小説を書きます!

書くのみ!

竜宮に棲む人魚(七)

2006-03-30 04:18:56 | 竜宮に棲む人魚
 茜はしばらく外で涼んでいた。
 すると、裏口からバットを持った夏彦が現れた。数回素振りをしたあと、彼女の存在に気づき、近づいてきた。
「浴衣、似合ってるよ。少しだけ色気が出ている」
「ぜんぜん思ってないくせに」茜は頬を膨らませた。
 夏彦は声をあげて高らかに笑う。「暗い顔して、ホームシックにでもかかったか?」
「違うわ。夜風にあたっていただけ」
 夏彦は「ふ~ん」といい、距離を置いてまたバットの素振りをはじめた。
「野球好きなの?」
「ああ、中学では野球部にいたからな。俺、けっこううまかったんだぜ」
「ふ~ん」
 茜は興味なさげに頷いた。
「ところで両親はなんかいっていた?」
「何が?」
「さっき、親に電話しただろ!」
「あっ……」
 茜は口ごもる。電話はしていない。かけたふりをしただけ。彼は茜の言葉を待っている。何かいわなければ怪しまれる。
「心配していなかったよ。いなくて清々している感じだった」
 平静を装い、その場しのぎの嘘を重ねた。
「馬鹿! これだからガキは困るんだ。我が子を心配しない親なんていない。強情張ってないで明日は家に帰れよ」
「帰りたくない!」本音が漏れた。
「おいおい、約束しただろ」
「もう、どうでもいいよ」
「何があったか知らないけど、生きてりゃいいことはあるさ。そんなに思いつめるな」
「生きててもいいことなんか何もない。いっそのこと、死んだ方がいいわ」
「馬鹿!」
 夏彦はバットを落とし、罵倒を浴びせた。
「馬鹿、馬鹿いわないで」茜は反論する。
「馬鹿だから馬鹿っていっているんだよ!」
「あなたに何が分かるっていうの」
「ちょっとこい!」
 腕をつかまれた。
「痛い、離して」
 強引に腕を引っ張られた。
 
 二人は夜道を早歩きをし、灯台が見える丘にたどりついた。
 夏彦は茜の手を放し、立ち止まる。彼は海を見つめるばかりで無言だった。
 突拍子すぎる夏彦の行動に戸惑う。茜は言葉のとっかかりがつかめないまま、彼の後ろ姿を見据えていた。
 赤や黄色の灯台の光が二十秒間に一周し、波打ち際に細長く映している。
 波は心地よいリズムを立てて洗い、海面に浮かぶ漁火が幻想的にともっていた。
「きれいだろ?」
「うん」
 連れてこられたのは不本意だが、確かにいい景色であった。
「妹が好きだったんだ、この丘から見える灯台の風景」
 不意に妹の名を出し、ますます意味が分からない。
 この人、何を考えているんだろう。
「俺には一人の妹がいた。名前は沙織。今頃、二十歳になっている」
 旅館にそれらしき人物は見あたらなかった。それに、言葉の端々が妙に引っかかる。
「今、どこにいるの?」気になって質問してみた。
「海の中」
 淡々と話す夏彦の口振りから、本気と冗談の境目は計りかねた。
「もしかして死んだ?」
 茜はストレートに聞いた。
「分からない」夏彦は首を振る。「死体はあがらなかったから」
 そして、思い出すように言葉を吐き出した。
「二年前の夏、沙織は海にいったきり戻ってこなかった。俺の中では、沙織が十八歳のままで止まっている」
「一緒にするな、と怒られそうだけど、私と同じ、家出じゃないの?」
「一緒にするな」
「ごめん」
「そうだな。海の中よりそっちの方がいいよ。茜と一緒の、家出であってほしい」
 夏彦は力なく笑い、そうつけ加えた。
「沙織の墓はまだない。親は諦めて墓をたてることを望んでいるが俺は反対している。墓をたてたら、沙織が死んだことを認めたことになるじゃないか。でも、俺は矛盾している。いつもここへきては祈っている。まるでこの海を墓と見立てているみたいに……」
 何だろう、この気持ち? 
 影と影が重なりあったような感じ。
 彼も心に傷を負っている。少し見る目が変わった。
「俺は、生きていて欲しいんだ」
 その言葉は妹に向けられたものか、茜に向けられたものか結局分からなかった。
 
