大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

読んだ本―「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(戸部良一他著:中公文庫)

2014-11-03 14:32:49 | 日記
昭和59年に刊行された古典的な著作です。「日本軍の失敗」を分析して論じているものですが、その意義はより普遍性を持つものと言えます。最近では、福島第一原発事故を招いた「原子力ムラ」構造や、民主党政権の失敗を分析する際に、本書が参照されていました。「日本的組織」の特質と、その限界を示すものとして、私たちにとっても有意義なもので、大変勉強になりました。

「われわれにとっての日本軍の失敗の本質とは、組織としての日本軍が、環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなかったということにほかならない。戦略的合理性以上に、組織内の融和と調和を重視し、その維持に多大のエネルギーと時間を投入せざるを得なかった。このため、組織としての自己革新能力を持つことができなかったのである。」

という指摘は、まったくなるほど、と思わされます。

「日本軍の失敗の原因」に関する分析について、もう少し詳しく紹介しておきます。

「戦略については作戦目的があいまいで多義性を持っていたこと、戦略志向は短期決戦型で、戦略策定の方法論は科学的合理主義というよりも独特の主観的インクリメンタリズムであったこと、戦略オプションは狭くかつ統合性に欠けていたこと、そして資源としての技術体系は一点豪華主義で全体としてのバランスにかけていたこと」
「組織については、本来合理的であるはずの官僚組織のなかに人的ネットワークを基盤とする集団主義を混在させていたこと、システムによる統合よりも属人的統合が支配的であったこと、学習が既存の枠組みの中での強化でありかつ固定的であったこと、そして業績評価は結果よりもプロセスや動機が重視されたこと」

などが、指摘されています。このように羅列してしまうと、それぞれの内容の重大性を感じられないかもしれませんが、この一つ一つの「失敗の原因」によって、実に多くの兵士たちが犠牲になって多くの血が流されたことが歴史的事実を明らかにすることによって示された後で指摘されていることですから、その重みをもって一つ一つのことを考えさせられます。これらのことをとらえ返し、「失敗を繰り返さない」ことへ活かしていくことが必要なのだと思わされます。

最後に繰り返しになりますが、今日に通じる問題として、いくつもあった鋭い指摘の中から少しだけ紹介して、終わります。

「日本軍の戦略策定が状況変化に適応できなかったのは、組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかったことに大きな原因がある。」
「人間関係や組織内融和の重視は、本来、軍隊のような官僚制組織の硬直化を防ぎ、その逆機能の悪影響を緩和し組織の効率性を補完する役割を果たすはずであった。しかし、インパール作戦をめぐっては、組織の逆機能発生を抑制・緩和しあるいは組織の潤滑油たるべきはずの要素が、むしろそれ自身の逆機能を発現させ、組織の合理性・効率性をゆがめる結果となってしまったのである。」

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