大分の土地家屋調査士ブログ

「土地家屋調査士の業務と制度」を中心に、それに広い意味で関連する様々なことについて一人の人間として思うところを書きます。

「資格者代理人方式」

2018-06-14 20:10:46 | 日記
米朝首脳会談が行われ、世界が大きく動こうとしているときですが、それとは関係ないとても卑近なことについて・・・・オンライン登記申請の「資格者代理人方式」について変な「噂」を聞いたので、それについて書きます。

オンライン登記申請の「資格者代理人方式」が「平成30年度内に実施予定」という話を以前から聞いていたのですが、それが「延期」(もしくは「中止」)になるのではないか、しかもその原因は当の「資格者代理人(団体)」の反対、もしくは消極姿勢によるものだ・・・・・、という「噂」です。
よもやそのようなことはないのではないか(ガセネタなのではないか)と思うのですが、少し気になるところもありますので、考えてみます。

まず「資格者代理人方式」とは何か?ということについておさらいしておきます。
「資格者代理人方式」というのは、平成30年度中に導入される予定の登記申請に新方式であり、不動産登記のオンライン申請をする際に、添付書面のすべてをPDFにして送信することによって当該書面の原本を提供することなく登記が完了する申請方式のことです。この申請方式については、資格者代理人による申請及び官公署の嘱託登記のみに限定されているところから、「資格者代理人方式」と呼ぶものとされている、ということです。
この「資格者代理人方式」は、直接には「オンライン登記申請」の利便性向上と普及を目指すものですが、その根底には「世界最先端IT国家創造」へ向けての国家的方針があり、その中での「官民データ活用」方針があるものとされていることですので、基本的にはその脈絡のなかでとらえることが必要になります。
その上で直接には、「国は、行政機関等に係る申請、届出、処分の通知その他の手続に関し、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により行うことを原則とするよう、必要な措置を講ずるものとする。」(「官民データ活用推進基本法」10条)という責務規定があり、法務省においてもオンライン申請のさらなる推進が問われている、ということになります。

オンライン申請の推進のためには、種々の方策がとられてきていますが、どれも決定的と言えるものにはなっていません。その一番大きな原因は、「オンライン登記申請」がその名の示すようなものになっておらず「半ライン」などと言われるものでしかない(書類として作られている資料の原本を登記所に持ち込まなければいけない)、というところにあるものということができるでしょう。
そこで、この限界を克服するものとして「資格者代理人方式」が考えられた、ということなのだと思います。その基本的な姿は、すでに4年前の「各府省情報化統括責任者CIO)連絡会議」の「オンライン手続の利便性向上に向けた改善方針」において示されています。
すなわち、
「各府省は、オンライン手続のうち、原本の提示又は書面若しくは電子媒体による添付書類の提出を求めているものについては、次に掲げる措置等により、原本の提示若しくは添付書類の提出の省略を可能とし、又はオンライン利用により提出させることを検討の上、実施するものとする。
① 士業者が手続を代理する場合において、士業者が原本や添付書類を確認することにより、当該原本の提示や当該添付書類の提出を省略する。・・・以下略」
というものです。(この際には、「士業者が手続を代理する場合において、士業者以外の者が作成する添付書類を含め、当該士業者以外の者の電子署名を求めない。」ともされています。)
このように基本的な方針は4年前に示されていて、それを具体化するものとして「資格者代理人方式」の導入がなされるようになった、ということです。

さて、このような「資格者代理人方式」ですから、「オンライン申請」を標榜するのであれば(その上での真正性を確保する必要性を踏まえて)ごくごく当然のことだと思われます。もっと早く導入して然るべきものであり、遅きに失したとはいえそれを理由に反対するべきものでは全くない、と思えるものです。

ところが、これに対して消極的であったり、もっと言えば反対だったりする意見が「資格者代理人」の中にはあるようです。
たとえば、日司連の会報「月報司法書士」の昨年9月号には、東京の司法書士さんの「日記」が掲載されていて、その中に「資格者代理人方式」への「疑問」が挙げられています。それを引くと
「登記官が審査をするのが添付書類の原本(現物)ではなく、PDFファイルというのは、1,添付書類が偽造・変造されたものであった場合、責任の所在はどこにあるのか? 2.依頼者から預かった原本は誰がいつまで保管すればよいのか? 3,PDFファイルを司法書十が電子署名することについて〈それを真正に成立したものと推定させることについて)電子署名及び認証業務に関する法律との整合性をどうするか、法改正が必要なのではないか等懸念材料が多い。」
とのことです。
ここで挙げられた3つの「懸念」については、私にはそれぞれ根拠のあるものとは思えません。「添付書類が偽造・変造されたものであった場合」の責任は、今のように「原本」を提出する場合でも問題になることです。原本を入手して、それをそのまま申請時に添付するのと、それをPDFにするのとで「偽造・変造されたものであった場合の責任」が変わるわけではないでしょう。「保管」については、たしかに一定の負担がありますが、申請にかかる書類の保管をしなければならないことに変わりはないし、「登記所に預けてしまえば安心」という訳でもないので、一定の負担は覚悟すべきものでしょう。
要するに、あまり根拠のある「懸念」ではないような気がするのですが、なぜこのような「懸念」を持たざるを得ないのか?というところが問題であるように思えます。この方は、
「この資格者代理人方式の制度はこれまでの司法書士実務を根底から覆すレベルの変更であるといっていいだろう」

