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太宰治とたばこ(その2)

2015年02月06日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
旧芝離宮の水仙(2015.2.2)

「読んでおきたいベスト集!『太宰治』」その2は『富獄百景』からの抜き書きです。恩師で大文豪の井伏鱒二さんも、太宰治氏にかかればコミカルに描かれてしまいます。自分の仕事が遅いことをいいことに、今や世界遺産の富士山にまで悪たれ口をたたきます。太宰治氏が吸っていたのは、たしかに両切りタバコの「ゴールデンバット」ですね。

『富獄百景』

78ページ
井伏氏は、濃い霧の底、岩に腰をおろし、ゆっくりタ煙草を吸いながら、放屁なされた。いかにもつまらなさそうであった。

79ページ
「どうも俗だね。お富士さん、という感じじゃないか」
「見ているほうで、あえって、てれるね」
などと生意気なこと言って、煙草をふかし、そのうちに、友人は、ふと、
「おや、あの形相のものは、なんだね?」と顎でしゃくった。

89ページ
10月のなかば過ぎても、私の仕事は遅々として進まぬ。人が恋しい。夕焼け赤き雁の腹雲、2階の廊下で、ひとり煙草を吸いながら、わざと富士には目もくれず、それこそ血の滴るような真っ赤な山の紅葉を、凝視していた。

95ページ
甲府へ行ってきて、2、3日、流石に私はぼんやりして、仕事をしする気も起こらず、机のまえに座って、とりとめのない楽書をしながら、バットを7箱も8箱も吸い、また寝ころんで、金剛石も磨かずば、という唱歌を、繰り返し繰り返し歌ってみたりしているばかりで、小説は、1枚も書きすすめることができなかった。

97ページ
私は、やはり2階から降りていって、隅の椅子に腰をおろし、煙草をふかした。
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