人はなぜ長寿なのか? 水生動物やゾウと同様に低体温だからです。
“鶴は千年、亀は万年”と言います。長寿の代表選手が鶴と亀。でも、彼らは鳥類と爬虫類です。ヒトは哺乳類であり、哺乳類で長寿な種となると、クジラとゾウです。そして、ヒトも同程度に長寿です。哺乳類の寿命は種によって様々ですが、どうして種によって寿命の差がでるのでしょうね。
心臓の脈動回数には限界があり、一生の脈動回数は哺乳類は皆同じで、脈拍が高い種は短命であるという説があります。これには、どれだけかの相関関係があるようです。
でも、寿命は体温との相関関係が強いように思います。
そのデータは、“人類水生進化説”の補強=ヒトの低体温 で示していますが、例を挙げれば次のとおりです。
体温 寿命
クジラ 35~37度 85歳
ゾウ 36度 70歳
ヒト 36.5度 100歳
チンパンジー 37.5度 50歳
イヌ 38.5度 14歳
ネコ 38.5度 14歳
ブタ 39度 10歳
ヒツジ 39度 10歳
(注)寿命は、通常何歳まで生きられるか、といった経験に基づく値で不正確です。
ヒトは、陸生動物としては例外的に皮下脂肪を持ち、これによって体熱の放散を防ぐことができますから、低い体温であっても暮らしていけると考えてよいのではないでしょうか。これは、人類水生進化説の一つの状況証拠となりましょう。
そして、ヒトに極めて近い種のチンパンジーとは体温で1度もの違いがあり、寿命は倍半分の違いが生じています。
水生動物のクジラや、かつて水生生活に馴染んだと考えられるゾウも低体温で長生きする動物です。
それに比べて、ヒトより2度も体温が高いイヌやネコとなると寿命がグンと短くなりますし、さらに0.5度高いブタやヒツジとなると、より寿命が短くなります。
こうしたことから、「長生きしたかったら、低体温を保つが良い」ということになりますが、事実、エネルギーがほとばしっているような元気な方…きっと体温が高いことでしょう…は、案外短命なことが多いように見受けられます。
でも、平熱が36度を下回るようになると、免疫力が低下しますし、ガンにもかかりやすくなりますし、何よりも体が重だるく、気分も優れないですから、いいことは少ないです。
ところで、体温が高まると、免疫機構の働きがグンと強まり、白血球が病原菌やウイルスをやっつけてくれて病気しない傾向にあるのですが、恒常的に体温が高いと、それほど免疫力は期待できないのかもしれません。
なぜならば、ヒトの場合、イヌやネコ並みの高熱が数日続けば、まず100%病原菌やウイルスを殺せますし、ガンの塊が大幅に縮小します。つまり、たいていの病気が治ってしまうのですが、常時高熱状態のイヌやネコも人並みに病気にかかりますからね。
さて、体温が高い状態というのは、それだけ余計に体熱が生産されていると言えます。
その体熱は、細胞内小器官のミトコンドリアが生み出します。
動物が酸素を必要とするのは、そのミトコンドリアが働くために欠かせないのが酸素だからです。細胞そのものは酸素を嫌っているのですが、唯一ミトコンドリアだけが酸素を求めるのです。
そして、ミトコンドリアが働いたときに、活性酸素が生じます。
その全部がエネルギー生産に使われれば良いのですが、どれだけかは細胞内に漏れ出し、これが他の細胞内小器官や細胞膜そして遺伝子を傷つけます。
恒常的に体温が高い方ばかりでなく、過激な筋肉運動を長時間強いられる方は、これが加速されます。また、精神的ストレスは活性酸素を大量に発生させ、同様です。
この猛毒の活性酸素を消す酵素は主として体内で作られ、また野菜などから抗酸化物質が取り入れられ、活性酸素の大半を消し去ってくれるのですが、完全消去とは参らず、遺伝子の傷が少しずつ増えてきて、新陳代謝によって細胞の作り直しを繰り返していると、だんだん不完全な細胞ばかりとなってきます。
つまり、老化です。活性酸素による老化です。
こうして、動物には、自ずと寿命というものがあると考えて良いでしょう。
哺乳類の場合、体温によって寿命の差が出てくるということは、活性酸素を消す酵素の生産システムはどの種も同じと思われます。
その点、40度を超える体温を恒常的に維持している鳥類は、同程度の体温の哺乳類であれば寿命が1、2年で終わってしまうであろうに、随分と長生きできるのですから、生体の仕組みが哺乳類とは大きく違うことでしょう。
不老長寿の妙薬は、案外“鶴の研究”で開発されるかもしれませんね。