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♯1055 橋の上の二人

2018年04月29日 | 国際・政治


 世界のメディアが注目した4月27日の朝鮮半島における南北首脳会談。金正恩朝鮮労働党委員長が北朝鮮の最高指導者として初めて南北の軍事境界線を越え、韓国の文在寅大統領と笑顔で固い握手を交わす映像が、この日、全世界に向けて発信されました。

 世界各国のメディアのために2000席が用意されたプレスセンターでは、両首脳が手を取り合いながら軍事境界線を揃ってまたぎ北朝鮮と韓国を行き来する様子がモニターに映ると、大きな歓声が上がったということです。

 勿論、今回の首脳会談については、米朝首脳会議に向け緊張緩和ムードを演出する(北朝鮮の)策略といぶかる向きも多く、「朝鮮半島の非核化」についても全てを言葉通りに受け止めて良いものとは思えません。

 しかし、「腹を割って話し合い、今後、未来を見据えて、志を持って、手を携えて歩いて行くきっかけに」(金正恩党委員長)、「初めて軍事境界線を渡ったとき(板門店は)、分断の象徴でなく、平和の象徴となりました」(文在寅大統領)と、二人の指導者がそこで交わした言葉に、分断国家ならではの深い思いが込められていたことは想像に難くありません。

 肩を抱き、相手を気遣うそぶりを見せ、ある時はウィットの利いたジョークを飛ばす。二人の政治家は、(立場や経験は随分と違っても)確かに互いの国家・国民を背負い、自らの個性において一世一代できうる限りのパフォーマンスを発揮したと言っても良いでしょう。

 そして何よりも、板門店から送られて来るライブ画像を見て私たちが改めて驚かされたのは、午後の散策において随行から離れた橋の上で2人きりで30分にわたって真剣に話し合っている、望遠レンズが捉えた二人の表情でした。

 もともと一つの国だったのですから(よく考えれば)通訳を交える必要がないのは当たり前です。また、二人はそれぞれ両国の最高指導者なのですから、自らの責任において自分の言葉で国の立場やビジョンを語ることができるのも自明と言えるでしょう。

 それでも、親子ほどに歳の離れた二人が、誰も交えずに二人きりで(恐らくは両国の将来について)お互いの目を見て言葉を交わすその姿は、国会中継や記者会見などに登場する日本の政治家を見慣れた私たちの目に随分と新鮮に映ったのも事実です。

 米国のトランプ大統領は、今回の南北首脳会談について「多くの素晴らしいことが起きた」と前向きに評価していると伝えられています。

 中国外務省は南北首脳会談終了後、「朝鮮半島の軍事的な緊張緩和や、半島の非核化・恒久平和の実現推進で重要な共通認識に達した」と歓迎する談話を発表。ロシアも今回の会談が朝鮮半島の緊張緩和を象徴する動きだとして歓迎の意を示しているということです。

 もともと、現在にまで至る朝鮮半島の分断が、戦前の日本による統治から朝鮮戦争に至るまで、(日米ソ中という)周辺大国の利害によりもたらされたものであることは否定できません。そればかりでなく、朝鮮半島の歴史は、常に大国に翻弄されながら刻まれて来たと言っても過言ではないでしょう。

 そうした中で、少なくとも今回、南北両国がそうしたしがらみを越えて自分たちの力で次の一歩を踏み出そうとしている姿に、世界は朝鮮民族の(ある種の)プライドのようなものを感じたのではないかと思います。

 この会談をきっかけに、北朝鮮の非核化やミサイル開発の中止が進むかどうかは予断を許しません。しかし、少なくとも今回、両国首脳が板門店で見せた高揚した笑顔には、分断された朝鮮民族の明日を背負う「気概」のようなものを改めて感じさせられた次第です。



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