コロナ禍からの経済活動の正常化に伴う人手不足感を背景に、大学生の就職活動は学生優位の「売り手市場」が続いています。リクルートワークス研究所の発表によれば、2025年3月卒業予定の大卒求人倍率(大学院卒含む)は1.75倍と、2024年卒の1.71倍より0.04ポイント上昇している由。昨年8月1日時点の就職内定率も91.2%にのぼり、2017年卒以降で最高水準になったと報じられています。
そうした中、「東洋経済ONLINE」が公表(2024/09/02)した、2025年春卒業予定者(大学生・大学院生)による『就活生1.5万人が選ぶ人気企業300社ランキング』によれば、トップは伊藤忠商事で5年連続で1位を獲得したとのこと。20時以降の残業原則禁止や「朝型フレックスタイム制度」の導入など、総合商社とは思えないホワイト化が(男女を問わず他社を圧倒する)人気の秘密だということです。
実は、2位は日本生命保険、3位は大和証券グループと昨年と同様の結果だったとのこと。金融系はやっぱり強いなぁと感心しますが、保険金不正請求問題を受けてか、損保に関してはあまり振るわない結果だったようです。
記事によれば、その他、若者に人気だったのがコロナ後のインバウンドもあって回復傾向にある航空系企業で、全日本空輸(ANA)45位、日本航空(JAL)57位とジャンプアップが見られるとのこと。また、芸能や音楽などエンタメ系企業も人気で、83位にランクインしたユニバーサル ミュージックは前年同期の215位から急浮上しているということです。
まあ、就職後の3年間で新入社員の3分の1が退職していくという今のご時世のこと、流行に敏感な若者が(まずは)「カッコいい」企業に憧れるのはわからないではありません。しかしその一方で、これだけ「売り手市場」が広がっていくと、地味な製造業や中小企業が新卒大学生を必要な人数だけ採用するのは、益々難しい状況になっていくことでしょう。
採用担当者の頭を悩ます昨今の採用事情に関し、キャリアコンサルタントの山田圭佑氏が2月6日の金融情報サイト「ファイナンシャルフィールド」に、『2024年の出生数は「70万人割」で過去最低!? 今後の「人事採用」はどうなっていくのか』と題する一文を寄せているので、(こんな時期でもあり)指摘を小欄に残しておきたいと思います。
2024年3月に東京商工会議所が発表した「2024年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」によると、2024年新卒者の採用計画人数に対する充足率が「100%以上」と回答した企業は全体の14.5%にとどまった。逆に充足率50%未満と、予定の半分も新卒学生を確保できなかった企業は41.5%に上っていると山田氏はこの論考に綴っています。
併せて、この調査からうかがえるのは、①採用・選考活動の長期化が起きていること、②新卒採用数を増やす企業が3割近くあること、③内定・内々定者の半数以上が最終的に採用辞退をしていること…などで、企業における「新卒採用」が今まで以上に困難になることを示唆しているということです。
実際、日本の出生数の推移を見る限り、現在の新規学卒者の減少幅は、将来に起きるだろう減少幅よりはまだましな状況だと氏はここで指摘しています。例を挙げれば、2024年の日本の出生数は約68.5万人となる見込みに対し、昨年の新成人(18歳の人)の数は約106万人。これは、今後18年間で新成人の数が37.5万人、35%も減少することを示している。このような状況下では、企業は(採用云々というよりも)人事全体の体制を見直していく必要に迫られるということです。
具体的にはどうなるのか。例えば、①中途採用・シニア採用などへのシフトが起きる、②時期を定めない通年採用が一般化する、③時短勤務、リモート勤務、副業可能など、フレキシブルな働き方が一般化する、④「社員を雇わない」形での業務割合が大きくなる…などを氏は挙げています。
大企業では、新卒者確保のために初任給を大幅に引き上げるなどの対策をとっていくだろうが、多くの中小企業は追随できないため、(人件費の高騰・人手不足による)中小企業の淘汰・統合が活発に起きる可能性も高い。つまり、今後、各企業は自社の存続をかけ、大きな環境の変化に立ち向かっていかなければならないということです。
いずれにしても、ごく近い将来、企業が「新卒採用」で職員数を確保することがかなり困難になるのは避けられない未来だと山田氏は見ています。少子化が進行する社会では、企業は「新卒採用」だけでなく人事全体、ひいては事業内容全体を見直していく必要に迫られる。今後、日本企業における人の雇い方、働き方にどのような変化が起きるのかについて、十分注意していく必要があると話す山田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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