先を越されてしまった屈辱が
どこに向けられるか二人は容易に想像出来ました。
そしてこの境遇は終生石田三成について回った宿命でもあります。




「みなは言います。
 佐吉、読み書きがいくら出来たって武士の本分は戦場でどれだけ働けるかだ!
 お前の先祖は木曽義仲を討った石田為久だとか吹いてるらしいけど
 今はどこの大名の被官でもなければ、百姓の親分みたいな家柄じゃないか!
 畑でも耕してた方がいいんじゃないのか!・・・・・・と。

 今日ワシはとうとう我慢出来なくなって寺を飛び出して来ていまいました・・・・
 逃げ出すなんて・・・・・父上に顔向け出来ません!」


佐吉少年はポロポロと落涙しました。

腕っぷしでは到底敵わない年長の者達に唯一並べる得意分野が、
役に立たないものだと言い立てられたら、幼い少年の心の内はどれほど傷付く事でしょう・・・
そして子供にとっては絶望的な年齢差は如何ともし難く
佐吉少年は飛び出して来たのでした。

どうやらその後に佐吉少年はお家元達と遭遇したようです。


お家元とタイガーしゃんは激しい怒りを覚えていました!
出来る事なら今から観音寺に乗り込んで、そのどこぞの大名の家来の倅とかを
首根っこ掴んで琵琶湖まで引きずり回したろか!ぐらいの勢いでした。
特にタイガーしゃんは鼻息も荒く、お家元がGO!といえば直ぐに走り出しそうです。
そんなタイガーしゃんをお家元は歯を喰いしばって制しました。
誰よりも直接手を出して助けてあげたいお家元でしたが
それは絶対許されない事でした・・・

佐吉少年は自分の無念と後悔を述べただけで何の助けも求めてはいません。
幼いながらもこの誇り高い少年に、制約が多い自分に出来る事はないか
お家元は必死になって考えていました。




「確かに弓矢に秀でる事は大事に違いありましぇん。
 でしゅが、ひこにゃんに言わせれば必ずしも一番ではありましぇん!」


佐吉少年がえっ!?という顔をしました。


「むしろこりからの時代、大事にゃのはその読み書きの方なんでしゅから!」




佐吉少年は一瞬喜んだ表情をしましたが、またすぐ顔色が元に戻りました。
慰めてくれているんだなと思い直したからです。
どこまでも大人びた少年でした。


「さきっちゃん、少しひこにゃんの見通しを聞いて下しゃい」


佐吉少年は暗い表情のまま頷きました。


「今の世は足利幕府も名ばかりの群雄割拠の戦国時代でしゅ。
 身分もあって無きが如しの下克上のはびこる乱世と言っても過言じゃありましぇん。
 
 でしゅがこんな世の中がいつまでも続くと思いましゅか?
 かつての源頼朝公や足利高氏公のように戦乱を収束させる人物が必ず現れましゅ!
 その先駆けとなる人物が、やがて東の尾張・美濃から上がって来るからでしゅ。
 その人物とは”織田信長公”でしゅ!
 そしてそりに連なる者らによって日ノ本は嘗てない繁栄を迎え、
 戦のない”日ノ本惣無事”を成し遂げましゅ。
 そりは遠い世の話しではありましぇんよ、さきっちゃんが元服する頃には
 その兆候が感じ取れる世になってましゅ!」


「おだ・・・のぶなが公・・・・日ノ本そうぶじ!?・・・」


「しょう!
 新たな天下人によって日ノ本が治められ、戦が無くなり土地を奪い合う事がなくなったら
 鑓や弓矢にしか能が無い人達は働き場所が無くなりましゅ。
 代わりに重宝されるのが、読み書き・算術・帳簿付けが出来る能吏・文官でしゅ!
 領内で作られる米を正確に把握して速やかに徴収し、飢饉の時には民百姓を救う策を施しゅ。
 法度や掟を定め、川の氾濫を防ぎ、土地の境界を明確にして
 皆が心安らかに過ごせる潤う国作りこそが大事なんでしゅ!
 読み書きや書を覚えない輩にはとても真似出来ない政(まつりごと)でしゅ!
 そんな日は遠からじゅやって来ましゅ、さきっちゃんの目指す道は間違ってましぇん!
 読み書きを馬鹿にする人達の方が間違ってるんでしゅ!」