 翌朝。茜は新聞を借りて、全面に目を通した。殺人事件の記事に注目したが、自分が関わった事柄は載っていない。朝のテレビニュースでも伝えていなかった。
 あいつは死んでいないのか?
 不安の入りまじった安堵の溜め息を漏らした。
 男物のゆったりした白いTシャツに着替える。これは夏彦からの借りものだ。
「お世話になりました」
 茜は女将と仲居に礼をいった。
「気をつけてね。これ、電車の中で食べて」 
 女将は握り飯をつくってくれた。
「ありがとうございます」
 茜は荷物を持ち、外へ出た。
 バイクにまたがった夏彦が待っていた。赤いアロハシャツが風にひらめていた。彼は「よっ」と手を挙げて挨拶した。
「駅まで送ってやるから早く乗れよ」
 黒色のヘルメットをこちらに向けて投げてきた。茜はキャッチする。
 バイクは赤と黒のツートンで、ガソリンタンクが太陽に照らされ光っていた。
 茜はヘルメットをかぶり、後席に乗った。夏彦のへそ辺りに手を回し、力を込める。
「おい! そんなにしがみつくなよ」
「だって、落っこちたら大変でしょ」
「大丈夫大丈夫、俺の運転手だぜ」
「だから怖いの」
「馬鹿! さぁ、いくぞ!」
 ブルンブルン。排気音が鼓膜に響く。エンジンの振動が身体を伝い、バイクは急発進した。
「きゃっ」
 茜は歓喜の悲鳴をあげ、彼の背中にしがみつく。
 変化に富んだ海岸線を駆け抜けると、個性的な島々と無数の真珠筏が見えてきた。
 カーブ手前で減速し、車体を倒すときの遠心力で外に引っ張られる。直線道路に入り、加速とスピードが出る。風に吸い込まれていく体感。
 こんな感じは初めてだ。このままずっと走っていたい。
 世の中にはまだ知らない感動が満ち溢れている。そのことを彼が教えてくれた。
 今までの悩みは吹き飛び、死という文字さえ頭から消えていた。
 再びこの土地に訪れたい。たったそれだけの理由で、生きることへの執着が起こった。
 人はささいなことで死ぬこともあるし、生きることだってできる。
 私、この人のことが好き……。
 茜の胸は熱くなった。
 絶望から芽生えた一筋の光。それは恋。
 夏彦に惹かれつつある自分を認めた瞬間だった。

竜宮に棲む人魚(六)

2006-03-25 14:23:40 | 竜宮に棲む人魚
 茜は旅館に通されると、電話の前に連れていかれた。
「約束だぞ。親に電話するんだ」
 夏彦から受話器を渡され、いやおうなく受け取る。
「今すぐに?」
「そうだ、今すぐ!」
「あとにするわ」
「駄目だ!」彼は首を振り、「こういうことは早く知らせておいた方がいいんだ」という。
 困った。どう切り抜けよう。逃げられない。
 彼が目を光らせている。
「分かったわ。かけるからあっちにいってて」
「ああ」
 夏彦を向こうへ追いやった。離れてもこちらを伺っている。
 受話器を置くと、彼は戻ってきた。「どうだった?」
「ちゃんと親に電話かけたよ。明日帰る、と伝えた」
「よし」夏彦は満足げに頷いた。
 彼は気づいてない。まんまと騙すことができた。警察に連絡でもされたら、たまったものじゃない。
 茜は一一七の時報にかけて会話する振りをしたのだ。
「今日はゆっくり休めよ」
 頭を撫でられ、髪がくちゃくちゃになる。
「ちょっと!」
 子供扱いされたが怒りは沸かなかった。悪気はない彼の性格がつかめてきたから。
「じゃあな」
 夏彦は仲居を呼び、「まかせるよ」と一言。どこかへいってしまった。
 ほっとした。でも本当にこれで良かったのかな。
 茜の気持ちは複雑だった。
 二階に案内され、純和風の一室に入った。正当な客ではないのに、「ごゆっくり」といわれ、遠慮がちに会釈する。
 予想外な展開に戸惑っていた。
 一人には十分すぎる部屋。真ん中でぽつんと正座し、手持ち無沙汰でテーブルにあった和菓子を食べた。
 かなりずうずうしい奴。茜は自分ながらに思った。
 
