大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

読んだ本ー「民法改正を考える」(大村敦志著 岩波新書)

2013-03-20 20:11:54 | 本と雑誌

民法改正についての本です。

しかし、具体的な法改正の内容について書かれたもの、というわけではありません。

具体的な法改正の内容については、先日の法制審議会民法部会の「中間試案のたたき台」(2月19日)に関する新聞報道の方が詳しいくらいです。本書には、具体的な改正内容についての解説ではなく、「なぜ改正する必要があるのか?」ということに関して「社会の構成原理としての民法典を根源的に考察する」(ともに「帯」での記載)ものとして書かれています。

「何故民法を改正する必要があるのか?」というのは、たしかに難しい問題です。一般に法律を制定したり改正したりするときには「立法事実」が問題にされます。「立法」をわざわざ行うほどの必要性が社会的な事実としてどのようなものとしてあるのか?ということが問われるわけです。

その点では、「民法」というのは、一般的な法律ですので、「これ!」という具体的なものを指摘しがたい、ということが言えるでしょう。たとえば、本書の中で言われていることですが、「成年年齢の引き下げ」という改正内容がが強力な支持が得られずにいる理由として「立法における実益思考」ということが言われています。「この立法がないと明らかな不利益が生じる、あるいは、この立法がなされると明らかに利益が生じる」ということが明確にないと、「立法」に向かいにくい、ということで、これはまさに「民法改正」という課題に当てはまるものです。

これに対して本書では、「理念思考」の必要性が言われています。確かに、日本の民法は、明治時代に日本が近代化していく中で、それに対応するべく、大変な苦労の上で作り上げられたものであり、立派なものであるわけですが、それから100年以上が経過し、しかも戦後の大変革を経ています。そのような変化を受けて、「基本理念」のところに手をつけずに行くことがそれでいいのか、というのが問題です。

このことは、東日本大震災を受けて、さまざまな個別法の検討が必要な時期において、民法全体の改正などという「不要不急」のことに力を割いている場合なのか、という問題としても提起されています。これについては、関東大震災からの復興過程で、「『変災時における変例』に対応するだけでなく『法律思想の改造』を意識する必要がある」、と説かれたことが、今においてもあてはまる、とされています。たしかに、震災後の行政等の対応のあり方を見ていると、法律にどんなことが書かれているのか、ということよりも、法律で決められていることがどういう理念に基づいて、どういう趣旨であるのか、ということを考えて具体的な対応策をとることができるということの方が問題なのだろうと思わされます。そのためには「理念思考」の必要がある、ということなのでしょう。

それでは、本書において、民法は、どのようなものとして改正される必要がある、とされているのでしょうか。

それは、「民法を『私法』ではなく『市民的権利の法』としてとらえる」「『一般法』ではなく『市民社会の基本法』としてとらえる」ものとして言われています。

より具体的には、「『債権』という発想から『契約』という発想への転換」「財産から人身・人格へ」の転換ということが言われています。これまでの民法の「総則・物権・債権・親族・相続」の5篇編成は、「財産権」中心の編成であり、「中心は物(財産)であり、人はいわば財産流通の担い手に過ぎない」構造になっている、として、これを「人の法」に転換させていかなければならない、というものです。その中で、「契約」という人と人との関係で自由に定められるものに関するルールの明確化が求められている、とされています。

民法の改正は、すでに現実に動き出そうとしているものです。その具体的な内容は、これまで「判例法」として積み上げられてきたものを法文として整理するにすぎないのでしょうから、「専門家」にとっての直接的な影響は少ないのかもしれません。しかし、本書で示されているような、理念的な転換があるのだとすると、それがさまざまな分野で今後どのように展開してくのか、ということに注意を払う必要があるようです。これはたとえば「土地境界紛争の解決」という私たちにとっての課題を考える時にも、基本的な所で考えられなければならないものなのです「から、しっかりと勉強しなければならない、ということになります。


1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
初めまして。 (土地家屋調査士 岩本)
2013-03-21 16:31:01
初めまして。
たまたまたどり着いたブログがとても読み応えがあったのでコメントさせていただきます。
解説がとてもわかりやすかったので、一度この本を読んでみようかなと思います。
返信する

コメントを投稿