「本当にそんな世が来るでしょうか・・・」


不安な言葉とは裏腹に、佐吉少年は自らの得意分野が活かせそうな
夢のような未来に眼を輝かせました。


「必じゅ来ましゅよ!
 そして”滅私奉公”の出来る人なら、必ず大成しましゅ!」


その片鱗は佐吉少年には既にありました。


「ワシは働きを怠けたり、私欲に走ったりはしません!」


「なら、さきっちゃんは”日ノ本一の奉行”になれましゅ!」


「ひ、日ノ本一ですか!?・・・そ、それはいくらなんでも・・・」


この時代の人々は日本全体をイメージする事はまだまだ出来ません。
隣りの国(県)が遥か遠くに感じていた時代、お家元の話は大き過ぎていました。


「今ひこにゃん殿が仰ったのは一国の治め方ですよね?
 では”日ノ本一の奉行”とは何をすればいいんですか?」


「あい!
 まじゅは天下統一を成し遂げるまでの事業計画の立案と推進でしゅ。
 遠方の地で戦をしても全軍に過不足なく武具・兵糧を行き渡らせる兵站の整備も大事でしゅ。
 支配地となった土地を隈なく調査して米や作物の出来高を把握し
 年貢の徴収方法を均一のやり方に改め、その土地の領主や代官に指導監督するのも
 仕事のうちでしゅ。
 金山銀山を直轄し、商業都市の維持発展も欠かしてはなりましぇん。
 そして何よりも民百姓の生活が貧しくならないように気を配るのを忘れてはいけましぇん!
 何重もの税を掛けるような事は止め、物の流通を容易にしゅるために人の往来を促し
 街道を整備して治安を守るのも大切でしゅ。
 こりらは全て”日ノ本一の奉行”に課せられる仕事でしゅ!」




この時代、全国各地に割拠した無数の支配者の数だけ税や年貢の徴収方法が存在しました。
また犯罪発生率に対しての検挙率は現代とは比べるべくもなく
全国共通の税率や法の整備は行き届いていなければ、存在すらしていません。
他県へ行くだけでもいくつもの関所を越えなければいけない時代です、
また同じ土地に領主の関所や寺社の関所が、同時に複数存在したりもしていました。


「さきっちゃん、実は近江の国では他の国より非常に優れている技術があるんでしゅ!
 そりが”帳簿付け”(簿記)でしゅ!
 近江商人がやっている”帳簿付け”は他国では見られない非常に有効な管理方法なんでしゅよ。
 こりは国が大きくなればなるほど必要不可欠な財政管理で
 歳入と歳出(収入と支出)を把握する上で無くてはならない技術でしゅ!」


近江で発達していたこの技術は急成長していく羽柴(豊臣)政権の骨芯となり
多くの近江者が奉行として生まれていく重要なファクターとなります。


佐吉少年は呆気に取られて聞き入っていて、ようやく口を開くと


「ひこにゃん殿のお話、正直全てを理解は出来ませんでしたが
 面白い!とても面白かったです!!
 ワシもそんな大仕事に関わる事が出来たらと思うと胸が躍りました!
 そうか!戦に勝ってもその後に国を治める事こそが大事なんですもんね、そうだ!」


佐吉少年は昂ぶりました。
お家元が話した事柄は将来三成公が立案実行した事業のほんの一部でしかありません。


「さきっちゃん、大事な事を忘れてはいけましぇんよ。
 奉行として活躍しゅるには、その能力を発揮させてくれる強くて理解ある
 ”主君”を得なければいけましぇん!」


「あっ!そうですね、その通りです」


佐吉少年は自分を納得させる知識を持った年長者に初めて巡り会ったような気がしました。
それどころか、困っていた自分の所に遣わされた神の使いではないかとさえ思い始めていました!


「どうしてひこにゃん殿はそんなに色々な事をご存知なのですか?
 不思議です・・・・・・ワシはもっともっとひこにゃん殿の話が聞きたい!
 今のような話を是非聞かせて下さい、お願いです!」


佐吉少年は今度は大きな期待に瞳を潤ませて、お家元に懇願しました。


「お寺での学問の大切さを分かってくりましたか?さきっちゃん」


「確と!」


「そりじゃあ、ひこにゃん達がお寺の近くまで送りましゅから
 道すがら話しましょ。
 お寺に着いたら山門は独りでくぐるんでしゅよ!
 お父上に恥をかかせてはいけましぇんからね」


「はい!」


佐吉少年は大きく返事をして逞しく口を結びました。
お家元は佐吉少年の手を取り、道中彼が目を輝かせる話しをし続けて
大いに希望を持たせました。
そして観音寺に近付いてきた辺りで、