 時計を見ると、午後八時を差していた。
 落ちつきなく、立ちあがり窓を開ける。風鈴の音色とさざなみが重なって耳に心地好い。
 あいにく風景は暗くてよく見えないが、昼間なら青い海を一望できてきれいだろう。
 そのとき、内線の電話が鳴った。相手は夏彦からだ。
 一階の食堂に呼ばれ、いってみると彼が待っていた。食堂の席に向かい合った。
見渡すと、他には宿泊客が三組ほど食事をしていた。
 新鮮な幸と暖かいご飯と味噌汁がテーブルに乗った。
 茜は生唾をごくんと飲み込む。朝から、きちんとした食事をとっていない。空腹だった。
「遠慮することはないぞ。あとで代金はきちんともらうからな」
 夏彦はニカッと笑う。
「うん。いただきます」茜は手を合わせた。
 彼はすばやく食事を平らげ、また茜を残して立ち去ろうとする。
「待ってよ」彼を呼び止めた。「ありがとう」
 彼は微笑んで「おやすみ」といった。
 一瞬、どきっとした。
 口は悪いのが面倒見の良い憎めない人だ。ひとりっ子の茜は、兄のような存在ができたみたいで嬉しかった。
 部屋に戻ると、中央に布団が敷いてあった。着物姿のふっくらと肥えた中年女性が茜を待っていた。女性はにっこりと微笑んだ。
 慈愛に満ちた顔で迎えるその女性は、夏彦の顔にそっくりだった。
「暖かいお茶を飲みますか?」
 隅に寄せてあるテーブルの上に急須と湯飲みがあった。
「あのう、もしかして、夏彦君のお母さんですか?」
「はい、この旅館の女将もしています」
「今日は、突然、お邪魔してすみません。お金は後日、必ず持ってきますので……」茜は深々と頭をさげた。
 女将は笑うとますます夏彦に似ていた。
「明日の着替え、そこに置いておきましたから。夏彦から渡すように頼まれたの。あの子のお古だから返さなくていいから」
 少しよれついた白いTシャツが布団の横にたたんである。
「ありがとうございます。洗ってお返しします」茜は再び頭をさげた。
 親切だけど恩着せがましくない。細かい気配りと思いやりを感じた。
「名前、聞いてもいい?」
「澤井茜です」
「東京からきたんですってね。夏彦から聞いたわ」
「墓参りをしようとここにやってきました。大王崎に父の実家があって……今ではもう空き地になっていますけど」
 あえて家出のことは伏せた。たぶん夏彦から聞いていると思うが。
「あなたのお父さん、この辺に住んでいたの?」
「はい」
「澤井って、もしかして澤井徳二さんのことじゃ……」
「父のことご存じなんですか?」茜は驚いた。
「やっぱりね。あなた、徳ちゃんにそっくりだもの」女将は声高らかに笑った。「徳ちゃんとは幼なじみでね。子供の頃、近くの浜で泳いで遊んだ仲よ」懐かしむように目を細める。
「そうでしたか」
 父の知り合いに遭遇した。偶然ではあるが実家の近くなのでありえない話ではない。
「徳ちゃんは仕事の関係で東京にいった、と聞いたことがあるわ」
「はい。でも、父は四年前に亡くなりました」
 女将は暗い表情になり、「そう、残念だわ。元気な人だったのに……もう一度、会いたかった」
 茜は申し訳ない気持ちになった。
 女将は空気を取りなすように、「今日は暑かったから汗をかいたでしょ。小さな旅館だけど露天風呂があるのよ。入っておいで」
 その言葉に、茜は控えめに頷いた。
 都心から離れ、大王崎特有の味わいの良さに振れたとき、茜の決心は揺らぎつつあった。
 夜空を見ながらの露天風呂は最高だ。自分は運がいい。ずっと運が悪いと思ってきたが。
 茜は手足をのばしてリラックスする。人情だけでも十分なのに、温泉がいっそう心を温めた。
 湯気に包まれながらとろりと目を閉じる。
『おまえ、笑うとかわいいよ』
 ふと、夏彦の言葉を思い出し、口元がほころぶ。
 この何年間、笑った記憶がない。自分をかわいいといってくれる人もいなかった。お世辞でも褒められたらいやな気はしない。
 いつでも逃げ出すことはできたのにそうしなかったのは、夏彦の包容力に甘えたから。
 ときどき見せる彼の優しさにどっぷりとつかりたいと思ってしまった。
 誰かに甘えることができたのは父以外ではじめてのこと。
 この町の人たちは不思議な癒しを持っている。危なげな心をそっと軌道修正してくれる力がある。
 でも駄目だ。茜は頭を振った。
 本来の目的を見失ってはいけない。幸せな思いを打ち消した。
 短い髪はタオルでこすったらすぐに乾いた。風呂上がりは浴衣を着て、はだけそうになる裾を押さえた。
 旅館の通路は外につながっている。大きくはないが日本庭園がほどこされてあり、木々がライトアップされて明るかった。
 夜風は爽快だ。空を見あげると、満月に近い月の光が地上を照らしていた。
「父さん」
 急に心細くなって呼んでみたが、徳二は現れなかった。
 明日からどうしよう。
 先のことを考えると、また不安が募ってきた。

竜宮に棲む人魚(五)

