岡山市の水を守る岡北の会

旭川流域で有害物質が浸・流出する危険性のある御津産業廃棄物処分場を建設・操業することに反対し、岡山市の水を守る活動を発信

虎倉産廃処分場問題の経緯

2018-05-27 | 虎倉産廃問題の経緯
1 概要
 岡山市に本社がある(株)西日本アチューマットクリーンは1975(昭和50)年頃から岡山県内で産業廃棄物最終処分場等を運営してきた業者ですが、2000年(平成12)年、岡山市北区御津虎倉に管理型最終処分場を計画しました。山中に管理型最終処分場と焼却施設を併設し、処分場の浸出水は調整池に溜めた後に浄化し、焼却施設の冷却水として使用することによって浸出水を放流しないという計画でした。

 2001(平成13)年、この計画を知った地域住民は、計画地が谷間であり、この谷から流れ出る水を農業用水及び生活用水としていて、希少種を含む淡水魚や鳥、昆虫が生息する自然豊かな場所でもあることから、計画に反対し続けてきた。

 当初地域は御津町という自治体に属していた関係で町を挙げて反対してきましたが、岡山市に合併されることになり、結局岡山市長は2009(平成21)年10月計画を許可しました。

 そこで、住民は差し止めを求める仮処分とそれに続く本訴、市の許可処分の取消を求める行政訴訟を岡山地方裁判所に提起しました。

2 差し止め仮処分
 住民は、2010(平成22)年3月15日、建設差し止めを求める仮処分を提起しました。当初は662名で申し立てましたが、印紙の追加を求める補正命令がなされたので、273名については取り下げました。

 仮処分の審尋は岡山地裁第三民事部で行われましたが、同年12月22日却下決定があり、住民は本訴で闘うことにして抗告しませんでした。

3 行政訴訟
 住民は、2010(平成22)年4月16日、許可処分の取り消しを求める行政訴訟を岡山地裁に提起しました。

 住民は、遮水シートが破れて浸出水が谷に漏出するおそれがあり、シートの漏水検知システムも有効に機能しないので、技術上の基準を満たしていません。調整池の容量の設定に関して、最大月間降水年のデータが考慮されていないため(後に改定された計画・設計容量では考量することが必要とされた)、容量が不足しており、いくつもの過去の降水データをもとにして計算すると、業者の計算方法によっても浸出水が調整池から漏れ出します。この点でも技術上の基準を満たしていません。

 また、業者が他の場所で操業している管理型最終処分場で不法投棄や許可容量を超過した埋立てを行っていて、処分場の浸出水が下流のため池を汚染していること等の業者の経歴から、計画通りに運営される保証はなく、「その業者に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認められるに足る相当な理由がある者」に該当することを見過ごした許可なので違法だと主張しました。

 また、2基の建設が計画されている焼却炉に関しては、1基ごとの焼却炉の処理能力の計算が誤っていて、実際の処理能力は計画より高いこと、そして、適用されるダイオキシン類の排出規制の基準値は、1基ごとの処理能力を基準とするのではなく、2基合計の処理能力に応じたダイオキシン類の基準が適用されるべきであり、本件の焼却炉は、基準を満たしていない等とも主張しました。

 しかし、岡山地裁は2013(平成25)年3月19日、住民らの請求を棄却する判決を言い渡しました。

 住民は控訴しましたが、広島高等裁判所岡山支部は、同年12月26日控訴を棄却しました。

4 差し止め本訴
 差し止め本訴は、2011(平成23)年3月22日に提訴しました。住民は遮水シートの破れによって汚染された浸出水が漏水すること、調整池の容量不足によって汚染された浸出水が溢れ出すこと、焼却炉からダイオキシン等の汚染物質が排出されること、他の場所で違法な操業を重ねてきた業者がまともな操業を行う保証はなく、水質汚染や大気汚染によって住民らの健康が侵され人格権が侵害されるおそれがあると主張しました。

 一審岡山地裁は、2012(平成24)年12月18日住民の請求を棄却する判決を言い渡しましたが、住民は控訴し、広島高裁岡山支部は、2013(平成25)年12月26日一審判決を取り消して、最終処分場及び焼却炉の建設差し止めを命じる判決を言い渡しました。調整池の容量不足によって最終処分場の浸出水が溢れ出すおそれがあり、人格権侵害のおそれがあると認定し、最終処分場の建設ができなければ焼却施設から出る燃え殻等を適正に処分することができないとして焼却施設の建設についても差し止めを命じました。