と言っています。まさにその通りなのだと思います。「司法書士実務を根底から覆す」というのは「登記審査実務を根底から覆す」ということでもあります。これまでは、国家公務員としての地位にある、ということが(書類の)真正性を判断しうるということの唯一の根拠であったわけですが、同様のことは民間の「資格者代理人」でもできることであることを明らかにし、それが国家的な認証にも結び付く、というのは全体的な行政事務のありかたとその登記手続きにおける実現形態として画期的な意義をもつことです。その意義をもっと正面から見るべきなのだと思います。

別の司法書士さんのブログでは、次のように言われています。
「これまでは法務局の登記官が審査権限を持っていました。もちろんこれからも審査権限は形式上登記官にあるのですが、それはPDFを審査する権限であって、その元になった現資料(実際の印鑑証明書や権利証)を審査する権限ではありません。司法書士の権限が拡大するようで、実は責任だけが重くのしかかるような気がします。」

「司法書士の権限の拡大」は望ましいものだけど「責任」が重くのしかかるのは困る、という感覚でしょうか。しかし、「責任」の重大化を伴わない「権限の拡大」を望む、というのが間違いなのです。
これは私の偏見なのかもしれませんが、司法書士さんは新たな分野に対しては積極的で開明的であっても、既存の主業務領域である登記の分野に関しては極めて保守的で、「既得権益確保」的な姿勢でいることが多いように感じます。そのような「偏見」を持っているところに、上記の引用した意見を見ると、「噂」に結び付いてしまい、「噂」が本当だとすると、このようなものがその「理由」にあたるのかな、と思えてしまうわけです。
しかし、司法書士さんの「団体」そのものが、そのような姿勢でいるわけではないようでもあります。日司連の今川会長は、「月報司法書士」掲載の新年あいさつのなかで、わざわざ「不動産登記オンライン申請資格者代理人方式について」という独自の章を設けて次のように言っています。
「本方式は、司法書士の職責を踏まえ且つ登記実務の実績を評価したLで、登記官による原資料の確認がなくとも登記の真実性が担保されるとの前提のもとに導入される制度でもあることを認識しなければなりません。」「会員の皆様におかれましては、本方式における司法書士に対する信頼と期待に応えるべく積極的な取り組みをお願いするとともに、本方式における手続の適正な執務励行及び今まで以上の本人・登記原因・登記申請意思等の確認事務の充実による登記の真実性の維持・確保に努めていただくようお願いいたします。」

このような「積極的」な取り組み方針を見ると、やっぱり「噂」はガセネタなのかな?と思わされもします。

・・・と以上長々と書いてきましたが、土地家屋調査士については触れずに来てしまいました。特にとりあげるべき情報がなかったからです(1月に開かれた全国会長会議の議事録を見ると、”昨年10月から会議開催時の1月まで協議が行われていない”とのことでした。)
土地家屋調査士の場合は、司法書士に比べても「資格者代理人方式」に「懸念」をもったり消極的になる理由はないように思えます。
土地家屋調査士は、現行制度においても不動産登記令13条の「表示に関する登記の添付情報の特則」において「当該書面に記載された情報を電磁的記録に記録したものを添付情報とすることができる」とされていて、権利に関する登記とは異なる取り扱いがなされてきた、という経緯があります。「資格者代理人方式」によりなじみやすい背景を持っている、と言えるのでしょう。
また、登記における「審査」の内容からして、単なる書類の成立の真正性ということではなく、客観的事実との適合という意味での真正性をも問題にしていて、しかも実質的には「登記官」ではなくて土地家屋調査士がその判断をしてきた、という経緯があるので、「書類の真正性」に特化した問題意識というのはさほど強くないのだと思います。
さらに「第4次産業革命への対応」を問題意識として持って「グランドデザイン」を描いているとしている中にあって(私はその内容はおよそ評価しうるものではないと思っていますが、それはさておき)、「世界最先端IT国家創造」へ向けての国家的方針に反対したりするようなことがあるとも思えません(私個人としてはそれもありかと思いますが)。

ですから土地家屋調査士(団体)が「資格者代理人方式」に反対したり消極姿勢を示す、ということはおよそ考えにくいことです。そんなこと、あるわけないか?やはり、出来の悪いガセネタなのか?とも思うところですが、ここにも懸念を抱かせるようなこともあります。
それは、土地家屋調査士の世界に蔓延する「事なかれ主義」です。先にも少し書きましたが、今年の1月の全国会長会議の時点で
「現在、資格者が新生代林である場合の特例の創設について、法務省と日司連、日調連と三者で狭義をしているところですが、実を言いますと、先の全国会長会議以降、狭義が進んでいないという現実もあるものですから、平成30年度実施と言いましても、多分早めの実施はないのかなと思っている」
というようなことが言われています。要するに、「三者協議」の中においても「主要プレイヤー」ではないことが現実である、と明らかにされてしまっているわけです。このような中で、成り行きに応じてその場限りの対応をする、ということも考えられないことではないのですね。それが不安を拭い去れない理由です。
しかし、もしもそのような態度をとるのだとすると、それは「自分の既得権益の保持のために社会的要請に背を向ける我利我利亡者の破廉恥漢の世界に身を落とすこと」になってしまうのだと思います。

「噂」が、根も葉もないガセネタであることを祈るばかりです。
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