2006-03-07 00:33:13 | 竜宮に棲む人魚
 空の色の変化に伴い、気温は二、三度さがり、風の速度も弱まってきた。
 沈みゆく夕日に照らされ、孤独な影が長くのびる。
 赤く染まった横顔は沙織の面影をダブらせ、夏彦はしばし見入っていた。
 土が盛りあがった所は海鳥の墓だ。その前で少女はずっと屈んでいた。
 もうじきに夜がくる。
 この子はいつまで、ここにいるつもりなのだろう。
「おい、まだいたのか」
 夏彦は声をかけた。少女はわざとらしく振り向かない。
「さっきのこと、怒っているのか?」
 なおも少女は無視を決め込む。
 夏彦は微笑んだ。
 同じだ。沙織も機嫌をそこねると、なかなか喋ってはくれなかった。
「おい、そこの家出娘!」
 少女は驚いた顔でこちらを向いた。どうやら『家出』という言葉に反応したようだ。
 やっぱりそうか。
「もうすぐ日が暮れる。早くおうちに帰りなさい」
 今度は顔を逆方向に向けた。
「聞こえているんだろ。見た感じ学生だな。今頃、父さんと母さんが心配して家で待っているぞ」
「いったい何ですか? 大きなお世話だわ。親は心配してませんから大丈夫です」 冷たく交わされた。
「かわいくねーな」そう口走ると、少女は睨んできた。「悪い、冗談だ。マジで危ないから帰った方がいい」
「ほっといてください」
 少女は立ちあがり、歩き出す。
「待てよ。そっちは崖だ!」
「どこにいこうと私の勝手でしょ。あなたには関係ないわ」
「早く帰らないとお化けが出るぞ」夏彦はからかった。「うらめしや~」胸元でだらしなく両手首を垂らし、幽霊のまねをする。
「幽霊なら怖くない。いつも見慣れているから」
 夏彦は声を出して笑った。「ガキだな」
「冗談じゃないよ。本当なんだから」
 少しおどかしてやろうと、
「そういえば最近、この辺で怪しい奴がうろついていた。今は幽霊より人間の方が怖いぞ。事件を未然に防ぐために警察に連絡するしかない」
「ちょっと」少女は焦った様子で「お願い。それだけはやめて」と懇願された。あまりの必死さに夏彦の方が怯んだ。
「だったらいわれた通り、まっすぐ家に帰るんだな。もう、家出なんかするんじゃないぞ」
 夏彦は腰に手を当ててたしなめた。
 少女は目をぱちくりさせて今にも泣きそうな顔。その不安げな様子が少々気の毒に思えてきた。
「どこからきた?」
「東京」
「だろうな。何となく言葉のイントネーションで分かった。俺、東京の大学にいっていたんだ」
「へぇー、そうなの」共通点を見つけ、少女の声が高くなる。
「中退したけどな」オチをつけるのを忘れなかった。だが、少女はくすりとも笑わなかった。依然、警戒心は解けない。
「東京行きの切符、買ってあるんだろう?」
 少女は首を振った。「お金、ないから」
「今日はどうするんだ? 泊まるあてはあるのか?」
 少女は俯いてしまった。それが返事だった。
「まったく無謀な家出だ。仕方がない。今晩、俺の所にこいよ」
「軽く見ないで! 知らない人にのこのこついていくような女じゃないわ」
 夏彦は慌てて「違う。俺の家は旅館なんだ」
「旅館?」
「そうだ。旅館に泊まらせてあげるんだよ。勘違いするな。誰がおまえみたいな家出娘、相手にするもんか!」
「家出娘、呼ばわりしないでよ。きちんと名前があるんだから」
「名前は?」
「茜」少女は口を尖らせていった。
「茜、いくぞ」
 夏彦は手招きする。
「待ってよ、勝手に決めないで。誰も助けてくれなんていってないわ。あんたに頼むくらいなら野宿の方がマシよ」
 そういって少女はあかんべーと舌を出す。
「あんた呼ばわりか。俺だって名前があるんだ。夏彦、という名前が」
少女は視点は定まらず、落ちつかない。不安定な気持ちが伝わってくる。
「第一、こんな所で野宿できるわけがないだろう。無理をするなよ。いいから俺の所へこい!」
 少女は頑固として拒否した。
「よし、分かった。警察に連絡するしかないな」
 ズボンの後ろポケットから携帯電話を取り出し、ちらつかせた。
「ストップ! いくわ」
「素直でよろしい。旅館についたら、明日家に帰る、と親に連絡しろよ。分かったな」
 少女は不服そうにして頷いた。「旅館はどこ?」
「ここから見えているよ。あの白い屋根だ」
 夏彦は指をさした。
 少女は戸惑いながらもついてきたがまた足を止めた。
「今度はどうした?」
「やっぱりやめておく。タダより怖いものはないというし。それに迷惑かけたくない」少女は遠慮がちにいう。
「誰もタダとはいっていないぞ」
「お金がないのを承知でいってくれたんでしょう」
「所持金はいくらある?」
「二百円くらい」
「なんだそれ」夏彦はあきれた。「今どき、大した飯も食えないじゃないか」
少女はふくれっ面で「もう結構です」と背中を向けた。
「前払いで二百円もらうよ。残りは後日返しにきてくれたらいい」
「二百円?」少女は振り返った。
「二百円で泊まれる旅館は俺のところだけだ」
 少女は吹き出した。それが本来の表情であるのだろう。
「おまえ、笑うとかわいいよ」
 茜は赤くなって真顔に戻る。
「私は、おまえ、じゃない!」
「分かったよ。茜、いくぞ」
 
