宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

銀河は自身の星形成によって構造を成長させている? 遠方宇宙で成長中の銀河の内部を高解像度で観測して分かったこと

2019年06月13日 | 銀河・銀河団
110億年前の宇宙に存在する銀河が、すばる望遠鏡により観測されました。

この観測で用いられたのは、補償光学装置と狭帯域フィルターとを組み合わせた新しい手法。
これにより、成長中の銀河の内部を高解像度でとらえることができ、銀河の星形成領域が星の分布よりも外側まで広がっていることが明らかになったようです。


銀河内部の様子を明らかにする

今回、東北大学のチームが行ったのは、銀河内部の様子を明らかにする研究。
約110億年前の宇宙に存在する、へび座の方向の原始銀河団“USS 1558-003”をすばる望遠鏡で観測しています。
○○○
原始銀河団“USS 1558-003”。
全体像(視野約1分角×1分角)は補償光学装置無し、
拡大図は原始銀河団に属する銀河の高解像度狭帯域フィルター画像(視野3秒角×3秒角)。
観測で用いられたのは、地球大気の影響による画像のボケを補正する補償光学装置と、一部の波長のみを透過する狭帯域フィルターとを組み合わせた新しい手法。
すばる望遠鏡の大口径と合わせることによって高解像度を達成することに成功しています。

これにより、遠方銀河に存在する銀河内部の星の分布だけでなく、星形成領域の分布も0.2秒角(視力300相当)という高解像度でとらえているんですねー
○○○
(左)すばる望遠鏡の観測装置“MOIRCS”による狭帯域フィルター画像、補償光学装置無し。
(右)観測装置“IRCS”による狭帯域フィルター画像、補償光学装置有り。
各画像右下の白い丸がそれぞれの解像度を示している。


より外側に新しい星を作ることで銀河は構造を変えている

今回の観測では、一度に11個の星形成銀河について、星と星形成領域の分布も明らかにしています。
このうち、星質量の大きい星形成領域では、星形成領域が星の分布に対してより広がっていることが分かりました。

この結果が示唆していることは、外側に新しい星を作ることによって銀河の構造(星の分布)は内側から外側へと広がっていき、銀河のサイズが大きくなっていくということ。
○○○
太陽の100~1000億倍の質量をもつ星形成銀河内部における星質量密度(破線)と、
星形成率密度(実線)の平均的な半径方向の分布。
星質量密度の分布と比較して、星形成率密度の分布は穏やかな傾きを持ち、
星形成領域が銀河本体の星の構造よりもさらに外側まで分布していることを示している。
この傾向が見られたのは、銀河同士の相互作用や銀河外縁部のガスの剥ぎ取りといった周辺環境からの影響を受けない、孤立した同時代の銀河でした。

つまり、約110億年前の宇宙では、銀河が高密度で存在する原始銀河団領域であっても、大質量の星形成銀河は周囲から何らかの影響を受けて進化しているというよりは、むしろ自身の星形成によって主にその構造を成長させていることを示唆するものでした。

銀河内部の星形成領域の分布は、銀河に働く物理過程を理解する上でカギになる情報です。
より詳細な研究のためには、銀河の平均的な構造を調べるだけでなく、個々の銀河について星形成領域の構造を調べる必要があるんですねー

そこで期待されているのが次世代広視野近赤外線装置“ULTIMATE-Subaru”。
この装置が完成すれば、様々な環境に属するより多くの銀河について、個々の構造成長の様子を詳細に捉えることができるそうですよ。


こちらの記事もどうぞ
  大質量楕円銀河はどのようにして大きくなったのか? 祖先は初期宇宙に存在する小さな大質量銀河かも