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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(4-2)

2013年07月19日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
▽ 「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の中では、つくるとアカが会っているシーンに、たばこおよびライター、灰皿が一番多く登場しています。少し長い抜き書きになりますが、ご容赦願います。

182~183ページ
つくるは2人かけの黒い革のソファに座り、アカはその向いの椅子に腰を下ろした。 2人の間には小さな楕円形のテーブルがあり、その上には重そうなカラスの灰皿が載っていた。アカはつくるの名刺をあらためて手に取り、細部を点検するように目を細めてじっと見た。

186ページ
アカはポケットからマルボロの赤い箱を取り出した。 「吸ってかまわないか? 」
もちろんかまわない。アカは煙草をくわえ、小さな金のライターで火をつけた。目を細めて煙をゆっくり吸い込み、吐いた。「やめなくちゃとは思っている。てもだめだ。煙草をやめると仕事ができなくなる。禁煙した経験
つくるは生まれてから煙草を1本も吸ったことがない。

187ページ
彼は煙草をまた一服し、灰皿に灰を落とした。そして顔を上げてつくるを見た。

190ページ
アカはそこでいったん言葉を切り、灰皿で煙草をもみ消した。
「こういうビジネスはノウハウを確立すれば、あとはそれほどむずかしくない。高価なパンフレットを作り、立派な能書きを並べ、一等地スマートなオフィスを構えればいい。趣味の良い家具を揃え、高い給料を払って見栄えの良い有能なスタッフを雇う。イメージが大事だ。そのためには投資を惜しまない。それから口コミがものを言う。いったん良い評判が立てば、あとは勢に任せておけばいい。でも当分これ以上手は広げないことに決めている。名古屋近辺の企業だけに範囲を絞る。おれの目が届く範囲じゃないと、仕事のクオリティに責任が持てないからな」

191ページ
アカは微笑んだ。「実にすばらしい。おまえらしい」
2人の間に沈黙が降りた。アカは手の中で金のライターをゆっくり回転させていたが、煙草には火をつけなかった。たぶん一日に吸う本数を決めているのだろう。

194ページ
「シロはおそらく心を病んでいた」、アカはデスクの上から金のライターを手に取り、それをいじりながら慎重に言葉を選んで言った。

196ページ
アカは手の中で金のライターを回転させ続けていた。そして言った。

199ページ
アカは新しい煙草を箱から出して口にくわえ、少し間をおいてからライターで火をつけた。そして言った。

201ページ
灰皿の上で煙草が煙を上げていた。彼は話を続けた。
……
アカは灰皿の煙草を手に取り、煙を深く吸い込み、目を閉じた。
「彼女はおれの心にとても深い穴をひとつ開けていったし、その穴はまだ埋められていない」とアカは言った。沈黙が降りた。固く密度の高い沈黙だった。
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