 旅館の前で少女を待たせて、夏彦だけが旅館に入った。
「実は、頼みがあるんだ」
 さざなみ旅館のおかみをしている母、美江は、怪訝そう目で見つめた。
「どうしたの? かしこまっちゃって」 
「外に女の子を待たせてある。その子を今晩だけ泊まらせてやってほしい。明日絶対に帰らせるから」
「ちゃんと説明してちょうだい」
「家出してきたらしいんだ。野宿するといい張っている。危ないからここに連れてきた」
 美江は溜め息をついた。
「どうしてそんな子を連れてきたの!」
「沙織と似ていたんだ。ほっとけなかった」
 美江は少し考えて「分かったわ。一晩だけよ」と承諾した。

竜宮に棲む人魚(四)

2006-03-05 10:55:56 | 竜宮に棲む人魚
 渡辺夏彦はホンダの二五〇ccバイクで疾走する。
 スピードは六〇キロ。タコメーターは二八〇〇回転で針が触れる。シフトダウンし、クラッチを離しながらアクセルをあげていく。
 マシンのけたたましいエンジン音が鳴り響き、風を切って直進。
 身体全体で振動を感じ、バイクと一体化する瞬間が気持ちいい。いやなことを忘れることができる。
 さっき、灯台の下で小柄な少女に出会った。
 灯台の下にいたから観光客だろう。でも赤のサンダルは旅行に似つかわしくないと気になった。
 前髪が多いショートヘア。白と紺のボーダー柄ラガーシャツ。ベージュのだぶだぶカーゴパンツ。
 自分の妹と、歳や背恰好、服装の趣味まで似ていたから思わず話しかけてしまった。
 そのとき、意地悪ないいぐさをしてしまったから嫌われたはずだ。
 夏彦は後悔していた。
 少女は澄んだ目をしていた。優しさの中に秘められた気の強さも妹とそっくりだった。
 二年前、二つ年下の妹が行方不明になった。
 いったい、どこにいるんだろう。沙織、早く戻ってきておくれ……。
 
 夏彦が大学に入って間もない頃、名古屋で沙織と落ち合う機会があった。
 喫茶店に入ってきた沙織は少し見ない間に、身体はほっそりと引き締まり、大人っぽくなっていた。
 唇は口紅では出せない自然のピンクに発色し、艶のある肌は光っていた。子供から女性への成長過程を兄として眩しげに見つめた。
「少し痩せたか?」
「うん。少しね」
 表情は相変わらずあどけない、十八歳の笑顔だった。
「兄ちゃん、彼女できたの?」
「ああ、できた」
「へぇ、いくつの人?」
「同じ歳」
「どこで知りあったの?」
「大学のサークルで」夏彦は苦笑し、「おいおい、質問責めだな」
「だって兄ちゃん、めったに家に帰ってこないんだもん。妹としては兄の東京生活を、ちくいち知っておきたいから」
「母さんに頼まれたんだろ?」沙織は驚いた顔になる。
 図星か、と夏彦は笑った。
「うん、ばれたか。母さんは兄さんのことを心配しているんだよ。父さんだって、口には出さないけど家を継いで欲しいと願っているわ。たまには家に帰ってきて親に顔を見せてあげてよ。それだけで親は安心するんだから」
「おまえからもいってくれよ、俺はもう子供じゃないって。心配しなくても大丈夫さ。俺は自分のやりたいことを見つけて、何とかやっていくから」
「東京のどこがいいのかしら?」沙織は首を傾げた。「私は大王崎の方がいい。都会はごみごみしているから好きになれないわ」
「分かってないな、都会の良さを」夏彦は首を振った。
「ところで、その彼女とは結婚するの?」
「馬鹿、まだしねーよ。大学生は金がないんだぜ。結婚なんて考えたこともない」
「兄ちゃんの彼女、早く見たいな。今、写真は持っていないの?」
「残念ながら今日は持ってない」
「今度、実家に連れてきてよ」
「ああ、そのうちな」
「あのさ、夏休みに東京へ遊びにいってもいい?」
「都会は好きになれないんじゃなかったのか」
「旅行だからいいの。兄さんのところで泊めてもらうわ。ホテル代が浮くから」
 ちゃっかりしているのは母親譲り。夏彦は苦笑した。
「ホテル代わりにするなよ。俺のアパートは狭いんだぞ」
「いいの。そのときに彼女も紹介してね」
 何でも勝手に決めてしまうオテンバ娘。だけど憎めない。
「ところで、沙織の方はどうなんだ? 彼氏はできたか?」
 沙織は赤くなった。「いないよ。でも……好きな人はいる」
「そうか、恋しているのか。おまえも頑張れよ」
 夏彦は妙に納得してコーヒーをすすった。「父さんに伝えておいてくれ。来月は帰るからって」
「うん、分かった」沙織はうれしそうに頷いた。
 その会話が、沙織との最後だった。

