つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

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中国風信15 中国メディアの現場は何を伝えようとしているか―女性キャスターの苦悩と挑戦(『粉体技術』7-6、2015.6より転載

2017-09-19 01:06:31 | 日記
 今回は、中国の2013年のベストセラーの訳書柴静『中国メディアの現場は何を伝えようとしているか―女性キャスターの苦悩と挑戦-』(鈴木将久等訳、平凡社、2014年)を紹介する。
 著者柴静(チャイ・ジン)は、中国では知らぬ人のない中国中央テレビ局の人気キャスターで、「東方時空」「新聞調査」等のニュース番組で、SARS治療の現場や土地問題の不正、さらには子どもの連続自殺事件など、社会的関心の高いテーマの真相を取材し、報道してきた。本書は、1976年生まれの若いメディア人である彼女の仕事の記録である。
 2003年春、北京ではSARSが猛威を振るい始め、患者の隔離が広がっていた。柴静と同僚は自己責任で危険を引き受けて病院へ行く。医師たちが不充分な装備で懸命に患者を救おうと努力する様子を、感染の危険におびえながら、記者として「私は知らなければならない」と取材し続けた。医療者の何人かは感染して犠牲になった。涙なしではいられない現場を伝えた彼女は「SARSの病室に入った記者」として知られることになった。
 中国中央テレビ局は党と政府の宣伝機関としての体制内メディアの性格を持っている。とはいえそこから送られるのは完全に統制された当局に都合のいいニュースばかりともいえない。なかには一定の独自性を持つ部門があり、そこには柴静のような記者としての使命感をもち理想主義を追求する人々がいる。彼らはしばしば圧力も受けるが、ならば受けた圧力そのものを記録して事態を理解しよういうしたたかさで真実を追求してゆく。
 2007年、絶滅したとされる河南トラが陝西省で発見されたというニュースが伝えられた。柴静のチームは、トラの写真を撮影した農民や、それを本物だと認定した林業局の責任者や、トラの生存を認定した学者などに取材した。それぞれ長時間におよぶ取材の中で、偽の写真が撮られ、それが本物とされ、トラの実在が信じられていく、科学的精神の欠如とトラの実在にからむ利権の構造があぶりだされてゆく。
 2008年の四川大地震の時には、臨時避難所から帰宅する一組の夫婦に同行した。小学校に行っていた彼らの息子は犠牲になった。山深い自宅に戻ると、家は崩壊しており、地震後はじめて自分の家の様子を見た夫婦は呆然と立ち尽くす。カメラも呆然とするしかない。この夫婦にインタビューなどできずに、チームはただ付き添うのを許してもらって、ときにカメラを回し、夫婦が話したくなれば聞き、現地で生活を共にした。チームは翌年も、三年目も現地を再訪する。「記者」とは「記憶すること」(中国語で同音)なのだから。
 柴静たちは、事件があるとまず現場に飛んでゆく。そして当事者たちに寄り添いつつ率直にインタビューし、時間をかけて共感をつないで、その人物を浮かびあがらせる番組を作ってゆく。この本を読むと、中国のメディアの中に、使命感をもって取材し自身の思考と感性に基づいて報道する人々が育っていることがわかる。それはもはや官制メディアの域を大きく超えている。
 著者柴静には後日談ないしは近日談がある。出版後、彼女は中央テレビ局を退いたが、ベストセラーの出版で得た私費を投じて、仲間とPM2.5による大気汚染の調査報告に関するビデオ「丸天井の下で」を作成した。これを今年(2015年)2月28日にネット上で公開するとすぐに大きな関心を呼び、短期間に多数の視聴を得て、環境大臣等から賞賛された一方で、多くの批判も受けた。賛否両論が渦巻く中、このビデオは全国人民代表大会開幕直後の3月5日から中国国内で視ることができなくなり、それが話題になって、その後また視聴可能になったという。中国での報道の自由をめぐるせめぎあいはいまだ予断を許さないが、柴静ら真摯なメディア関係者の活動を注目してゆきたい。
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