MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2148 世界経済の30年サイクル

2022年05月05日 | 社会・経済

 ロシアによるウクライナへの武力侵攻とその長期化を背景に、原油や金属、穀物など国際商品の高騰が止まりません。ロシアは原油・天然ガスの世界有数の輸出国であるほか、ウクライナとともに小麦の主要輸出国として知られています。このため、特にエネルギーや穀物の価格には強い上昇圧力がかかり、有事に強いとされる金にも投資マネーが流入。国際商品の総合指数は約7年3カ月ぶりの高水準で推移しているようです。

 実際、商品の総合指数は1年間で5割弱伸び、1995年以降で最大の上昇を記録しています。新型コロナウイルスのパンデミックがようやく落ち着きを見せ始め、景気が回復に向かい需要が急増するなかで、地政学リスクなどが十分な供給を妨げている状況とみる向きも少なくありません。

 市場では、需給逼迫への懸念が広範に商品価格を押し上げる格好になっており、輸入依存度の高い国では政情不安につながるのではとの懸念も一部で口にされ始めているということです。そしてこの日本でも、日銀が発表したこの2月の企業物価指数は前年同月比で9.3%上昇。伸び率は前回1月の8.9%からさらに加速して、オイルショックが影響していた1980年12月(10.4%)以来の歴史的な高騰が続いているということです。

 折からの円安もあり、輸入物価の上昇率は円ベースで実に34%にまで上昇するなど、ドルなど契約通貨ベースの上昇率である25.7%を大きく上回ったとされています。報道によれば、日銀が公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは500品目に及んでおり、企業間の取引で価格転嫁の動きが徐々に広がってきているということです。

 こうした商品市況高騰の背景に、混乱する世界情勢に伴う供給の(一時的な)不安定化があるのは間違いありませんが、もしかしたら理由はそれだけではないのかもしれません。3月18日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、「世界経済、30年サイクル再び」と題する論考が掲載されていたので、参考までにその内容を小欄に残しておきたいと思います。

 ロシアのウクライナ侵攻で商品価格が急騰、世界の株価が暴落するなど国際金融市場は激震に見舞われているが、今日の世界経済をどう見たらよいか。そこで、範を得るため19世紀末から約120年の歴史を振り返ると、世界経済には約30年周期の「グランドサイクル」があることが判ると筆者はこのコラムに記しています。

 1回目は、1900年の義和団事件で幕を開けた、第一次世界大戦に繋がる時代の動き。英国の国力が傾く中でインドの独立運動が活発になり、ドイツ経済が浮上して世界の成長率が高まる一方、国際紛争が多発して国際商品価格が3倍に高騰したということです。

 2回目は、1931年のポンド暴落で幕を開けた世界好況下の動き。パックスブリタニカが崩壊して、ブロック化が進む一方、米国の高度成長が始まり、紛争が多発し国際商品価格が4倍以上になったと筆者は言います。

 3回目は、1961年のベルリン封鎖と翌年のキューバ危機で幕を開けた、東西冷戦下が激化する時代の動き。ベトナム戦争で米国が国力を消耗する一方、日本の高度成長が始まって世界の成長率が高まり、第4次中東戦争などで国際商品価格が約4倍に高騰したということです。

 そして直近の4回目は、1991年のソ連崩壊で幕を開けたと筆者はしています。中国の高度成長が始まり世界経済をけん引する一方で、米国の対外債務残高が拡大、イラク戦争など国際紛争が多発する中で国際商品価格が4倍弱に上昇したということです。

 振り返れば、過去4回のサイクルは、いずれも国際秩序を揺るがす大事件から始まったと筆者は言います。世界で地殻変動が起き国際紛争が多発する一方、新しい主役が登場して世界経済の成長率が高まり、国際商品価格が高騰した。そこにあるのは大国の興亡と新興国登場のドラマだというのが筆者の見解です。

 そして、いずれの場合も30年サイクルの前半は、成長とインフレが同時進行するダイナミックな時代だったと筆者はこのコラムで指摘しています。一方、後半は成長が鈍化し、国際商品価格が下落してインフレが収まっていく。(もちろん言うまでもなく)現在まで続く過去10年間の低成長、低物価時代は、4回目のサイクルの最終局面に当たるというのが筆者の認識です。

 そう考えれば、今回のウクライナ危機は5回目のサイクルの始まりを告げる「シグナル」ということになるかもしれない。紛争が長引けば世界に深刻な打撃を与え、インフレが始まって世界経済はスタグフレーションに陥りかねないと筆者は言います。

 世界経済はこれから、新旧主役交代の混乱の季節を迎えるのか。もしもそうだとすれば、(ソ連崩壊以来「一強」と目されてきた米国に代わる)新しい主役は誰なのか。

 ロシア侵攻の結末は誰にも分からない。だが歴史の鏡に照らせば、地政学リスクの高まりで企業の投資行動が変わり、世界の地殻変動と共に新しい成長国が登場。そして、世界経済をけん引する時代がやがて始まると見るべきではないかと結ばれたこのコラムの指摘を、私も興味深く読んだところです。

 



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