 夏彦が大学一年の夏。悲劇は起こった。
 沙織が海水浴中に忽然と消えた。母の電話で聞きつけ、急いで帰省した。
 海で一緒だった沙織の友人によると、目を離したすきにいなくなったという。
 警察にも捜索を頼んだがいっこうに見つからなかった。
 沙織は泳ぎが得意だった。そんな彼女が溺れるとは考えにくい。
 海女になりたい、と笑顔で話していた姿を思い出す。海で素潜りの練習をよくしていた。だから海女小屋にも捜しにいったほどだ。
 沙織が海からあがった姿は誰も見ておらず、高波を受けて、海中にさらわれた可能性があった。
 少しの油断が命取り、ということもある。
 あるいは、どこかに流れつき、記憶をなくしているかもしれない。あらゆる憶測を考えた。
 人に聞いて捜し回るが決定的な情報は得られなかった。
 小説やドラマでありがちな失踪や、ニュースで取りあげられるような思春期の家出は、沙織に限ってあり得ない。
 友達はたくさんいたし、勉強もほどほどにできた。普通の女の子で恋もしていた。
 家族を悲しませるようなことをするような子ではないと断言できる。 
 二年目の歳月が流れたが、日めくりカレンダーはその日のままで、妹が消えた日から時が止まっている。
 それでもまた夏がくる。心は置き去りで癒されることはない。
 夏彦は東京の大学を中退し、故郷に戻った。今ではガソリンスタンドで、しがなく働いている。
 自由がきく、フリーターを選んだ。空いた時間は沙織の捜索に費やせるから。
 親は何もいわなかった。沙織がいない家族には活気がない。大学をやめたことを問いつめる気力すらなかったのかもしれない。
「家業を継いでくれればいい」とだけ父はいった。夏彦は頷かなかったが、いずれそうするつもりだった。
 その頃、つきあっていた彼女とは別れた。沙織のせいではない。自分の力不足と、大人になりきれなかった性格に落ち度があった。
 夏彦は昔からこの町から出たいと思っていた。都心の大学を専攻したのもそのためだ。都会への憧れもあった。
 地元では就業者の半数が漁業や海の仕事に携わっている。夏彦は海とはかけ離れた道に進みたかった。 
 中小企業でもいい、都心の会社に就職し、サラリーマンにでもなろうとしていた。
 でも、この町に戻ってきた。結局は離れられなかった。沙織の愛した町、大王崎を夏彦も同様に愛していたのだ。 
 そして、海に訪れるのが習慣となった。
 ヒューヒュー。
 磯笛と呼ばれる海女独特の呼吸法。海から聞こえると、沙織が近くにいるようでつい見渡してしまう。
 いつか帰ってくると信じながらも、心の奥では覚悟していた。
 沙織は死んでしまったのか?  
 いまだに沙織の墓はなかった。父は諦めた様子で「墓をたてよう」と口にしたが、夏彦は反対した。
 墓をたててしまったら沙織の死を認めたことになる。
「沙織は絶対に帰ってくる」といい切った。もし戻らなくても、この目で遺体を確認するまで墓はつくりたくない。
 
 日が傾きかけている。
 再び、灯台で出会った少女のことが脳裏をかすめる。
 沙織と似ている少女。手ぶらでサンダル姿。やけに丸くなった背中がさみしげに映った。
 連れはいなかった。一人で観光にきたのは不自然だ。
 妙な胸騒ぎがして、夏彦はバイクをUターンし、引き返した。

竜宮に棲む人魚(三)

2006-03-02 22:04:22 | 竜宮に棲む人魚
 茜は電車からバスに乗り継ぎ、父の故郷である三重県志摩郡大王崎町に訪れた。
 大王崎は漁業と養殖真珠が盛んな町。黒潮を洗う太平洋の景勝に恵まれ、青い海が続いている。
 道端ではキャンパスを広げ、絵を描いている人がいる。そこは絵描きの町としても有名だ。
 湿気を含んだ海風が頬をかすめ、茜は足を止めた。
 深呼吸をして、大きくのびをする。波に戯れるカモメたちが安らぎを与えてくれる。荒れた心が静まっていくようだった。
 太陽が真上に位置し、腹時計が正午を知らせた。
 お腹すいた。でも、食事ができない。金は交通費でほとんど使い果たしてしまった。
 ちょうどそのとき、漁船用の埠頭に採ってきたばかりの魚が水揚げされていた。
 近くの港では魚の干物が売られていた。
「お嬢ちゃん、いかが?」
 売り子のおばさんが陽気に声をかけてきた。
「じゃあ、一匹だけ」
 茜はズボンのポケットから小銭を取り出して買った。
 干物をかじりながら足まかせに歩いた。