「さきっちゃんが大きくなった頃、お寺に領主の殿様がやって来ましゅ。
 その殿様が喉の渇きを訴えたら、3回に分けてお茶を振舞うといいでしゅよ!」


「?何故三回なんですか?」


「そりは自分で考えて下しゃい(笑)
 まず自分で考えるのも大事でしゅから!」




「わかりました!」


これこそが”三献茶”として有名な秀吉公と三成公の出会いとなります。



「さ、お寺に着きました。
 さきっちゃん、お別れでしゅ」


「もうお会いする事は出来ないのでしょうか・・・・・・」


佐吉少年は今度こそ二人との別れを惜しんで涙ぐみました。
お家元はその手を離して、タイガーしゃんに跨りました。


「・・・・・・・・・・・
 さきっちゃんが大きくなって”日ノ本一の奉行”になり、大事な切所を向かえた時に
 ひこにゃんは再びさきっちゃんの元にやって来ましゅ!」


「えっ!・・・」


「さらにそのずっとずっと後にも、さきっちゃんとひこにゃんは再会しましゅ!
 その時には同じ国で同じ志を持って歩んでいく事になりましゅ」


まるでそうなる事が当たり前のように聞こえ、佐吉少年はブルブルッと
武者震いが止まりませんでした。






お家元の心の中に関ヶ原で別れる時の清々しい三成公の姿が憶い出されました・・・


「さきっちゃん!また会いましょう!!」




あの日、三成公が言った言葉をお家元は口にしました。


「・・・・本当に・・・本当にお会い出来るんですね!」


会える事を確認せずにいられなかったのは佐吉少年の幼さでした。


「あい、約束でしゅ!」


その時、夕陽の中にいた二人が閃光と共に一瞬で佐吉少年の前から消えました。
佐吉少年は夢を見ていたのかと疑いましたが、手の中には頂いた菓子が確かに残っていました。

佐吉少年は自分の進むべき道を見据え、揺るぎ無い自信を纏って長い石段を登り始めました。









                 おしまい
              













けれど佐吉少年はこの日生まれた将来への夢と強い意志だけを残して
お家元と関わった部分の記憶を数日で失くしてしまいました。

これは佐吉少年が幼かったからでも薄情だったからでもありません。

まるで将来に余計な影響を及ぼさないように何者かに配慮されたかのようでした・・・

それは神や仏といった分かりやすい存在の仕業ではなく、もっと抽象的で
それでいて意志を持たないような大きな存在によるものでした。

こうした時間軸を無視した行為に対して時折強く働く大きな復元力も持ったものです。


人はそれを”歴史”と呼びます。



それでもこの日、佐吉少年が受けた恩義は余程強かったらしく
37年後に再会した時には三成公に微かな記憶が蘇えり
21世紀に再び彦根に生まれ変わった時には、更に強く記憶が揺さぶられたようです。


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インターミッション XXI

2010-09-01 19:45:02 | 彦根ノムコウ
以前から予告していたお噺の第1弾です。

”【妄想】ひこにゃん” に捧げます。













「・・・・・・また来ちゃったでしゅ・・・」


「・・・・・はい・・・」



真夏の炎天下、蝉の声が世界を征服したかのように辺りに響いています。
お家元とタイガーしゃんは眼下に限りなく広がる水田を堤の上に座りながら
放心状態で眺めていました。




お家元とタイガーしゃんが放心状態になっている訳は、眼下に広がる田園が
全く見覚えのない風景なのと、農作業に勤しむ点在した人々の姿にありました。

農作業をする人達の服装や身なりが皆妙にみすぼらしく、合成繊維のような衣服を着た人が
一切見当たらないからです。


「・・・・・・ここってどこなんでしょうね・・・・・ていうか、いつなんでしょうか・・・」


「今の時点ではひこにゃんにも西暦何年とは見当が付きましぇんけど、
 場所はおおよそ・・・」


「えっ!ほ、本当ですか!?」


独り言のように呟いたタイガーしゃんでしたが、お家元はしっかりと拾ってくれました。


「田んぼの遥か向こうに見える水面(みなも)はおそらく琵琶湖でしゅ。
 さらにその向こうに見える稜線は比良山系みたいでしゅが、彦根城から見える稜線に比べたら
 随分左に見えていましゅ。
 真後ろに伊吹山があることも含めて考えると・・・
 ここは彦根や米原よりも北寄りで、長浜の東側って所じゃないでしゅかね。
 でも肝心の長浜城がありましぇん。
 秀吉公の手によって長浜城の築城が始まるのが1574年のはずでしゅから、
 ここはそりより過去なんじゃないでしゅかね。
 そりを示すように、あそこに見える荒れた砦みたいなのが
 その前にあった今浜城のはずでしゅ。」


「いやはや・・・いつもながらお家元の観察眼は凄いです!
 タイガーは感動してます!!」


お家元は苦笑しました。




そう!二人はまたしても突然過去へ”タイム・スリッパ”をしてしまいました!










