2012年6月1日発表「健康寿命」のマスコミの取り上げ方は間違っている
2012年6月1日厚生科学審議会部会に「健康寿命」の算出結果が提示され、マスコミは、これを大きく取り上げ、おしなべて次のように書いています。
…厚生労働省が初めて健康寿命を算出。それによると、平成22年における健康寿命は、男70.42歳、女73.62歳であった。…
審議会部会の記者発表資料がどんなものか知りませんので、事務方の落ち度があったのか、記者が早とちりしたのか分かりませんが、「初めて算出した」のは、「都道府県別」の健康寿命であって、全国平均の健康寿命は、厚生労働省が幾たびか発表しています。厚生労働省のHPを見れば、幾つも出てくるのですからね。
今回のマスコミの記事になった元のデータは、5月18日付け「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」の報告の中にあり、次のとおりです。
(1)日常生活に制限のない期間
男(制限なし)(制限あり)(平均寿命)
平成13年 69.40 + 8.67 =78.07
平成22年 70.42 + 9.22 =79.64
女(制限なし)(制限あり)(平均寿命)
平成13年 72.65 +12.28 =84.93
平成22年 73.62 +12.77 =86.39
<算出方法:国民生活基礎調査において「あなたは現在健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」との問いに対して「ない」の回答を元にしたもの>
(2)自分が健康であると自覚している期間
男 (健康) (不健康) (平均寿命)
平成13年 69.55 + 8.51 =78.07
平成22年 69.55 + 9.73 =79.64
女 (健康) (不健康) (平均寿命)
平成13年 72.94 +11.99 =84.93
平成22年 73.32 +13.07 =86.39
<算出方法:国民生活基礎調査において「あなたの健康状態はいかがですか」との問いに対して「よい」「まあよい」「ふつう」の回答を元にしたもの>
なお、(1)は「活動制限なし平均寿命」、(2)は「自覚的健康の平均寿命」とも言われ、これは、2011.7.14付けで「健康寿命の指標」として、厚生労働省のHPに載っています。
今回、(1)の資料の平成22年分について、マスコミに取り上げられたのですが、これを健康寿命と決め付けるのは、大きな問題があります。
なぜならば、子供や若者であっても、難病を抱えていたり、心身に障害がある場合には、“日常生活に支障あり”という回答になってしまい、こうした人たちまで加味して計算することにどれだけの意味があるかというものです。極論すれば、身障者の方は、「日常生活に支障があっても、自分は健康だ。」と、思っておられることが多いですから、こうした方を“不健康”に加えてしまうことは、身障者差別になってしまいます。
加えて、標本数が多いとは言え、アンケート調査による主観的な回答を元にしていますから、客観性が完全に欠如しています。
ところで、2004年に、WHOが日本人の健康寿命を発表しています。
男 (健康寿命) (不健康) (平均寿命)
平成16年 72.3 +6.3 =78.6
女 (健康寿命) (不健康) (平均寿命)
77.7 +7.9 =85.6
<注:発表は健康寿命だけのようで、比較のため、続く2項目を書き添えました。なお、計算方法は、ネット検索してみたものの分かりませんでした。>
今回の報道とWHOの発表とでは、男で2年、女で4年程度の開きがありますが、どちらも健康寿命のイメージとは乖離しています。不健康の期間が長すぎる感がするからです。
健康寿命とは、介護を要しない状態を示した方が良いのではないでしょうか。
そうしたものとして、2つあります。
まず1つは、瀬上清貴氏が開発された計算法に基づく「自立調整健康余命」です。
これは、例えば、75~79歳の場合、要介護度1を自立0.7年、要介護度4を自立0.25年といったふうに要介護度に応じて自立年数を設定し、要介護者の認定数から計算するものです。
平成21年のその結果は次のようになります。(「自立調整健康余命」を「自立」と表記)
なお、この結果は、厚生労働省のHPにも掲載されています。
男 (自立) (不自立) (平均余命)
65歳 16.9 +1.2 = 18.1
70歳 13.1 +1.2 = 14.3
75歳 9.6 +1.3 = 10.9
女 (自立) (不自立) (平均余命)
65歳 20.2 +2.8 = 23.0
70歳 15.7 +2.9 = 18.6
75歳 11.6 +2.9 = 14.5
もう1つは、厚生労働省の調査報告書に載せられているもので、「平均自立期間」の試算値(2005年)です。これは、要介護度2~4に認定された数から計算するものです。その結果は次のようになります。(「平均自立期間」を「自立」と表記)
男 (自立) (不自立) (平均余命)
65歳 16.7 +1.4 = 18.1
70歳 13.0 +1.4 = 14.4
75歳 9.6 +1.5 = 11.1
80歳 6.8 +1.4 = 8.2
女 (自立) (不自立) (平均余命)
65歳 20.4 +2.9 = 23.3
70歳 16.1 +2.9 = 19.0
75歳 12.0 +2.9 = 14.9
80歳 8.3 +2.9 = 11.2
健康寿命というものは、そのニュアンスからすれば、「介護を受けないことを指す」とすべきで、ここに紹介した2つの例なり、これに類したものを採択すべきでしょう。
ところで、この2例ともに、要介護度を元にしていますから、その基準を参考までに示しておきます。
基準時間(入浴、排泄、食事等の介護に要する時間)
要支援1 25~32分未満
要支援2 32~50分未満(認知機能低下などなし)
要介護1 同上 (認知機能低下などあり)
要介護2 50~70分未満
要介護3 70~90分未満
要介護4 90~110分未満
要介護5 110分以上
最後に、私見を述べさせていただきます。
健康寿命とは、「誰の世話にもならずに健康に日常生活が送れる」期間とすべきで、要介護度の基準からすると、少なくとも「要支援1」までを“不自立”に加えて算出すべきでしょう。
また、「平均寿命」というものに特別な意味がないのと同様に、これとベースを合わせた「平均健康寿命」にも意味がないですから、65歳以上の老人5歳きざみで示される「平均余命」に対する「平均健康余命」を算出するべきでしょう。
こうすれば、要支援、要介護から脱却するための処方箋が描けようというものです。
なお、厚生労働省の報告書にもありますように、「平均余命」と「平均健康余命」の開きの推移が重要であり、これが開きつつありますから、早急な対応が求められるのです。
よって、当店では、昨年、「自立調整健康余命」の推移をグラフ化して、お客様に注意を喚起し、その対応策を啓蒙したところです。できれば、それをここに掲載できるとよいのですが、小生にその能がなく、今のところ文字だけブログしか打てませんので申しわけありません。
(2013.3.13追記:スキャナーで読み取る術を覚えましたので紹介します。)
小さな飲食店をやっています
ハーブやスパイス、食材などに気を遣い
お客さまに健康について、考えて戴ければと
日頃から考えており、健康寿命についても
どんな風に伝えようかと、いろいろ検索しているうち
こちらのブログにたどり着きました。とても参考に
なります。
また、拝見させて戴きます。