 狭い路地に入ると、不思議な感覚に襲われた。
 目の前に、若き父の姿と幼い頃の自分が現れた。二人は手をつないで歩いている。茜はあとを追った。
 見覚えのある場所が見えてきた。父の実家の跡地で、祖母が二年前に亡くなった今は空き地になっている。
 祖母が生きていてくれたら、迷わずこの土地に逃げ込み、苦しむこともなかっただろう。
 でも、みんな死んでしまった。自分のことは自分で守るしかない、それが現実だった。
幻影は消えた。父の気配もしなくなった。
 ふと思い立ち、祖先の墓参りをしようと寺に向かった。
 石段を通り、大慈寺の周辺に出た。またの名を「あじさい寺」と呼ばれる由縁が理解できる。
 寺の一面に、あじさいが咲き誇っていた。
 小さな花房の集まりに雨のしずくが溜まり、日に照らされて輝いていた。
 紫混じりの藍色は、濡れていっそう鮮やかになり、きれいだった。
 あじさいの色は、土が酸性なら赤、アルカリ性なら青に変わる。理科の授業で習ったことを思い出した。
 ここのは紫だから中性だな。
 葉の上をかたつむりが這っていた。指先でつつくと、不意の攻撃にびっくりし、角を引っ込めた。
 頭を殻の中に隠した様子を見て、茜は笑った。
 墓の前に立ち、軽く礼をした。供え物はないが手を合わせて目を閉じる。
 ここにくることはもうないだろう。最後の祈りだ。
 そして、もう一度頭をさげて、再び歩き出した。
 耳を澄ますと、うぐいすが鳴いている。塀の隅には一匹の野良猫がいた。
「おまえも一人なのかい?」
 猫は警戒し、毛を立てていた。
 茜は悪戯っぽい目をして近づき、追いかけた。
 昨夜の寝不足のせいで息切れをし、すぐにやめた。
 猫はまんまと夏草の茂みに隠れて逃げていった。
 木造の古い駄菓子屋を見つけて、立ち止まる。
 父が子供の頃、こぞってお菓子を買いにきていたのではないか。想像するだけで楽しかった。
 土地柄を思うと、素朴な少年だったに違いない。
梅雨の晴れ間に残った水溜まりに青空が映り、小石を蹴ると水に波紋が広がった。
 揺れる若葉から木漏れ日が降り注ぎ、目を細める。暑くて身体がべたついた。汗を拭うハンカチさえ持ちあわせておらず、手の甲で押さえた。
 日焼け止めも、もちろん化粧もしていない。直射日光が素肌に当たり、少し痛かった。
 生あくびばかりが出る。思った以上に身体は消耗していた。
「父さん」
 孤独にたまらず、呼んでみる。
 一人はいやだ。さみしいよ。
 幾度、心の内を唱えても耳を傾ける相手はいない。
 いくら待っても父の亡霊は現れなかったので仕方がないと諦めた。
 父は懐かしさに誘われて、どこかにいってしまったのだろう。
 坂をのぼり、景色を見渡す。瓦屋根の民家の佇まいは風情があった。
 ノッポの白い灯台が視野に入る。大王崎灯台だ。
 父がよく連れていってくれた場所。
 いきたい。
 はやる気持ちを抑えられずに駆け出した。

 灯台に向かう途中、浜が見えてきた。寄せては返す波の先に、まばらに浮かんでいるのは海女の姿。
 白い磯着ではなく、黒いウエットスーツを身につけていた。
 ヒューヒュー。
 海女が海底から浮きあがったときに発する音。海に響く哀調を帯びた音色は茜の痛んだ心に染み渡った。
 漁を終えた海女の背中の網には、アワビやサザエがずっしりと入っていた。
 凛々しい女性たちの仕事ぶりをしばらく見ていた。
 坂道に連ねる土産屋を抜け、大王崎岬にたどりつく。
 そこは志摩半島の南東端にあり、遠州灘を熊野灘の荒波を二分するかのごとく突き出している。
 石碑を見ると、昔から難所として知られており、多くの遭難の悲劇を生んできた、とあった。
 町の象徴である灯台は大王崎岩を照らし、付近を船舶に注意を促している。
 岬の先端に立つ、円形白塗りの灯台は扇形の二階建て。内部も見学ができる。
 螺旋階段で灯台の上部にあがると、五、六人ほど観光客がいた。
 その中の一組のカップルが「撮ってください」とカメラを差し出した。
「いいですよ」
 茜は快く引き受けた。
 仲睦まじいカップルは寄り添い、幸せそうな笑顔をこちらに向けた。
 うららかな空の下、撮影が終わると、二人は階段をおりていった。
 さみしくない。潮風に吹かれながら心にいい聞かせる。
 茜は荒波が砕け散る断崖に眼下を移した。
 眺めは格別だ。水平線から二隻の船が現れ、地球の丸さを実感できた。
 遠方に見えるのは、神島だろうか。
 前に図書館で読んだ三島由紀夫の『潮騒』を思い出す。
 潮騒は伊勢湾に浮かぶ神島を舞台にした小説。父の故郷に近いので思わず手に取った。
 十八歳の漁師の新治と島一番の金持ちである初江は、ふとした出会いから恋が芽生える。
 神島の自然の暮らしの中で、身分の越えた愛を貫く二人に憧れた。
 同じく茜は十八歳。彼氏はいない。
 異性への好奇心はあったけれど、想像と憧れが先走るだけでまともな恋に発展したことはなかった。
 愛することの意味、愛し方自体がまだ分からない。
 父のように優しくて真面目な男性が理想だった。