Boys, be ambitious! 飛翔の謳
前編  ~驚愕・ある幼子(おさなご)との出会い~
















????年??月??日
近江国 坂田郡 





 
「やりやり、どうせ”タイム・スリッパ”しゅるなら、涼しい季節にして欲しかったでしゅ(苦笑)」


「同感です(苦笑)」


暑いのが苦手なお家元と、遥か北の大地に生まれたタイガーしゃんは同意見でした。
そして二人は涼を求めて木蔭の多い山側(東の方角)へ一先ず向かう事に決めました。

この時二人が歩いていたのは現代でいえば県道509号線上で
北陸自動車道の東側、長浜市七条町とその東側に位置する隣町の境目辺りになります。

それでも二人が着いたこの時代はアスファルトやコンクリートなど一切なく
風の流れを遮るような人口の高層建造物はありませんから、現代よりも不快指数は
低いはずです。

30分ほど歩いたところで辿り着いた山の麓の脇道に
清水が湧いていたのを見つけた二人はガブガブと喉を潤し、近くの木蔭で休む事にしました。


「はぁ~生き返ったでしゅ」


「冷たくて美味しいお水ですね」


「タイガーしゃん、道からもう少し離れましょ。
 この山はどうやら生きてる城砦があるみたいでしゅから
 あまり人目に触れないようにしましょ」


「は、はい」


お家元は見るべき所はしっかりと見ていて、タイガーしゃんを驚かせました。

実は二人が辿り着いたこの山は、後に近江の戦国史上重要な拠点となる名高い山で
”横山城”と云います。
後にお家元はこの事実に気付きましたが
お家元や井伊家と直接関わりがある出来事ではありません。

木蔭の下、タイガーしゃんの背中に寄りかかってお昼寝を始めたお家元には
なお関係のない事柄でした(笑)








しばらくしてタイガーしゃんの背中が緊張したのを後頭部に感じたお家元は
姿勢を変えず寝息も立てたまま、小声で話しかけました。


「(タイガーしゃん、どうしたんでしゅか?)」


「(人の気配とニオイがします、お家元)」


「(位置はわかりましゅか?)」


「(道脇の地蔵堂の後ろです)」


今歩いて来た道沿いに地蔵菩薩が一体だけ安置された小さな地蔵堂がありました。
はたから見たら寝息を立ててだらしなく眠っているようにしか見えない二人でしたが
二人の神経はおそろしく研ぎ澄まされていて、その地蔵堂に集中しています。

二人はいざとなったら、ダッシュでこの場を離れられるように、
タイガーしゃんは四肢に力を込めていましたし、お家元もその背に飛び乗れるように
気構えを作っていました。
その時、地蔵堂の後ろで小さな顔が二人を窺っているのが見えました。


「にゃんだ・・・子供じゃないでしゅか=3」


「しかもお独りみたいですね」


二人は緊張を解き、狸寝入りを止め座りなおしました。

地蔵堂の後ろから二人を見ていたのは、少年とも言い難い見た目1~2歳ほどの
小さい幼子でした。
ですが先ほど田んぼで見掛けたような擦り切れた着物ではなく
幼いながらも汚れの少ない折り目のついた着物と括袴を履いていました。
百姓の子供ではないのは明らかでした。


「ひこにゃんでしゅ、こっちはタイガーしゃんでしゅ!」


気付かれた事に幼な子はビクッとしました。
返事は無言でしたが、地蔵堂から半身が出てきました。


「近隣の方でしゅか?お名前は何というんでしゅか?」


幼子は口をキュッと真一文字に結んでしまいました。


「(かなり警戒されてましゅね、無理もありましぇんけど・・・)」


そんな態度を取られても、お家元がイラッとしないのは
彦根城でたくさんの小さなお友達ともお稽古を重ねてきた成果でした。
幾多の経験から、気付かれてもこの幼子が逃げずに自分達を窺っているのは
何らかの接触を望んでいる事に、お家元は気付いていました。


「(あんまり過去の人と関わるのは避けるべきでしゅけど、
  こんなちっちゃい子なら構いましぇんよね)


前回の”タイム・スリッパ”の反省からお家元はそんな心構えで気をつけていましたが
現実はお家元のこの判断をも大きく越えていました!
お家元はこの時代で最も関わるのを避けるべき人物と出会ってしまった事を
このすぐ後に気付かされます。







