MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1234 常温を楽しむ社会

2018年12月02日 | 社会・経済


 順調に拡大・成長を続けるアメリカ経済の影響などもあり、デフレ基調にあった日本経済も回復に向かいつつあるとされています。

 確かに余裕がある人は(それなりに)増えているかもしれませんが、所得の格差が広がる中、堅調な雇用や企業利益とは裏腹に個人消費は依然として低迷している状況が続いているのも事実のようです。

 総務省が発表している家計調査では、勤労者世帯の(収入から税や社会保険料などを除いた)可処分所得は、21世紀に入ってからの17年間で年間47万円余り減少しています。また、(農家や事業主なども含めた)全ての世帯の消費支出額も、年間41万円減っている状況が見て取れます。

 こうした中、10月5日に放送された政治経済の専門情報番組「寺島実郎の未来先見塾」(BS11)では、博報堂生活情報研究所所長の石寺修三氏を招き、21世紀に入り大きく変化しつつあるとされる日本人の生活意識について興味深い視点を提供しています。

 同研究所では、東京・大阪を中心とした大都市圏の成人3000人を対象とした「生活者の意識調査」を1992年から隔年で実施しており、先日、2018年の調査結果がまとまったということです。

 その結果、まず注目すべきなのは、「この先の経済的余裕」について「変わらない」と考える人が44.0%まで増えてきていることだと石寺氏は指摘しています。

 一方、「苦しくなる」は10年間減り続け28.2%に、「楽になる」は(未だ少数派ではあるものの)徐々に増え17.0%まで伸びているということです。

 また、この先の我が国の将来、つまり「日本の行方」に関しては、10年前には65%に達していた「悪い方向に向かっている」が37%まで減少し、「現状のまま変化はない」が32.3%から56.0%に増加しているとの指摘もありました。

 そして、こうした傾向に合わせるかのように、「日本人は国や社会のことよりも個人の生活にもっと目を向けるべきだ」と考える人は2012年の20.1%をボトムに増え続け、2018年では34.8%に達していると石寺氏はしています。

 調査結果を総括すれば、日本人の間に「この先、良くも悪くもならない」と変化への期待が薄らぐ一方で、身近な幸せへの感度が高まっていることが見えてくる。「不安はあるが不満はない」「公より私」「先より今」「期待より現実」といった「変わらない今」を楽しむ社会が訪れていると、石寺氏は意識調査の結果を解説しています。

 一方、NHK放送文化センターが行っている「日本人の意識構造」調査を見ても、日本人の価値観が「しっかりと計画を立てて豊かな生活を送る」というような未来志向から、「身近な人たちとなごやかな毎日を送る」という現在志向にシフトしてきていることが窺えるとキャスターの寺島氏は指摘しています。

 氏によれば、内閣府の「生活満足度調査」では、21世紀以降、現在の生活を「不満」とする回答は2002年の約40%をピークに2018年には24.3%まで減少し、代って「満足」とする回答は2002年の約60%から74.7%にまで伸びているということです。

 このようなデータを踏まえ、石寺氏は番組中、最近の若者を中心とした消費性向について、「1990年代から『モノ消費からコト消費』と言われて来たが、2010年代以降は今の楽しみを消費する『時消費』という形の消費が生まれているのではないか」と話しています。

 自由になるお金が少なくなる中、地方マラソンや「〇〇総選挙」への参加など、(ひとりひとりの価値観に根差した)「参加型消費」に喜びを見出す人が増えてきているということです。

 デジタル情報技術革命が進み、ネットから手軽に情報を集めSNSにより手軽に発信する双方向型の情報環境が生まれたことが、「参加型」の消費への情熱を後押ししている。日本人は全体としては「個」に向かっているものの、どこかで人と繋がっていたいということの表れだというのが、こうした社会状況に関する(番組キャスターとしての)寺島氏の認識です。

 博報堂では、現在の(いつまでも入っていられるぬるいお風呂の様な)個人にとって快適な環境を是認し、その中で身近な幸せを積極的に感じ取ろうとする社会を「常温社会」と呼んでいるということです。

 しかしその一方で、こうした「常温社会」の落とし穴のひとつに「情報技術への依存」が挙げられるという指摘も番組ではなされています。

 現代人の「不安」の震源地のひとつに(スマホなどを通じた)ネット情報への過剰な依存があり、一方でそれが崩れることへの恐れが見えると寺島氏は指摘しています。

 ネットへの過剰依存は、現代人から自分の頭で考える機会を奪っている。何かわからないことがあるときには、ネットで検索して安心するだけでなくせっかく整った情報基盤を活かして自分の価値観を確立していくことが必要ではないかということです。

 現代の日本の社会で隆盛を誇るスマホ、コンビニ、モールは、(こうして)私生活に重きを置くようになった日本人の「小さな幸せ」を集約し支えるものとして、日本人の生活文化のベースに位置付けられるようになってきていると寺島氏は言います。

 しかし、これから先、日本の社会は(若い彼らが期待するように)本当に現状のまま変わらず「常温」を保っていくことができるのか。

 「デジタルネイティブ」と呼ばれるバブル未経験世代が、もうすぐ日本の人口の半分を超える時代がやって来ます。そうなった時、日本の「常温」の姿はさらに違った形に変わってくるかもしれないと指摘する寺島氏の視点を、私も大変興味深く受け止めたところです。



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