MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2152 おじさんの転職が増えている件

2022年05月10日 | 社会・経済

 新型コロナの蔓延防止措置が解除となり、3年ぶりに開催された大学時代のクラブのOB会。久々に顔を合わせて驚いたのは、40代後半から50代になった面々の驚くほどのおやじっぷりと、転職した者の多さでした。

 在宅勤務やテレワークであまり出勤する機会もなく、当然ネクタイもせずに一日だらだらと自宅で過ごすとどうしても太ってきてしまう。あまり人にも合わないので服装にも気を配らなくなり、気が付けば(なんとなくだらしのない)「中年オヤジ」の出来上がりというのが、我々の一致した結論です。

 しかし、それに加えて仕事が変わった人のなんと多いこと。50歳というのが、企業人としての一つの節目ということもあるのでしょう。早期退職制度を利用して、他企業でのキャリアアップに賭けるという者、念願の資格を手にして開業を目指すという者、役職定年を前に「こちらから会社を見限ってやった」と言う者などその状況は様々です。

 家族が心配する中、それぞれ不安を抱えながらの船出だったようですが、話を聞けば次の職場でも同じ境遇の人は多く、転職者同士力を合わせて何とかやっているとのこと。それだけ、転職というのが一般的になり、決断へのハードルが下がったということなのだろうなと改めて感じたところです。

 そんな折、4月17日の日本経済新聞の1面トップに、「ミドル転職5年で2倍 雇用流動化に広がり」と題する記事を見かけました。

 41歳以上の転職者数は2020年度までの5年間で2倍に増え、若い年代より伸び率が大きい。新型コロナウイルス禍をへて企業が新たな成長事業の立ち上げを急ぐなか、経験が豊富な人材への需要が高まっていると記事はその冒頭に記しています。

 これまで、国内での転職は「35歳が限界」といわれてきた。それは、年功序列的な要素が強い国内企業では、後から加わった中高年の活躍の場が限られるからだと記事はしています。

 しかし(近年)その常識は変わり始め、人材紹介大手3社の紹介実績でも、2020年度には41歳以上の転職者数が約1万人となり、5年前の実に1.9倍に増えている。中高年に特化した人材紹介サービスである(株)シニアジョブへの登録者数を見ても、2021年末で6万1500人と2019年比で2.7倍にまで膨らんでいるということです。

 その背景には、企業のリストラがあると記事は指摘しています。東京商工リサーチによると、2021年に早期退職や希望退職の募集を開始した上場企業は84社。うち募集人数を公表している69社だけでも希望者は計1万5892人にのぼるということです。

 一方、転職サイトの登録者には早期退職を募った(そうそうたる)企業の社員が並ぶことになる。例えばシニア転職サイトのエン・ジャパンでは、日本たばこ産業(JT)の出身者の登録が18年の3.1倍、青山商事は3.7倍になったということです。

 それでは、こうしてリストラが増えても失業率の上昇が目立たないのはなぜなのか。それは、企業の新規事業部門やスタートアップなどが、経験者の採用に積極的だからだというのが記事の認識です。

 中高年への追い風は、賃金にも表れていると記事は言います。国の調査では、転職後に賃金が上がった人の割合から減った人の割合を引いた値は45~49歳で9.7ポイントと、上がった人の方が一割近く多い状況となっている。10年前はマイナス8.5ポイントと減る人の方が多かったことからも、賃金アップの見込める年齢の底上げが顕著に進んでいるのは明らかだということです。

 もっとも、そうした状況は40歳代までの話で、50歳代にはまだまだ厳しさが残るというのが記事の見解です。転職後の賃金の調査では50~54歳はマイナス5ポイントと下がる人の方が多く、55~59歳はマイナスが20ポイントを超える。60歳という事実上の定年年齢に近づくにつれ壁が高くなるのが実態だと記事はしています。

 また、転職に当たっては、職種間の待遇格差も広がっているというのが記事の指摘するところです。8つの求人サイトの募集時の給与情報をもとに年収を算出したところ、エンジニアの年収は3年前と比べ12%、データサイエンティストは10%上がっている一方で、飲食や介護は上昇幅が3%にとどまる。そこに顕在化しているのは、求められるスキルと積まれてきた経験のミスマッチの存在だということでしょう。

 さて、終身雇用や年功序列の慣習が崩れ、転職の選択肢がますます広がっているのはおそらく事実です。しかしそこには、年齢やスキルといったハードルが(それなりに)横たわっている。多くの友人たちの話からも、シニア転職をものにするには、それなりの努力が必要だったことがわかります。

 そんな苦労話を聞いたこともあって、「働き手にとっては年齢に縛られずリスキリング(学び直し)の機会を持てるかが重要になる」「コロナ後の経済回復に向けて働く人が自らの価値を高めて活躍の場を得られるようにする環境の整備が欠かせない」と結ばれた記事の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。

 



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