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肝がんに対する北大での陽子線治療の話 2016年10月28日の肝臓について語る会から

2016年11月01日 | 学会研究会報告新聞記事など
肝がんに対する陽子線治療の話 2016年10月28日の肝臓について語る会から
 
北海道大学放射線科治療部門の加藤先生に開業医向けに話をしていただきました。
陽子線治療が画期的治療と認知されるようになってもう10年以上が経つのですが保険適応へと目指して研究が続いています。その臨床適応が実現するようにと試験を継続している先生たちの話しでした。
陽子線治療というのは、物質をつくっている原子の中の部品の一つである陽子という部分を光速の70%まで加速して主要部分に照射するというもの。放射線治療の一つなのですが、主要の部分にエネルギーを集めることができる(ブラッグピークっていう性質)ので、普通の放射線治療が治療部位の前後にも影響が出るのが、主要部分のみに集まりやすいということで、副作用もすくなく、効果的に治療ができるという利点があります。
 
そして、北大ではこの陽子線の施設の小型化に成功し、さらに性能は世界一って、素直に信じる私です。今まで35mで220トンあったおおきさが27m125トンって、半分近くの重量ってすごいことです。さすが、日本人本領発揮。
さらにすごいのは、小さくなっただけでなく、1回に治療できる範囲もいままで15cm範囲だったのが30から40cm範囲と複数回に分けなくてはいけなかった腫瘍に対しても1回で治療ができると。
 
さらにさらにすごいのは、スポットスキャンニングっていって、小さい点を集めて腫瘍の形に添った治療ができる、絵も綺麗に描けるような正確な照射ができるんです。講演では北大のロゴマークを書いていてその線の濃淡も再現できていました。びっくりでした。
そして、褒めすぎかも知れませんがさらに凄いのが、呼吸などの動きがある腫瘍でも金のマーカーを入れてぴったりその場所に来たときに陽子線をあてることができるという動体追跡機能(これは1990年に北大で開発された技術)がばっちりついているのです。
これだけのことができる機械は世界では北大だけなんですよーって。北大出身者の私としては褒めたくて仕方なくなるという代物。
是非多くの患者さんを救って欲しいです。

ただ、陽子線治療は、保険適応が大人にはないため、300万前後の自己負担が生じます。生命保険で先進医療の特約がついているとそちらで払えるので、今はそういった人達が主な患者さんとなっています。少しでも早く保険での治療ができるよう先生方頑張っています。
この治療は、治しきることができるので抗がん剤などの長期投与が必要なくなります。そうすると医療費の削減に直結するすごいことがいっぱいあるので、施設にお金はかかりますが、国にとっても患者さんにとってもいいことだらけなはずと私は思っています。

肝がんについては、3個以内を適応としているとのことですが、治療技術が進んで多くの患者さんが受けれるようになれば、今まで外科切除やラジオ波焼灼術をしていた方でも簡単に外来で治療ができるなんてことが起こりえます。
制御率は9割弱と外科や内科治療に充分置き換わる成績です。

そして、門脈腫瘍栓(肝がんが門脈に入ってしまうと余命が半年とかになる)が起こったような普通であれば手の施しようのない肝がんについても治しきる可能性をもっています。
多施設での臨床試験も始まって、症例数が蓄積される保険適応が実現するよう、臨床の先生方に呼びかけながらすすめています。

会場からは、肝がんで治療の話を聞いていたがお金が高いとあきらめた患者さんが1年後に亡くなっていて、でも、この治療をしていれば今も生きていたのかと思うと、お金の問題ではなかったんだなと質問されていた先生がいたのが印象的でした。

いい治療が早く実現しますように、患者さんも私たちも外来で肝がんの患者さんが治っていくのを心待ちにしています。

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