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謎の多い太陽コロナ現象に挑戦! 観測ロケット“FOXSI-3”の軟X線データが公開

2019年02月01日 | 太陽の観測
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日米共同の観測ロケット“FOXSI-3”で得られた太陽の軟X線観測データが公開されました。

このデータは、毎秒250枚という高い時間分解能の撮像分光観測を世界で初めて行って得られたもの。
わずか6分間の大気圏外飛行中の観測で得られたものですが、太陽コロナについての理解が進むことが期待されているんですねー


太陽系で最大の爆発現象

太陽を取り巻くコロナは、100万度以上という極めて高温で希薄なプラズマからなる大気です。

太陽コロナの中では様々な現象が起こっていて、代表的なものは“太陽フレア”と呼ばれる太陽系で最大の爆発現象になります。

フレアが発生すると周囲の温度は数千万度まで上昇し、プラズマ粒子は光速近くまで加速。
この高エネルギー粒子は太陽風として地球にも到達し、地球環境や送電線・電力系統に影響を与えたりします。

特に、宇宙空間にある衛星や巨大なアンテナとして働く送電線の被害が起こる可能性が高いようです。


宇宙に出てX線を観測する

100万~数千万度の温度を持つコロナはX線を最も強く放射しています。
なので、太陽コロナを研究するには、太陽から放射されるX線をとらえる必要があります。

でも、X線は地球の大気に吸収される性質があるので、観測するには気球や観測ロケット、人工衛星を使って宇宙空間に出る必要があるんですねー

また、X線は通常の鏡やレンズを透過してしまうので、撮像や分光に必要になるのが特殊な望遠鏡やカメラです。
さらに、コロナの性質を詳細に知るには、X線の空間分布・時間変化・エネルギー分布を知る必要もあります。

つまり、高いダイナミックレンジ(明るい場所も暗い場所もよく見えること)・高い空間分解能・高い時間分解能・高いエネルギー分解能の観測を実現しないといけません。

これまでの太陽観測では、数百万度のプラズマが放射する“軟X線”の波長で、この4つを同時に満たすような観測は行われたことがありませんでした。

たとえば、日本の太陽観測衛星“ようこう”や“ひので”のX線望遠鏡です。
この望遠鏡は、空間分解能は高いものの、1枚の画像を撮像するのにかかる時間が長すぎるので、太陽コロナで発生する数十秒~数分という時間スケールの現象をとらえる撮像分光観測は不可能でした。
  “ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム
    

新しい軟X線観測装置を開発

今回の研究では、裏面照射CMOSセンサーを採用することで、1秒間に250枚もの高速度撮像が行える軟X線観測装置“ProEnIX”を新たに開発しています。

昨年の9月8日、研究チームはこの装置を日米共同の太陽観測ミッション“FOXSI-3”の観測ロケットに搭載。
観測では、軟X線での集光撮像分光観測(光を焦点面に集め、画像を撮り、同時に光子のエネルギー分布も得る観測)を高い時間分解能で行うことに初めて成功しています。

今回公開された“FOXSI-3”の太陽観測データは、太陽からのX線光子1個1個を検出・測定した世界初の成果になります。

“ProEnIX”の高速度カメラは1枚あたり50個程度のX線光子を検出していて、このX線光子のデータを重ね合わせれば、点描のように太陽の軟X線画像を描くこともできます。
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“FOXSI-3”に搭載された高速度軟X線観測装置“ProEnIX”カメラの全データを用いて描いた太陽。
また、“ProEnIX”カメラで高速連続撮像が可能になったので、10秒という極めて短い時間スケールでのコロナの時間変化をとらえることにも成功。
さらに、X線光子のエネルギーごとの検出数からコロナのスペクトルも得られました。
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“FOXSI-3”の“ProEnIX”カメラで得られた軟X線集光撮像分光データ。
(a)が撮像された画像。画像上の白い点が検出されたX線光子を示す。
この画像を重ね合わせることで、(b)のような太陽の軟X線画像が得られる。
(c)は検出された光子の数を10秒ごとに合計して得られた軟X線の時間変化の様子。
(d)は検出された光子をエネルギー(信号強度)ごとに合計して得られた軟X線スペクトル。
現在研究チームでは、今回公開されたデータを使った解析作業を進めているので、謎の多い太陽コロナの現象についての理解が進むといいですね。


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2018年09月30日 | 太陽の観測
太陽観測ロケット“FOXSI-3”が、世界で初めて軟X線の低エネルギー域で太陽コロナを撮像分光観測することに成功しました。

わずか6分間の観測で、これまでに誰も手にしたことがないデータを手に入れることができたんですねー

これにより期待されるのが、高エネルギー現象やナノフレアの理解が進むこと。
太陽研究における大きな課題も解明されるかもしれませんよ。


“FOXSI-3”の打ち上げと世界初の観測

国立天文台や名古屋大学が研究を進めている“FOXSI”は、観測ロケットで太陽のコロナが放つX線を集光撮像分光観測する日米共同プロジェクトです。

その3号機になる“FOXSI-3”が、9月8日にニューメキシコ州のホワイトサンズ観測ロケット打ち上げ場から打ち上げられました。

“FOXSI-3”は最高到達高度約300キロの弾道軌道で約15分間飛翔。
X線輝度の異なる3つの太陽コロナ領域“活動領域”、“静穏領域”、“太陽の北極域”を約6分間観測しています。
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研究チームと“FOXSI-3”が搭載された観測ロケット。
“FOXSI-3”に搭載されているのは、硬X線域(主に4~20キロ電子ボルトの高エネルギー域)を観測する6本の望遠鏡と、軟X線域(主に0.5~10キロ電子ボルトの低エネルギー域)を観測する1本の望遠鏡。

この望遠鏡を使って、広い範囲のエネルギーのX線を観測して太陽コロナの超高温プラズマや、非熱的プラズマを詳細に調査できるようになっています。

このうち今回新たに採用されたのが軟X線域用の望遠鏡です。
1秒間に250枚の撮像が可能なカメラや、可視光線を遮りX線だけを透過するフィルターなどにより、世界で初めて太陽コロナの軟X線撮像分光観測に成功したんですねー
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“FOXSI-3”に搭載された7本の望遠鏡(左側)と7個の検出器(右側)。
“FOXSI-3”の科学的目的は、太陽コロナにおけるエネルギー開放・粒子加速・加熱などの高エネルギー現象の理解です。

そのうちの1つが“ナノフレア”がコロナ加熱へどのように影響しているかを調べること。

太陽の表面温度は約6000度なのに、数千キロ上空のコロナの温度は100万度という超高温になります。

この加熱メカニズムはまだ分からず… なぜ、こんなに高温になるのでしょう?
“コロナ加熱問題”と呼ばれるこの謎の解明は太陽研究における大きな課題になっているんですねー

  “ひので”と“IRIS”がとらえた太陽コロナ加熱メカニズム
    

“ナノフレア”は、通常の太陽フレア(爆発現象)の10億分の1程度の極めて小さなフレアです。
でも、この現象によって1000万度の高温のプラズマが生成されると考えられていて、コロナ加熱を引き起こす有力な候補の1つと見られています。

今回、わずか6分間の観測で、これまでに誰も手にしたことがないデータを手に入れることができました。

今後、このデータを解析すれば、“ナノフレア“とコロナ加熱の関係について何か分かってくるのかもしれません。

太陽コロナの中に1000万度の高温プラズマが恒常的に存在すれば、問題は一発で解決できそうですね。
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2017年8月に北米で見られた皆既日食のコロナ。


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