5 控訴審判決の評価
 一審岡山地方裁判所は、2012(平成24)年12月18日差し止めの請求を棄却し、続いて翌2013(平成25)年3月19日許可処分の取消請求を棄却しています。

 住民側の控訴によって、両方の訴訟が広島高裁岡山支部第2部に係属することになったのですが、控訴審判決は2013(平成25)年12月26日の同じ日に、建設差し止めの請求を容認する一方で、許可処分の取り消しを求める請求(行政訴訟)については控訴を棄却しました。

 差し止めを認める理由になった調整池の容量不足については行政訴訟の判決でも同じように判断したのですが、行政処分については処分時の許可基準に基づいて判断すれば足り、許可処分が行われた後に改定された計画・設計要領の算出方法を満たしていなくても処分を取り消す理由にならないと判断し、許可処分を取り消すことはありませんでした。

6 最高裁でのたたかい
 差し止めを認めた控訴審判決に対して業者が上告及び上告受理申立を行い、許可処分の取り消し請求を棄却した控訴審判決に対しては住民が上告及び上告申立受理申立を行うことによってたたかいの場は最高裁に移りました。

 住民は、上告の理由として、伊方原発最高裁判決(平成4年10月29日判決)が、「右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会もしくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議および判断を基にしてなされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右具体的審査基準に適合するとした原子炉委員会もしくは原子炉安全専門審査会の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」と判断していることを指摘しました。

 高裁判決は、処分時の基準に基づいて判断すれば足りるとしましたが、現在の技術水準に照らして判断すべきとする伊方原発最高裁判決に反していると主張したわけです。

 最高裁第三小法廷は2015(平成27)年7月14日差し止めを認めた控訴審判決の取り消しを求めた業者の上告を棄却するとともに上告審として受理しない旨の決定を行いました。

 他方、許可処分の取り消しを認めなかった控訴審判決に対して住民がおこなった上告および上告受理申立に対して、最高裁第三小法廷は2015(平成27)年12月1日上告を棄却する一方で上告受理申立を受け入れ、口頭弁論期日を指定しました。

 住民や弁護団員はこの決定に喜んだのですが、最高裁が許可処分を取り消そうとしていることを察知した岡山市は、自ら許可処分を取り消したうえで、住民の取り消し請求は訴えの利益を欠くことになるので棄却すべきと主張し、最高裁は訴えの利益が失われたとして住民の請求を棄却しました。

7 第2幕
 その後岡山市は、業者に調整池の容量を増やすなどの計画変更を行わせた上で2017(平成29)年8月最終処分場を許可してしまいました。

 業者はこの計画変更とそれを認めた許可処分によって建設差し止めを命じた確定判決の執行力は失われたとして、2017(平成29)年9月20日岡山地方裁判所に請求異議の訴えを提起しました。請求異議事件について、住民はそもそも一旦許可処分を取り消すことによって許可申請行為の目的は達成されたから改めて許可申請をすべきところなのに、申請行為のないままに行われた再度の許可処分は無効であるという手続的な瑕疵を主張しています。加えて、調整池の容量不足の問題はすでに前の裁判で争点となっていたのだから前訴の口頭弁論終結前に計画変更の主張することができました。したがって、変更した計画に対する許可処分によって執行力が失われたという主張は確定判決の既判力に抵触すると反論しています。

 さらに、2018(平成30)年1月、再度の許可処分の取り消しを求める行政訴訟も提起しました。

 岡山市は自らこの地域を「身近な生きものの里」に指定して、「このような自然豊かな環境を大切に守っていきたいと考えています。」と述べています。

 また、岡山市は、廃棄物処理に関する条例や要綱を定めて厳格に審理していることを自慢しています。

 ところが、最高裁で許可処分が取り消されることを察知するや自ら処分を取り消した上、計画を補正するよう業者に指示した上で再度の許可処分を行いました。業者とグルになっているとしか言えません。住民は怒りを新たにしています。

 執念深い業者の計画を止め、業者と結託した岡山市の動きを乗り越えて豊かな生活と自然環境を守るため住民の活動は今後も続きます。

※この記事は、清水喜朗弁護士の論文「西日本アチューマット最終処分場事件の報告」(『環境と正義』2018年3/4月号)をもとに作成しました。