マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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奈良県下全域から初午御供のハタアメが消えた

2018年01月14日 09時41分52秒 | 民俗あれこれ(ハタアメ編)
午前中は大宇陀野依の取材があった。

昼食を済ませて平坦部に下りる。

数年前から求めている県内事例にある「ハタアメ」の調査である。

時間的な余裕もないので2カ所に絞った。

1カ所目は大和高田市岡崎の岡崎稲荷神社。

もう1カ所は広陵町中の小北(こぎた)稲荷神社である。

コースの都合上もあるが、まずは岡崎稲荷神社。

先月の2月3日も訪れた岡崎であるが、神社の所在地さえまだ掴めていなかった。

岡崎に春日神社があると分かったが、稲荷神社の所在地である。

鎮座地は3日に話してくださった元川上村白屋住民のGさんに聞いたが、時間もなくて拝見していない。

この日の目的は所在地を確かめることにある。

春日神社より北へ数百メートル。

どんつきは森。

その角地に地蔵さんを祀る小堂があった。

綺麗にしてはるから地蔵盆もしているように思えた。

道行く人の話しによれば稲荷神社はここを東に。

小道を通り抜けたところだと案内されてようやく見つかった。

神社宮司のお住まいも教えてもらって集落を探索する。

ここ集落も2月3日に探っていたが、結局は分からなかった。

宮司苗字がわかったから一軒、一軒探してみれば見つかった。

ここであったんだ。

呼び鈴を押したら宮司の奥さんが孫とともに屋内から出てこられた。

実は初午の「ハタアメ」を拝見したく・・・と伺えば、えっ、である。

これまで「ハタアメ」を製造していた事業者が造らなくなったというのだ。

詳しいことはわからないが、「ハタアメ」を製造事業者と取引して県内各地に営業販売していた担当者がいうには、高齢化などの関係で事業を辞めたらしい。

仕方なく、ネットなどを駆使して探した製造会社は広島県にあった。

あったことはあったのだが、形態がまったく違うらしくて注文はしなかったと奥さんが話してくれた。

例年、販売の人に注文していた「ハタアメ」は500本。

付近に住む子どもたちが歓んでくれた「ハタアメ」。

今年はまったくない。

入手どころか製造しなくなればどないしようもないが、「ハタアメ」はなくとも初午行事はしていくでしょう、と話していたのが印象的だった。

ちなみに岡崎稲荷神社の初午行事は3月の初午である。

当月にある「午」の日はその年によって2回或いは3回のときもあるが、岡崎稲荷神社は2回目の「午」の日にしているそうだ。

製造しなくなれば、これまで初午に「ハタアメ」があった県内事例のすべてがなくなってしまう。

ただ、岡崎のようになんとかして入手しようと努力もされた。

念のためにと思って次の目的地を目指す。

大和高田市岡崎からはそれほど離れてはいないが、初めて訪れる地域だけにカーナビゲーションに広陵町中をセットして車を走らせる。

神社であれば鎮守の森によって所在地を掴むことができる。

セットした主要地近くに森が見える。

近くまで寄らなくとも雰囲気でわかったが、そこより南に少し走った地域に幟旗が立っていた。

初午の幟旗だろうと思って走らせばまさにその通り。

鳥居を潜って西進したら森が見える。

車を止めて見た小北(こぎた)稲荷神社の由緒板。

社伝によれば天孫降臨供奉三十二柱神に稲荷五柱と小北大明神を合わせた三十八社。

また、小北大明神は鼠小姫命。

保食神に仕えた神とされるとあるからお稲荷さんとの関係が深いようだ。

保食神は食物の神さん。

お稲荷さんともども五穀豊穣、子孫繁栄のご利益があると信仰されてきた。

それはともかく当地にやってきた第一の目的は初午に供えられる「ハタアメ」である。

そのことを教えてくださったのは奈良県内の行事に出仕されている三郷町在住の坂本巫女。

神事ごとの祓え御湯の所作など数々の行事場でお世話になっている巫女さんである。

平成28年の小北稲荷神社の初午行事は3月1日だった。

その日に奉られた「ハタアメ」写真を送ってくださった。

その映像から青色、緑色、赤色、黄色に★のマークがある波紋柄。

5本それぞれに違いがある五色の「ハタアメ」であった。

前々年の平成27年3月7日に取材した桜井市三輪・成願稲荷神社の三月初午に奉られた「ハタアメ」と同じようだったから同業者が製造したものであろうと判断していた。

その年の小北の初午は平日開催。

時間帯の関係もあるのか子どもの姿は少人数のようだった。

氏子の話しによれば「ハタアメ」は飴屋さんに別注しているようやに・・・。

そうであれば、飴は飴屋で、竹串は串造り事業者。

分業していることも考えられる。

そこに営業販売をする業者の存在も・・・。

葛城市新庄の和菓子屋「菓匠庵おのえ」は店内で販売をしている情報もあるから、分業、製造業者の絡みもあるかと思えた。

