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♯1069 トランプ外交と東アジア情勢

2018年05月17日 | 国際・政治


 気が付けば、北朝鮮の(唐突ともいえる)態度の軟化がもたらした朝鮮半島の南北融和、そして核・ミサイル問題に関する米朝の歩み寄りの動きが鮮明になりつつあります。

 注目されるシンガポールでの米朝首脳会談を6月12日に控え、北朝鮮は5月13日、先に表明した核実験場の廃棄について、5月23日から25日にかけて米国、韓国、中国、ロシアなどの報道機関を現地に招き坑道を爆破するなどして行うと発表しました。

 勿論、北朝鮮のこうした性急な動きの背景には、朝鮮半島の非核化に向けた姿勢をアピールする狙いに加え、隣国中国の強いプレッシャーがあることは想像に難くありません。事態の推移に合わせる形で(独裁国家ならではのスピードで)次々と揺さぶりをかけている印象です。

 一方、米国のトランプ大統領もこの動きに応え、ツイッターに「北朝鮮が6月12日の米朝首脳会談の前に核実験場を廃棄すると表明した。ありがとう。とても賢く、丁重な行動だ!」と書き込み、北朝鮮の発表を歓迎する意を早速表明しました。

 勿論、米国は独裁国家ではないはずですが、トランプ大統領自身、金正恩、習近平、プーチンなどの強権的、独裁的な各国の指導者たちを相手に、逆にいいように(彼らを)振り回しているようにも見て取れます。

 よく見れば、トランプ氏に振り回されているのは(あながち)各国の指導者ばかりとも言えません。米国内の主要セクターも同様で、ホワイトハウスのメンバーでさえその例外ではないようです。

 急展開する北朝鮮情勢を受け、新たに就任したポンペイオ国務長官は早速「北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に応じれば、制裁は解除され北朝鮮の経済発展を支援するアメリカからの投資を得ることになる」と米国の朝鮮半島戦略の方針転換を示唆しています。

 また、「(金政権には)安全の保証も与えなければならなくなる」と述べ、トランプ政権が北朝鮮の金体制を支持・保証する考も示したと伝えられています。

 一方、ボルトン大統領補佐官は15日、トランプ大統領が北朝鮮に望んでいるのは弾道ミサイルを含めた「全面的な核プログラムの廃棄」だと発言。核兵器(核弾頭とミサイル)と核物質(高濃縮ウランとプルトニウム)、核施設(濃縮・再処理施設)ばかりでなく、生物兵器、化学兵器も除去対象とする厳しい姿勢を強調したということです。

 こうして、性急さとともにバラバラ感も目立つ昨今の米国の動きですが、現在トランプ大統領が注力する全ての政策は11月の中間選挙に照準を合わせていると言われています。

 (それが事実だとすれば)共和党の苦戦が予想される中、支持基盤を固めるためトランプ氏の外交による得点の積み上げや保護主義への傾注は、今後もエスカレートするばかりと言えるでしょう。

 確かに北朝鮮問題では、融和ムードを醸し出し(多少無理をしてでも)できるだけ早く成果を上げたいとスケジュールを繰り上げています。一方、中東政策でも、イラン核合意の一方的な破棄など、国内保守派を意識した動きが顕著になっています。

 経済的な「アメリカンファースト」の思想も以前にもまして(厳しい言葉で)強く打ち出されており、安全保障を理由に鉄鋼やアルミニウムの輸入制限を持ち出したり、知的財産権保護を盾にして「米中貿易戦争」を仕掛けたりしています。

 さて、こうした状況の中、日本の外務省や安倍首相が、中朝、南北朝鮮、そして米朝と続く多角的な首脳会談の大展開に取り残され、一方の経済交渉、貿易交渉でも後手に回っていると見ているのは私だけではないでしょう。

 予想しえなかった対話の状況が目の前で生まれているにもかかわらず、近隣国の政府として、ただ「圧力を最大限まで高めていく」と繰り返すだけでは戦略性にも柔軟性にも欠けるというものです。

 また、鉄鋼・アルミの輸入制限措置に関しても、多くの同盟国が対象から除外される中、日本は何の手も打てない状況置かれたままと言えます。

 ここで改めて言えるのは、何でもかんでも「米国追従」という主体性に欠ける従来の日本の外交方針では、もはや(縦横無尽に暴れまわる)トランプ政権や各国の首脳たちのスピードには到底太刀打ちできないということでしょう。

 その場その場で敵と味方を区別し、あくまで相対のディールにこだわる現在のトランプ大統領には、交渉によって手にできる目の前の短期的な成果しか眼に入っていないようです。

 今後、来月の米朝首脳会談を経て北朝鮮情勢がどのように動くかはわかりませんが、(トランプ大統領に加え)交渉技術に長けた金正恩委員長や老獪な習近平委員長、捨て身の交渉を繰り広げる文在寅大統領などを相手に安倍政権はどのような対応を見せるのか。

 一緒にゴルフをして、「仲良くなった」と強調しているばかりでは済みません。大きく動く東アジア情勢を前に、主権国家としての日本の外交交渉力が今、改めて問われているということでしょう。


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