大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

「筆界特定を行った事案についての裁判例の動向」(「月刊登記情報」2016.8)

2016-08-04 05:37:32 | 日記
「月刊登記情報」の今月号に「筆界特定を行った事案についての裁判例の動向」という解説記事があります。
筆界特定のなされた事案について、その後に裁判で筆界特定とは異なる線をもって境界が確定された事案がいくつかある、ということは知ってはいたのですが、それが具体的にどのようなものなのかを知ることができなかったので、この報告をとても興味深く読みました。

報告では7つの事案が紹介されています。私の感想としては、その大体において「筆界特定とは異なる裁判所の判断」が正しいように感じました(7つのうち2つについては事案をよくつかみきれない感じですが、他の5つについてはそのように感じました)。

特徴的だと思った点、2点について書きます。

一つは、占有状況に関する考え方です。筆界特定においては、「筆界は当該一筆の土地が登記された時のものなのだから、所有権の範囲や占有状況にとらわれるべきではない」というような考え方をする傾向があるように思えるのですが、それは違うのだと思っています。不登法143条1項で列記されている「筆界の特定要素」についても、単に羅列的にとらえるのではなく、「書面資料」と「現地の状況」の二つに大別してとらえ、その上で「総合的判断」をするべきなのであり、占有状況はその中でとらえるべきものなのだと思っています。この点について、第2事例の判決は次のように言っています。
「そもそも、筆界は、自然の状態では連続している土地を、私権の対象とするために人為的に区画することから発生するものであり、通常は、各区画が創設された際に現地で決定された筆界を前提に各土地に対する実効支配が行われ、当該筆界が各土地の所有者の共通認識によって維持されていくものである。したがって、一定の線を境に平穏に各土地が実効支配されているのであれば、特段の事情のない限り、当該占有境が所有権界であり、筆界であると推認することができるというべきである。」
その通りなのだと思います。もっとも、そのような「平穏な実効支配」がないからこそ紛争になるわけですから、具体的な筆界特定事案においてこれをそのまま適用して判断の基礎とするのは難しいかもしれません。しかし、一般の登記案件の場合において、実務上おこなってきていることは、このような「現実」に基礎を持っている、ということをあらためて考え直す必要があるでしょうし、今日、このような「現実」が失われて行こうとする中で「筆界」の持つ意義や土地家屋調査士の果たすべき役割を考えるべきなのだと思います。

もう一つは、私自身かねてから各地の筆界特定を読む中で感じていたことですが、対象筆界の周辺で行われた「官民境界確認」の「前歴」を無批判に所与の前提にしてしまい、そこに測量図などを重ねて対象筆界の位置を特定してしまうことへの批判です。この事案(これも第二事案です)では、「昭和19年」に画定されたであろう筆界の位置を特定するために、近傍の「昭和62年」の官民境界確認を基礎としている、という時系列的な問題も指摘されているのですが、そうでない場合でも批判的な検討が必要です。それなしに、いわば機械的に当てはめてしまう安易な方向に流れる傾向があるように思えるので、ここも考え直すべきなのだと思います。

その他、もう少し丁寧に読み込むと様々な問題があるのだと思いますので、是非読んで、勉強会などで多面的に検討したいものだと思います。
通常の登記事件における筆界確認も、筆界特定も、筆界確定訴訟も同じ判断基準で、同じような判断材料をもって判断されるべき、ということが基本なのだと思います。そのような観点から、今後もこのような検討を続けていくことが必要であり、勉強になりました。

コメントを投稿