昨年の平成28年3月18日に訪れた葛城市山田・三神社の初午祭。

なにかとお世話になっている大字笛吹に鎮座する葛木坐火雷神社宮司の持田さんが出仕されると聞いて取材したことがある。

山田の初午に奉られる「ハタアメ」も同じ本数に同じ形状、同色。

ここでも尋ねたが製造業者はわからなかった。

いずれも入手先はわかったが、上流工程の営業販売に製造事業者までは調べ切れていない。

そこへもってわかった大和高田市岡崎の「ハタアメ」状況。もしかとすればと思って恐る恐る尋ねた小北の「ハタアメ」。

応対してくださった権禰宜夫妻の話しによれば、今年は入手できなかった、ということだ。

例年、取引している卸しの販売店から伝えられた「ハタアメ」。

製造事業者がいうには後継者不足。

会社を整理したかどうかわからないが、事業を辞めたということだった。

権禰宜夫妻も岡崎と同じようにネットを駆使して調べてみたが、どうにもこうにも見つからなかった。

広島に製造会社があるとわかって調べたが、奈良のほとんどの地域でみられた「ハタアメ」とはまったく違うものであったことから、敢え無く断念した

近年は「ハタアメ」需要も少なくなったことも事業を辞めた理由の一つ。

昨年の小北は500本も用意した。

5色で1セットの1組だから100セットの組数を奉っていたが、今年は“ゼロ”本になった。

前述した葛城市山田にも「ハタアメ」を奉ることができなくなったと持田宮司が知らせてくれた。

私がこれまで取材したところすべてではないが、祭事に供える原材料がなくなり代替品に切り替えたとか、また、開発という行為があって生息していた植物が生えなくなったとか。

代替品はあるが、県外、あるいは海外製品に・・・。

それも入手不可能になってやめたとか・・・さまざまな要因で消えている現代のお供え事情。

難しい現実問題は、実はもっと昔、江戸時代からも発生していた事実もある。

祭り、行事を受け継ぐ。

そのときの時代変化、文化の変容など、さまざまな事情も、そのときおりの変化に合わせて仕方なく継いできた地域も多々ある。

それが現実なのであるが、今回の「ハタアメ」事業の影響は甚だ大きい。

それというのも正確に調べたものではないが、「ハタアメ」の存在を特定した地域は次の通り。

桜井市の多武峰、倉橋、浅古、河西、外山、三輪、箸中、大福、耳成。橿原市は膳夫町、常盤町、醍醐町、葛本町、新口町、北八木町、八木町、南八木町、小房町、四分町、大久保町、久米町、見瀬町、小綱町、曲川町。

高取町は丹生谷。

大和高田市は土庫、岡崎に陵西校区。

広陵町は中、南郷。葛城市は山田、新庄、當麻。

香芝市の旭ケ丘、穴虫。

田原本町では唯一、矢部がある。

奈良県内中央部を横断するような、ほぼ平坦盆地部の県東部から西部に亘る地域。

幅広いこの横断地帯を勝手ながら「ハタアメベルトライン」の名で呼ぶことにしたが、もう見ることはない。

地域の子どもたちはもう味わうこともない。

80歳の高齢者から「ハタアメ」の件を聞くことはない。

多感な少年期、「ハタアメ」貰いに走り回っていた経験者は若い人だけでなく、上は壮年期にあたる人たち。

「ハタアメ」は記憶の中だけに残された。

私は撮っていないが、「ハタアメ」貰いに自転車で走り回る少年たちの姿を追って撮った写真家Uさんの写真。

事業の再開でもない限り、未来永劫まで残る貴重な記録・民俗史料になってしまった。

今年の3月8日は桜井市三輪・成願稲荷神社の三月初午。奈良テレビが報じていた「ハタアメ」映像。

えっ、と思ったのが大きさはともかく色柄が違うように見えた。

成願稲荷神社に奉られる「ハタアメ」は三輪の大神神社神官なら存じているはずだ。

直接の問合せもあるが、山田の実情も存じており、しかも神官の繋がりに顔が広い持田宮司に当件についてお聞きした。

その結果は奈良県下の初午行事に見られた「ハタアメ」はすべての地域から消えたということだ。

製造していた事業者は高齢、若しくは亡くなられたかで、後継者もいなくて事業が停止したということである。

どうやら長年にわたってお一人が製造していたようである。

持田宮司が出仕されていた葛城市山口に鎮座する末髙稲荷神社の初午祭も「ハタアメ」はない。

そういう状況下に大神神社から問い合わせがあったという。

8日に供えた「ハタアメ」は飴、竹串、旗のそれぞれをまったく別の事業者に依頼して特別に製造してもらったものだった。

製造・販売の多寡は別として、業者が違えばまったくの別ものである。

テレビで映し出された「ハタアメ」が異様だったことに気づく人はたぶんにいないだろう。

その異様さに気づいた人はおられたとしてもよほどの専門家であろう。



これまでとまったく同じ「ハタアメ」を製造してくださる人、手段が来年の初午までに見つかればいいのだが・・・と思いつつ初午に焚かれる大護摩の準備に余念がない。

(H29. 3. 3 EOS40D撮影)
(H29. 3. 3 SB932SH撮影)