 灯台の下に灰色の塊が落ちていた。一羽の海鳥。背面と翼は青っぽく、尾羽に黒帯があり、くちばしは黄緑色で先端は赤い。
地面に横たわり、石ころのように動かなくなっている。
 不憫に思い、両手で拾いあげた。軽く握ったが反応はなく、目は見開かれたままで冷たくなっていた。
 同情と悲しみが押し寄せてきた。
 土に埋めてやろう。茜は穴が掘れる場所を探した。
「ウミネコだよ」
 突然、声をかけられて茜は振り向く。
 いつからいたのか、知らない青年が後ろに立っていた。
「カモメの一種で、猫みたいな鳴き声だからそう呼ばれているんだ」
 何、この人? 
 一方的に話しかけられて茜は困惑した。
 日焼けした肌。背が高くて痩せ型。ブリーチがかったふわふわの髪。左耳にはピアスが光っている。 
 コットンの白い無地Tシャツを着て、色落ちしたブルージーンズを恰好よく履きこなしていた。
 歳はそれほど離れていないと感じた。
 世間に反抗するような鋭い目つきはどこか自分と似ているかもしれない。
「死んでいるの。埋めてあげたい」
 茜は低い口調でいった 浅く掘った土の中に死骸を入れた。
「墓なんかつくらなくていい。ほうっておけばいいんだよ」
「かわいそう」
「よくあることさ。夜の灯台の明かりに誘われて一直線に向かってくる馬鹿な鳥がいる。
灯台にぶつかり気絶して、朝になると死んでしまう。馬鹿な鳥だ」
 馬鹿を連発する心ない発言に怒りが込みあげてきた。
 茜は無視し、死骸に土をかぶせる。
「墓は生きている奴らの気休めにしかならない。その鳥は埋めて欲しいなんてこれっぽちも望んでいない。同情など無意味だ。死んだら終わりなのさ」
「冷たいわ」茜は睨む。「早くあっちにいってくれませんか」
「分かったよ。いけばいいんだろ」
 青年は面白くなさそうに背を向け、姿を消した。
 いやな奴。でも……。
 青年のいうことはあながち間違ってはいない。埋めても放置しても死の運命に変わりはないのだから。
 鳥は暗い土の中に入れられることを本当に望んでいるのだろうか。
 やがて死骸は虫や微生物に食べられて跡形もなくなる。
 墓をつくる行為は生きている者の自己満足にしかすぎない。それに青年の言葉よりも茜の方が矛盾していた。
 茜は終焉の地を求めてここにやってきた。
 死のうとする人間が生命の尊厳を語ったり、海鳥の末路を悲しむのは滑稽だ。

 茜は人目を避け、そそり立つ岸壁へと進んだ。足場は悪く、一歩一歩慎重に踏みしめた。
 昨夜の台風の影響で海はしけり、しぶきをあげて迫ってくる。
 大自然は茜の決心を見透かしているように怒り狂っていた。
 何もかもおしまい。もうあとには引けない。真っ逆様に落ちてしまおう。
 今すぐ父の世界にいこう。あの海鳥のように大空高く飛べばこの苦しみから逃れられる。
 崖から落ち、波にさらわれ、死体があがらないことを望んだ。
 身を投げたことすら誰にも気づかれなければいい。
 顎をあげ、遠くを見つめる。太陽が照りつけ、目がくらんだ。
 北西から突風が吹き、バランスを崩す。両手が宙を仰ぐ。ふわりと身体が浮かんだ。
「馬鹿みたい」
 茜はふっと笑った。
 ほっとしている自分がいる。意志に反して、地面の方へと尻餅をついた。
 なぜ? 覚悟を決めたはずのに。
 この世に未練があるのか、怖じ気づいた。踏ん切りの悪さに嫌気が差した。
 立ちあがろうにも腰が抜けて足に力が入らない。
 情けない。
 放心状態でしばらく座っていた。