お家元はしばらく無言の時間をわざと作りました。
これはこの幼子にプレッシャーを掛けた時間でした。

お家元の密かな狙い通り、幼子はこの時間で後悔をし始めていました。
「(何故自分はさっき話しかけられた時に、素直に答えなかったんだろう・・・)」
という子供特有の天邪鬼なところを見事に突いていました。

次にタイミングを見計らって答えやすいシチュエーションを作らなくては・・・
というところまでお家元は脚本を練っていました。


その時です!
神のタイミングで空腹を知らせる大きな音がお家元のお腹から鳴りました!(笑)
その音は幼子の耳までしっかりと届きました。


「タイガーしゃん、お腹が減りましたね」


「そーですね」


打ち合わせもしてないのに、タイガーしゃんはお家元の狙いを理解しました。
そしてお家元がスカーフの中をモゾモゾとまさぐると
常に常備している小分けされた非常食(お菓子)がいくつか出てきました。
これ見よがしに一つを開封して音を立てて食べました。


「ホイヒイレフ!(おいしいでしゅ)」


これは演技じゃありませんでした(笑)

そしてこのお家元の過剰なパフォーマンスを注視していた幼子は
大きく唾を飲み込みました。
それを確認したお家元は心の中でガッツポーズをしました(笑)


「タイガーしゃん、こりをあの子に」


お家元は今食べたお菓子と同じものをタイガーしゃんにくわえてもらい
幼子の所に届けてもらいました。
幼子は近付いてくるタイガーしゃんに少々たじろぎましたが
手に落とされたお菓子を受け取ると、お家元の前まで近付いて来ました。


「ワシにはこれを受け取る理由がない!」


その幼子がしっかりしゃべれた事にもビックリしたお家元でしたが
空腹にも関わらず、理由なしの施しを断わった立派さに目を丸くしました。


「(この子は見た目よりもずっと大人でしゅ!)」


お家元は認識を改めて理由を作りました。


「こりはしたり、無礼を許して下しゃい。
 ひこにゃん達は旅の者で、立ち寄ったこの地が何処か教えて欲しかったんでしゅ。
 もしこの土地の名前を教えて貰えたら、そのお菓子をお礼に差し上げたいんでしゅ」


「そういうことなら・・・・」


幼子が納得してくれた事にお家元は胸を撫で下ろしました。


「此処は近江国・坂田郡、石田村です」


「あっ、にゃるほど!合点がいったでしゅ!長浜の真東でしゅもんね。
 タイガーしゃん、ここはみつにゃんの故郷の石田町でしゅ!」


「そうでしたか!お家元の目星通りって事ですね」


「助かったでしゅ、ささ食べて下しゃい!
 開けられましゅかね・・・」


ピリピリッ!


この幼子はお家元が開封する様を覚えていたようで
戸惑う事なく梱包されていたお菓子を開けてみせました!


「(ホントに頭のいい子でしゅね・・・)」




感心しきりのお家元の前で幼子は、今度こそ遠慮せずに厚意を受けました。


「う、美味い!
 ワシはこんな甘い菓子を食べるのは初めてじゃ!」


「まだありましゅから、良かったらどじょ」


「忝い!」


ようやく幼子は警戒心を解いてくれたみたいでした。


「先ほどは名乗りもせずご無礼を。
 ワシは佐吉じゃ、この村の者で石田佐吉と申す!」


「さきっちゃんって言うんでしゅね
 ん?・・・・・・いしださきち????」




ブブーーーーーーーッ!!!!!!




お家元は食べていたお菓子を噴き出してしまいました!


「ごほんっごほんっ!」




「お家元!だ、大丈夫ですか!?」


「ビックリして変なとこに入ったみたいでしゅ、だ大丈夫でしゅ」


「何にビックリされたんですか?」


「(タイガーしゃん、みつにゃんでしゅ!)」


「(えっ?今なんと!?)」


「(この子は子供のみつにゃんでしゅ!!)」


「(ええっ!?)」




タイム・スリッパ先でまたしてもお家元は避けられぬ問題を抱えてしまいました。







                 つづく






次回予告 )


なんの因果か出会ったのは幼い石田三成公だったお家元とタイガーしゃん。


出会っても不思議はない土地でしたが、”石田佐吉”はある秘密と悩みを抱えていました。


それを知ったお家元は果たして・・・・・




Boys, be ambitious! 飛翔の謳
後編  ~約束・そして少年は羽ばたく~



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